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【第4話】授業風景


 フォーレス学院では1学年を2つのステージに区分けし、同程度の成績の生徒でクラスを編成する。

それに伴い、課されるカリキュラムも各ステージで異なる。


 概要的には、

1stはより実戦を前提とした実技重視のカリキュラム、

2ndは座学と実技をバランス良く取り入れたカリキュラムとなっている


 このような構成となる理由は様々あるが、最も大きな要因は教員の人的リソース不足にある。


学院の生徒たちはほぼ全員が、将来は国家魔法師となり魔法軍に属し、国防や人類の大望である世界の再建の一端を担うことを目標としている。


学校側もそれは承知しており、本音ではより実戦的なカリキュラムを多く取り入れたいのだが、

実際に魔法を行使するカリキュラムは、監督者の指導の元の実施が必須であり、その分の教員を用意する必要がある。

しかし、現実的な問題として教員の人数が足りないため、こうした結果にならざるを得ないのが実情だ。

 

 1-Eは、今の時間は自習形式の授業となっており、生徒には課題が出されている。


(さて、2ndに入ったまでは良いとして、

1stがどんな授業をするのかは把握しておかないとな)


彼が観察していたのは、学校校舎から少し離れた荒野のような場所だった。

土が盛り上がった丘の上に、1年生の生徒たちが集まっている。

胸には1stを表す刺繍。1-Aの生徒が実技の授業を受けている最中であった。


■---------------------------------------------------■


 1-Aの生徒たちは、教員からの説明を受けた後、薪が組まれた台に向かって魔法の練習を始めた。


どうやら今回は火系統の基礎魔法《火球(フロガ)》の講義のようだ。

さすがに1stということもあり、この程度の魔法は使える者も多いらしい。


しかし発動した《火球》の練度が低いため、薪に燃え移ることなく鎮火してしまう。


(雑な魔力を込めすぎ。半分以上が霧散している)

(そんなに力んでも魔法は使えない。肝心な魔力操作、プロセス構築が出来ていない)

(……論外)


観察しながら、レイは心の中でそれぞれに辛辣な評価を下していった。

そうこうしている間に、サラの順番が回ってくる。


(さて、主席のお手並みを拝見だな)


 サラが台の前に立つと、自然と周囲の生徒が手を止めて注目する。

そんな無数の視線をまるで気にする様子もなく、彼女は集中を高めていった。

やがて広げた掌に静かに炎が灯り、その色を濃くしていく。

――そして


「火球」


囁くように紡がれたサラの言葉に導かれるように、炎が台上の薪に向かって放たれる。


次の瞬間、薪は勢いよく燃え上がり瞬く間に消し炭へと姿を変えたのだった。


周囲の反応はというと、どよめきと賞賛が半々で入り混じっている。

学年首席の実力は伊達ではないと認める反面、基礎魔法とは思えない威力の高さに圧倒されているといったところか。


魔法の威力は、当然その種類や難易度に大きく依存するが、

それは魔法を構築するプロセスの複雑さが異なるためであり、

込めた魔力を如何に高練度でロスなく事象に変換できるかで、雲泥の差が生じる。


魔法を定義するプロセスとは、その通りの手順を踏めば、その魔法として最低限の事象・威力を保障するものでしかない。


つまり同じ魔法でも術者によって威力は大きく変わってしまう。


術者の力量差によっては、火系統の最上位魔法である《覇獄炎(プロメテウス)》と最下位魔法の《火球》で勝負しても《火球》が勝ることもあるのだ。


「魔力操作とプロセスの強度は中々、問題は発動速度がやや遅いことか。まぁギリギリで及第点だな」


レイはそんな言葉を漏らしながら、サラに対する評価を少しだけ上方修正した。


■---------------------------------------------------■


 今のサラの実力におおよその見当をつけて、視点を自身の教室に戻そうとしたが、レイはそれを一旦キャンセルした。


サラの後に実技を行った生徒に関心が向いたためだった。

彼女が手を構えるとほぼ同時に《火球》が放たれ、薪が勢いよく燃えたのだ。


「威力は及ばないが、発動速度はサラ以上だな。面白い。」


サラも同じ感想を抱いたのか、振り向いて女子生徒を見つめている。


すると、女子生徒が意外な行動に出る。

サラに向かって歩を進めてきた女子生徒が、おもむろに右手を差し出した。


「あたしはシェレン・アーメリア。よろしくね、ソルフォードさん!」


屈託のない笑顔に一瞬戸惑いながらも、サラがシェレンと握手を交わす。


「サラ・ソルフォードです。よろしくね、アーメリアさん」


「シェレンでいいよ。あと、さん付けもいらないよ」


「分かったわ、シェレン。私もサラで構わないわ」


「うん、よろしくサラ!」


 周囲の生徒たちは、この二人のやり取りをただ唖然と眺めることしかできなかった。

その様子を見届けたレイは、授業の終了を告げるチャイムを聞きながら視点を自身の教室に戻したのだった。

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