98. 悪役令嬢、フィールド活動初体験しましたわ
少々、残酷描写があります。狩の話が入ります。
領地の本宅に帰って来たと言っても、別棟に住んでいるひいお祖母様以外は、私一人だ。学園入学の為に皇都に出る前は良く有った事だから慣れているハズなのだけど、ここ数年で急に家族との距離感が近くなっていた事も有って何だか妙に寂しい。なんて事だろう、私は剣術や魔法だけでなく精神力も鍛えたくて模索していたハズなのに、すっかり弱くなっていたのではないか?でも家族を持つ人達が一概に弱い訳では無い、これは私の問題。まだ十四歳だけど、この世界では十五歳で成人なのだ。もっと大人にならなくては行けない。それは私のすっかり抜けて覚えていない幼少期の記憶をくすぐるキーワードだけど、何かと人に頼ってはこの先は生きて行けない。そう思って頑張ろうと思った。
まぁ、ここに戻ってまずやる事と言えば今は刺繍かな。そう思って、ひたすら新図案を考えながら刺繍に没頭し、夕方汗を流しに護衛騎士達の鍛錬に混ぜてもらう。すっかりここでの日常に帰って来た様で安心する。そして閉店後の店を見に行った。
流石ケイナだなぁ、店内もセンス良く品物がディスプレイされていて見やすい。工房にサンプルの刺繍を置いて部屋に戻った。ここに戻って毎日大浴場で美容担当侍女にぴかぴかに磨かれているからなのか、皇都や学園を離れて安心したのか、よく眠れるようになった。
「やっぱ皇都には出たく無いなぁ」
完全なる引き籠りモードである。ちらっと、平日ならダンジョンに出かけても知っている人には会わない、ってことを思い出した。魔石の在庫は十分足りてるんだけど、久しぶりに氷雪ドラゴンを見に行こうかなぁ。魔物だし結局倒す相手なんだけど綺麗でお気に入りだ。フィンネル兄様も初めて見た時感動してた。よし、明日はダンジョンに行こう。今は冬だから桜貝色の魔石が獲れるハズだ!
やって来ました!随分とお久しぶりな気がする氷の洞窟ダンジョン。ひと暴れでスカッと行くわよーっ♪
私は久しぶりに一人無双して、二周までした。やっぱりフィンネル兄様と一緒の方がレア個体出現率が高いけど、通常の魔物からも雫は何個かドロップしたし、アイテムドロップも多少落ちるくらいで安定だ。ボス魔石は約半分がフロア核だった。たまには売ろうかな?二周したから全部揃ったってわけでは無いけど、ダブりがあるから、多少は売っておこう。そしてここも久しぶりの冒険者ギルドフーゲン支部に入って行く。
「お久しぶりです、マリナさん」
「ハイジさん、お久しぶりです。 鑑定お願いします」
どっさりと今日の成果物を出す。淡々と鑑定器に乗せ作業を進め、冒険者カードに記録を付けてくれた。そして買取査定。何時もは手放さないフロア核を売ったら大喜びされた!やっぱりフロア核に出会うこと自体がほとんどないらしい……。少し大人、じゃないな、常識人に近づいた気がした。
先ず屋根裏に帰り、シャワーと着替え。それから本邸の自室に帰った。今日の成果物を整理して思う。うーん、宝物庫はともかく、武器庫に装備品が余剰ありすぎだなぁ。一部整理して”城塞” に流すか、でも素材にしちゃった方が良いかなぁ。”城塞”の装備品はお仕着せ同様、揃いの装備だからだ。バラバラだと格好悪いんだよね。うん、ここまで勝手にするのはやめて置いておこう。
そろそろフィールドにも出てみようかなぁ。依頼掲示板に張り出された依頼を受けるって事だ。学園の冬休みに入ったらやり難くなるし、今の内にやっておこう!
翌日、懐かしのナナバ回廊ダンジョンがあるラーン支部を訪れた。
「ナンシーさん、おはようございます。 依頼見せてもらいますね」
そう言って依頼掲示板へ向かう。
「マリナさんもいよいよ依頼デビューですか! 今結構溜まっているので大歓迎です!!」
そうなんだぁ、溜まっているのか。冒険者達も寒さに弱いのかな?なんて事無いよね、冒険者は基本的に年中無休!休日は自分達で決めるのよね。つまり、経済的余裕が無ければ休めない!
これはどうだろう?最初の依頼のセオリーに中々近いのでは?
作物を荒らすイノシーの個体数減らし、二頭で小銀貨一枚、って事は、偶数で仕留めないと損するって事なのね、中々狡い。認められる成果物は個体そのもの、つまりお肉も欲しい!って事か!?これは益々狡いな!でも解体や切り取りが無いだけ楽かも、血抜きはした方が良いのかな?肉が生臭くなってしまうものね。ううっ血抜き初体験かぁ……。それに魔石は取り出して良いのかな?そこに関しては記載されていなかったので、受付カウンターに依頼を持って行って聞く。
「これを受けたいと思うんですが、魔石の扱いはどうなりますか?」
「ああ、この依頼主は魔石には興味ないみたいですね、ご自由にどうぞ」
よっしゃ~!魔石取りでハードル上がるけど、これで野生のマリナに昇格?だ!
依頼地に飛ぶ。作物を荒らすイノシーは岩山から降りてくるらしい。まぁ、あの岩山って食べ物ほとんど無いよね。夏に見た狼を思い出す、トカゲ食べてたなぁ。イノシーは森であれば木の実とかも食べると聞く。食物不足なのは否めない。ここの岩山に植林するのも容易では無い、ってか出来るか?だって土じゃなくて岩山なのよ。
さて、イノシーの食糧事情に同情するのはここまでにして、人間の食料を守る方向に気持ちを切り替えよう。
「あーぁ、やっぱ辛いなぁ」
私は岩山で既に十五頭のイノシーを仕留めていた。血抜きまではやった!!あと一頭で今日は終わりにして、魔石を取り出す、、って、やっぱ抉るのかな?切れば良いのか、出来れば肉をなるべく傷つけない方が依頼主から文句言われないよね。イノシーの毛皮は鞣しても商品化が難しい為、考えなくて良いのは幸いだった。ちょうど血抜きで切った場所から取り出しやすそうだったので、さらに深く切って手を入れて取り出す。うーん。乙女を捨てた気分だわ。でも魔石は中々綺麗かなぁ、スモーキークォーツに似た茶色っぽい色だけど透明感は抜群だ!これは男性向けのハンカチに使うのにもイケる!結局私は守銭奴安定なのであった。既に深窓のご令嬢を卒業してるな私……。
午後のティータイム頃の時間に冒険者ギルドに戻って来た。成果物(血抜きしたイノシー)十六頭をカウンター前の床にシートを敷いてから置いた。
「わぁ!やりましたね、処理も綺麗ですよ! しかも、大抵床にそのまま置く人多いんですよね、有難いです」
私は初めての狩、フィールド活動で小金貨八枚をゲットした!しかし血生臭い、返り血は浴びてないハズなのに自分が臭う。私はその辺の屋台を見歩く気にもならず、そのまま屋根裏に帰って、先ずシャワーで良く洗い流した。そしてそのまま柑橘の皮を浮かべた浴槽にゆっくり浸かって血生臭さを消した。
中々キツい体験だった気がするけど、これはまだ初級に近い依頼なんだよねぇ。こういうのは報酬がモノを言うんだもの。でも解体が無いだけマシな方。今度は小さめの魔物で良いから解体付きの依頼受けてみようかなぁ。代表的なのは人参畑を荒らす三つ目うさぎかなぁ、もふもふ……。
一応解体の知識はある。なんでお妃教育をひたすら受けていた私にこんな知識があるんだかは謎だよね。きっと書庫にある書物でも読み漁った時期があるのだろう。もしかしたら我が家の調理場かもしれない、幼い私が良く行っていた場所。
冒険者衣装も綺麗に洗浄!ああ、自分もシャワー浴びる前に洗浄すれば良かったのか。バカだ私。
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side.Arnold
思わず舌打ちでもしたくなってしまう。モクレンからは未だに良い返事を貰えない。
アイツはまた暗殺者に狙われ、大した怪我では無かったらしいが学内の安全を優先するため長期休暇中。婚約破棄の機会が無い。
いや、元々隙が無くこっちから破棄出来る理由が無いのだ。今の状態では皇帝を納得させられない。
モクレンは帝国に多大な利益をもたらす聖女だ、皇太子の婚約者、延いては皇后に立ってもなんら問題は無いはずだ。
モクレンが背中を押してくれれば、俺はなんだってやれるのに。
……マリノリアの予想通り、イマイチヘタレな殿下であった。




