表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

【第6話】合同授業


 新入生にとって入学後の1ヶ月は期待と不安が入り混じる期間だ。

入学後間もないのだから当然なのだが、それだけが理由ではない。

最初の1週間は各クラスでそれぞれのカリキュラムをこなしたが、

いよいよ今週から、バディを決めるための合同授業が始まるのだ。


 合同授業は全て実技科目となっている。

実技の方が相手の実力が分かり、相性を確認しやすいためである。

これから週2回ほどのペースで他のクラスと実技の授業を行い、

来月の初週までにバディと共に学校に書類を提出することで、正式に認可されることになっている。


なお、期日までにバディを組めなかった生徒は抽選で強制的に相手が決められてしまうため、全生徒が必死になるのは言うまでもない。


レイも面倒な相手と組むと実害を被る可能性があることから、

期限内にバディを決めたいという点では、他の生徒と考えが一致していた。


「任務を優先するなら、サラと組むのが最善なんだろうが、なにせ目立つからな……。なにより向こうは俺を認識してないだろうから、まぁ不可能だろうな」

 

などと現実的な考察を行った上で、バディであることが任務上必須ではないと判断し、適当な相手を見つけて、さっさと終わらせようと考えを改めたのだった。


■---------------------------------------------------■


 この日は1-Eと1-Fの合同授業の日となっている。

合同授業は、普通の魔法鍛錬とは異なり、競技性の高い内容で行われる。


今回の授業は『スティープルチェイス』だった。


学院敷地内の演習施設である人口地下洞窟で、障害や罠を回避しながら走破するという内容だ。

無論、魔法の行使は自由なので、各々得意な魔法を駆使しながら臨むことになる。

表向きはあくまで個人種目だが、協力すること自体に縛りはない。


スタートラインに立ったレイは、周囲の生徒たちの顔をそれとなく見渡した。

そして、途端に盛大に溜息を吐きたくなった。

スティープルチェイスはその特徴から、戦場での集団移動を想定した課題のはずだ。

であれば、この授業の目的はおそらく『全員がゴールすること』だろう。

それ故の制限の緩さであるはずなのだ。


だが、互いに自身のアピールしか頭にないことは、彼らの顔を見れば一目瞭然だ。

その方法が、レースをいち早く走破することだと思い込んでいることも。


バディの相手を見つけるための合同授業だが、だからといって授業の評定が無いわけではない。

バディ制度が何のために設けられたのかを、正しく理解できていれば

この授業でどう行動すれば良いのかが自ずと見えてくるはずなのだが。


「まだこの年頃だと無理もないのかもしれないが、これだと単位を落とす者も出てきそうだな」


どの立ち位置から言っているのか分からない独り言を漏らして、レイはスタートの合図を待った。


 スタートのブザーが鳴ると同時に、生徒たちは我先にと揉み合う形で走り出した。

レイは団子となった先頭集団から距離を置くように、少し後方からスタートする。


暫く進むと、先頭集団のおよそ半数が早々と罠に嵌る。

足元の地面が突然消え失せ、大穴が出現したのだ。

正確には、地面を模した幻影魔法が設置してあり、その下は落とし穴になっていた。

落とし穴には水が張られてあり、落ちた生徒十数名がずぶ濡れになりながらも、這い上がろうともがいている。

しかし壁面は苔に覆い尽くされ、滑って出られないようになったいた。


先頭集団が罠に落ちたことで、後方の生徒たちはその場所を避けて通過していく。


「――やれやれ、しょうがない奴らだ」


レイが遂に堪えきれずに吐き出した溜息と共に、穴に落ちた生徒たちを助けようとした時だった。


「おい、大丈夫か!」


一人の男子生徒が落とし穴を覗き込んで叫んでいる。


「くそっ、ロープ代わりになる物があれば……!」


なにを思いついたのか、は想像に難くないが、男子生徒はおもむろに体操着を脱ぎ始めた。

そこにレイがロープを差し出す。


「これを使ってくれ」


男子生徒が驚いた表情でレイに顔を向ける。


「なんでこんなとこにロープが?」


「そんなことはどうでもいい。落ちた奴らを助けるんだろ?」


「そうだった。おーい!このロープに掴まれ!」


男子生徒はロープを使って、次々に落ちた生徒たちを引き上げていった。


(……随分と体格が良いな。しかも見かけ倒しではなさそうだ)


レイが救出の手助けもせず、そんなことを考えていると、

全員を引き上げたところで、男子生徒がレイの方に歩み寄る。


「ありがとう!助かったよ」


「それはあいつらが君に言うべき言葉だな」


「ははっ、確かにな。俺はラルフ・グライドだ。ラルフって呼んでくれ」


「俺はレイ・ゼーノクスだ。レイで構わない」


「よろしくな、レイ!」


二人は軽く握手をしてレースを再開したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ