邂逅
よる
雨が降り止まない道で一人たたずんでいた。
蕭蕭と降る中で傘を刺さずに上を見上げる少女がいた。
それをみた途端様々な疑問が思い浮かぶ。
寒くないのだろか…
目が雨に入らないだろうか…
そんなくだらない思考を跳ね除け、少女に話しかける。
「そんなところに傘をささずにいたら風邪をひいてしまう。僕の傘を君にあげるからこれで雨を防ぎなさい。」
雄二が言葉を彼女に向けて発したことで今まで見えなかった彼女の顔がこちらを向く。
まつ毛が長く冷淡な表情でこちらを「なんの感情もない」顔で見ていた。
「あぁ。えぇ。ありがとうございます。ですがこれはあなたの傘でしょう。あなたが風邪をひいてしまう。」
「よいのです。私は鞄の中に折り畳みの傘がありますから。あなたはこれを使いなさい。」
本当は折り畳み傘なんて鞄の中に入っていないのだ。それでも雄二は自分が不利を被ることにより増幅する自己満足を得たかったためそれもいいかと思い彼女に傘を差し出す。
「ありがとうございます。あなたの名前を聞きたいです。」
もう会わないのに、名前なんて聞いてどうするのだろうか。彼女としては恩を売られたせめてもの報いとして僕の名前を聞きたいのかもしれない。
「僕は雄二。鳳 雄二だ。」
名乗ったところで不便はないので正直に名乗る。
「わかりました。この恩は必ず。」
少女は笑った。目が少し晴れているのに気づく。泣いていたのだろうか。しかし今となっては雄二には関係ないことだった。
「では。」
少女は身を翻し、雄二が進む道と真逆に進む。
もう会うことはないだろう。
それにしても綺麗な少女だった。
しかしもう会うこともないだろう。
雄二は先ほどの少女の笑顔を思い浮かべるのをやめ、帰路に歩く。
これが鳳雄二と花背凛の邂逅だったのだ。