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【第14話】赤髪の貴公子


 バディ選定期間が終了し、校内のどこか慌ただしかった雰囲気も

ようやく落ち着きを取り戻していた。


――サラとそのバディであるレイに対する周囲の関心は、むしろ増していたが


 レイはナダラの森で起きた事件の報告のため、王国魔法軍本部を訪れていた。


「ナダラの森にグランベオか……。あの森は流通の要所なので、我々の方でも定期的に警邏をしている。それほど危険な魔物が出現すれば、捕捉できないはずはない。何よりも、通行人に見つかれば即座に軍への討伐依頼が来ているはずだ」


レイから報告を受けた元帥のガレオは、思案しながら見解を示す。


「俺も軍の怠慢を疑っているわけじゃない。今回の件は、人為的に引き起こされた可能性があると考えている」


「どういうことだ?」


「俺たちがナダラの森に入ってから魔物に遭遇するまで、サラのクラスメイトの男子2名が俺たちの後をつけていた。そしてモルガエンに遭遇したタイミングを見計らって、後方から乱入してきたんだ」


「なるほど、サラ様へのアピールが狙いか」


「奴らは、モルガエンの弱点である風系統の魔法を得意としていた。

加えて、グランベオが出現した折に、話が違うという趣旨の失言をしていた。

ということは、モルガエンに関しては予定通りだったということだ」


「つまり、彼らが魔物を用意して自ら討伐することで、サラ様へのアピールを試みたが、予定外に強力な魔物が現れてしまったということか」


「おそらく奴らは裏ルートで、魔物使いからモルガエンを仕入れたのだろう。そして俺たちの行く先に配置させた。しかし、モルガエンを遥かに上回るグランベオまで配置されたため、あのような反応を示したんだと考えられる」


「お前は、彼らの手配した売人が臭うと言いたいのだな?」


「ああ。元はと言えば、奴らがサラへのアピールのために、危険な魔物を利用しようとしたことが、本件最大の要因だ。

しかし、わざわざ要望以上の手間をかけてまで、あれほどの魔物を出してきたということは、売人もしくはその背後の人間には、別の目的があったと考える方が自然だろう」


「……サラ様の御命か」


ガレオがその眉間に深い皺を作る。


「そこまで確信は持てないが、既に事は起きてしまった。用心に越したことはないだろう。

サラの方は俺が守っている。元帥は魔物を手配した売人の背後関係の調査を頼む」


「Bランクの魔物を意図的に操作できるとなれば、厄介な手練れの可能性もあるな。

丁度、今ならデュークが空いていたはずだから、任せようと思うが問題ないか?」


ガレオの提案を受け、レイが露骨に嫌そうな顔をする。


 デューク・サルエストは、フォーレス国内に存在する全魔法師の上位7名で構成される『七星』の一角を担う魔法師である。

序列はNo.4。実力も然ることながら、その甘いマスクで特に女性からの人気が高く、『赤髪の貴公子』の二つ名で知られる。


「七星を動かせるのは助かるんだが、アイツしかいないのか?どうにも性格が合わないんだよな」


「無茶を言うな。そもそも七星が空いていることなどほとんど無いというのは、お前が一番理解しているだろう」


「……言ってみただけだ。まぁ、デュークなら戦闘に関しても問題ないだろう。

一先ず、概要については元帥の方から伝えておいてくれ」


「分かった分かった。サラ様のことはくれぐれも頼んだぞ」


「何故か向こうから行動を共にするよう強要されているのでな。嫌でも大抵は近くにいることになりそうだ」


「それはなによりだ」


そんなガレオの本音とも嫌味とも取れる言葉を、最後に聞き流して報告を終えたレイは、そのまま軍本部を後にした。


■---------------------------------------------------■


 現在レイが住んでいる部屋は、サラ護衛の任務に際して、軍が用意したものだ。

サラの住む女子寮にレイが入るわけにはいかないため、比較的近いマンションの一室を割り当てられたのだった。


その自室で、レイは思慮に耽っていた。


(グランベオを倒して移動を再開した直後に、こちらを伺っていた視線が消えたことは確認できた。

おそらく、知覚系の魔法で経過を観察していたのだろう)


モルガエンが出現する直前から、ネイト達以外の視線を感じていたレイは、敢えてそれを放置して様子を伺っていた。状況から考えて、魔物を配置した犯人であったことは明白だ。


(俺の索敵範囲に掛からなかったということは、ナダラの森の端あるいは外から視ていたのだろう。

その後の迅速な撤退を見ても、やはり組織として動いている可能性が高い)


「デュークに伝えておくべきか」


思考の淵から意識を戻したレイは、胸ポケットから1枚のカードを取り出した。


――魔法師には、成人(満16歳)の折に国からライセンスカードが支給される。

このカードには、パーソナルデータの他、魔法師としてのランクや経歴が記録されている。

また、通信機能も備えており、魔法師ぞれぞれにユニークな魔力の波長を記録することで、意図した相手と連絡を取ることが可能となっている。


レイは登録されたリストから、一人の魔法師を選択し、魔力を通した。

すると、数コールの後に緊張感の無い声が返ってくる。


「はいは~い、みんなのアイドル、デュークだよ~」


「……すまない、連絡先を間違えたようだ。それでは」


「ちょっとちょっと、冗談だってば。久しぶりなのに酷いじゃないか、レイ」


「いきなり突飛なことを抜かすものだから、人違いなのかと思ってな」


「魔力波長を指定して通信してるのに、連絡先を間違えるわけないじゃないか。相変わらずだな〜」


デュークと連絡を取ると、毎度これと似たようなやり取りをしないと話が始まらないため、レイはその度に鬱陶しさを感じるのだった。


「まぁいい。新たな任務について元帥から話は届いているか?」


「さっき聞いたよ。魔物を使ってサラ様を狙った連中の捜査だよね?」


「そうだ。その相手について、俺が分かっていることを共有しておこうと思ってな」


そうしてレイは、件の経緯や自身の見解を可能な限り詳細にデュークに伝えた。

しかし、話を聞き終えたデュークが真っ先に気に掛けたのは、調査対象のことではなかった。


「それで、サラ様やチームメイトの前で、君の力を使うことになったわけかい?」


「ああ。あの場で俺が手を下さなければ、サラは確実に死んでいた」


「なるほど…。状況としては致し方なしということだね。でもどうやって一瞬でグランベオを倒したんだい?」


「次元断裂を使った」


「彼らの前でかい!?」


先程までおちゃらけていたデュークが、一転、素っ頓狂な声を上げる。


 レイが【グランベオ】に対して使った魔法は《次元(ディメンション)断裂(・スレイド)》。

距離ではなく座標で、指定された空間を分離する魔法だ。

その性質から、物質の硬度などに関係なく空間ごと切り離すため、実戦で使用する場合の殺傷性は極めて高いとされる。


《次元断裂》は、無系統の空間干渉魔法の一つだが、世間一般で知られる魔法ではない。

というよりも、無系統魔法そのものが世間的には認知されていない。

それ故、軍でも上層部の一部の人間以外には秘匿された魔法なのだ。


そんな魔法を学生の前で使用したというのだから、ここはデュークの反応が正しいだろう。


「あいつらが目にしたのは結果だけだ。どんな魔法を使ったのかも判別は出来ていないだろう」


「そんなこと言われてもねぇ…」


「まぁ、その後の奴らの態度が明らかに戸惑いを含んだものになったのは確かだが」


「レイ、僕が言うのもあれなんだけど、君はもう少し慎重に行動した方がいいよ」


「極力目立たないようにしてるつもりなんだがな」


レイの物言いに、デュークが溜息を漏らす。


 直後、デューク側の周囲が騒がしくなり始める。


「おっと、どうやら急な出動みたいだ」


「そうか。では調査の方は頼んだぞ」


「オッケー。とりあえずは僕はナダラの森から調べてみることにするよ」


(この急なタイミングで『七星』のデュークに出動要請?)


レイは何とも言えない不吉な予感を抱きながら、通信が切れたライセンスカードを胸ポケットにしまい込んだ。


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