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【第2話】急襲


 レイが校門前に着くと、そこには人だかりが出来ていた。

やはりと言うべきか、輪の中心にいるのはサラであった。


「サラ様!私はソラール家のリンカと申します!同じクラスになれた幸運を神に感謝致します」

「サラ姫、お初にお目にかかります。私は2-Bの…」

「サラ様!」

――。


「はぁ…いきなり面倒なことになってるな」


上級生も含めた生徒たちが入り乱れるようにサラを取り囲み、

我先にお目通りよろしく、押しかけている。


「特に害意は無い様だし、放っておいてもいいのだろうが」


言いつつ、レイがさりげなく散らしにかかろうとしたその時だった。


「皆さん、ありがとうございます。ですが、私はここでは一学生に過ぎません。

学友が出来ることも楽しみではありますが、少なくともこのような場所で

他の方の迷惑を考えずに、声をかけてくる方と懇意に出来るとは思えません」


ピシャリと放たれたサラの言葉に、周囲の生徒が呆気にとられる中、


「失礼致します」


華麗にお辞儀をして、本人は何事も無かったかのように校門へと歩き出した。


「……へぇ、やるじゃないか。我が国の姫君も」


少し関心しながら、レイも急いでサラの後を追いかけた。


■---------------------------------------------------■


 校門を出て最初の角を曲がった所で、サラはしゃがみ込んでいた。

 

「やってしまったわ……」


彼女自身、先ほどの言葉に嘘偽りはないし、これを機に他の生徒たちが政治的な目的で接近してくることを抑制できればと思っている。


――しかし


「さすがにちょっと棘があったわよね。これが原因で孤立してしまったら……」


やり過ぎた感が否めないのか、後悔の念が口をついて出る。

しかし、頭を抱えていた彼女は、暫くすると思い切って顔を上げた。


「でも!()()()のように強くなると決めたんだもの。最初からこんなことで挫けるわけにはいかないわ!」


決心したようにサラが立ち上がったその時だった。


「王女のサラ・ソルフォードだな?」


いつの間に接近されたのか、目の前に2人組の黒の外套を纏った男達が立っていた。


「っ!あなた達は何者ですか!?」


「一緒に来てもらおう」


サラへの返答はなく、男の周囲に魔法の兆候が現れる。

男が手にした麻縄に魔力が注がれ、サラを包囲するように襲いかかる。


相手の意図を理解したサラも魔法を行使して対抗を試みる。



彼女が発動した魔法は斬撃魔法《風刃(エアカッター)

風系統の攻撃魔法としてはポピュラーな魔法だが、高校入学時点で扱える者は滅多にいない。

今の状況ならば魔法の相性としても申し分ない、はずだった。


サラを拘束せんと迫る縄を、《風刃》が断ち切る。

しかし、断ち切った縄が霧散するように気化し、サラを包み込んだ。

しまった!と思った時には既に、その飛沫を吸い込んでしてしまっていた。


「うっ…」


一瞬にして意識に霞が掛かる。

国王である父の命令を突っぱねてまで普通の学生生活に拘ったことが

こんなに早く災いするとは思ってもいなかったのか、心の中で悔しさが滲む。

やり切れない思いの中、意識を手放してしまいそうになった次の瞬間、


「誰だ!ぐっ…」


「ぐはっ」


目の前の男達が立て続けに倒れる。


そして目の前に現れたのは一人の少年だった。

銀髪に同じ学校の制服。背丈はサラより少し高い。


(だ…れ…)


薄れゆく意識の中で放たれた誰何は闇の中へと溶けていった。


■---------------------------------------------------■


 「ん…くっ、私は…いったい」

 

サラは女子寮の自室で目覚めた。

フォーレス魔法高等学院に入学するにあたり、サラは学院の寮に居を移している。


 これまでの王城での生活から脱却し、一人の人間として見識を広めるのが目的なのだが、ようやく荷解きが終わった状態で、生活感はまだない。

本来、サラは一般的なマンションに住もうとしたのだが、さすがに国王から許可が下りず、学院が管理しており、セキュリティが強固な学生寮に入ることで、なんとか折り合いがついた格好だ。


「え、どうやって部屋に…?」


まだ意識ははっきりしないが、あの時起きたことは確かに覚えている。


「あの男の人達は一体。いえ、それより…」


今頃、サラはあの男達に連れ去られていたはずだった。

しかし、実際にはそうならなかった。

突然現れた同じ学校の制服を来た男子生徒。

彼が一瞬にして男達を無力化したのだ。


「あれほどの手練れを一瞬で。一体何者なの?」


男達の素性も、サラがこの部屋に戻ってベッドに寝かされていた事実も、

確認すべきことは多いのだが、サラが最も気になったのは謎の男子生徒のことだった。

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