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【第21話】魔道商キュクロプス


 翌日、学院内は模擬戦の話題で持ち切りだった。


当然と言えば当然の展開だろう。

1年生同士とはいえ、1st上位のネイトを2ndの生徒が一蹴したのだから。


しかし、議論されているのは、結果に関してだけではない。

とりわけ話題の中心になっていたのは、サラ王女のバディが使った魔法についてである。


――全方位から飛んでくる無数の斬撃を受け流した謎の回避魔法。

――銃を遥かに凌ぐ高威力の、系統すら不明な攻撃魔法。


これらは、国が開示する全系統の基礎魔法~上位魔法の何れにも該当しない魔法だった。


 サラ王女のバディを務め、未知の魔法を使いこなす、2ndとは思えない圧倒的な実力を持つ謎の1年生。


残念ながら、これだけ話題全部盛りのような人物を放っておいてくれるほど、学内世論というのは寛容ではない。


分からないことは当事者に聞けば良いという実直な理論に従い、野次馬が1-Eの教室に押し寄せていた。


■---------------------------------------------------■


 サラは、自席で物憂げな表情を浮かべていた。


それは、朝から続いた自分の相方に関する質問攻めに、疲れたことだけが原因ではない。


 昨日の模擬戦の後、サラはレイに声を掛けようとしたのだが、彼はネイトのバンクルを学院長のグラムから受け取るなり、足早に帰ってしまったのだ。

まるで目的の品が手に入ったら、もうここに用は無いとでも言いたげに。


――あの時、彼の視界に自分は映っていただろうか?

――それともやはり、自分も彼にとっては取るに足らない存在なのだろうか?

――彼のこと、今後のことを考えるなら、バディは解消した方が良いのだろうか?


そんな考えが頭を過る。


――でも、今更彼以外の人とバディを組むなんて出来そうにない。何より、自分は彼からまだ何も学んでいない。

――いやそれでは、まるで自分も彼を利用しようとしているだけみたいではないか。


結局、纏まらない考えが溜息となっては、また虚空に消える。

何度繰り返したか分からない堂々巡り。


――。


「サラ、大丈夫?」


見かねたのだろう。シェレンが心配そうにサラに声を掛ける。


「えぇ、大丈夫よ。シェレン」


サラが気丈に返すも、今度はシェレンが溜息を吐く。


「なんだかなぁ。全然平気に見えないんだよねぇ。サラってさ、感情隠すの下手だよね」


「え?そ、そうかしら」


焦るサラを見て、シェレンが可笑しそうに笑った。


「でも、その素直なとこがかわいいんだけどね」


「かわっ、もうシェレン!こんな時に揶揄わないで」


耳まで真っ赤にして恥ずかしがるサラを見て、ケタケタと一頻り笑った所で、シェレンは不意に真面目な表情になる。


「でもさ、レイ君も酷いよね。結局何の説明もしてくれないなんて」


サラは俯いたまま、何も言えないでいる。

その様子を見ていたシェレンが、咄嗟に閃いたようにサラに提案する。


「そうだ!じゃあさ、私がレイ君に真意を確認してくるよ」


サラが途端に驚いて顔を上げる。


「それは、ダメよ。これは私と彼の問題なのに」


「朝からずっとそんな調子じゃ、いつ解決するのか分かったもんじゃないわ。

任せて、私がビシッと言ってきてあげる」


「ちょっと、シェレン」


颯爽と教室の出口に向かおうとするシェレンの背中に、サラが慌てて立ち上がり声を掛けた時だった。

突然、シェレンが立ち止まり、こちらを振り向く。


「サラ、お客さんみたいだよ?」


シェレンに言われてサラが視線を向けると、教室の出口にはレイが立っていた。


■---------------------------------------------------■


 レイとサラは、放課後の帰り道を共にしていた。


1-Aを訪れたレイは、放課後に連れていきたい場所があると、サラを誘った。

サラにとっても、断るという選択肢はなかったため、今こうしてレイの言う、とある場所へと向かっている。


学院を出てからメインストリートを少し外れて、裏路地に入った所でレイが足を止める。


「ここだ」


そして彼が入っていったのは、看板すら掛かっていない古ぼけた建物の、地下へと続く階段だった。

王女であるサラにとっては、あまりにも馴染みのない場所だ。

レイを信用しないわけではないが、サラは警戒しながら階段を下りていった。


階段下のドアから中に入ると、その先には、まるで骨董品屋のような光景が広がっていた。

だが、よく見ると骨董品に見えた物は全て魔道具のようだ。

室内は薄暗く、少し埃っぽい。


サラが訝しみながら周囲を見渡していると、奥に山積みにされた本の向こうから、老齢の男性が顔を出す。


「おや、客かの?ってなんじゃ、レイか」


「おいおい、この店一番の上客を捕まえてそれは無いだろ?ラム爺」


「毎度厄介な依頼ばかり押し付ける奴のどこが上客じゃ!昨日のアレも――。

なんじゃ、レイ。こんな所に女子(おなご)を連れ込みおって……」


文句の途中で、男性はレイが一人ではないことに気づいたようだ。

薄暗いため、はっきり顔は見えないようだが、シルエットから女性であることは分かったようだ。


今度はそちらについてのお小言を始めようとしたのだが――。


サラが灯りの下まで移動して顔がはっきり見えた途端、男性の顔面が驚愕に染まる。


「お邪魔致します」


「サラ王女殿下!?なんでこんなところにお姫様がいらっしゃるんじゃ!?」


ぺこりと頭を下げるサラを前に、男性が狼狽える。


「私も事情は良く分かっていないのですが、彼に連れられて参りました」


言いながらサラが、レイの方を見る。

途端に男性がレイを睨みつけて、詰問する。


「レイ、これは一体どういうことじゃ!説明せい!」


「分かったから落ち着けラム爺。また血圧が上がるぞ」


「誰のせいじゃ!誰の!」


小さく溜息を吐いたレイが、サラの方を振り向く。


「ここは俺が昔から贔屓にしているキュクロプスという魔道具屋だ。

そして、そこで熱くなってる爺さんが、店主のラムジー・アルベリヒ。

俺は親しみを込めて、ラム爺と呼んでいる」


「ラムジーさん、初めまして。サラ・ソルフォードです」


レイの紹介を受けて、サラがスカートの両端を手で持ち、今度は淑女としての礼を執る。

対して、ラムジーは慌てながらぎこちなく頭を下げた。


「ラム爺、今日彼女を連れてきたのは、昨日持ち込んだ物について、彼女にも知ってもらうためだ」


「あの石のことか?今はもう安全だが、なんでまた?」


「それも併せて説明する。とりあえず持ってきてもらっていいか?」


レイに言われて、ラムジーは訝しみながら店の奥へと入っていった。


「レイ、その石というのは何でしょうか?」


「見れば分かる」


そう言われて、待つこと十数秒。ラムジーは全面ガラス加工の、謎の箱を持って戻ってきた。

透けて見えるその箱の中には、昨日レイがネイトから勝ち取った、シルバーバンクルが収められていた。

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