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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
聖なる日に舞い降りる白羽
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第三十四夜:聖なる日に舞い降りる白羽(1)

 十二月二十四日、クリスマス・イブ。その日雪が降りホワイトクリスマスとなった地域もちらほら。

 元々そこまで頻繁に雪の降ることのない桜町は残念ながら空から白い雪が降ることはなく、ホワイトクリスマスにはならなかった。

 だが桜町の空からその日、雪の代わりに別の白いものが舞い降りてきた。


 それは――一羽の(からす)。一切黒い部分の無い純白の体を持った珍しい烏であった。どうやら突然変異であるらしい。ホワイトクロウクリスマス、ホワイトクロウスマス。

 彼が出現したという情報は瞬く間に小さな田舎である町中に広がり、多くの者がその姿を一目見ようと外へ出た。


 だが、この世にも珍しい客人が直後この町でちょっとした騒動を引き起こす……。


『聖なる日に舞い降りる白羽』


「白い烏に襲われたあ?」

 思わずあげた素っ頓狂な声。紗久羅は自分にそんな声をあげさせた原因であるあざみの顔を見た。中学生、下手すると小学生にも見える幼い顔はえらく不機嫌そうだ。それから幼い顔立ちを更に幼く見せている、高い位置で作っているツインテールをぴょこぴょこ揺らしながら、あざみはこくこく何度も頷く。


「そうなのよ! もう私びっくりしたんだから!」

 本日、二十五日――クリスマス。紗久羅は幼馴染のあざみ、咲月と共に電車でとある街へと遊びに行こうと駅へと向かっていた。お花トリオと三人ひとくくりにされる位仲の良い彼女達は、毎年二十五日は余程のことがない限り、近くの街へ行っては一緒に買い物をしたり遊んだりするのだ。

 駅を目指して歩いている時、ふと昨日二十四日の朝突如町に現れた『白い烏』の話になった。

 世にも珍しいものが桜町を訪れたという話はあっという間に町中に広がっており、実物をまだその目で見ていない紗久羅の耳にも当然のようにその話が届いていた。


 ところがその話になった途端あざみの様子がおかしくなり、どうしたんだと聞いたところ――実は昨日その白い烏に私は襲われたのだと彼女が言い出したのだ。


「昼……終業式とか終わって学校から帰る途中に、大きな白い鳥を見たの。ブロック塀の上に乗っていて、私が近づいても全然逃げないの。人間が近くにいようと知ったことじゃないって様子だった。ぱっと見た時はまさかそれが烏だなんて思いもしなかったけれど。たまたま近くにいた鳥好きのおじいちゃんがカメラをその鳥に向けていて……珍しい鳥かなんかですかって聞いたら『あれは烏だ、私が言うのだから間違いない。白い烏だよ……とても珍しい』って」

 その老人がカメラを構えたまま近づいても、矢張りその烏は逃げもせず、暢気に毛づくろいをしていたとあざみは言う。

 

「町中に白い烏のことを広めたのは、どうやらそのおじいちゃんとおじいちゃんの仲間みたい。まあそれはどうでも良いことなんだけれど。それでね、私はこの世に白い烏なんていうものが存在していることを初めて知ったものだから、驚いたの。驚きながら、塀にいたその烏をじいっと見ていたの。そしたらその烏が急に飛び上がって……かと思ったら急降下して、私の胸をどーんって!」


「どーん! ってなんだよどーん! って……」

 突然具体的な言葉ではなく、間抜けな擬音を使い出したあざみに紗久羅は呆れかえる。顔も子供なら脳みそも子供である。

 対して、あざみの方は自分の胸――丁度心臓のある辺りをとんとんと握りしめた拳で叩く。


「だから、つまり私の胸に体当たりしてきたというか……うーん体当たりじゃないなあ……そう! 突いてきた! つついてきた、じゃない……あの場合はついてきた、だよ。その烏いきなり私の胸をどーんと突きやがったの! もう痛いの驚いたのって。ものすごい勢いだったのよ。一瞬そいつの頭が私の胸を突き破って、体の中に入り込んだように見えた位の勢いだった」


「それで、その後どうなったの? それ以外の攻撃も受けたの?」

 あざみと正反対に、見た目も中身も大人っぽい少女・咲月が心配そうな表情を浮かべながら問いかける。その質問に対し、あざみは首を横に振った。


「ううん。一回胸を突かれただけ。ぱっと突いて、ぱっと離れて、それから飛んでいなくなっちゃった。すぐ近くにいたおじいちゃんは教われずに済んだわ。全くそれにしても本当に驚いたわよ。……丁度突かれた辺りにあざが出来ちゃったし」


「そりゃあ災難だったな。よりにもよって楽しい楽しいクリスマスイブに。しかしまさかそんなことがあったとは……お前メールも何も寄越さなかったじゃん。いつもならすぐにでもメールなり電話なり寄越してきて『お前いい加減にしろ!』ってあたし達が言うまで延々と同じことをだらだら書いたり言ったりし続けるのに」

 しかし紗久羅の記憶が正しければ、昨日あざみから今話した件についてのメールは来なかったし、電話もなかった。

 あざみはえへへ、と何故か恥ずかしそうに頬をぽりぽり。


「勿論、話そうと思ったわよ。でもその前に傷ついた心と体を癒す為とお店で美味しいお菓子を大量に買って、それをお腹いっぱいになるまで食べたわけよ」

 そこで何故か両手を腰にやり、えっへんといばってみせる。

 だから何だ……とまで言いかけて、紗久羅と咲月は彼女が言わんとしていることを理解し、呆れ顔。長い付き合い、彼女のことはよく分かっている。


「成程。美味しいものたらふく買って食ったら、白い烏に襲われたことを綺麗さっぱり忘れたってわけか。お前昔からそうだったもんなあ……どれだけ嫌なことがあっても、食べ物をたらふく食うと全部忘れる」


「うん。今日白い烏の話題が二人の口から出るまで、その時のことをすっかり忘れていたのだよ、紗久羅君」


「本当、羨ましい性格をしているよお前って……」


「そんな褒めないでよ、恥ずかしいじゃん」


「褒めてない!」

 紗久羅が呆れ、あざみが勝手に照れる……しょっちゅうやっているお決まりのやり取り。咲月はただ「大怪我しなくて良かったわね、本当……」と言うことしか出来なかった。


 それから三人街で遊ぶ内、白い烏のことも、あざみが彼に襲われたこともすっかり忘れてしまったのだった。

 実は白い烏に襲われたのはあざみだけではない……そのことを彼女達が知るのは、桜町に帰ってきてからである。


「襲われた? 昨日桜町に現れたっていうその白い烏に?」

 驚きの声をあげているのは櫛田ほのり。彼女と、その他文芸部員(元部長の佳花も含め)が白い烏に襲われたとカミングアウトした少女――深沢陽菜へと一斉に目を向けた。

 注目を集めた陽菜は「はいそうなんです」と苦笑い。


 十二月二十五日。先輩後輩など関係なく、それは仲の良い彼女達はよく皆で遊びにいく。今日はイルミネーションがとても有名な場所へと足を運んでいた。

 道に並ぶ木々、建物には無数の電飾がついていて、ある道には数百メートルにも及ぶ光のアーチがある。青、白、赤、黄、緑……。とはいえ、まだ日が暮れていないので灯りはまだついていない。夜になり灯りがつけばそれは美しく幻想的なものに姿を変える彼らも、今は大変寂しくまた醜い姿で何だか痛々しい。

 人でいっぱいになっているカフェで日が暮れるまで時間を潰している最中、白い烏の話となった。最初にその話題を出したのはほのりで、何でも彼女は知人からその話を聞いたらしい。そうしたら陽菜が「実は……」と話を切り出し、今へ至る……というわけだ。


「昨日のお昼過ぎのことです。学校から帰った後お母さんにお使いを頼まれて……スーパーを目指して歩いていました。その時です……ばさばさという音が聞こえたと思ったら、私の胸――丁度心臓のある辺りに何か鋭いものが勢いよく当たったんです」

 あまりの衝撃と急な出来事に陽菜は悲鳴もあげられなかったという。

 

「本当、体に食い込むというか胸を貫くというか……それ位の勢いがありました。私を襲ったものが離れた瞬間、体から何かが引き抜かれたような感覚がした位です」


「げげ、そんなに強く突かれちゃったの?」


「はい……。その何かは私からあっという間に離れると鳴きながら空へと向かって飛んで、あっという間に見えなくなってしまいました。その時ようやく私は自分を襲ったのが鳥だったということ、胸を突いたのはその鳥のくちばしであったことに気がつきました。体は白かったですが、鳴き声は烏そのものでしたのでその日桜町に現れた白い烏で間違いないかと思います」

 

「怪我とかしなかった? 大丈夫?」

 さくらが心配そうに尋ねると、陽菜はいつものふんわりとした笑みを彼女へと向けた。


「はい。ちょっと突かれた部分に痣が出来てしまいましたが、それ以外は特に」

 その言葉にさくらや佳花はほっとする。ほのりも表情には出していないが恐らく安堵していると思われた。

 しかし陽菜の隣に座っている環だけが何故か浮かない顔をしている。一体どうしたんだとほのりが聞いたところ、彼はやや曇った表情を浮かべながら小さく手を挙げる。


「実は……」


「もしかして、あんたも襲われたの!?」

 その言葉に環は慌てた風に両手と首を左右に振った。


「いえ、襲われたのは僕じゃありません。けれど深沢さんのように白い烏に襲われた人のことを知っています」


「深沢さんの他にも襲われた人がいるの?」

 さくらの言葉に今度は頷く環。白い烏に襲われた人間が一人だけでは無いというのは大変面白くない事実であった。


「今日の朝、皆さんとの待ち合わせ場所へ向かっている時に偶然顔を合わせた近所のおばさんから聞きました。いつものように挨拶をして、そのまま歩いていこうと思ったらおばさんに呼び止められて『白い烏のこと、知っている? あれには気をつけた方がいいよ』って言われたんです。どうしてですかって聞いたら」

 おばさんは昨日の夕方頃その白い烏に襲われたことを話してくれたそうだ。

 襲われ方は陽菜が話したのと全く同じで、いきなり飛んできたと思ったら胸の辺りを思いっきり突いてきたらしい。

 環の話を聞き終えた後、皆考え込む。烏が人を襲うことは皆無ではないが、胸をピンポイントに狙い勢いよく突いてくるという話は今まであまり聞いたことが無かったからだ。


「ひいちゃんは胸に何かきらきらしたものをつけてはいなかった? 襲われた時」


「いいえ。アクセサリーの類はつけていませんでしたし、着ていた服もセーターできらきら輝くようなものはついていませんでした。買い物へ行く途中でしたからまだ買い物袋に食べ物も入っていませんでしたから、食べ物を奪う目的で襲ってきたってこともないと思います」


「それじゃあ、目についた奴を悪戯で適当に襲ったってだけの話かしらねえ。しかし……昨日だけで少なくともひいちゃんとおばさん二人が襲われている。下手すると二人以外にも襲われた人がいるのかもね」

 全くとんだ迷惑烏ねえとほのりは小声で悪態をつく。全くですと環はため息。

 それからほのりはふと何かを思い出したようで、冷めたコーヒーをすすりながら再び口を開いた。


「昔は確か烏って幸運の鳥だったのよね。神様の使いでもあったみたいだし。……今じゃあその真逆、不吉なイメージが強い上にゴミとか荒らす害鳥扱いされているけれど。何で烏って昔は神聖な存在とされていたのかしら」

 些細な疑問である。しかしその答えを知っているものは少なくともこのメンバーの中にはいないらしい。そういえばどうしてなんだろう、と一言二言漏らすだけ、それ以上は何も言わない。さくらも流石に理由までは分からなかった。

 

「昔の烏は皆真っ白だったからとか?」


「それは流石にないと思うよ」

 陽菜がふわふわした笑顔を浮かべながら言った言葉を環が即否定する。


「昔話に、烏の体は元々白かったってものがあるわよね。それがある理由から真っ黒になってしまった」

 昔話にはそういう「〇〇が〇〇になったわけ」という話が多い。端午の節句にしょうぶを飾るようになったわけとか、くらげに骨がないわけとか。桜村奇譚に関わらず、色々な昔話を読むのも好きだったさくらの頭に烏の体が黒くなったわけを語った物語が浮かぶ。それを思い浮かべたのはさくらだけではなかったらしい。ケーキを一口食べた佳花が優しく微笑む。

 

「ふくろうの染物屋さんの話とかね。昔鳥達の羽を色々な色に染めてくれるふくろうの染物屋があった。綺麗な白い羽を持っていた烏はふくろうに自分の体も染めてくれるようお願いしたのよね。その後のパターンは色々あるわね。烏がああでもないこうでもないと色々我侭を言い、沢山の色をその体に重ねている内に黒くなってしまったとか、そんなに色々言うのならいっそ全部の色を使って染めてやれば文句を言わないだろうとありったけの色全部使ったら黒くなったとか、一目で自分だと分かるような……またとない色で染めてくださいとお願いして……ふくろうはその要望通り、他にはない色――黒色に染めたのだとか」

 色々パターンはあるものの、最終的に烏の羽が黒くなってしまったことに変わりはなく、また烏自身はこの結果に納得せず怒ってふくろうにがあがあ鳴いて抗議した……というオチが多い。烏は今でも抗議を続けており、ふくろうはそれから逃げるように彼らが眠る夜、活動するようになったとか。

 烏の羽が黒色になった理由だけでなく、ふくろうの生活パターンが現在のようになった理由も語られているのだ。


「昔の人達って本当に色々な物語を創りだしたんですね。私達の大先輩ですね」

 そう感心した風に言って笑ったのは陽菜である。確かに大先輩ね、とさくらはそれを聞いて笑った。


「ちなみにサクはその白い烏を見たの? 見てないか。見ていたら今頃ものすごく興奮しながら色々話しているでしょうから。白い烏って神秘的でどうたらこうたらって」


「ええ……まだ、見てはいないわ。遠目でそれらしいものは見たのだけれど、実際それが白い烏だったのかは。そうね、確かに白い烏も神秘的な雰囲気でとても綺麗でしょうけれど、私は黒い烏の方が好きかもしれないわ。烏を烏たらしめているあの色が。烏の濡れ羽色、美しい女性の髪を思わせる単純な黒ではない、あの色が……私は大好き」


 ……としばらく文芸部員一同は烏の話やら、自分の知っている昔話やらで大いに盛り上がった。盛り上がる内、白い烏に陽菜が襲われたという話はすっかり忘れ、記憶の彼方へさようなら。そもそも襲われた本人でさえそのことを忘れてしまった。元よりのんびり屋でほわほわしている彼女は、ちょっとした嫌な出来事はすぐ忘れてしまう性格ではあるが。


 さくらや、同じく桜町に住んでいる環や陽菜が白い烏のことを思い出したのは、美しいイルミネーションを目で楽しみ、皆で美味しいご飯を食べ、るんるんしながら帰った後。

 さくらは迎えに来てくれた父から、車の中で話を聞いた。


「そういえばさくら、知っているかい。白い烏が人を襲っているって話は」

 本当に彼女は父からの言葉を聞くまで白い烏の存在を忘れていたのだ。さくらはこくりと頷く。


「ええ、今日聞いたの。部活の後輩が一人襲われたみたい……後、同じく後輩の近所に住んでいるおばさんが。……その他にも襲われた人、沢山いるの?」

 父、春樹が重々しく頷いた。


「昨日今日の二日間だけで、かなりの人数が襲われたようだよ。一応明日、被害状況とか、その烏の行動範囲とか一部の人が調べるそうだ。場合によっては許可を貰って、その烏を捕まえる為の罠を仕掛けるらしい」

 春樹曰く、白い烏は決まって人の胸を突いてくるらしい。勢いよく一回突いて、そしてすぐ離れていくそうだ。陽菜や環の話と全く同じだった。襲い方は一緒……。

 それにしても何だか奇妙な襲い方をするなあ、と首を傾げるさくらと春樹だった。


「白い烏が人を襲う?」

 出雲が全く興味なさげに聞き返す。浮かべている表情を見る限り、話もちゃんとではなく適当に聞いているという感じだった。興味がある話ならば聞いてくれるが、全く興味が無い話だとどれだけ重要なものだろうが、それを話しているのが愛する玩具である紗久羅だろうが、まともに聞こうとしない。


 そんな彼と、彼に白い烏の話をした相手――さくらと紗久羅がいるのは、満月館。かつてはレトロな雰囲気漂う洋館だったが、今は純和風のお屋敷である。

 竹垣に囲まれた、中庭を持つ大きな屋敷で畳張りの部屋が沢山ある。とはいえ、実際に使っている部屋は殆どないらしい。全く贅沢な話だと紗久羅はそれを聞いた時げろげろと吐くような表情を浮かべたものだ。

 今いる部屋は純和風だが、中に置いてあるのは洋風のもの。その組み合わせはどこかちぐはぐだが、みょうちくりんで変だなあ居心地が悪いなあという風にはならないから不思議である。


「一昨日と昨日だけでも結構な人数が襲われているらしいんだ。今日……この後、そいつについて色々調べて……場合によっては後日、許可を貰って罠とか仕掛けてそいつを捕まえるそうだ」


「ふうん。そう簡単に捕まるかどうか分からないけれど、是非その人達には頑張ってもらいたいね」

 見事なまでにこもっていない心。どうせ内心失敗すればいいと思っているんだ、と紗久羅は思っている。一方さくらはそんなことさえ思っておらず、本当にどうでもいいと思っているに違いない……と考えていた。

 実際出雲は全く興味を示していなかった。詳しい話も絶対聞こうとせず、むしろ一刻も早く話を終わらせ、二人を追い出そうとしているきらいもあった。


「何で君達はその話を私に? その烏は妖に違いないから、私にどうにかしてもらおうと思ったのかい?」


「いや、そういうわけじゃないけれど。別にそいつが妖怪だとは思わないよ。ただ羽が白くて、普通の烏よりちょこっとでかいってだけの話でそれ以外は普通の烏みたいだし。ただなんとなくしただけだ」


「なんて言って、心の中ではどこかで期待していたんじゃないか? 私に話をすれば、私が何かしてくれるんじゃないかって」

 図星ではないと言えば嘘になる。確かに紗久羅にはそういう考えがあった。

 それを見事指摘され、ぐぬぬと歯軋り。


「どうでもいいよ、烏のことなんて。全く興味が無いね。どうしても気になるっていうなら烏にでも話を聞けば? 烏のことは烏に話を聞いてみなってね」


「それは、やた吉君とやた郎君に話をしてみろってことでしょうか?」


「他に君達が人間と会話できる烏のことを知っているっていうなら話は別だけれど」

 少なくとも二人にそんな知り合いはやた吉・やた郎両名以外にはいない。

 

「確かに二人なら協力してくれるかも……出雲さん、やた吉君達を呼んでくださいますか」


「嫌だ」

 即答、呆然。


「嫌だってお前……」


「面倒ごとは嫌いだ。多分今あいつら、こちらの世界にはいないだろうし。あいつらがこちらにいるか、あちらにいるか位は何となく分かる。向こうにいるとなると呼んでもすぐには来ないんだよね」


「すぐに来ないにしたって、単純に呼ぶだけなら大した手間はかからないだろう? 後はあたし達がどうにかするからさ」

 身を乗り出す紗久羅に、出雲は良い笑顔を浮かべた。その笑顔を見れば、彼がどう答えるかは明確だった。


 結局出雲は二人に美味しいクッキー等をたらふく食べさせながらも二人のお願いを無視し続け、二人がお菓子を食べ終わるなり彼女達を追い出した。

 別に彼に頼まなければ解決出来ないような出来事ではないし、そもそも彼女達が行動を起こす理由はないといえばないのだが、それでも話を無視され、願いを色々断られると困ってしまう二人だった。

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