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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
故郷は幻の二月の淵に
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故郷は幻の二月の淵に~エピローグ~


 はっと気づいた時、陽太はベッドの上に居た。部屋を包む闇は目が慣れたことで徐々に薄まっていき、見慣れた景色がぼんやりと浮かんでいる。そこは間違いなく自分の部屋だった。四年ぶりに見た場所だったが少しの懐かしさも感じられず、壁にかけられていた高校の制服にも感慨を覚えもしない。何故なら『自分』はずっとこの部屋で過ごし、制服にもほぼ毎日袖を通していたからだ。四年間ここから離れていながら、四年間ここで毎日を過ごしていた。

 陽太の中に、当たり前のようにここ四年の記憶があった。運動会、中学の時家族と行った北海道、テスト勉強、修学旅行、受験勉強、小学校と中学校の入学式に卒業式、親しかった友人の転校、舞花市にある学力が高めの高校への入学、新しく出来た友達、恋、告白、失恋、自分が読んできた本の数々。その記憶を偽物とか、夢のものとは思わなかった。それは確かに自分が生きていく中で得た現の物語だった。数々の物語を見ても「僕はこんな風になったんだ」とか「こんなことをやっていたんだ」と他人事のように思うことはなく、また驚きも感動もない。自分自身が経験したもの、自分が辿ってきた道を振り返っているだけだから当然だ。


 陽太は自分が手に何かを持っていることに気づいた。少ししてからそれが『閏の国』での思い出等を綴ったものであることを思い出した。そうだ、自分は先程まであの国に居たのだ。

 急いで灯りをつけ、それを読み始めた。


「あ……」

 それを読んだ陽太を襲う衝撃。血の気が引き、和綴じのそれを持つ手が震え、残酷な現実が喉に詰まり息が出来なくなった。

 文字が消えているわけではなく、一字一句残らず読める。だがその文章を見ても、帰りたくないとまで願った位強く大きかったはずの想いが浮かんでこない。自分の内の、底の底まで見ても見当たらない。もう陽太にはそれを見つけ、感じることが出来なくなっていた。読んでも、読んでも、一字一字に目一杯、込めたはずの大切な想いが読み取れない。自分にとってはここで過ごした四年こそが夢の様で、向こうで生きた四年こそが本物だったはずなのに、今はまるで向こうでの出来事の方が夢であるように思えてしまった。こんなことがあったあんなことがあった、ここにはこういうものがあった、ああいうものがあったという文章を見ても「そんなことをしたっけ」「そんなものを見たっけ」「そういうものがあったっけ」と記憶は朧げ、自分とそこに書かれた『物語』を上手く結び付けられず、微かにある記憶も本物であるか自信が持てぬ有様。四年間の現実の記録だったものは、一瞬にして御伽噺、夢物語へと変貌した。


「何で……」

 これ程早く変化が起きるとは思いもよらなかった陽太はただ呆然としていた。最後のページに貼られているのは、旅立つ間際に撮った写真。そこに映っているのは向こうで出会った大切な人達。それなのに彼等の誰も彼も遠くの存在に思えてならなかった。彼等と自分は本当に親しかった? 本当に、愛しい日々を送っていた?

 離れたくない、別れたくないとあれ程思っていたのに。ずっと友達だと、大切な人達だと……忘れないと誓ったのに。もうこんなに気持ちが離れていて、思い出も霞んでしまっている。そしてそう遠くない未来に名前さえ忘れてしまうのだ。写真から皆の姿が消えるのが先か、それとも陽太の記憶から名前が抜け落ちるのが先か。


 残酷な位早く、見事に忘れる。沙羅の言葉が脳内で再生される。だが本当に彼女の口から述べられた言葉で、夢でも何でもなくその言葉を自分が聞いていたかどうかもう分からない。

 ぽたり、ぽたりと透明の雫が写真の内に落ちていく。そしてその雫を見たらもうたまらなくなり、次から次へと悲しみと苦しみが体の内から溢れ零れていった。


 この世界で自分の影が過ごした『御伽噺』が現実になり、向こうで過ごした現実を押しやり『御伽噺』へと変えてしまった。一生懸命書いたはずなのに、こちらへ帰ってきただけで見知らぬ人間が書いた夢物語のようなものになってしまったのだ。だが向こうで得た想いを、数々の思い出を失ったわけではない。失ったわけではないから、涙が出るのだ。

 行かないで、行かないで、遠くへ行かないで。忘れたくない、覚えていたい、ずっと大切に抱いていたい。あの国の全てを、あの国で出会った人の顔を声を心を。なのにそれは許されない。自分は帰ってきてしまった。そして自分はもうこの世界に属する者で、あの美しい夢から覚めてしまったのだ。夢は目覚めれば頭から零れ落ちる。いつかは忘れることを苦しいと思うこの気持ちさえ彼方へ行ってしまうのだろう。


 行かないでどうか、お願いだから。颯馬と幻淵を毎日のように探検したことも、若星子として舞った理子の姿も、晃にヤキモチを妬き酷い態度をとったことも、沙羅や双樹等沢山の友達と過ごした日々も、のどかのことも、奏を愛した気持ちも、告白して良かったと思ったことも、幻淵の為に自分なりに一生懸命働いたことも、見回り烏と交流を深めたことも、皆、皆、忘れたくない。何一つ忘れて良いと思えるものなどありはしない。

 行かないで、お願い、嫌だ、行かないでくれ。ここにいて、ずっと僕の胸の内で輝いていて、消えないで、ずっとずっと僕が死ぬまで。あれは夢なんかじゃない、現実にあったことだ。行かないで、夢にしないで……。


 陽太は泣き続けた。届かない願いを心の内で叫びながら、生まれて間もない赤ん坊のように滅茶苦茶に泣いた。泣き叫ぶことで大切な物全てをずっと手元に置くことが出来るなら、幾らでも泣こう。まだそんなことを思っている内に、そう思える内に。



 それから、一年が経った。幻の二月の淵へ足を踏み出し落ちていき、三月の世界に迎えられる。立ち読みしていた本から目を離し、震える携帯に手を伸ばす。画面には『少し遅れる』という文字があり、また寝坊でもしたのかと肩をすくめた。待ち合わせの相手が時間に遅れるのはいつものことだから、陽太ももうあまり気にしていない。一旦読んでいた本を売り場に戻し、文房具コーナーへと向かった。本屋に寄ったついでにボールペンの替え芯等買おうと思っていたものを買っておこうと思ったのだ。目的のものをカゴに入れ、レジへ向かおうとした陽太の目にぱっとあるものが飛び込み、彼は足を止めた。そこは便箋コーナーで、人気キャラが描かれたもの、和柄の落ち着いたデザインのもの、うっすらと色がついているものなど様々なものが置かれていた。他にも封筒やレターセットといったものも並んでいる。陽太は気になったものを手にとってはまじまじと眺めたが、手に持つカゴに入れることはなかった。


(新しく買っても……殆ど使いそうにないもんな)

 閏の国から帰った陽太は向こうでの暮らしが夢に変わってしまったことを嘆きつつも、颯馬や奏等連絡先を聞いていた人に手紙を出した。そしてその手紙に皆返事を寄こし文通を始めた。携帯のメールでやり取りすることもあった。だが大切な人達と文字を使って会話しているのに、何だか見ず知らずの人と話しているような気がしてならず、向こうの国での思い出話を書いても「こんなこと本当にしたっけ?」という気がしたし、相手の「こういうことしたよね」という文章を見ても「そういえばそんなことあったようななかったような……」という気持ちにしかならなかった。頭にぼやけた映像が浮かんでも、その映像が現実のものだったのか、自分がでっちあげたものなのか分からない。自分の近況を相手に伝えたい、今の自分を知ってもらいたいという気持ちもそれほど湧かず、便箋の空白を埋める為にとりあえず書いたというような。

 見ず知らずの人間と事務的なやり取りをしている――そんな心地で、苦行とまでは思わなかったが楽しいという気持ちもあまりなく、結局少しずつお互い手紙やメールを送る頻度が減り、今では限りなくゼロに近くなってしまった。初恋の人であったはずの奏とさえもここしばらくは一切やり取りしていない。また向こうで会えればいいね、ううん絶対会おうねと別れる前に話していたけれど、それも叶うかどうか分からないし、またどうしても叶えたいものだとは思えない。


(あの人はきっと分かっていただろう。僕とこっちで会うことは無いだろうってことが……好きだと告白した僕さえも、こっちに帰ってしまえば赤の他人のようになってしまうってことが。分かっていながら、また会いたいねって言ってくれたんだ。きっと忘れてしまうだろうって残酷なことを口にするよりも、優しい未来を願う言葉と一緒に別れた方が良いから……あの時の僕はまだ、あれ程容赦なく向こうの国から弾き飛ばされるのだということを分かっていなかったから。現実が夢に変わることがどれだけのことか、理解していなかったから)

 遠ざかっていた想いを、夢だと思っていたものを閏の国に再び帰ることで思い出した奏は辛かっただろう。四年後にはまたそれらの大切なものたちを失ってしまうことを彼女は知っていたから。絶対に忘れないよ、手紙もうんと書くよ、向こうで会って遊ぼう――そんな他の帰郷者の会話を彼女はどんな思いで聞いていただろう。帰ったら何もかも終わってしまうことを知っている彼女はきっと、胸を痛めていた。そんな辛い思いも、帰ったら忘れてしまうのだろうけれど。

 彼女に告白した日のことは、まだぼんやりと覚えてはいる。だが自分が彼女をどれだけ好きだったか、今はもう分からない。帰るまでに告白しなかったからといって自分は本当に後悔しただろうかと疑問に思う位、大切に抱きかかえていた想いは遠くへと行ってしまったのだ。

 ずきり、と胸が痛む。色々なものが遠くへ行ってしまったことが寂しくて、苦しい。その想いはまだ陽太の中に残っている。だがいずれはこんなことさえ思わなくなるのだ。それを陽太は予感している。


 写真に映されたものもここ一年で大分薄れた。来年には自分以外の何もかもが消え、やがて自分の姿さえ消えてしまうだろう。沙羅と双樹、草十郎等向こうで出会った人の名前も思い出すまでに大分時間がかかっているし、顔も声も曖昧だ。颯馬達と手紙やメールのやり取りをすることももう殆どないだろうし、いつか引っ越したとしても彼等に引っ越し先を伝えることはないだろう。そうしてこちらの世界での関わりは一切無くなるのだ。夢物語という名がついてしまった記録を綴ったノートを読み返す頻度も減り、帰ってすぐの内は見ていた幻淵の夢も近頃は見ない。

 それでも。


(それでも、向こうで過ごした日々が消えたわけじゃない。夢のように思ってしまっているけれど、あれは決して夢ではなかった。僕は閏の国へ帰り、奏さんや颯馬と出会い、幻淵中を探検して、星寄せを作って、色々な所を旅行して、ふるさとのさとで働くことを選び、自分なりに一生懸命頑張り、前世と向き合い……。最後まで全力で僕は閏の国での四年を生ききった。間違いなく僕は四年間閏の国に属する人だった)

 霞んだって、夢の様になったって、あの四年は確実にあったものだ。あそこで得たものは全て陽太の中にちゃんと残っている。見ることも感じることも出来なくなっているけれど、確かにちゃんとある。陽太は人々を楽しませ、喜ばせる為に動くことにやりがいを覚える自分を向こうで見つけた。そしてその気持ちはここへ帰って来ても消えず、今でもふるさとのさとでやったようなことを仕事にしたいと思っている。そういう思いがあり、現在は生徒会長として頑張っている。昔ならそういうものに立候補するなんて考えられなかった。そういう自分は向こうで見つけたもので、無くしていないからこそ今の自分がいる。ここで四年を過ごした『影』が見つけられなかったものを、自分はちゃんと見つけたのだ。


(忘れたって、無くならない。見失ったって、消えない。現実と思えず、夢だと感じてしまっても……ちゃんと自分の中に残り続ける。颯馬も理子さんも晃さんも大切な友達、奏さんは初めて好きになった人、幻淵は大切な場所……永遠に消えないものを僕はきちんと抱いて生きていける。ずっとずっと……)

 会計を終えたところで陽太は小学校や中学に居た時よく喋っていた少女と会った。相変わらず髪はあちこち跳ねていて、異様に大きな眼鏡をかけている彼女とは時々本屋や図書館で顔を合わせ、その度短い会話を交わす。彼女は幼い頃からずっと妖とか精霊とか異界とかそういうものは実在すると考えていて、そしてそれは今も変わらないらしい。そんな彼女に閏の国の物語を聞かせたらさぞかし興奮するだろうと陽太は思う。他の人が空想だと思うものも、自身も夢物語のように思ってしまっているものも、彼女なら現実の物語であると認識してくれる。そんな彼女に話したら、陽太自身も物語を再び現実側へ少しでも引き寄せることが出来るかもしれない、そんなことを思った。自分の話を本当の話であるかのように聞いてくれれば、話す側もまたそれを本当の話であると感じられる。それに純粋に友達である彼女に話してやりたい気持ちもある。いつか、いつか。


「あ、陽太!」

 さくらと話している陽太の名前を呼ぶ少女の声。待っていた人がようやく来たのだ。走って来たらしい彼女はゼエゼエと息を切らしている。肩位のところで切り揃えた髪を撫でながら「遅れてごめん」と笑いながら言う。あまり申し訳なく思っている様子ではないが、もういつものことだから怒る気にならない。艶々した髪につけている髪飾りは陽太がプレゼントしたもので、余程気に入っているのかよくつけているのを見かける。


「いやあ途中でホッキョクグマに追っかけられているおばあさんを助けていたらいつの間にかタイムスリップしていて、そして私は縄文時代でめくるめく大冒険を」


「はいはい、そりゃあ大変でしたね」

 いかにも嘘、な嘘をついて言い訳するのもいつものこと。適当に聞き流すと「あ、信じていないな」と頬を膨らませる。どこの馬鹿がそんな話を信じるのだというんだ、とため息。ここまでの流れはもうお約束になっていた。


「ところで、さっきの女の子は誰? もういないけれど」


「え? あ、本当だ」

 先程まで陽太と喋っていた少女は姿を消していた。邪魔してはいけないと空気を読んで去ったのか、或いは見知らぬ人間が現れた為に逃げてしまったのか。人づきあいが苦手で、人見知りもそれなりにする彼女だから十分あり得る。


(時子のこと、紹介しようと思ったんだけれどな)

 指で頬をかきながら彼女が去ってしまったことを残念に思っていた陽太に、少女――時子がぐいっと何かを怪しんでいるような表情を浮かべている顔を近づけてきた。


「まさか浮気? 浮気なのかな陽太君や」


「そんなわけないだろう。友達だよ、小中学校の時よく本のことを話していたんだ」


「友達……ごまかしの常套句ね。まあまあ、この私というものがありながら、酷い人! 陽太は浮気なんて絶対しないタイプだと思っていたんだけれどなあ、男だなあやっぱり陽太も」


「だから違うってば」

 時子が本気で疑っているわけでないことは分かっているから、こちらも本気では言い返さない。それよりさっさと行こうよ、と陽太は時子の手を掴んで店を出る。時子もその手を振り払うことも、しつこく追及してくることもなく大人しく足を動かした。途中同級生を遠くで見かけ、慌てて手を離すと時子に笑われた。


「堂々としていればいいのに。どうせ私達が付き合っていることなんて、周知の事実なんだから」


「それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。そもそも手を繋いで歩くなんて、柄じゃないや」


「自分から繋いできたくせに」


「……別にいちゃつく為に手を繋いだんじゃない。さっさと行く為に手を掴んで引っ張っただけだ。ああしなければいつになっても外へ出られそうになかったから」


「でも店を出た後も結構長い時間手、繋ぎっぱなしだったよね」


「手を掴んでいるのを忘れていただけ」

 照れ隠しにそう言うと、時子は笑った。それから「別に柄じゃなくてもいいじゃない」と今度は時子が陽太の手を握り、彼を引っ張るように歩きだした。陽太は見つかったらどうするんだ、恥ずかしい、としばらく抗議していたが一方で無理矢理その手を振り払うことはせず、結局そのままずっと歩いて行った。歩いている内周りのことなどどうでもよくなって、手を繋いで仲良く歩きながらお喋りする。その様子を友人に見られており、後日からかわれて赤面することになるのだが。

 この国での毎日も、陽太にとって輝けるものである。友達や彼女と共に笑い泣き怒り喜び、生徒会役員として頑張り、自分がこの先どんな道を進むか考える。楽しいことだけではなく、だが辛いことだけでもない日々を全力で生きていた。過去に囚われず、別れを告げた国に縛られず。それが出来ているのは、向こうで過ごした四年が夢のようなものになっているからかもしれない。ずっと覚えたままだったら、いつまでも陽太は閏の国から抜け出せずにいただろう。過ぎ去った日々ばかりを見つめ、彼方へ行った国ばかりに目を向け、今自分が立っている世界のことを大事にしなかっただろう。記憶が朧になり、現実を夢だと思うことはとても寂しく辛いことではあるが、自分が属する世界でしっかり前を向いて歩く為には必要なことだったのだ。


 かつては閏の国で生きていた。だが今はもうこの国の住人で、あそこには四年間里帰りしていただけにすぎない。本来陽太達が生きるべき世界はここなのだ。あれは美しい夢だったのだ。新しい世界と引き換えに捨てた国へ、二度と帰ることは出来ないはずの国に帰ったという、夢。夢は夢、現実より大切にするものではない。眠っている間だけ楽しんで、目を覚ましたら忘れる。それでいいのだ。


(夢から覚めても、遠くへ行っても、消えない。流れた時間をなかったことにすることは誰にだって出来ないから。あの国へ行かなかった僕は存在しない。それが、それだけが分かっていれば良い。僕は生きていく。ちゃんと自分の世界で、前を向いて)


 あの国のことは僕達だけが知っている。

 そこに僕が去年までいたことを、あの美しい故郷へ里帰りしていたことを知っている人はいない。誰も知らない内に僕達はそこへ行き、誰にも気づかれないまま帰ってきた。

 あの国のことは僕達だけが知っている。あの国から旅立ち、あの国へ帰った僕達だけが。


 もうそれは僕達にとって夢の中の物語になってしまった。けれど夢になっただけで、消えたわけではない。僕達はあの国で生き、あの国で多くのものを得た。それは確かに僕達の中に残り続けている。

 僕の中の僕は知っている。幻の二月の淵に、一つの国があることを。僕達だけが知っている。あの国から旅立ち、あの国へ帰った僕達だけがあの国で過ごした日々を抱いて生きている。

 これからも、ずっとずっと抱き続けたまま生きていこう。この、僕達の国で。

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