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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
邂逅刹那心中
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第五十五夜:邂逅刹那心中

『邂逅刹那心中』


 三つ葉市にある専門学校から桜町にある家へ帰る途中、北芝光一はその男と出会った。

 歳は恐らく三十前後だろうが、確信はない。もしかしたらもっと上かもしれない。星煌めく夜空から作られたかのような髪は羨ましい位真っ直ぐで、男にしてはいや今時女性でも見かけない位長く腰程まで伸び、風に吹かれてたなびく、さらさらと。柳の葉のような切れ長の瞳、ほっそりとした体、その肌は白雪、藤色の着物に青い帯。立ち並ぶ高いビル、アスファルトの道路、走る車、騒々しい人々達の声で溢れるこの街に、男のその異界の住人めいた妖しさや美しさは少しも似合わず、随分浮いている。浮いていながらぼやけていて、少しでも気を抜けば見えなくなりそうだった。幽霊のように曖昧でぼやけた存在。もしかしたら本当に幽霊なのかもしれない。もしくは凍てつく寒さに凍りついた脳が見せた幻か。

 街並みと彼の相性は最悪だったが、世界を覆う空の色は別である。空はうねる濃い紫と赤、青、それから墨色の蛇がぶつかって出来たかのようになっていて――不吉さで不気味で、妖しく、美しい。建ち並ぶビルの向こう側にある空を背に、男はきょろきょろと辺りを見回していた。どうやら何か探しているらしい。


 この男と話をしてはいけない、決して関わってはいけない。光一の頭が警告音を鳴らす。その警告を自分は聞かなければいけないと彼は思ったが、もう遅かった。逃げたい、関わりたくない、だが無視出来ない。

 気づけば光一は男に声をかけていた。しまった、と心の中では思ったがもう遅かった。彼の姿を目で捉えた時点で全てが決まった。男から逃れることが出来ず、話しかけてしまい、関わってしまうことは。


「あの……どこかお探しですか?」

 男は光一に気がつくと苦笑しながら頷いた。その仕草に胸がどくんと音をたてる。それは美しいものを見たことによるときめきなどではなかった。命の危機、人生の破滅の予感が不吉な音をたてたのである。だが、男から発せられた言葉はそういったものとはまるで無縁のものであった。


「うん。実はある洋菓子店を探しているんだ。美味しいと評判らしくて、一度買ってみようかなと思ったのだけれど、こちらにはあまり足を運ばないものだからさっぱり分からなくて。ぐちゃぐちゃで、汚らわしくて、生気が無くて、まるで死者の行進を見ているかのような心地になる。しかもどれも同じような姿ときたもんだ。……都会というものは、私は嫌いだよ」


「ちなみに、なんという店ですか」

 ゴミでも見るかのような目で近くにあるビルを見上げる男に尋ねると、彼は急に困ったような顔つきになって視線をあちこちに泳がせながら、しどろもどろと幾つかの名前をあげる。どうも正確な名前が良く分からないらしい。


「異国の言葉は覚えにくくて苦手だよ、全く。……そうだ、これを見せればいいのか」

 と手にしていた紙を光一に手渡す。それはその店のチラシで、下の方にざっくばらんな地図が載っていた。店の名前は男が幾つか述べたものとは似ても似つかぬもので。別になんら難しい名前ではないが、外国の言葉が苦手だという彼にとってはこの程度のものでも難しいのだろう。


「ああ、ここなら俺知っていますよ。何度か利用したことがあります。結構美味しいですよ」


「本当かい? それじゃあここからどう行けばいいか教えてくれるかな」

 光一はここからの道順を教えようとしたが、やや離れている上に店自体が結構奥まったところにあるので説明しづらい。もうこれ以上は関わるな、と脳が絶えず警告しているから迷ったが意を決し口を開く。


「……もしよければ、そこまでお連れいたします」

 男は驚いたように目を見開き、いいのかいと首傾げ。光一は若干後悔したが、一度言ったことを撤回するわけにもいかず、どうせ暇だから構わないと頷いた。

 それじゃあお願いしようか、という男と共に光一は洋菓子店へと向かった。


 口を閉ざす男と共に歩く内、先程まで確かにあった音が消え、行き交う人々の姿がぼやけていく。歩いているのは見知った道のはずなのに、なんだか異界でも歩いているかのような心地になってものの二分も経たぬ間に胸が不安でいっぱいになる。自分は後ろを歩く男によって、異界へと引きずり込まれたのではないかという錯覚。叫びたくて、今すぐ男を置いて逃げたくて仕方が無くでも出来ない。腹の中に泥のようなものが溜まっているような気がして気持ちが悪い。


 男は一言も喋らない。背中に突き刺さる視線が、痛い。特別光一に負の感情を抱いているからそういった目になっているのではなく、彼は普段からこうで、誰に対してもこのような目を向けているのだろう。

 光一も男に話しかけはしなかった。沈黙はますます彼の不安を煽ったが、それでも彼に話しかける勇気はなかったし、そもそも喋ることはおろかまともに呼吸することさえ出来ない今の彼にはどだい無理な話だった。得体の知れぬ男の正体を、話をすることで明らかにしたいという思いはあった。だが例えまともに喋れたとしても、この男相手の場合話せば話すほど色々なことが分からなくなって、ますます恐怖と不審の泥沼にはまっていくような気がしてならなかった。


 こんな状態で、目的である洋菓子店についたことはまったく奇跡としか言いようがなかった。かろうじて出た声で「着きましたよ」と言うと、男が満足そうに微笑んだ。嗚呼怖気がする程美しく、吐き気がする程蠱惑的なその姿。もし彼が女性であったら、今頃どうなっていただろう?


「ありがとう。うん、まだちゃんとお店もやっているね。はあ、それにしても随分時間がかかってしまった。君が声をかけてくれなかったらいつまでも辿り着かなかっただろうね」


「いえ、どういたしまして……」

 男は店のドアの前へ立ち、それから光一の方を見た。影に彩られた白い顔に浮かぶ二つの瞳が一瞬赤くなったように見えたのは、果たして幻か。


「私との関わりが不幸を招かないことを祈るよ、それじゃあね」

 意味が分からないことを、本当にそう思っているのかどうかかなり怪しい声で言うと男は店の中へと入っていった。光一はしばらくその場に棒立ちになっていたがふと我に返った瞬間、力の入らぬ足を無理矢理動かしてその場から走り去った。化け物の住む異界から全力で逃げるかのように。

 しばらくの間僅かに残っていたグロテスクな赤い炎が消え、山や建物の縁を燃やしていたものも消えた。不吉さを覚える赤が消えたら、今度は暗闇が広がる。つい先程まで僅かに残っていた赤よりももっともっと大きな闇が。一つの災いが過ぎ去ったからといって、すっかり安心になるとは限らない。また新たな災い――先程のそれよりもっと大きなもの――が来ることだってある。

 光一は走りながら見たそんな空の様子が、自分の行く末を暗示しているように見えてならなかった。


 死ぬ気で走って家へ帰り、自室に転がるようにして入っていった。心臓も気持ちも落ち着いたのはそれからしばらくしてからのことだった。落ち着いてくると、何もしていない男一人に怯え逃げるようにここまで走ってきたことが恥ずかしくなってくる。あの時の自分はきっとどうかしていたんだ、と自身の醜態を笑おうとするが強張った筋肉は思う通りに動かなかった。

 男のことを忘れようと努めても、映像が焼きついて離れない。あの妖艶な美しさを、恐ろしさを、冷たさを忘れることは容易なことではない。化け物のような男と、洋菓子店。


(あの洋菓子店……)

 頭に浮かぶ映像に向ける光一の目が、男から洋菓子店へと移る。それから彼はあることを思い出してふっと笑った。あの洋菓子店は、実は光一にとって思い出の場所であったのだ。


(真由子とよく行ったっけ。あいつ、あの店がお気に入りだったから)

 真由子というのは光一が高校生の時に付き合っていた同級生の少女であった。だが彼女は夢を叶える為高校卒業後遠くへと行ってしまった。その時、彼女とは別れた。喧嘩別れではなく、よく話し合った結果である。お互い不器用な性格だったゆえのことだった。彼女とは今も時々連絡をとっており、仲の良い友達という風になっている。

 そんな彼女と過ごした日々を思い出したら、少しだけ気持ちが楽になった。男の顔が、少しぼやける。


(また会いたいな……あいつと)

 自分の意識を男から逸らしてくれた彼女に感謝するのと共に、そんなことを思う光一だった。



 男と出会ってから、一週間が経った。最早彼の頭にあの男のことは殆ど残っていない。もう、あの日の出来事が現のものであったのかさえ分からなくなりつつあった。もしかしたら夢だったのかもしれない、そんな風にさえ思う。あのような男が現実の世界にいるはずがない、という思いがあの日のあれは夢だったのかもしれないという考えを後押しするのだ。あんなものがこの世に本当にいるというのなら、自分が今まで信じてきた世界というのは一体なんだったというのか? あれは人ならざる者、化け物だ。だがそんな者はこの世の中には存在しない。存在しない者がいたのだから、矢張りあれは白昼夢だったのだと。

 学校帰りに友人と本屋へ行ってから別れ、家を目指す。数え切れぬ程多い無機質なビルの横を通り過ぎていく。もう空は殆ど闇に覆われていて、絶えず冷たい風を吐いていた。


 ――ぐちゃぐちゃで、汚らわしくて、生気が無くて、まるで死者の行進を見ているかのような心地になる。しかもどれも同じような姿ときたもんだ――

 現の者とは思えない男の発した言葉が頭を過ったら、本当に数々の建物が物言わぬ屍に見えてきてしまった。死者の行進の横を何食わぬ顔で歩いている人々。生と死は隣り合わせ……。ビルも、行き交う人々も気味悪いものに見えてきて、そしたら死者と死者――ビルとビル――の間に差し込まれるようにして存在している一等濃い暗闇さえも不気味なものに見えてくる。光など一切無いその闇の中に、人ならざる者……異界の住人が身を潜め、ぎらぎらした目玉をこちらへと向けている、そんな気がしてしまう。生と死は隣り合わせ、この世と異界もまた隣り合わせ。あの闇は異界で、そこに潜む者達はふとした時こちらの世界の人間に牙をむく。

 そんなことを考えたら、何てことはない建物と建物の間に生まれる闇にさえ、目を向けるのが怖くなっていった。


(どうかしている、本当にどうかしている……)

 今自分が感じている『視線』が、辺りを歩いている人間のものなのか、死者と称されたビルのものなのか、それとも闇に潜む者達のものなのか分からない。そもそも自分に視線を向けている者が本当にいるかどうかさえ怪しい。もしかしたらそんなものは存在しないのかもしれない。

 また自分がどこをどんな風に歩いているのか分からなくなっていく。自分は闇に潜む者達によって異界へと引っ張り込まれているかもしれない。今こうして歩いているのは、もう人の住む世界ではないのかもしれない。そんな馬鹿げた妄想を外へ出そうと頭を激しく振った光一は、あるビルとビルの間にある闇を見た、見てしまった。


 その闇の中に、誰かが立っていた。野良猫などではない、確実に『それ』は人の形をしていた。光一はその場で立ち止まった。いや、凍りついたという方が正しいかもしれない。そこから発せられるものが、夢のような現、或いは現のような夢の中で出会った男のそれと同じようなものだったから。多分この世ではない世界に住む者だけがもつもの。何かの間違いで交わることもある者。そして関わった人間を今まで住んでいた世界から引きずりだし、新たな世界へ否応なく連れて行く者。

 冷たい汗が全身から噴出し、体を不快に思う程濡らす。嗚呼この場から逃げなければ、すぐに光一は思った。ところが彼の足は思いに反して闇の方へと近づいていく。普通の人間ならまず入らないだろう場所へ足を運ぶ光一を、通行人が訝しげな目で見つめるが今の彼はその視線に少しも気づいていない。駄目だ、行ってはいけない、行ったらもう戻れなくなる……光一を生かしている魂が、そう必死に訴えても彼はその歩みを止めることはなかった。魂が生命の危機を感じ取って警告を発する程歪で、近づきたくないと心から願う程恐ろしく、そして吐き気がする程惹かれてしまう――あの男もそんな思いを抱かせた。何もせずとも、人間の感情を揺さぶり狂わせるものを持っている……。


 闇の中へと入り、進んでいく。その闇の中に一人立っている誰かは、赤く光る布らしきものを両手で持っていた。さっきまでそんなものは見えなかったのに。その鮮やかな赤に光一が見たものは、静謐の内に秘められた熱情と、死という言葉であった。その光もまた不吉ながら目を惹くものがあった。

 飛んで火にいる夏の虫、歩んで死に入る冬の人。異界どころか死の世界に引きずり込まれることが分っていてなお、光一の足は止まらず自分を誘った者の姿がはっきりと見える所までやって来た。

 

 闇に溶けこむその姿を見た瞬間、光一の体にとてつもない衝撃が走る。体を雷で貫かれたような、いやそれどころのものではない。もっとすさまじい衝撃であった。

 目の前に立っていたのは、女だった。見えない位細い線で描かれたような、肌の白い、儚い身、真ん中で分けられた前髪。胸程までの髪を結ぶのは赤い紐。やや太い眉、対して瞳は細めで、紅さす唇は濡れ、ぎらぎらと輝いている。身に着けているのは模様の一切無い白い着物で左前であった。帯も帯紐も全てが白い。白と赤と黒、それが彼女を構成する色の全て。

 心臓がどくん、どくんという音をたて苦しくなる程激しく動く。しかしそれは恐怖によるものではなかった。心地良い緊張と身を、心を真っ赤な炎で燃やす激しい想い。


 女を見た瞬間、すさまじいまでの衝撃と共に頭に浮かんだのは『運命』という言葉だった。光一は一目見て、女を好きになった。それは勿論、異性として。あれ程抱いていた恐怖が消え、警告が耳に入らなくなる程激しく強い想いが光一の中に生まれたのだ。想い溢れて、ああ吐き出しそうだ。

 運命の人。目の前にいる女はまさしく俺の運命の人だ。光一はそう思った。その想いに疑いの余地は無い。そして女もまた同じ想いを抱いていることに彼は気づいた。


「ああ、ああ、運命の人。貴方、私の運命の人だ……」

 その体のように細い声、光一をじっと見つめる瞳は運命の邂逅に震え、光一の頬に触れた右手はひやりと冷たいが、その内に燃え盛るような熱情が秘められているのを感じた。

 女は醜くはないが、特別美人でもない。好みの顔かといえばそうでもない。光一は肌の白い、病人のようにか細い人間よりも健康的で生き生きしている人間の方が好きだった。モデルなどによくいる、何だか妙にガリガリした体より、程よく肉がついた体の方が断然好みで。だからむしろ目の前にいる女は好みとは正反対の姿である。

 にも関わらず光一は彼女との出会いに運命を感じた。ごく自然に「ああ、この人は俺の運命の人だ」という思いが浮かんで、そのことに対して妙だとかどうとかという疑いも一切なかった。もう彼女以外目に入らない、死者の行進だ何だといっていたあの男のことも、異界ののことも、もう頭の中にはない。考え、想っていたいのは彼女だけ、見つめ続けていたいのも彼女だけ。


 女は光一にとってこの世界でただ一人の、赤い糸で結ばれた運命の人だった。その運命の人に光一は今こうして出会ったのだ。そして女にとっての運命の人はこの世界でただ一人、光一だけなのだった。

 そして今から二人は結ばれ、一つとなる。そのことが光一には分かっていた。


「貴方、これから一緒になりましょう。貴方は、貴方だけが私の永遠の伴侶。共に、共にいてくれるでしょうねえ貴方?」

 勿論だ、と光一は頷いた。


「貴方、構わない? 私と結ばれる為ならその命捨てても?」

 何も問題がないと光一は思った。今は闇も死も怖くはない。頷くと女は嬉しそうに微笑んだ。光一の頬から離れた手が今度は彼の左手を握る。彼女は一瞬何かに躊躇い、だが決意を固め、心の臓貫く眼差しをこちらへと向けた。ひんやりとしていて、だが一方で突き刺さった心臓を燃やすようなすさまじい熱をもっている。


「それじゃあ貴方、ねえ、私を一緒にどうか死んで頂戴。……私は心中することでしか、愛する人と一つになれないの」

 そうか、死ななければいけないのか。だが死ねば結ばれる、永遠にいられる、それなら死のうじゃないか、共に。いつもの光一なら一緒に死んでくれと言われても、それがどれだけ愛しい人でも拒否したことだろう。ならば、おかしいとも嫌だとも思わず即その問いに「ああ」と頷いた今の光一は。

 ほっとしたように息をついた女は、輝く赤い布の片方の端を光一へ手渡した。ふわりと軽く口に含めば砂糖菓子のようにすうっと消えてしまいそうだ。触れた瞬間めまいがし、体がふらつく。生命エネルギーをこの布に吸収されてしまったような心地。実際、そうなのだろうと思った。


「これが私と貴方を結ぶものよ」

 女は神聖な儀式でも執り行うかのような表情と所作で、その布を光一の右手首へと巻きつけた。その顔に、時々触れる彼女の手に、光一の鼓動は止まることを知らず。体が熱い、心が熱い、布が熱を帯びていく……。

 少し痛む位強く結んでから、今度は自分の手首にこれを結んでくれと女は言う。心臓が張り裂けそうになり痛くて仕方ない。だがその痛みさえ愛おしい。にやけそうになるのを無理矢理抑えつつ、粛々とその美しき『儀式』を行う。女のすべやかな白い手に、赤い布。降り積もる白雪に椿花。最初はあまり痛く無いようにと緩めに結んだが、もっときつくしてと言われたから少しやりすぎな位きつく結んだ。そして赤い布によって光一と女は一つになった。二人は布で結ばれた。だが、本当の意味では結ばれていない。何故なら二人はまだ生きているから。

 もう光一の目に、死人のような、無機質でつまらない建物は映っていない。じき立っていられなくなるから、と二人は冷たい地べたに横向きに寝転んだ。光一は進行方向へ、女は光一が来た方向に頭を向け。


「こんな所で寝て、大丈夫だろうか。誰かに見つかって」


「そんなこと、有り得ないわ。只人に私達の邪魔が出来るものですか。この赤い布が、私達を守ってくれるわ、きっと。誰にも邪魔されることなく、私達は一緒になる……」


「そうか。それを聞いて、安心した」

 誰にも邪魔されたくなかった。早く、一刻も早くこの運命の人と結ばれたかった。この世界に一切の未練が無いわけではない。やりたいことだってまだ色々あったし、両親や友人と別れの言葉も無しにさよならすることだって少しは辛いと思っている。だが、それでも光一は彼女と共に逝くことを選んだ。もうその選択肢を変えることはない。布に魂を吸われ、死に、そして彼女と一つになって死後の世界で幸せに暮らす。それさえ叶うなら、生も夢も絆も全て捨てよう。彼女がいるなら、もう他には何もいらない。今の光一はきっと、Iloveyouという言葉を『共に死のう』とか『他には何もいらない』と訳すだろう。

 本当は暗闇しかない世界なのだけれど、光一の中では今ここは光溢れる世界になっている。身を横たえているのは白雪の上、頭上から降るのは祝福の光を宿す色鮮やかな花。そこで二人見つめ合い、静かに死を待つ。


「本当に、大丈夫? このままだと本当に貴方死んでしまうのよ」


「何も問題ないさ。俺は貴方と共に逝く」


「……私は人ではない。異界の住人、妖よ。それでも、そんな女でも構わない?」


「構わないさ。君だから、君だったから」

 心からの言葉を述べ、微笑めば女はぽろぽろと涙を零す。雪の上に椿花の上にぽとん、ぽとんと真珠が落ち、虹の輝き。彼女は良かった、良かったと何度も呟いた。


「私、この布を使うか使うまいかずっと迷っていたの。私は運命の人にした人と心中する妖。運命の人を作り、その人と共に死ぬ為に生まれた者。正しいとか、間違っているとかそんなものはない。そういう風に生まれたから、やる。それだけ。けれど私は変わり者で、ずっと疑問に思っていた、迷いがあった。愛する人を自分の都合で死なせて良いのだろうかと……。出来ればそんなことはしたくないって……そんなことをしなくても、愛する人と一緒になれればいいのにって。変わり者の私はずっとそう考えていた」

 けれど、と口動かせばまだ目に溜まっていた真珠がぽとりころんと落ちて。


「でも、それは無理なの。分かっている。私達種族は、運命の人と死なずにはいられない者なの。例え頭では嫌だと思っていたって、いざ運命の人と会えばきっと布を渡して共に死ぬ。それこそが生まれた瞬間に交わされた『種族のさだめ』という名の約束……。だから私、ずっと向こうの世界の山奥でひっそりと暮らしていたの。運命の人を生み出さない為に。けれど、私の中に流れる血はそれを望まなくて……気づけば私、こちらへ来ていた。運命の人と共に死ぬ為に。私達が選ぶのは、いつだって、人間。そしてその人間を手に入れる為なら境界さえ容易に飛び越える……。私はこの世界をあてもなく彷徨い、やがてここまでやって来た。私の姿を誰も見出さぬよう、布でこの身を覆い慎重に動いて。そしてここで私はある人に出会ったの。着物を着た、美しい人と。……その人の言葉に背中を押され、とうとう私は決心したの」

 そして彼女は光一と出会ったのだ。『運命の人』である彼と。


「その人との出会いが無ければ、貴方との出会いもなかった。私、貴方に出会えて良かったわ。死んだって構わないというその言葉を聞いたから、もう大丈夫。絶対に迷うことなんてないわ。何も間違っていることなんてないって、もう分かったから。私はちゃんと死ねる……」

 それから女は、光一のことについて色々と聞いてきた。光一は夢見心地で沢山の問いに答える。美しい二人だけの世界に脳は蕩け、力は抜けていく。魂は赤い布へ、布へ。時々訳の分からないことを言うこともあったし、自分で何を言っているのか分からないこともあった。だがそれでも女はずっと優しく微笑んでいた。

 手首から布へとくとくと、魂が流れていっているのが分かる。どくどくと脈打つ音、とくんとくんと鳴る心音、少しずつ、少しずつ小さく弱くなっていく。それでも怖くはなかった。やっぱり死にたくない、逃げたいと願うことはない。彼女と結ばれることから逃げる理由などどこにもない。


 少しずつ意識が失われていく。お互い訳の分からないことを呟き、口数が減っていき、とうとう唇を動かすことさえ出来なくなってしまった。半開きになった口から洩れる息は、蛍の灯よりも儚く。体は冷たく、もう指一本動かすことは出来ない。微睡んで、舟漕いで、逝き着く先は黄泉の国。

 行こう、共に。結ばれるなら、死することなど少しも怖くない。今光一にとって意味があるのは、彼女と結ばれぬ生よりも、彼女と結ばれる死なのだ。嗚呼、愛の為に死ぬ。これ程美しい死はない。心中ほど素晴らしい愛の貫き方はない。

 女の姿が霞んでいく。そういえばまだ彼女の名前を聞いていなかった、と光一は思った。だがもう口は動かせないし、幾ら心から愛する運命の人でも目だけで『貴方の名前は?』と語ることは出来ない。でもいいやと光一は思った。名前なら向こうの世界で聞けば良い。

 もう、体のどこにも力が入らない。天上から降り注ぐ雪に、花に、その体は埋もれていく。もう誰の目にも、手にも触れることはないだろう。一体誰に二人の邪魔をすることが出来るだろう?


 眠たい、とても眠たい。そうだ、無理に目を開けている必要なんてないじゃないか。もう目を閉じようそして永遠の眠りにつくのだ。

 燃え盛るこの、激しい想いを成就させる為に。眠ろう、眠ろう、永遠の眠りに……。

 かろうじて開いていた瞳を閉じ、光一は覚めない眠りにつこうとしていた。ところがその、永遠の、愛の、死の先にある未来の入口へ踏み出そうとした足を止めるものがあった。それは他ならぬ女で。

 どこにそんな力が残っていたのか、彼女はすさまじい悲鳴をあげた。その声は恐怖に震えていた。まさか寸前になって彼女は死ぬことが怖くなったのか? ところがどうもそうではないらしい。


「やめて、駄目……お願いよ、それを、それを解かないで……そしたら私は、一人で、駄目よ……お願いよ、嫌よ、私は、この人と、死ぬからこそ、死ねる、駄目、愛を手に入れることなく死ぬなんて、私は心中するからこそ心中乙女であるのに、それなのに、一人で、逝くのは、ねえ、そんなの嫌よ、お願い、駄目、解かないで、解かないで、今、解いたら、お願いよ、解かないでえ……」

 無理矢理こじ開けた瞳に、目をかっと見開き涙を零し、ぶるぶる震え、何者かに懇願している女の姿が映る。首を絞められた鶏のような声がそれから幾度かその細い喉から洩れ、やがて。


「いや、いやいや、いや……いやあああああ!」

 身の毛もよだつ絶叫が響き渡り、それと同時に彼女の手首に巻きついていた赤い布がしゅるしゅると、解けた。女の姿が、美しい雪に溶けて消えていく。それを光一は止めることが出来なかった。どれだけ雪に埋もれていても、自分は、自分だけは彼女の姿を見ることが出来ていたのに、もう見えない。それと共に赤い布に吸収されていた生命エネルギーがリバースし、光一の体内に怒涛の勢いで流れ込んできた。膨大なエネルギーが一度に押し寄せてきた為に彼の体は悲鳴をあげ、そして生命の戻った光一はあまりの衝撃に、そして女の姿が見えなくなったという絶望に絶叫した。喉が裂かれる位叫んで、叫んで、そして光一は意識を失った。


 どれだけ気を失っていたのか。日光などまともに浴びたことのないコンクリの発する嫌な臭いで光一は目を覚ました。薄気味悪い闇が辺り一面に広がっていて、地面はひんやりとしていて気持ち悪い。しばらくの間呆けていた彼はようやく女のことを思い出し、はっとして起き上がる。先程まで死にかけていたことが嘘みたいにぴんぴんしている体、光一の右手首に巻かれていた赤い布その先を辿れば……辿っても、誰も、いない。


「どうして……」

 辺りを見回してみても、矢張り彼女の姿はなかった。だがその代わりに別の人物が立っていた。真っ暗でよく見えないが、それでも光一には分かった。彼の目の前に立っているのは間違いなく先週出会ったあの男であった。ふわり、甘い匂い漂い、それが女との甘く美しい時間を思い出させる。


「あんた……」


「ふう、危機一髪。もう少し遅かったら君死んでいたところだった」

 冷たく、そして抑揚のない声が答えた。そこに危機感というものはまるで感じられない。そして男は光一の手首に巻かれていた赤い布を容赦なく解いた。光り輝く布をその手に取ったことで、男の姿が露わになる。そこにいたのは藤色の髪と赤い瞳を持つ男。しかし光一はその異様な姿を見ても驚かなかった。そして、髪と瞳の色こそ違えど彼は矢張り先週出会った男で間違いないと確信を強める。男は矢張り、異界の住人だったのだ。


「先日君の案内で行った店、なかなか良かったよ。今度は別の商品でも買おうと思ってまた訪ねようと思ったんけれど、道をしっかり覚えていなかったものだからまた迷いに迷って、大変だった。それでもなんとか辿り着いて、色々買ってさあ帰ろうとこの辺りを歩いていたら君を見つけた。見れば心中乙女と共に逝かんとしているじゃないか、いやあ驚いた。……全く、まるででたらめな偽りの想いを遂げる為に死ぬなんて馬鹿げている」


「偽りの、想い?」

 意味が分からなかった。男はふう、とこちらを馬鹿にしたようなため息をつく。


「……心中乙女というのは、その名の通り心中する乙女の妖さ。かつて心中した女の魂が変じた姿とも、心中に失敗した女の魂が変じた姿とも、心中物に憧れた女の魂が変じた姿とも云われているけれど、実際はどうなんだろうね。彼女は運命の人――人間の男と決まっている――と心中をする。この赤い布にお互いの魂を吸収させ、そしてこの布の中で一つとなる。二つの魂を結んだ布は黄泉の国、常なる闇の京へ行くそうだ。まあ、これはもうどこへ行くこともないだろうけれどね。……君は地獄の業火さえ足元にも及ぶまいと思える位熱く激しく燃え盛る想いを彼女に抱いただろう。運命の人との邂逅に心弾んだことだろう。でもね、君にとっての『本当の』運命の人は彼女ではない。君は彼女と出会った瞬間に作られた、紛い物の赤い糸に騙されたのさ」


「紛い物……」


「彼女は闇の中、男が自分の姿を見つけてやって来るのをじっと待つ。女に気がつく者はまずいない。闇に身も心も気配も全て溶けているから。けれど中にはそんな状態の彼女に気がつく者もいる。何となく波長があるとそうなるのかもしれないね。君の場合は、私と出会った影響で異界の『匂い』に対して敏感になってしまっていたが為に、彼女の存在に気づいてしまったのかもしれないねえ。彼女の存在に気づいた者は、女のいる方へと足を運んでしまう。そして闇に溶ける彼女の姿を見つけ……刹那、体に電流が走り女の内に『運命』を見るという。でもそれは作り物だ。女は自分を最初に見つけた男を自分の運命の人にしてしまう。そして心中乙女が『運命の人』と認識した瞬間、男にとっても彼女が『運命の人』となってしまう。紛い物の『運命の赤い糸』が結ばれることで、そう思ってしまうんだ」

 光一はぐちゃぐちゃしているのか、真っ白になっているのかよく分からない頭から彼女の記憶を引っ張り出す。彼女は「私は運命の人に『した』人と心中する妖」とか「運命の人を『生み出さない』為に」などと言っていた。あの時はその言い回しに何の疑問も感じていなかったが……。彼女はそう言うことで光一の想いは自分が作ったものだと告白したのだ。

 しかし男から『紛い物』と言われなお、光一は彼女こそがこの世にただ一人しかいない運命の人だという思いを振り払えないでいた。彼女は今も自分にとって運命の人で、そしてその想いが作られたものであるとはどうしても思えないでいた。


「紛い物のくせに、この赤い糸は非常に強い。心中乙女が死んだって、消えやしない。そしてその赤い糸は紛い物だ偽りだとどれだけ言ったって、理解しやしない。可哀想に、可哀想にねえ。君にだってきっと『本当の運命の人』がいただろうに。ただ気づいていないだけでもうその人ととは会っているかもしれないし、これから会うのかもしれない。けれど、君がその人に心中乙女程の運命を感じることはないだろうよ。偽物が本物を凌駕する。そして偽物が本物になり、本物が偽物になる。君は偽物に抱いた想いの十分の一も、本物に抱くことはない。君にとって、心中乙女に感じたものこそが本物であるから……。君は心中乙女への愛に胸を焦がしながら生きていくことだろう。二度と結ばれぬことのない女の幻影をこれからもずっと、ずっと、ひたすら追い続けるだろう。けれどそれは仕方のないことさ、私にだってどうにも出来ないよ。ああ、すでに運命の人と出会っていれば、誰かの中にある運命に気づいていれば、心中乙女の姿を見つけることはなかったろうに」

 彼女と結ばれない。その事実が光一を打ちのめした。自分にとってただ一人の運命の人はもういない。

 彼女と一つになれない、彼女と黄泉路を辿ることが出来ない、もう彼女の名前を聞くことも出来ない……。深い、あまりに深い絶望は、目の前にいる男に対する怒りへと変わっていく。


「……どうして、どうして助けたりなんかしたんだ」


「何故って、そりゃああのお店まで案内してくれたお礼さ。普通自分を助けてくれた恩人が目の前で死にそうになっていたら、助けるものだろう? それに偽りの愛に身を任せて死ぬなんて馬鹿げているだろう?」


「……でも、俺は望んでいなかった。彼女と結ばれたかった。偽物だろうが紛い物だろうが知ったことか……! 俺にとっては本物だった、あんたの言葉を聞いたってこの想いは覆らない!」


「あ、そう。そりゃあ悪いことをしたねえ。でも私は君じゃないから。君の考えなんて分からないから、間違って助けちゃった。ごめんごめん」

 その言葉に一切の感情は込められていない。暗い、暗い地面を見つめると悔しさと悲しみと喪失感と怒りと憎しみで胸がいっぱいになり、涙が溢れ、ぽとぽとと落ちる滴に心中乙女が零したもの程の輝きは無い。あの美しい真珠の涙を見られない、そう思ったら余計胸が苦しくなった。


「誰も、誰も邪魔は出来ないと彼女は、言って、言っていたのに……」


「そりゃあ、彼女が言った通り只人には出来ないだろうさ。けれど私は人じゃあない」

 はっとして光一は男の方を見た。


「お前……あの時にはもうすでに」


「いたよ? 君もあの女も全く気づいていなかったけれど。本当ならもっと早く解くことも出来た。でも、ぎりぎりまで放っておいた。だってすぐに解いちゃつまらないだろう? 後少しというところで全てを台無しにする、これ程素晴らしい遊びは無い。あの赤い布は案外簡単に解けるんだ、ただの人間にだって解こうと思えば解けるだろう。まだ完全に結ばれていない状態で、女の手から解けば女の方が、男の手から解けば男の方だけが死ぬ。両方同時に解いた場合はどうだかね。結ばれることなく両方死ぬになるのかも」

 あんまりすぎる答えに、光一は呆然とし彼に怒りをぶつけることさえ出来なかった。口から零れたのは未だ彼女と結ばれることに執着する男の、惨めな思い。


「……今ここで死ねば、先に逝った彼女と結ばれるだろうか。一つに、なれるだろうか」


「無理だろうねえ。例え向こうで彼女と再会出来たとしても、結ばれることはないさ。共に逝くこと以外に心中乙女と一つになる方法はない。まあ、一縷の望みを賭けて死ぬというならどうぞ。私はもう恩を返したからね、君がこの先死のうが生きようが知ったことじゃない。……結局君は私と関わったことで、この先幸せに生きることは出来なくなった。さっきもいったけれど、きっと君が心中乙女の姿を見出したのは、私と出会ったことで異界の匂いに敏感になってしまったからだ。おまけに未だ君は誰かの中にある運命を見出していなかった。嗚呼本当可哀想に。出会っていなければ、いずれ本当の運命の人と幸せに暮らせたかもしれないのに。でも、もうどうにもならない。やり直すことは出来ないんだ。君は手に入れそこなった紛い物の愛を求めながら生き続ける。或いは無価値な死を選ぶか」

 そう言うと男はあの、二人の愛の証を燃やしてしまった。布は赤く赤く激しく燃えて、そしてあっという間に塵も残さず消えていった。男はそれじゃあね、とだけ言うとこちらに背を向け去っていく。


「……あんた、本当に恩返しのつもりで、やったのか?」

 男は多分、笑った。聞くまでもない。彼は心中乙女を弄び、絶望の炎に焼かれながら死ぬ様を見て楽しむ為だけに自分のことを助けたのだ。

 バッグの中に入っていた携帯電話が鳴る。ぼうっとしながらのそのそとチャックを開け、取り出してみれば光るディスプレイには『真由子』という字。メールには近々また会いたい、その時大切な話をしたいと書かれていた。そして最後には『私の運命の人へ』という文字。体の中が、がらんどうになる。嗚呼、嗚呼もし後もう少し、早かったらと光一は思った。自分の本当の運命の人はすぐ傍にいた、それなのに気づかなかった、気づけなかった、それゆえに。だがもう手遅れだ。

 本当の運命の人が誰なのか気づいてなお、光一は女を求める。しかし生きていても、死んでももう彼女と一つにはなれないのだ。ぺたり、闇の中に座りながら彼は思う。


 嗚呼、生きることにも、死ぬことにも、もう何の意味もなくなった。



 ――私ねえ、小さい頃の夢さあ『うんめいのひととであってけっこんする』っていうのだったの。昔の作文見て、顔から火が出る程恥ずかしくなっちゃった。確かに昔、何かにつけて運命の人運命の人って言っていたような気がする――


――あれか、白馬に乗った王子様と末永く幸せに暮らすのって感じか。あ、でもその夢半分叶っているんじゃないか? 運命の人には出会えたじゃあないか。まだ結婚していないけれどな――


――え、誰よ運命の人って?――


――ええ、俺違うのかよ――


――さあ、どうかしらねえ。あはは……――



――今日は心中乙女と出会いました。それで早速彼女を唆して、人間と心中する姿を目に焼きつけようとしました――


――それで、上手くいったのかい――


――いいえ、駄目でした。邪魔が入りまして……ふふ、でも貴重なものを見ることが出来ましたわ。心中に失敗して心中乙女が一人で逝く姿を。赤い布が解けて、悲鳴をあげて、消えていきますの。どろどろに体が溶けて最期は消えてしまう。一人残された男の方は真実を聞かされてなお呪縛から解き放たれることなく、彼女を想っているようでした。これも言い伝え通りですわ。さて。詳しいことはまた後程――


――楽しみにしているよ。それで、心中を邪魔したのは?――


――ふふ、とても素敵な方でしたわ。私のことにも気づいていたようですけれど、見て見ぬふりをしてくれました。興味がなかったのかもしれません。お兄様、その方というのはどうやら桜山にかつて住んでいたとされる化け狐のようなのです。言い伝えの上では死んでいましたが、実際は生きていたようです。……素敵でしょう、お兄様――


――ほう、それは興味深い。……そうか……生きていたのか――


――ええ。それじゃあお兄様また今度――


――ああ、また何かやったら報告してくれ。頼んだぞ――


――はい、お兄様……大丈夫、きっと上手くやりますわ――


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