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【第5話】バディ制度


 実技授業の日の放課後、サラとシェレンは帰り道を共にしていた。


「えっ、じゃあ王女様が寮で暮らしてるの!?」


「……王女様はやめて」


「あ、ごめんごめん。でもさぁ、いくら学生寮とはいえ、さすがに一人の従者もいないのは色々問題じゃない?」


「もちろん周囲の人からは猛反対されたわ。

それでも私は一人の魔法師を志す者として、同年代の人たちと同じように魔法を学びたかったの。

生活面でも従者に甘えてしまわないように、学園の寮に入ることにしたのよ」


サラの強い意志が瞳に宿る。

その様子を見たシェレンが感心したように言う。


「そっか。サラは立派だね」


「そんなことない。これくらいは皆やっているわ。

それに、昨日も大勢の人の前で嫌な態度を取ってしまって、後ですごく落ち込んだもの」


途端にサラの表情が曇る。昨日の一件は、まだ完全には吹っ切れていないようだった。


「でもあれって、貴族の人たちが政治的な交際を目的に言い寄ってきたからなんでしょ?」


「えっ、確かにそうだけど、なぜ知っているの?」


「初日から、王女様に不埒に近寄った、節操のない貴族がいるって噂になってたからねぇ。

逆にサラの言動は称賛されてたよ」


「そうだったの…。私は、もうここで孤立することも覚悟したのよ」


「じゃあ、その覚悟は無意味だったね。もう私が友達になっちゃったもん!」


「ふふ、そうね。ありがとうシェレン」


シェレンの屈託のない笑顔に、サラもどこか安堵したような表情で頷いた。


「そういえば、サラってバディの相手はもう決めてるの?」


しかし、不意に放たれたシェレンの問いかけに、サラは再び複雑な表情を浮かべることになった。


■---------------------------------------------------■


 フォーレス魔法高等学院には、ユニークな制度が一つある。


それが『バディ制度』である。


この制度は、同じ学年の生徒同士が2人1組となって、様々な面で互いにサポートしながら学院生活を送るというものだ。


概要だけ聞くと目的が分かりにくいが、これは明確に実戦を想定して採用された制度である。


 魔法とは基本的に使用者が単独で行使するものだ。

それ故、魔法師の実戦はどうしても個々での戦い方になる傾向がある。


しかし、このような戦い方が癖になっていると、チームでの行動が出来ない魔法師ばかりが育ってしまう。

そして戦場では、自己本位な単独行動は、仲間を危機に陥れる結果を招きかねない。

そのため、魔法軍に入隊した新兵は、まず集団行動の理念を徹底的に叩き込まれる。


そういった経緯から、学生の段階から仲間を意識して行動するよう教育する必要があると国が判断し、国策機関であるこの学院で、先行してこの制度が導入されたというわけだ。


 バディは1年の入学から1ヶ月が経過した段階で決定し、以降の学園生活3年間は原則変更できない。


―― 不慮の事態や、変更せざるを得ない事象が起こった場合はこの限りではないが


そのため、基本的には実力の近しい同性で組むのが通例となっている。

しかしこの制度では、バディを決める上で、同じ学年の生徒同士であること以外に縛りはない。


とはいえ、別のステージ、別のクラスの生徒を知る機会も無ければ、

いくら縛りがなくても選ぶことなど出来るわけがない。

そのため入学後最初の1ヶ月は、実技の授業を他のクラスと合同で行うようにカリキュラムが組まれている。

そこで相性の良い相手が見つかれば、違うクラスでもバディとして登録できるという仕組みだ。


無論、人気の高い生徒も出てくるため、競合した場合は、その生徒本人の意志が尊重される。

しかし、毎年のようにこのバディ決定に際して、トラブルが起こるのも事実。

中には恫喝や模擬戦に発展するという物騒な前例もあるくらいだ。


 今年の新入生には、この国の王女であるサラがいる。

学院の教師陣は今から頭の痛くなる思いだろう。


■---------------------------------------------------■


 シェレンと別れたサラは、寮の自室で思考の迷路に迷い込んでいた。

始めはシェレンをバディにと思ったのだが、どうやら彼女には先約があるらしい。


そこでふと頭に浮かんだのは、入学式の日に賊に襲われた際、突如現れた男子生徒だった。


彼が同じ学年かは分からないが、そうであるならば合同授業の際に見つけられるかもしれない。

バディに関しては別問題だが、あの日の真相については聞けるかもしれない。


ただ、バディ決めも疎かにできないため、彼を見つけることにばかり捉われるわけにはいかない。

そんな堂々巡りをしている内に疲れてしまい、サラはその日は早めに休むことにしたのだった。


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