学校の怪談~開花への階段~(11)
*
昼も夜もいつも幻想的な闇に包まれている『道』である石段を上った先にある鳥居をくぐると、荘厳な空気に包まれた和風の屋敷が目に飛び込む。来訪者を軽くお辞儀をして迎えるのは、両脇にある冬の木々。氷を思わせる光で飾られたその身は美しく、寂しく、そしてどこか恐ろしい。
その屋敷へと至る道のど真ん中に出雲が立っており、細い首を傾け、腕を組んで空を一人見上げていた。羽衣に仕立て上げたらさぞ良いものが出来るだろうと思われる長い髪が冬の冷気によってかちこちに凍らされることもなく、さらさらと揺れている。氷を削って作ったような体はいつ見ても惚れ惚れとする一方、かきむしりたくなる程胸が苦しくなりもする。この人の美しさは、恐ろしさは、今学校を包んでいるであろうものには決して作り出せまいと思った。
さくらが来たことに気づいたらしい出雲が振り向く。ふわり、髪、乙女が細くしなやかな手でかきあげた薄布。彼はさくらを見てにこりと微笑む。
「やあ、どうせ来るだろうと思っていただろう。どうだい、何か収穫はあったかい?」
全てを分かっているとその瞳が物語っている気がした。しかしそのことについて聞いてもどうせ答えてくれはしないので、さくらは出雲に自分が話せるだけのこと全てを話してやった。彼は白い息を吐きながら静かに話を聞いている。さくらが頬にガーゼを貼っていることに関しては一言も触れない。彼にとってはどうでもよいことなのだ。紗久羅が怪我していたならともかく。出雲が自分のことをどうでもいいと思っていること位は自分でもよく分かっているつもりだったから気にもしなかったが。
「そのぼさぼさの髪に覆われた頭で、君なりに色々考えたんだねえ」
「……文化祭のことと今回のこと、矢張り関係があるのでしょうか」
「知らないよ、私は何にも、何にもね」
歌うように、答える。嘘だ、とは言えずただそうですかと言って俯くことしか出来なかった。
「私はそう思っています。文化祭の準備をしている時に起きた出来事が、何か良くないものを呼び寄せてしまったのではないかと。そしてその呼び寄せられた者が何かしているのではないかと考えています。私の机にパソコンで作った手紙を入れているところをみると実体を持っている、もしくは誰かにとり憑いて動いているのだと思います。しかもどういうわけか現代の世界の知識を持っている。……とり憑くと、とり憑いた人の知識とか共有出来たりするんですか?」
「ある程度共有出来るようだね。とり憑いているものがしっかり成りすまそうという意思を持っていればの話だけれど。ただ体を乗っ取れればいい、ばれてもいいって場合はその限りではない」
「そうですか……」
「君は、この人が怪しいと睨んでいる人はいるの?」
微笑を浮かべながらの問いにぎくりとする。お下げの少女の姿が頭に浮かんだからだ。その反応を見て出雲は「いるんだ」と少し楽しそうに言った。いいえ、いませんとは今更言えない。言ったところで彼をごまかすことなど出来ない。仕方なくさくらは佳花のことを話した。舌が思うように回らず、途中何度も詰まりながら。
「ふうん。……あのお下げの少女か。以前舞花市で会ったことがあったよね?」
覚えていたのか、とさくらは正直驚いた。興味のないことなどすぐ忘れる彼だ、さくらの先輩のことなど別れて五秒で忘れそうなものなのだが。そう、確かに出雲と佳花は一度顔を合わせたことがある。それは十一月の終わり頃のこと。その日は文芸部のメンバーで集まり、舞花市で遊ぶことになっていた。さくらと佳花は予定よりもずっと早い時間に集合場所に着き、ちょっと早く来すぎてしまったねと言いながら他の人達を待っていた。その時、丁度気まぐれに舞花市へ足を運んでいた出雲と遭遇したのだった。
「そうです。私、先輩のことは疑いたくないんです。けれどあの手紙を私の机の中に入れたのはほぼ間違いなく美吉先輩でしょうし……となると、怪談の裏に隠された真実に至ろうとする人を牽制する為の怪談を流したのも先輩になって……そんなことをする必要があるのは、犯人位のもので」
出雲はそれを聞き、さくらを馬鹿にするような笑みを浮かべながら何か呟いたようだったが、何と言っていたのかは聞きとれなかった。聞き返しても答えてはくれないから、どうしようもない。どうしようもないから無視して話を進める。
「美吉先輩は文化祭の準備の時に入り込んだ者に、とり憑かれて……それでこんなことをしているんじゃないかと思います。先輩の体を借りて色々行動を起こした。そうでなければ、先輩がそんなことをするはずがないですから。……ううん、そもそも本当に先輩が犯人かどうかも分からないですし、そうではないと信じたいんですが」
「……どうだかねえ」
「え?」
空を見上げる出雲は不敵な笑みを浮かべている。その笑みがとても不吉で、背筋が凍りつく。
「何もとり憑いてなどいないかもしれない。こちらの世界に境界を飛び越えて入り込んだ者など最初からいないかもしれない。もしくは入り込んだ者は確かにいたが、今回の件とは無関係とか」
「ど、どういうことですか」
出雲は笑みを崩さぬまま息を吐く。白い吐息はすぐに闇に溶けて消えてなくなった。
「美吉佳花が全て自分の意志でやったということだ。彼女は心優しい人間のフリをしているだけで、本当はとても冷徹で、人が恐怖に震える様を見て喜びを感じるような人なのかもしれないよ。優等生を演じながら、今回の騒動を起こす為の絶好の機会をずっと伺っていた。そして今、条件が揃い文化祭の時辺りから着々と準備を進めた……」
「そんな」
そんなこと。あるはずがない、とさくらは言おうとした。だが彼女がその言葉を口にする前に出雲が口を開く。
「或いは。美吉佳花なんて人間は、文化祭以前には存在しなかったのかもしれない。榎本という少女の抱いた強い負の感情が歪ませた境界を飛び越えた者が、美吉佳花という人間としてあの学校に入り込んだのかも。皆の記憶を操作して、最初から自分は存在していたように思い込ませた」
「そんなことが」
「絶対有り得ない、とどうして言いきれる? 自分のもつ記憶は全て本物で、偽りなど欠片もないと言いきることが出来る者などいやしない。作られたものか、そうでないのか判断することなど出来ないんだ」
その言葉が、さくらの世界をいとも簡単に揺るがす。同じ言葉を紗久羅や一夜、弥助などが言ってもそうはならなかっただろう。出雲の声が、笑みが、夜に照らされるその姿が、さくらから『絶対』という言葉を奪う。
誰かに作られた偽りの記憶、そうではない記憶。それを区別することなど出来やしない。だから。
佳花と共に過ごした二年間だって本当は存在しないのかもしれない。一年の春、緊張しながら部室に入ったさくらを温かな笑顔で迎えてくれたこと、お互いが書いた小説を読んで評価しあったこと、色々な場所に他の部員達と共に遊びに行ったこと、しおり作成に使うリボンを買いすぎて怒られたこと……あの文化祭の準備以前の出来事は、全て本当は存在しなかったものなのだろうか。
自分の言葉に動揺しているらしいさくらの姿を見て浮かべるは、愉悦の笑み。しかし彼はそれだけではまだ満足しないらしい。自分の記憶を信じられなくなっているさくらに向け、新たな刃を突き立てんと整った形の唇を開く。
「一つ、良いことを教えてあげよう」
ざわざわ、と嫌な音のする風が吹いた。
「彼女は人間ではない」
一際強い風がさくらを叩きつける。信じられない言葉にさくらは頭が真っ白になった。始め、彼が何を言っているのか全く理解出来なかった位呆然としていた。叩きつけた風は体の中に入り込み、その強さを保ったまま体の中を暴れまわる。
人間ではない。彼の言った言葉をようやく理解した。
(美吉先輩が? 人間ではない?)
「う、嘘……」
「嘘なんてついていないよ。もっとも、君に私の言っていることが嘘なのか本当なのか判断することは出来ないだろうけれどね。せいぜい悩みたまえ、そして底なしの闇に沈んでいくがいいさ。その方が楽しいもの。……あはは、本当酷い顔だね。大層滑稽だからいいけれど。その滑稽な顔に免じてもう一ついいことを教えてあげる。あの学校で起こる騒動は恐らく後少しで終わるよ」
それじゃあねと彼はひらひらと舞う蝶のように手を振ると、別れを名残惜しむことなくこちらに背を向けて歩きだし、やがて満月館の中へと消えていった。
残されたのは胸に咲いた疑惑の花をますます活き活きとさせられたさくらだけ。こちらに頭を垂れつつも、ざわざわと木々は笑っている。自分が今まで当たり前のように信じていた世界を壊され、呆然としている彼女を嘲るように。
どれだけの時間立ち尽くしていても、佳花が人間ではないという事実を受け入れることは出来なかった。彼女のことを人間ではないなどと思ったことは一度もない。そういう雰囲気が全く感じさせない。だが、弥助の例がある。彼は人間ではなく妖だが、桜町連続神隠し事件が起きるまで気がつかなかった。人間には到底思えないなどと考えたことは一度もなく、彼は当たり前のように人間であると思っていた。妖が実在することを知った後だって、それじゃあ彼ももしかしたら……などとは考えなかった。
(妖のことに色々と詳しい先輩。自分のことをあまり語らない先輩。家のことも家族のことも、普段どんな生活をしているのかも、私はそういえば殆ど知らない)
そういえば、と佳花と出雲が出会った日のことを思い出す。佳花は出雲の姿を見た時、酷く驚いたような表情を浮かべ、それからとても不安げな表情を浮かべた。出雲と話す時には微笑んでいたが、それも随分固いものだった。彼が身に纏う空気に圧倒されたのだろう、さくらはその時はそう思っていた。出雲の姿は人に恐怖と不安と寒気を与えるから。
しかし、本当は違うのかもしれない。さくらの知り合いに妖がいることに気づき、不味いと思ったのかもしれない。自分が人間ではないことを彼は看破しただろう。彼はさくらちゃんにそのことを告げてしまうだろうか――とそんな風に。
(怪談騒動を引き起こした時、そのことを私が出雲さんに話したら。出雲さんは人ではない美吉先輩が怪しいと睨む。私にそのことを話してしまう可能性もある……だから不味いと思ったのかな。誰に疑われることもなく、邪魔をされることもなく全てを終わらせたいと考えていたから)
そもそも出雲が言ったことは本当なのだろうか。自分を混乱させ、佳花への疑惑を強める為に根も葉もないことを言っている可能性はないだろうか。さくらはそちらの可能性を願った。いっそ嘘であったらいいと思うが、さくらに彼が嘘を言っているか真実を言っているか見極める術はない。彼は顔に思いを書かない。書かないから、読めない。
佳花が人間ではない、というのもそうだが後少しで全てが終わるというのも嘘か本当か分からない。終わらないよりは終わった方がいいだろうが、良い終わり方かどうか分からないから怖い。もしかしたらとても嫌な結末、東雲高校の生徒達が不幸になる結末を迎えるのかもしれない。酷い結末を迎えることが分かっていながら出雲は放っておいているかもしれない。彼は人の命などどうも思っていない。一夜は菊野の孫だから一応守ってもらえるかもしれないが、さくらは分からない。目の前で死にそうになっている自分を見ても出雲は助けようともせず、死にゆくその姿をじっと見つめているだけかもしれないとも思う。自分が彼にとってどうでもいい存在であることはよく分かっているつもりだ。
さくらはとぼとぼと元いた道を戻る。美しくも恐ろしい、まるで出雲のような雰囲気をもつ『道』を歩いている間、心は乱れることはあっても落ち着くことはなかった。出雲からもしかしたら有力な情報をつかめるかもしれないと心の端で思っていた。実際彼はさくらに自分が知らない情報を教えてくれた。だがそれは――佳花が人間ではないという情報は、いっそ知らない方が良かったと思えるもので。
(美吉先輩は本当に人間ではないの? 人間ではないとしたら、妖? 先輩は私が初めて部室を訪れたあの日から本当にいた? あの席には誰も座ってなどいなくて、三年の先輩が部活を引退した後……文芸部に部長はいなかったの? 文化祭の準備の時に美吉先輩がこちら側の世界にやって来るまで? そんな馬鹿なこと、あるわけない。多分……。先輩は最初からいた。ちゃんといた。でも私達の知っている美吉先輩は本当の先輩ではなくて、実は人間のことを見下していて、優しくなんてなくて、私達を恐怖させることに罪悪感を覚えることもないような人だった?)
何を考えているんだ、とさくらは首を横に振る。通しの鬼灯の柔らかな温もりが、そんなことあるはずがないとさくらに言い聞かせる。しかしその温もりは、胸の中に咲いた黒く冷たい花の前では無力で。
家に帰ってからも、ずっとそのことが頭の中を巡り続けた。その間頭も心もずきずきと痛み、安らかな時間など少しも過ごすことなど出来なかった。
*
それから二日が経とうとしていた。例の露天商が販売している魔除けのグッズを買った者はかなり増え、あちこちでそれらしきものを見かけた。そのお陰か、皆大分落ち着きを取り戻しており授業中絶叫したり、泣きだしたり、喚いたり、ぶつぶつと訳の分からないことを呟き続けたりする人も大分減った。
しかし、そうして恐怖に狂う人が減っても校内を満たすあの嫌な空気は少しも減りはしない。相変わらず冷たく、重く、どんよりしていて学校で過ごす間は身も心も重くて仕方ない。生徒達の表情も暗いというか生気がなく、能面でもつけているかのような顔の人が多かった。妖の存在を強く否定する要はえらく顔色が悪いし、覇気も感じられず普段ほど脅威を感じないし、彼程ではないにしてもその存在を認めてはいないほのりや環のつくため息の数も減らない。だから「ああ、良くなったなあ」という実感がいまいちわかず、ピーク時よりは若干ましという程度である。
この学校に姿を現す幽霊や妖(の紛い物)の数はぐっと減った。だが代わりに一部の生徒が別のものを見るようになった。ほのりもその内の一人だった。今日体育の授業を終え、女子更衣室に向かっていた彼女は突然「あっ」という声をあげると同時にその足を止めた。その様子が尋常ではなかったのでさくらはぎょっとし、彼女の方を見る。とうとう彼女も幽霊か妖を見たのか、と思ったがそうではないらしい。目をこすったり、瞬きを何度もしたりしていたほのりにさくらはどうしたのかと尋ねる。ほのりは困惑の表情を浮かべながらさくらを見、それから苦笑いした。
「あたし、相当疲れているみたい。とうとう変なもの見ちゃったわ。ほら、何か昨日辺りから見たって人がちらほらと現れているじゃない……学校を埋め尽くす花を見たってのが」
「見えたの、櫛田さん」
「うん。ほんの一瞬だけれど。真っ黒な……彼岸花なんて比べ物にならない位不吉そうな花がびっしりと埋め尽くしていた。しかもなんかそいつさ、黒に近い紫色の何かを発していてさ……気持ち悪かった。ああ、もうこんな幻覚見るようになるなんて! どれだけ疲れているんだって話よね」
そうね、とさくらは曖昧に笑うことしか出来ない。学校をとても嫌な感じのする花が埋め尽くしている――そんな光景を目にした生徒が何人かいるらしい。しかしその黒い花に関する怪談をさくらもほのりも聞いた覚えがない。ならば、その花は皆の怪談が生み出したものではないのだろう。
もっと詳しい話を聞きたいとは思う。だが今回の騒動と深く関わっている可能性が高い事項だから、下手に探ろうとすれば再びあの化け物が姿を現すかもしれない。現にさくらは学校の敷地に足を踏み入れた途端冷たく、ぐさりと突き刺さる視線を感じるようになった。そして同時に、化け物に対する恐怖心も蘇った。矢張りこの場には人の恐怖心を増幅させる何かがあるらしい。
(黒い花……それがこの学校を滅茶苦茶にしているものなのかしら。嗚呼、これ以上考えてはいけない)
落ちる冷や汗、強く握られる心臓、視線にメッタ刺しにされる体。真実に触れたい、でも触れられない。もどかしさに唇を噛み締める。いや、或いは化け物に対する恐怖の為か。あの化け物に対抗する力をさくらはもっていない。だから今は大人しくしているしかないのだ。
放課後、生徒達はのろのろと学校を出て行く。本来なら部活があるのだが、今日はどの部活も休みになったのだ。もっと酷かった時は部活が休みにならなかったのに、どうして落ち着いてから……という疑問はあったが今の学校にあまり長居はしていたくなかったから、ありがたく帰ることにした。正直、部活が休みになると聞いてほっとした。部活がないことを喜んだことなど今までなかったのに。恐怖に震える時間も短くて済むし、何より佳花と顔を合わせなくて済む。そのことが今のさくらにとってどれだけありがたかったか。昨日も彼女とまともに目を合わせられなかったし、殆ど口も聞けなかった。佳花の方もどこか表情が暗く、ほのりや環に心配されていた。彼女はそんな表情を浮かべながら一体どんなことを考えていただのだろう?
あれから約二日が経った今も、まださくらは出雲の言葉に心乱していた。佳花のことを信じたい、だが信じきれない自分を何度もなじり、そして頭を抱える。
佳花は本当に人間ではないのか、犯人ではないのか、最初から存在する人だったのか。何もかも分からず、永久の迷宮を歩き続ける。出雲の思う壺だ。
(後ろめたいことがあるんじゃないか、美吉先輩にも。私が先輩と目を合わせようとしなかったように、先輩も私と目を合わせようとしなかった。たまに合うと、気まずそうな表情を浮かべながら視線を逸らす。何もなければ、あんな態度をとるはずがない。それとも、私がこんな態度をとっているから美吉先輩も訳が分からないまま……)
とぼとぼと家までの道を歩きながら、この後のことを考える。さくらは家へ帰り、着替えた後紗久羅の家を訪ねることになっていた。柚季から聞いたこと、英彦に魔除けのキーホルダーを託した結果得た情報などを今日まとめて話してくれるそうだ。もしかしたら大したことは話せないかもしれないと言っていたが、さくらにとってはどんな些細な情報もありがたいと思う。
早く行って色々聞きたい気持ちはある。だが一方で、聞きたくないという気持ちもあった。先に進みたくないという思いが時々嫌になる程強くなる。化け物の脅しに屈することなく前へ進み、真実へと至り、そして物語をハッピーエンドへともっていく。それをさくらは望んでいる。しかし、もし辿り着いた真実がとても辛いものだったら――佳花が妖で、この学校を滅茶苦茶にしている犯人だった――などというものであったら。いっそ知らなかった方が良かったときっと思うことだろう。それがたまらなく怖かった。
(でも、進まなきゃ。今更止める訳にはいかない。……真実を知りたい。例えそれがどんなものであったとしても)
そうは思っても心は晴れない。そしてそんな心のままさくらは一旦家へ帰り、それから紗久羅の家――弁当屋『やました』を訪れた。