【第8話】ファーストコンタクト
バディを決めるための合同授業は、大凡の予想に反して
ここまで目立ったトラブルもなく最終節を迎えた。
学校側が警戒していた『サラ王女関連のトラブル』も、
サラ自身が決断のタイミングを周囲に明確に示したことで、表面的には問題とならなかった。
最後の合同授業は、1-Aと1-Eとなっていた。
とはいえ、ここまでの他クラスとの授業で、大半の生徒達がバディ相手を見つけていたことに加え、今回は1stと2ndの組み合わせである。
1-Aの生徒は1-Eなど眼中にないという態度が、そこかしこに見て取れる。
そして1-Eの生徒も、1-A側の様子を察してかあまりやる気は感じられない。
しかし、1-Aの生徒の一部だけは異常なほど熱意に満ちていた。
彼らは、サラにバディを申し込んだものの、回答を保留とされた生徒たちだった。
今回が自己アピールの最後のチャンスとなることから、他のライバルに差をつけて、王女のバディの座を勝ち取ろうと、妄執にも似た感情を滾らせているのだった。
実際には、サラにバディを申し込んだ生徒は他にも多く存在した。
しかし、彼らは人知れず強制的にレースをリタイアさせられていた。
そこには、学校側が把握することができなかった
――実際には、把握していても干渉できなかったというのが正しいが
合同授業の実施期間に起きた、表面化していない問題が関与している。
今もなお、サラのバディの座を狙っている生徒は、全員が貴族の家系の生徒だった。
つまるところ、政治的な力の介入によって多くの生徒が間引かれ、同等の力を持つ貴族の生徒間で、最終レースが行われようとしていたのである。
――無論、サラ自身はそんなことが起きているなど知る由もない
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1-A内部で様々な思いが交錯する中、当事者であるサラは全く別のことを考えていた。
(結局、彼らしき人は見つけられなかった。今回の1-Eの人たちはまだ分からないけれど、これで見つからないようなら同じ学年ではなかったということね)
入学式の帰り道で、サラを危機から救った謎の男子生徒の正体は、未だ不明のまま最後の合同授業になった。
消化不良のようなモヤモヤする気持ちをなんとか抑え込み、
サラは今回の授業の内容を再度確認する。
「各クラスから2名ずつの4名で1チームを形成し、ナダラの森最奥の祭壇に鈴を奉納する――」
今回の授業は最後ということもあり、学外で行うようだ。
場所はフォーレスの領内北西に位置する、『ナダラの森』。
低ランクの魔物が生息しているが、いずれもそこまで危険な種類ではないため、
野外演習にはうってつけの場所である。
また、医療薬の素材となる植物なども多く自生していることから、行商人の通り道にもなっている。
「ナダラの森は今まで行ったことがない場所ね。どんな場所なのかしら?」
「あれ、サラはナダラの森行ったことないの?」
サラのこぼした言葉を拾ったシェレンが、驚いた様子で聞いた。
「えぇ、今まではあまり王都から出る機会が無かったものだから」
「あー、それはそうだよねぇ」
サラの身分を考えれば理解するのは難しいことではない。シェレンもすぐに納得した様子を見せる。
「シェレンは行ったことがあるの?」
「数回程度だけどね。サラの実力なら心配いらないよ。魔物もFランクか、強くてもEランクまでしかいないから」
「そうなのね。少し身構えてしまったわ」
「それよりも、問題は誰とチームになるかだよねぇ。組み合わせは完全ランダムらしいし」
「そうね。1-Eはどんな人がいるのかしら」
「あ!チーム編成が発表されるみたいだよ。行こう、サラ」
生徒達が出発前に集合していた校門近くの掲示板に、教師がチーム編成の一覧を張り出す。
他の生徒が集まってチームを確認する中、サラとシェレンも所属チームの確認へと向かった。
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所属チームのリストを確認したレイは複雑な表情を浮かべていた。
「……はぁ、これは骨の折れる野外演習になりそうだな」
レイの所属チームはGチーム。チーム構成メンバーは以下のように明記されていた。
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【Gチーム】
[1-A]
サラ・ソルフォード
シェレン・アーメリア
[1-E]
レイ・ゼーノクス
ラルフ・グライド
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レイがGチームの集合場所に向かうと、そこには既に3名のチームメイトが集まっていた。
「あっ……」
こちらに向かってきたレイを見たサラが不意に声を漏らした。
「?」
サラの様子の変化に気付いたシェレンとグランが、何事かと振り返る。
「……見つけた」
サラの呟きの意味を、二人は理解できずにいた。