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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
祭りの始まり
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第十九・五夜:祭りの終わり、始まりの始まり

『祭りの終わり、始まりの始まり』


 誰もいない校内を一人の少女が歩いている。校舎内の明かりは一部を除いて消えている上に、もう日が暮れているから、足元さえ殆ど見えない位、暗い。

 運動場で騒いでいる生徒達の声と、少女の足音。それだけがこの世界にある音の全てであった。閉められたドアの向こうに並んでいるのは生徒達のカバンと、数時間前までやっていた文化祭の残骸。


 暗闇の中では、どんなものも冷たく、禍々しいものに見える。闇は温もりも優しさも、音も、全て、等しく、奪う。そして代わりに、恐怖や不安、焦燥を与えるのだ。

 そんな中を少女は平然とした顔で歩いているのだった。彼女が闇から恐怖や不安を受け取ることは無い。闇を、冷たさを、禍々しさを嫌悪する気持ちも無い。

 むしろ彼女はこの世界に好意を抱いていた。明るく、暖かく、優しく、騒がしい世界の方が余程恐ろしいと思ってさえいた。


 少女はある教室の前で立ち止まる。そこも例外なく鍵がかけられている……はずだったが、何故かそこだけ開放されており、しかも誰もいないはずの教室に人が立っているのだった。その人物は開けた窓から顔を出し、外に広がる世界を眺めている。

 先客は、現代の学校には全く似つかわしくない格好をしていた。そのくせ、闇と静寂に包まれた教室には妙に馴染んでおり、一切違和感は無いのだった。

 これがいつもの教室だったら浮きまくり、目立ちまくりである。


 少女はドアが開いていることや、どう見ても生徒や教師では無い人間がいることに一切驚く様子を見せず、廊下を歩いていた時と全く同じ顔のまま、教室へと入り、ドアを閉める。

 がら、がら、がら。その音は静寂に包まれた世界に大きく響いた。

 音に気がついた先客は振り返り、彼女の姿を認めると嬉しそうに笑う。先客は細い、狐の様な瞳をした男であった。


「これはこれはお姫様。随分遅かったですね、僕、待ちくたびれちゃいましたよ」

 閉めた窓に体をもたれかけながら、女を手招きする。


「仕方が無いでしょう。私だって色々忙しいのですから。なかなか抜け出す機会に巡り合えなかったのです」


「大変だねえ、品行方正、成績優秀で通っている娘さんは。それにしても……ぶふっ」

 そっぽを向き、ばつが悪そうにしている女の姿をまじまじ見つめた男が突然吹き出す。ぷぷっ、でもくくっでもなく、ぶふっ。口元を押さえ、俯きながら、体を震わせ、笑う。


「君が、人間達と一緒に……学校生活を送っているなんて……やばい、もうその格好……何度見ても……面白いっ。いや、可愛いよ、可愛いけれど、だははっ」


「お前は何をしにここへ来たのですか。最期の時を迎える為ですか」

 忌々しげに彼を睨み、硬く握った拳を震わせ。暗闇に浮かぶその顔は気のせいか、少し赤くなっているようだった。

 男は目からこぼれたものをすくってから、ようやく笑うのをやめる。


「まさか。僕はまだ死にたくありませんよ。君を『完全』にするまでは、死ねないですよ。愛しのお姫様」


「からかうのはおやめなさい。全く相変わらず気持ちの悪い男です。お前を従者にしてしまったことは、私の人生最大の汚点です」

 真顔で言う男に、女は真顔で返した。そう言いながら、一歩、また一歩彼の方へ足を進めていくのだった。男は泣く真似をするが、女に睨まれあっさりとやめる。


「お前の戯言を聞く為にここへ来たわけではないのですよ、私は」


「分かっていますよ。短気だなあ。それに僕はさっきから戯言なんて一つも」


「戯言はいいから、さっさと話を進めなさい」


「はいはい。ほら、これが君の求めていたものでしょう?」

 男は腰にぶら下げていた小さなつぼ

を手に持ち、女の方へ差し出す。


「そうです。……集まりましたか?」


「集まりましたよ。予想以上にね。ここは元々あちらとこちらの境界が曖昧みたいで。そんな所で祭りをやれば……ねえ? まあきっと『あれ』の効き目もあったんでしょうが……それにしてもよく集まったもんだ。足りなかったら外でどうにか調達しないと、とか思っていたのだけれど」

 これだけあれば十分だ、男はつぼを放り投げてはキャッチし、また放り投げてはキャッチする。それを見た女の顔が険しくなった。


「ふざけてつぼを割ったら、殺しますよ」


「姫様に殺されるのなら本望かな」


「さっきは、まだ死にたくないと言っていたくせに」


「貴方が『完全』になった後だったら、死んでもいいですよ?」


「今の言葉、忘れないことです。残り僅かな人生、せいぜい楽しみなさい」

 彼女はどこまでも冷ややかで、男はどこまでもその正反対をいく。


「そういう君もね」

 彼女の言葉に傷つく様子も無く、男は笑いながら女の神経を逆撫でる。腰を手に当て、男をねめつけ。


「私は死にません。絶対に」


「どうだか。君本当駄目駄目ですからね。会ったばかりの妖のことを信用して、折角咲かせた『花』を横取りされちゃったり、うっかり『種』を駄目にしてしまったり、術者の人間に惚れた挙句招かれない限りこちらの世界に来られない術かけられて、向こうの世界に飛ばされてしまったり」

 見た目は沈着冷静、冷酷無比、そしてしっかり者な娘の犯した過ちの数々を列挙する男を、女は無言で睨むのだった。反論するのが段々面倒になってきたのだろう。魂を握りつぶすような、強く、攻撃的な目。人間ならそれを見ただけで口が聞けなくなるだろう。

 だが女の前にいる男は人間では無い。女もまた、人間では無い。

 話を元に戻せ。目でそう語られた男は、ようやく話を本題に引き戻す。


「随分な数を集めましたよ。殆ど雑魚だったけれど、それでもこれだけ集まれば……充分だろうね」

 つぼを、振る。だが振っても何の音もしない。それでもそのつぼの中には何かが沢山入っているのだ。


「搾りかす達は、どうなりましたか」


「放っておきましたよ。その後、ここに術をかけたらしい者の関係者らしき妖達が処分してくれたようですがね。別に処分せずとも、放っておけば塵となって消えるけれど。……あれに足をとられて転んだ人間は少なくなかったようですが、そんなことはどうでもいいよね?」

 出雲よりかずっと狐に近い瞳を、ここに来て初めて男は開く。そこには人間が決して持ち得ない邪悪さと凶悪さを秘めた光があるのだった。

 闇しか広がっていない窓の外に、目を向ける女の瞳にも同じ光が宿っている。


「ええ、本当に、どうでも良いことです。それにしても……この学校に術をかけたのは一体誰なのでしょう。人と妖を関わらせないようにするという、随分と強力な術……並大抵の力をもった者では無いと思うのですが」


「体育館と呼ばれる所である騒動が起きたけれど……その場にいた妖の話によれば『姫』と呼ばれる存在が家臣に命じて、この術をかけさせたようで。その『姫』というのが何者なのかまでは分からないけれど、恐らくこの学校の関係者でしょうね。流石に一切関係の無い学校の為にここまでしないだろうし」

 体育館で何かあったのか、と女が聞くと男はくねくね腰を振り、あったんですよ、とっても大変だったんですよとわざとらしい口調で言ってから、体育館で起きた出来事について簡潔に話してやるのだった。

 女の顔が険しくなる。原因は話の内容か、それとも男のわざとらしい上に気持ちの悪い仕草か。


「あそこにまいた『種』がそんなことに……。けれど、何故弾けてしまったのです? まだ土地に馴染んでいない『種』は非常に不安定なものですが……今日は楽しい楽しい祭りの日。あれを弾けさせてしまう程強い負の感情――恐怖心や猜疑心、不安などが生まれるとは到底思えないのですが」


「けれど真実『種』は弾けてしまった。あの場所でずっとお芝居をしていたいと願った少年。その願いの中には様々な思いが混ざっていたんだろうさ。ここでずっと劇をやっていたい、その思いの裏にあったのは先へ進みたくない、ここにずっととどまっていたいというもの。未来に対する不安、築きあげてきたものとの別れに対する恐怖。『過去』の方を向き、思い出をずっと見つめながら『今』の上で足踏みし続けていたい。そういう思いに『種』は反応してしまった……といったところかな」

 いや参った、参った。再び閉じられた目、少しも参ってなさそうな顔。

 女には男の語った少年――北条の気持ちはよく分からなかったようで、ただふうん、とだけ言った。分からない上に、関心も無いようだった。


「それにしても勿体無い。あれだけのものを無駄にしてしまうなんて」


「いいじゃないの。どうせあそこのは人間達にまとわせる為にまいたものでしたし。上手くいったもんだ。お陰で学校中にあれをまくことが出来た」

 男の人差し指が、女に向けられる。具体的には、彼女の胸に。指差された部分に彼女は目を向けた。胸に、きらり、光るもの。


「まかれていない所など、数える程しか無いでしょうね」


「でしょうねえ。今の所状態は安定しているで。所々危ないのもあったけれど、それは優秀な僕がちゃんと回収しましたから、ご安心を。それにしても良かったですよね、『種』が妖の力に反応する類のものじゃなくて。もし力に反応してしまうものだったら、育つ前に全滅だったものね」

 その言葉に女は素直に頷く。


「ところで。……弾け、思いを具現化させる力を仮面に与えた『種』は最終的にどうなったのです? まさかそのまま、ということも無いでしょう。放っておけば外へ出て、他の『種』にも悪影響を及ぼすはずですが」

 その疑問を耳に入れた男は何かを思い出したようで。ぽんと手を叩き、奥さん実はね……というセリフが合いそうな仕草をする。


「ここへ迷い込んだ妖の殆どは雑魚だったんですがね、一人、とてつもなくやばいのがいて。人間と同じ格好をして、人間の娘さん方と店をまわっていたようですが……一目見て、分かりましたよ。あれは不味い、あれには手を出せないと。少なくとも今の僕じゃまともに対抗出来ない。妖としての力も強力ですが、何とその男、妖のくせに浄化能力をもっているようでして。弾けたあれの、禍々しい力で満たされたあそこを、あっという間に浄化しちゃって。おまけに、あれと、あれに冒された人間達を閉じ込めるために戸を閉めて、強力な錠をかけたのに……いとも簡単に破って中に入ってきてみせて」

 あんなの反則だよ、おかしいよ、ありえないよ、と顔を両手で覆い、呻く。

 本当に泣いているわけでは無いことなど一目瞭然。どうせ手の向こう側にある顔は笑っているのだろうと女は思う。

 一方、彼女は男の話したものすごく強いらしい妖に興味を抱いた。


「ほう。お前のへぼ結界を破ったことに関してはあまり驚きませんが。浄化能力を持っている、という点は興味があります。……その男が、姫と呼ばれる存在に命じられて術をかけた妖なのでしょうか?」

 

「それは無いと思いますよ? あの男は従う側の者には決してならない。あれはきっと、従わせる側の者ですよ。……騒動を解決しようとした人間の娘さん方の援護をした妖は、主のことを『姫』と呼んだ。そう呼んでいた以上、彼がこの学校に術をかけさせた者で無いこともほぼ確実だ。それにあの男なら、わざわざ誰かに命じずとも、自分でやればすむ話ですし。となれば……彼自身は、この学校に守りの力を授けた姫さんとは無関係である可能性が高い」


「人間の味方をしたいらしい姫とは無関係。では個人的理由で体育館の中を浄化したと」


「そういうことだろうね。もしかしたら意味は無く、ただ気分的にやりたかったからそうしただけかも。……その男の姿は、体育館での騒動がある前に見かけたんですがね。私の存在、そして多分『種』の存在にもしっかり気がついていた様子。けれど、特に何もしなかった。人間を守りたいなら、気がついた時点で何かしら手をうったはず」


「……姫と呼ばれる者と、その眷属は『種』の存在に気がついて」


「いないだろうねえ。いたら即行動して『種』を処分したでしょうから。こちら側がかけた、僕ら、そして僕らがやったことに対する干渉を妨害する術が効いたようで。それに今この場所は異質なものでぐちゃぐちゃになっていますから、弾けない限り何の害も無い無力な存在である『種』の存在になど、余程の者で無い限り気がつくことは無いはずだ。種には匂いがあるけれど、あの匂いを嗅ぎ取ることが出来る妖はほんの一部。ただ念には念を入れないと……祭りが終わり再び『日常』が訪れれば、この異質の空気も薄くなっていく。こちら側もあの術をずっとかけておくわけにはいかないから、解かざるをえない。そうすると本来あるはずのない『異質』な種の存在に気づかれてしまう可能性もある。けれど僕達にはこれがある。じゃじゃん」

 そう言って掲げるのは、あのつぼ。


「この状態を保ち、姫さん達の感覚を麻痺させる為、それから『種』を育てる土壌を整える為これを定期的に少しずつ与える。そして『種』をじっくり馴染ませて。……完全に馴染めば、成長して『花』を咲かせるまで、その存在はほぼ無くなり、まず見つからなくなる」

 だから、その姫さんに気づかれ、手を打たれることはまず無いでしょうと男は続ける。笑みを浮かべながら。だがその表情は徐々に険しくなり、再びその目は開かれ。


「むしろ危険なのは、近くの姫さんより、遠くの妖。あの男が何者かは知らないけれど、人間の娘さん達と術の影響を受けることなく、仲良さそうに話したり、お店巡りをしたりしていたところを見ると、境界を飛び越え、ここへ迷い込んでしまった者では無いらしいということはほぼ確実。日常的にこの世界を訪れている、そんな印象があったねえ」


「他の妖達は恐らく、祭りが終わった後、元の世界へ帰って行ったでしょうね。境界がかなり曖昧な間なら、教室の中と外、校舎の中と外といった『境』をうろうろしていれば、再び境界を飛び越えて帰れる可能性が高いですから。境界が元通りになると、別の手段を使わなければ余程運が良くない限り、帰れない。『道』を見つけなければ、ね。妖達とて、今のこの世界にいるよりか、本来の世界で暮らす方がずっと良いと思っているでしょうから、今頃必死になって境の辺りをうろうろしていることでしょう。さて。その男がお前の言う通り、日常的にこの世界を訪れているとなると……その男は『道』を見る術をもっているのでしょう。また、この学校と関わることはもう無い――という保証は無くなる」

 男が、頷く。


「彼が再びこの学校に現れることは無い、とは言えなくなる。今の所、人間と私達、どちらの味方でも無いといった感じですが。これからどうするのか。何もしてこないか、私達がやることをどこかで眺めながら笑うだけか、人間の味方をして私達を潰しにくるか……もしくは、いずれ咲くだろう『花』を横取りするつもりか」

 男が最後に呟いた『横取り』という単語に、女はぴくりと反応する。唇を噛み締め、拳を強く握りしめる。彼女にとってその単語は最も忌むべきものであるようだった。

 それを見て、男が吹き出す。先程同様「ぷぷっ」ではなく「ぶふっ」っと。


「今まで何度も横取りされてきましたもんねえ。あの『花』は、とてつもない力を秘めている。貴方や、貴方の同族以外の妖は、貴方方程効率的にその力を得ることは出来ませんが、それでも沢山食べればそれなりの力を手に入れられますもんね。それにしてもその顔、傑作……ぷ、く……っ」

 吹き出し、大声で笑い、しまいに腹を抱え、涙を流し。

 女の体が激しく震える。その身を震わせるのは怒りエネルギーであることは一目瞭然であった。


「役立たずな下僕の分際で! お前がもう少ししっかりしてくれていれば、とっくに私は『完全』なものとなっていたのですよ!」


「僕はしっかりしていましたよ。しっかりしていなかったのは君の方だって。どうも君って抜けているんだよねえ。真面目で、沈着冷静で、余程のことが無い限り今みたいに感情を爆発させることは無い。なのに、何故か、どこか、いや、ああ、可愛い。大好き、愛しています」


「お前は今すぐ殺されたいようですね。お前がいなくても、私には他の従者がいます。私達がこうして怪しまれることなく動けるのもあの子のお陰ですからね。可愛いあの子。今頃ここから離れた場所で、ぐったりしていることでしょう。相当力を使ったはずですからね」


「あの子だけの力じゃない。姫さんとやら達がかけてくれた術の助けもある。お陰で結果的にあの子の負担も減り、僕も力を使わずに済んだ。妖達と人間が関われば、必ず『種』を弾けさせてしまうような事態が起きるに違いないからね。姫さんは、人間を守る一方、僕達人間に危害を加える側の者も助けてしまった」

 皮肉なものだ、男はくつくつと笑う。


「確かにそうですが。……兎に角。今度こそ成功させてみせます」

 静かに、それでいてとても強い意志を込め、女が言う。男の口はまだ笑んでいたが、目は笑っていない。


「今度こそもくそも無い。これが失敗すれば、もう終わりです。もっていた種は全てまいてしまいましたからね。……これ程までに素晴らしい土地と巡りあうことはもう無いでしょうから。本当驚きましたよ。この世界にまだこんな所があったなんて」


「ええ。本当に。……成功させます、必ず。その為には姫という存在と、男……双方に注意しなければいけませんね」

 女は男の隣に並ぶ。そして二人して窓の外に目を向ける。

 

「まあ、何が起ころうと関係ありません。僕は君を守る。……君はただ僕に守られていればいいんだ」

 氷の様な、紫水晶の様な、黒い炎の様な女に顔を向け、微笑む。開かれた瞳に溶けているのは、目の前の女に対する深い情。その瞳に見つめられた女はぷいっとそっぽを向く。黒髪に隠れた顔にあるのは、一体どんな思いなのだろうか。


「……残念です」


「何が?」


「……言ったのがお前でなければ、惚れていたかもしれません」


「ええ、酷いなあ。僕にも惚れてくださいよ」


「黙りなさい。口だけ能無し男」


「そんなあ。……うう、相変わらずだなあ、姫様は」

 一息。


「あれが芽を出すまでにはまだ時間がかかります。もう少し、学校生活とやらを楽しんでいて下さい。楽しんでいるのでしょう、結構」


「まあまあです」


「つまりものすごく楽しんで」


「まあまあです!」

 そう言ったきり、しばらく彼女は口をきかなくなるのだった。


 外、闇。

 生徒達の騒ぐ声。彼等は非日常的な時間を、最後まで楽しもうとしている。


 明るく、熱く、燃える炎。天へと続く、火の柱のように、彼等は輝き、燃え、そして上へ、上へ。

 誰にも消せない、強く激しい炎。


 しかし彼等は知らない。数ヵ月後、自分達を恐怖のどん底へ突き落とす出来事が待ち受けていることを。燃え盛る火の柱が勢いを無くし、消えていってしまうようなことが起きることを。

 闇は今、濃い。炎であり続けることを信じて疑っていない子供達。


「貴方達は今、火の柱のよう。けれど貴方達は近い未来、燃え盛る炎から、貴方達の周りに広がっている、闇へと変わっていくのです。私達がそうするのです。貴方達がまいた『種』はいずれ芽を出し、そしてそのまま成長し、最後には『花』を咲かせるのです。私の為に『花』を咲かせてください。私の為だけに、咲かせてください」

 教室を出る間際、女はそんな言葉を口にするのだった。


 それに対し、随分臭いことを言うなあと余計なことを言った男は、女にすねを思いっきり蹴られることになるのだった。

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