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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
鬼の隠れ家
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鬼の隠れ家(2)


 りん、りいいん。壁にかかっていたベルを思いっきり鳴らすと、程なくしてバサバサという羽音が聞こえた。その羽音の主は紅助達のいる部屋の前に止まると、甲高い声で「申し、申し」と鳴いた。そして戸の上にある専用の出入り口から入ってきて、テーブル前にある専用の台の上へと着地。ヒスイマブシ、という名の通り粉にした翡翠をまぶしたような黒い羽根を持つ、烏に似た鳥だ。客の注文を聞き、厨房へと伝える役目を持つ鳥には様々な種類がいて、羽の色も体の大きさもそれぞれだ。


「ご注文は?」


「豚揚げおろしポン酢がけに火山鍋、馬刺し、熱厚(あつあつ)油揚げ、花鳥の脚焼き、それと金目鯛の煮付け、ご飯、お茶を。酒のお代わりも頼む、今度は大瓶でな」

 あっと言う間に空になった酒瓶を紅助は掲げた。とりあえず以上で、という彼の言葉を遮ったのは菖蒲だ。


「あ、後ビヰ玉果実もお願いねえ」


「ビヰ玉果実って……食後に食うものでは?」


「順番なんてどうでもいいじゃあないの。私あれ大好きなの」

 双の言葉に菖蒲は笑顔で答える。彼等の注文をヒスイマブシは首にかけた帳面に記入する。文字を書き記すのは彼等の持つ自動書記羽ペン。全て書き終えるとペンは同じく首にかけているホルダーの中へ。そしてヒスイマブシは正方形の出入り口から出て行った。

 紅助はふくよの注文した酒を分けてもらい、うなぎの骨揚げを喰らいながらそれを飲む。ばりばり、という音と共に口の中に広がるのは香ばしい匂いと骨から出る旨み。一度食べると癖になり、食べては手に取り、また食べては手に取り、を繰り返す。それをつまみに飲む酒も、美味い。


「こちらの酒もなかなかいけるな」


「でしょう? あたしこれが超お気に入りなの。紅助はいつもそれを頼むわよね」


「しかし、半数以上の客が鬼っていう店で一番人気な酒がそいつってのもすごい話だよな」

 同じくうなぎの骨揚げを頬張りながら双が指差すのは、紅助があっと言う間に飲み干し、空になった酒瓶だ。そこに書いてあるのは『秘技鬼殺し』という文字。確かにそうよねえ、と菖蒲とふくよがケラケラ笑った。


「鬼が好んで飲む酒の銘柄が鬼殺し! 私そのことをこの前、知り合いの人間に話したのよ。そしたら『何、あんた達自殺願望でもあるわけ?』なんて言われちゃったわ、うふふ」


「別にこれを飲んだら死ぬってわけではないが。鬼さえ死ぬ程強い酒というわけでもないし。ただの洒落だろう、洒落」


「素晴らしい完成度に興奮した、この酒を作った鬼が踊り狂って死んじゃったからこの名がつけられたなんて話を聞いたことがあるわねえ」


「俺は実はあの酒には鬼の血肉が入っているからそう名付けられた、なんて噂を聞いたことがあるな」


「儂は多くの鬼を退治したという人間の男が死んだ記念に作られた、という話を聞いたなあ」

 ふくよと双、青一郎がそれぞれ聞いた話を口にするが真実は不明である。この酒を好む紅助も、別に美味しく飲めさえすれば名前の由来などどうでも良く。


「鬼殺しだろうが人殺しだろうが、美味いことに変わりはないからな。……はいいが、何か今日やけに豆料理が多くないか?」

 紅助が指差すのはテーブルにずらりと並んでいる料理。そこには成程、豆を使った料理が色々とあった。納豆巻き、大豆の甘辛揚げ、大豆と唐辛子のスープ、湯葉刺、豆乳鍋……。ふくよの前には炒り大豆がてんこもりになっている升があった。うふふ、と笑う菖蒲の代わりに口を開いたのは智慧助だった。いや、最終的に紅助に豆料理が並んでいる理由を教えてくれたのは菖蒲なのだが。というのも彼以外に智慧助の言葉を理解出来る者がいないからだ。智慧助はふう、としゅう、しか言えない。言う、というのはあまり正確ではないかもしれない。言葉、というよりかは息、である。ふう、しゅう、という息を漏らすことで彼は語る。相変わらずの恐ろしい形相だが、彼は今欠片も怒ってはいない。


「菖蒲から今日人の世は節分であることを聞いて、ふうんそれじゃあ豆料理を今日は色々食べようかって話になったのだ――と言っているわ。その通り、今日は節分なのよ」


「長年の付き合いとはいえ、よく言っていることが分かるなあ……ふうん、そうか。今日は節分なのか」

 懐かしい響きだ、と紅助は思った。あまり気分の良いものではないが、かといってそれを聞いて震えることはない。よく見れば鰯のつみれ汁や太巻きもテーブルに並んでいた。甘辛い味つけの大豆揚げを掴み、ぼりぼりと食う。甘し辛し香ばし。


「こんな豆如きに祓われるような軟弱者なんぞ本当にいたのか?」


「ものすごく弱い邪気位なら祓えたんじゃない? 心からそういうものを祓いたいと願いながら投げれば、豆に宿っている力をほんのちょっとでも引き出すことが出来るのかも。ま、そもそも豆にそんな力が本当に存在しているかどうかは分からないけれどお!」

 と言いながらふくよは升を傾け、てんこ盛りの豆を一気飲み。鋭い歯で噛み砕くこともせず、まるで酒でも飲むかのようにごくごくと喉を鳴らしてそれを胃に収めていく。噛んだ方が香ばしさと甘みが出て美味かろうに、勿体無いなどと思いながら紅助はその様子を見ていた。


「人間なんぞの力でぶつけられても、ちっとも痛くなさそうだあ。こんなもの投げられた位で儂等は怯みやしないし、逃げだすことも無いだろう。鰯の匂いだってなんてことはないし、柊如きでやられるような目など持っていないし」

 熊美の皮の下にある自分の目を青一郎が指差した。皆その通り、とうんうん頷く。


「でも、人間達は豆とか柊鰯やらに鬼っていうか悪いものを祓う力があるって本気で信じていたのよねえ。……そういえばある所にはここの店の名前と同じ『鬼の隠れ家』って話があるらしいわあ。豆を投げられたり柊鰯に近づいたりするのが嫌で、鬼は節分の日だけ人の前には姿を現さず、人間が見つけられないような場所にある鬼の隠れ家って所に隠れるっていう話なの。その日ばかりは鬼は人を恐れ、人のやることを恐れ、早く節分が終わらないかとぶるぶる体を震わせるんですって。だからいつの間にか節分の日、鬼は何もしなくても人里へ降りてくることはなくなったとか。ふざけた話よねえ、嫌になっちゃうわあ!」

 それを聞いて一同顔をしかめる。鬼を馬鹿にしているかのようなその話に、怒りを通り越して呆れてしまった。そのことを話した菖蒲も阿呆らしいわよねえと言って肩をすくめる。


「色々面倒だから、とか人間がうるさくてかなわないからとかって理由で近づかないっていうのはあると思うけれどねえ。幾ら少しも痛くなくても、豆全力でぶつけられたらうっとおしくてかなわないし」


「それを『鬼は節分が怖くて、どこかに隠れて震えているのだ』と解釈したと。全く、とんでもない話だな。術師などはともかく、そこらに転がっている人間共など少しも恐ろしくはない。節分の日だろうが、何だろうが。奴等自身も怖くないし、やることも怖くない」

 双が言い終えたところで、紅助の頼んだ馬刺しと熱厚油揚げにお酒、それから菖蒲の頼んだビヰ玉果実がやってきた。菖蒲は料理を運んできた娘にちょっかいを出し、それを双にたしなめられて邪魔しないでようと頬を膨らませる。本当にお前は女が大好きだよな、と皆呆れ顔。

 紅助は早速出来たてホヤホヤの、厚揚げと見紛うような油揚げに七味唐辛子と醤油をさっとかけ、ぱくりと食べる。この料理は出来たてが一番美味い。外はカリッとしていて、中はふんわり。思いっきり噛めば口の中は風味豊かな汁でいっぱいになる。油揚げの甘味に、醤油の香りや七味のぴりっとした辛さが混ざり合い、とても熱いが、幸せ。そちらを平らげてから、今度は馬刺しを食い始める。こちらはおろし生姜と刻み葱をのせ、甘めの醤油にさっとつけて食べる。双と青一郎が「ちょいっとおくれよ」と言って皿に手を伸ばした。二人も馬刺しは好物の一つなのだ。


「人間って結構勝手に色んな話を作るわよねえ。しかもそんな作り話をまるで真実であるかのように後世に伝えちゃうし」

 青みがかった硝子の皿に盛られているのはビヰ玉果実。これは果実をくり抜いたものを甘さ控えめのゼリーで包んだもの。ゼリーには僅かに色がついているが、その色は様々。また、中には白あんで作られたちょっとした飾りが共に入っているものもあり、見た目はまさに色鮮やかなビー玉、天井に灯された光に照らされ、きらきら輝いて眩しい。それを菖蒲は一つつまみ、自身の艶やかな赤い唇に押し当てて、そのままつるんと吸って飲み込んだ(どちらの口でも彼は物を食べられる)。その艶やかさは背筋がぞっとする位だが、野郎共は野郎のそんな姿を見てもときめかないし、唯一の女であるふくよも菖蒲の方など見ちゃいない。彼女の視線は目の前のご馳走

にのみ注がれているのだ。別に菖蒲もここにいるメンバーを誘惑したくてやっているわけではない。もうこれが癖になっているのだ。女の子と一緒に食事をする度、こんなことをやっていたものだから。


「俺もよく足を運んだ都に住んでいる人間共に、誕生秘話を勝手に作られちまった。何でも俺の前世は星助と月っていう双子の兄妹なんだとさ。その双子が二人仲良く殺された。で、死後二人の魂がくっついて男と女、二つの頭を持つ鬼に変じ、人を喰ったり殺したりして暴れている……とかいう話だ。滅茶苦茶過ぎないか、これ? 何で鬼になって暴れまわるようになったのか、いまいち意味が分からん」


「俺なんか、人三人を一気に丸呑みにしたっていう伝説が残っているぞ。……三人どころか一人さえ丸呑みなんぞ出来ん。無理だろう、どう考えたって! 俺人丸呑み出来る程大きくないぞ」


「確かに紅助ってそこまで大きいわけじゃないよなあ。俺よりかは大きいが。儂も人を丸呑みにしたって話があるけれど、無理だって、見りゃあ分かるだろうが。阿呆かい馬鹿かい人間ってのは……儂、他にも人間共に己の強さを誇示する為に熊を殺し、その皮を剥いで被っているなんて……そんなことの為に、殺す、ものかあ、というかわざわざそんなことする必要など、熊美、熊美ぃ……」

 熊美のことを思い出し、彼は再びおいおい泣きだした。いつものことなので、誰も慰めなどしない。

 しゅうしゅっしゅ、ふうふう。智慧助が何か喋りだす。最後はまるで機関車の如く、しゅっしゅっしゅっしゅ。


「自分は人の血と肝を使った絵の具で、山中にある洞窟に絵を描いたなんて伝説が残っているって。その絵はまだ残っているとかいないとか。自分絵心全然無いし、お絵かきなんて興味無いのにそんなことするわけないじゃんあっはっは……とのことよ」

 どうやら最後のしゅっしゅっしゅという機関車っぷりは呑気な笑い声だったらしい。兎に角鬼のような形相(いや、鬼なのだが)からは想像もつかないようなのんびり具合。本当に菖蒲の訳は正しいのだろうか、と時々紅助は疑問に思う位だ。しかし智慧助が憤慨し、暴れたところなど見たことがないから矢張りのんびりぽやんとした性格なのだろう。そんな彼は今豆と唐辛子のスープを飲み、思いっきりむせて酒をごくごく飲んでいる。

 酒樽の酒と格闘中だったふくよが、あたしにもそういう伝説があるわと柄杓を握り締めたまま語りだした。


「あたし、何でも大昔に一つの山を両手でひょいっと掴んで持ち上げて、まるでおにぎりでも食べるかのようにしてもぐもぐ平らげちゃったんですって」

 一同の視線がふくよに集まる。無表情で、淡々とそう言った彼女はしばし沈黙、後、どがん。


「……そんなわけあるかい!」

 どがん、というのは彼女がテーブルを拳で叩いた音だった。しかも柄杓を握りしめていた方の手で。木製の柄杓だからひとたまりもなく、それは見るも無残な姿になった。まあ、幾らあんたでもそんなことは出来ないわよねえ、と菖蒲。


「そうよ、出来るわけないじゃないの! 何よ、山をおにぎりみたいにして食ったって、阿呆か!? 確かにあたしは図体でかいけれど、山よりでかくはないっての! 物の大きさの比率を考えて話作れってのよ! 山なんて幾ら小さなものでも持ち上げられないわよ、無理よ、というか土も木も食べたことないし、食べられないっての! 見たことあんの、鬼が土や木を食べたところを見たことがあるっての、ええ? 山がおにぎりに見えたからって変な話作りおってからにい! 人間自体は怖くないけれど、あいつらのもつ訳の分からん想像力はある意味怖いわ!」

 うわあああうおおおおお、と怒っているんだか泣いているんだかよく分からない。テーブルに突っ伏しながら咆哮するその迫力ある姿を見ると、山をおにぎりみたいに食べたという伝説は作り話ではなく本当にあったことなのでは、と思ってしまう。

 

「あたしは向こうの世界では退治されたことになっているわねえ。何かものすごく別嬪なお姉さんのお誘いにほいのい乗っちゃって一緒にご飯を食べて、ものすごく強い酒飲まされて、それでもってぐうすか寝ている間にものすごく大きな石を頭の口に突っ込まれて、起きた瞬間その石の重みで頭ぶつけて死んだんですってえ、笑っちゃうわよねえ、おほほほほほ!」


「お前大の女好きってことを人間にも把握されていたのか……」

 という双の言葉を彼は否定しなかった。恐らく「あの鬼女好きすぎるだろう。もういっそ女に倒される話でも作ってしまうか」っていうようなノリで作られたのだろう。女の誘いに乗った結果殺されてしまう……菖蒲ならありえそうな話である。

 それからも紅助達は自分や知人に関する伝説を次々と挙げていき、盛り上がった。


「あたしの知り合いの鬼の虎徹はね、とある人間と力比べをしたんだけれど相手があんまり強すぎて負けてしまったとされているわ。実際そいつ、その人間と力比べはしたらしいの。でも負けた原因ってのは力量差じゃなくって、その人間による抉い精神攻撃だったらしいわ」


「俺の知り合いは、何故か海の底にある国を襲撃して見事手中に収めたって云われているらしい。そいつカナヅチなのにな。お、さっき注文した豚揚げおろしポン酢がけがきたか」


「人間を臼にいれて、杵でついて餅にして食ったなんて云われているのもいたわ。……人間って杵でついたら餅になるものなの? ならないわよね? 試してみたことがないから分からないけれど」


「とんでもない力持ちの人間に掴まれて投げ飛ばされて、ものすごく遠くにあるどこかの山の頂上に落ちて頭が地面に突き刺さった鬼の話も聞いたな。何かその状態で石になって、その石は今でも残っているんだと。……まず鬼を掴んで遠くまで投げ飛ばした人間ってどんなだ。それ人間じゃなくてもう化け物だろう。投げ飛ばされて頭地面に突き刺さって石になるって展開も滅茶苦茶だが」

 双は上についている女の頭の方へ納豆巻きを運ぶ。おかめみたいな顔した女は気色悪い笑みを浮かべながらそれをもぐもぐ食べている。

 色々と話している間に紅助が注文した料理が次々と運ばれてきた。唐辛子たっぷりの激辛スープがぐつぐつ音をたてている火山鍋、その中央には大量の肉や野菜、茸で出来た山。一口食べればたちまち大噴火。殺人的な辛さだが出汁がきいているし、肉や野菜の旨みもあるから癖になる。ただし人間が喰らえば旨みを感じる前に昇天することになる。うおお、口の中で岩漿(がんしょう)が暴れてやがると悶絶しながら紅助は花鳥の脚焼きに齧りついた。花の蜜が主食であるこの鳥の肉は非常に甘い為、辛めのタレをつけて焼かれることが多い。刻んだ葱を混ぜた辛味噌を塗って焼いたものも美味いし、軽く塩をまぶして焼いただけのものもなかなかいい。紅助が食っているのは唐辛子や生姜、醤油で作ったタレをよく染み込ませて焼いたもの。


「うおお、辛い、辛い、あ、甘い。……本当噛めば噛む程甘くなる」


「甘いお菓子を食べる感覚で食べるのもいる位だしねえ、花鳥の肉って。砕いた木の実入りの蜜かけて焼いたものなんかもあるのよねえ。一度食べたことがあるけれど、滅茶苦茶甘かったわ……」


「俺も食ったことがあるが、あれは苦手だな。矢張りこの甘さと辛さがうまいこと混ざったやつの方が美味い。食べごたえもあるしな」

 紅助が夢中になってかぶりついている花鳥の脚は大きく、七面鳥の丸焼きさえ並べれば小さく見える位だ。それと火山鍋を「ひいひい、甘い、辛い、美味い」などと言いながら交互に食い、それから今度は金目鯛の煮付けを食べた。食い終えると骨と残しておいた身、濃い目の甘辛いタレをご飯にのせ注文しておいたお茶をかけて食べる。骨から出る出汁がたまらず、あっと言う間に茶碗の中は空っぽに。

 注文したものは次々と消えていき、そして消えた傍から注文していく。天丼、十種の卵盛り合わせ、マグロのカマ焼き、釜飯(ふくよがこれを食べていた菖蒲を見て「共食い!」と大笑いした)、エイヒレ、磯辺餅、いくら丼、焼き鳥盛り合わせ、肉じゃが、いかのイカスミオイル漬け、鳥の唐揚げ、たこわさ等など……。


「本当、この店って料理のメニュー……品数滅茶苦茶多いわよねえ。私この前人の世の居酒屋に行ったんだけれど、ぺらっぺらのお品書きみて思わず『少なっ!』って叫んじゃったわ。ここの品数に慣れていると、大抵の所は少なく見えちゃう」

 菖蒲が持っているお品書きは、誰が見てもお品書きとは思えない位の分厚さ。それを見れば途方も無い品数であることは容易に察せられる。紅助はいずれこの店のメニューを制覇したいと思っているが、結局いつも同じものばかり頼んでしまっている。今食べている皮がカリカリになるまで焼いた鶏のもも肉二枚に、葱味噌と野菜を挟んだ料理――ハンバーガーのバンズが鶏肉になったような――もよく食べているものだ。どうやら紅助の全メニュー制覇の野望は当分達成出来そうにない。

 食事と共に酒も大いに進んでいる。もう部屋の中は濃い酒の匂いでいっぱいだ。酒にそこまで強くない人、苦手な人がこの中に入ったら卒倒するに違いなかった。それは部屋の外も同じことで、それぞれの個室に収まりきらずしゅるしゅると出て行ったものが充満している。彼等が食している食べ物の匂いも混ざり「これぞ居酒屋!」という匂いで店中溢れていた。


 人間なら見ただけで卒倒するような量の料理や酒を胃に収めたが、まだまだ足りぬ。どの部屋にいる奴等もまだまだ腹ペコ、あちこちでひっきりなしに鳴るベル、客共は飲み食いで大忙し鳥はあっちこっち行ったり来たりで休む暇無し、店員や料理人はてんてこ舞い。

 わいわいわたわた賑やか、鬼の宴、まだまだ続く。

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