101. 婚約破棄の後始末〜皇帝の大人気無い報復
私は晴れ晴れとした気分で皇都の別邸に帰って来た。学園の中退に関してはまだ手続きしてない、婚約破棄の処理を速やかに行う事、これが私に取っての最優先事項なのだから。せっかく”婚約破棄イベント”を乗り越えても、肝心の処理が終わらなければ意味が無くなってしまう!
私はそのまま着替えることもなく領地の本邸に飛んだ。秋の社交シーズンも終わり、両親は冬休みが終わってもそのまま春まで領地で過ごしているからだ。セバス執事長にお父様に緊急の用がある旨の取り次ぎをお願いして、自室に戻る。本来学園にいる時間に戻って来た私にケイナは少しばかり驚いたようだったけど、「おかえりなさいませ」と言って、お茶の用意をしに下がって行った。私は寝室に行き、制服を脱ぎ捨て普段着のドレスに急いで着替えた。仕事の早いセバスが扉をノックし、「ご当主様が書斎でお待ちです」っと、伝えて下がって行った。
私はお父様の書斎の扉の前で、一度だけ深呼吸し、扉をノックした。
「お父様、ただいま帰りました。マリノリアです」
直ぐに「入れ」と声が聞こえた。私はお父様の書斎に入り、勧められるままお父様の書斎机の前にある応接セットのソファーに腰掛けた。
「このような時間に急用とは、余程の事であろうな」
お父様の様子は、まるで私の言わんとしている事を知っているのかの様に静かで落ち着いている。私は早速話を切り出した。
「わたくしには、皇都の水は合わなかったようですわ」
「それで、これからどうする気だ」
やはり分かっていた。その時小さめのノックがし、セバス執事長が入って来て、私の前に紅茶を置いて下がって行った。
「ルナヴァイン家は一度、勅命にて第一皇子との婚約を受け入れました。 既に契約も義理も果たしましたわ」
「うむ、確かに」
私は紅茶を一口だけ口にして話を続ける。
「勅命を翻したのは陛下では無くとも、当事者である皇族であることに違いありません。 証文と、”目”の記録の複製はここに。まぁ、結局”目”の必然性はありませんでしたけど、内容を改めれば学園内で起きた蜂毒の件については手がかりが有るかもしれませんわ。原本は陛下に渡っているはずです。 わたくしの瑕疵では無いにしろ、皇太子殿下との婚約破棄となると学園のみならず社交界にも、わたくしの居場所は無くなりますわ。 これでもう、わたくしがどうなろうと、どうしようが自由となりますわね」
お父様は少し息を吐き、仕方のないやつだ、とばかりに、話す。でも声は優しかった。
「そう云った解釈の仕方も無くはない。 領地に戻るか?」
「お兄様の邪魔をする気はありませんわ。 行き遅れの小姑など居ては窮屈でしょうから。 わたくし、城塞に参ります。 対外的には幽閉か謹慎処分にでもしておいてくださいませ」
「それで、皇帝が諦めると思うか?」
「わたくしに恥をかかせた詫びなど聞くつもりもありませんわ。 何の面下げて何を求めるおつもりなのか。 あまりにも無体な勅命を多用されると帝国の基盤が揺るぎましてよ。 愚帝に堕ちたく無くば、賢明な判断をされる事をお勧めしますわ」
その後、殿下と私の婚約破棄、帝立学園中退の手続きは、速やかにつつがなく行われた。
が、やはり事態はこれで収まらなかった。まあそうだよねー、そんな簡単に済むと思ってなかったよ。
皇帝はなんと、七年戦争終結の褒賞として下げ渡した城塞敷地の返還を求めて来た!しかも期限は一週間!あの”城塞”の引っ越しにたったの一週間って、敷地以外の、我が家で建てた建物とあわよくば持ち切れずに置いて行くだろう大量の家財などをせしめようって魂胆が見え見えだよ!汚い!大人って汚いわ!一応皇家の秘匿部隊である”目”を使用した対価という事にはしてあるが、あまりにも見合わないこの仕打ち。皇太子自身がヒロインを選んだのだ、こっちに非は無いの分かってて報復行為に出るなんて!
私は当然屋根裏部屋を丸ごと亜空間収納に放り込んだ、せっかく作ったこの隠れ家をどこに移転しよう。結局わたしは小姑候補に逆戻りだ!いっそ森の別邸に身を寄せても良いかもしれないけど、工房もあるから一旦は本邸に帰るかな……。
従業員、内部の使用人60名、護衛騎士1,200名、魔導師団50名、総勢1,310名の私物や家財道具の引っ越し、その他諸々をほぼ不眠不休で片付け、なんと、学園を休ませてお兄様方まで手伝わされ、魔術道具の一つも残さず、お堀と城壁の中の敷地には空っぽの城塞の建物のみが残った状態にまでした。うちのお父様も怒らすと怖いのだ。
ただ、帝国標準整備の下水道に接続した配管、最上階北東部分設置してある上水道用の水タンクと配管と蛇口は残してある、当然のことながら、水道の蛇口をひねっても水タンクが水で満たされてなければ水は出ない。お湯?そんな高価な魔術道具は取り外し済みですわ。
これで我が家はしばらく従業員飽和状態で工房の刺繍職人募集の心配もしないで済むっていうか、流石に多過ぎるので、帰郷したい人に次の仕事の紹介状と退職金を出すって事で、自主退職者を募ることになった。あまり希望者は出なかったけど、まぁ良いかーって感じに収まった。いや収めてた。
幸い空いてる別棟はいくつも有ったので、その内二棟を寮に改装した。二棟共”城塞”同様に独身寮にするかは揉めた。結局二棟共二~三割は小さめのファミリータイプにしたが、たまに独身でも地位の高い者が希望して入居していたりもする。実に自由だ、この緩さがウチらしいのかもしれない。
ファミリータイプでもキッチンは付かない。うちのどの邸でも採用している従業員用の食堂で食べる基本を変えなかっただけなのだが”城塞の味気ない食事”から解放されただけでも喜ばれた。うーん、その”城塞の味気ない食事”ってお貴族様の子女が通う帝立学園と同レベルだったんだけどねぇ……。
大部屋を好む者も居たので一階に仮眠室兼ねた大部屋と中層階に中部屋制度も残し、一人部屋もトイレ、シャワーが各階の共同なのも同じ。城塞の従業員は元々非戦闘員が少なかったのだから、全体の人が増えても掃除の効率化は外せない。今は従業員は城、ひいお祖母様の住む別棟、鍛錬場近くの護衛騎士の屋内練習場付き宿舎、別棟二棟、っとまぁ、段々と城壁内が街化されて行っている様。元々城壁内は街一つ分くらいの敷地面積なんだけど。
ただ食堂を城と別にもう一カ所休憩所も兼ねられるカフェ形式で作る案は、他ならぬ従業員側から却下されたので、城内の調理場を大きく拡張し、調理器具の魔術道具も最新式に!元城塞勤めの調理人教育で人員も確保。食堂自体も大幅拡張、上階の数部屋を窓際三ヶ所吹き抜けにしてぶち抜き、間の二ヶ所の階段で繋ぎ上下移動出来るように、より明るくくつろげる空間にした。せっかく育てた人材なのだ、適材適所でなんとか活かせないものかと家族会議と長・補佐クラス会議が度々行われている。
結局お母様の『塩水湖観光地化』にも着手しそうな流れだ。まぁ治安維持部隊も一気に増えたし良いのかしらねぇ……。
本邸よりも最新の魔術道具を投入されていた”城塞”の設備との入れ替えも急ピッチで行われた。
私の部屋のシャワーと浴槽が最新式になった!これで専用の水タンクにお湯を溜める事無く直ぐにシャワーを浴びられる。SPレッドラインになるほどクタクタになってもレバーを押すだけで適温でシャワーが出る、これは大きい!
廃材はもちろん材質別に素材化して倉庫で順次需要待機中にして行く。
我が家(私)はこれからも忙しそうである。せっかく自由になったから、やりたいことも色々挑戦してみたいしね!
しばらく書くのを休んでから再開します。また読んで頂けましたら幸いです。




