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私はただ、そこを目指していた。
そこには一人の男が待っていたが、お互い要領を得なかった。
「記憶を返してくれ」
彼は言った。
「2年前の10月の記憶だ!」
私はかぶりをふった。
「さっきまで白いところにいた。私の記憶は、もう一人の私が持っていた」
「目覚めたばかりなのか?」
「そうだ」
「もう一人のお前はどこへ行った?」
「知らない」
相手は親指の爪を噛んで何か考え込んでいたが、小型銃を取り出して迷いなく私を撃った。
私は激痛とともに倒れ、意識が途切れた。
☆
「私は死んだ」
「えっ?!」
「身体が見つかるまで居候させてもらうしかない。よろしく、ニア」
「そんなぁ」
ニアはさめざめと泣いた。
私はニアだから、私は泣いた。
ニアは一人の青年の面影を思い浮かべてさらに泣いた。
私は私の知らないことで泣いた。
「彼は誰だい?ニア」
「スコットよ」
涙を拭いながらニアは編み物をしていた。
「泣くと涙で編み物が台無しになるよ」
「そうね。…ちゃんとしなきゃ」
機械編みの黄色いセーターだった。
作り方がニアの頭に入っているらしく、手際よく編んでゆく。
ニアの職業はニッターだった。