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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
桜村奇譚集9
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番外編12:桜村奇譚集9


桜村奇譚集9


『雷声』

 村に住む女が、一人の赤子を産んだ。元気な男の子だったそうだ。

 赤子は産まれるなり、大きな声をあげて泣いた。すると先程まで晴れていた空がとてつも無い速さで曇ったかと思うと、青白い光が轟音と共に村へ落ち。


 赤子は母親の手で大切に育てられたが、何故だかその子が泣く度、外に雷が落ちる。小さく泣く位だと落ちなかったようだが、大きな声で激しく泣き喚くと必ず落ちたそうだ。そして赤子が落ち着くまで、延々と雷は恐ろしい音と、不気味な光を発し、村へと降り注ぐ。その赤子は雷を招く子供だった。

 村人達はあの子供は母親の旦那の子ではなく、雷様の子――あの母親は雷様と不貞の罪を犯し、子供を孕んだのでは無いかと言ったが、後に巫女の占によって赤子は雷様の子というわけではなく、雷様の生まれ変わりなのだということが分かった。巫女は子の両親に、赤子の雷を招く力はいずれ消えるだろうと言ったそうだ。


 両親、そして村人達はなるべくその赤子を大泣きさせないよう努力した。普通の子供と同じ位泣かせていたら、いずれ彼の招いた雷によって死人が出たり、火事が起きたりするかもしれない。そうなると大変だ。だから皆でそれはそれは頑張ったそうな。

 その子が赤ん坊では無くなった後も、彼を泣かさぬよう努めた。甘やかし、なるべく怒らず、転んだりどこかを打ったりすることで泣くことのないようあまり外で遊ばせず。


 果たして巫女の言う通り、子供の雷を招く力は七つになった頃完全に無くなった。

 しかし今まで彼をなるべく泣かすまいとしたことが色々と仇になり、非常に我侭で、運動するのを嫌い家の中でごろごろしてばかりいる、泣くということの大切さを知らない、人を脅して自分の言うことを聞かせようとする――どうしようもない子供に育ってしまったらしい。

 三つ子の魂百まで。その子供の性格は殆ど改善されることなく……そのままの状態で大人になり、終いにあんまりごろごろしすぎていたせいで死んだとか。


『蜜虫』

 蜜虫、という妖がいる。大きさはハエ位。その妖は、水の入っている器の中に飛び込む。するとその虫は溶けて消えてしまうのだそうだ。

 彼の溶けた水は甘い蜜に変わってしまう。水だけでなく湯にも飛び込むらしく、風呂に浸かって気持ちよく歌を歌っていたら蜜虫に入られてお湯全てを蜜に変えられてしまった、などという話もある。


『戸叩き』

 戸叩きという妖がいたそうだ。彼が一体どんな姿をしているかは伝わっていない。どうやら誰も見たことが無いらしい。

 彼は夜に現れ、家の戸をどんどん、どんどんと激しく叩く。音に気がついて戸を開ける。途端音は止む。外には誰の姿も無い。また戸を開け、眠りにつこうとすると再び音が聞こえる。どんどん、どんどん、と。また開ける、矢張りそこには誰の姿も無い。

 戸を開けず無視しようとすると、どんどん戸を叩く音が大きくなっていく。

 それでも無視し続けると音は戸を叩いているものとは到底思えないものになっていき、終いにだあん、という音と共に戸が壊れてしまう。

 

 戸叩きは、戸を内側から三回叩いた後「うるさい、消えろ」と大声で叫ぶと素直に戸を叩くのをやめ、どこかへ行ってしまうそうだ。


『呪ってやる』

 村の男がある日桜山で一人の妖と出会った。男は驚き、そして恐怖した。

 喰われまいと滅茶苦茶に暴れたところ、妖に怪我をさせてしまった。別に男を襲ったり、食べたりするつもりは少しもなかったのに一方的に暴れられ、挙句傷つけられた妖は怒り心頭、覚えていろという言葉を残し男の前から姿を消した。

 後日、男の家に一枚の紙が投げ込まれた。その紙には何か書いてあった。しかし男は文字が読めなかった。だからその紙に何が書いてあるのかさっぱり分からず。


 男は巫女にその紙を見せた。すると巫女は何か呪文を呟いたかと思うと、その紙をすぐ火で燃やしてしまった。巫女曰く、紙には男を呪う言葉が書かれていたそうだ。もしその言葉を読んでいたら、恐ろしい呪いがかけられていただろうと語る。男は以前自分が傷つけた妖の仕業に違いないと思い、体を震わせ、ああ文字が読めなくて良かったと心から思ったそうだ。

 それから更に数日後、山の中で一人の妖の死体が見つかった。男に怪我を負わされたあの妖であった。人を呪わば穴二つ。巫女が呪いを妖に返したことで自らの呪いに魂を砕かれ、死んでしまったようだ。


(おう)()

 春、桜の咲く頃にだけ桜山に姿を現すとされている――それが桜狐。化け狐の出雲同様普通の狐より大きな体で、その毛の色は桜色で甘い匂いがするという。瞳の色は赤い。

 桜の花でいっぱいの山中を、舞うように、優雅に飛び回るその姿の美しさは天女の如く。人は襲わず、また、人語を解し人語を話す。声は少し低い女の声。

 桜山の桜が全て散る頃、その姿を消す。


『ごろり』

 人間や鬼などの妖の生首に姿を変えることが出来る妖がいた。その妖は血だらけの生首に化け、道中にごろりと転がり、その道を通った人間を驚かせて楽しむ。


『餅鳥』

 その妖は普段小さく愛らしい鳥に化けている。しかし近くを人間や獣が通ると突如姿を変える。白く巨大な、ぷっくりふっくらした体……それが本来の彼の姿だ。まるで焼いた餅のようなその体。彼は餅同様弾力も粘りもある体で人間や獣を包み込んで窒息死させる。彼によって殺された者の体はやがて溶けて消える。そうすることで彼は獲物を己の体に吸収し、腹を満たす。

 鳥に化けていること、本来の体が餅のようであることからその妖は餅鳥と呼ばれている。


『よっこいしょ』

 桜村に、一本の木があった。その木は相当長い間そこにあったようだ。大きな木だったが何故かその幹は途中からぐにゃりと曲がっていて、まるで背を曲げた老爺(ろうや)のようであったとか。

 ある日村人の一人が「お前そんなに曲がっていて、痛くないのか、苦しくないのか」と冗談でその木に向かって話しかけたところ「そうだな、確かに痛いし苦しい」と木が年老いた男の声で返事した。

 村人は驚きつつ「その体を真っ直ぐにすることは出来ないのか」と答えると、今度は「そうだなあ、試してみるとしようか」と木は言った。


 そして「よっこいしょ」と言ったかと思うと曲げていたその体を起こし、その背筋――幹――をぴんと伸ばした。

 その瞬間、みしみしみしという嫌な音がし。もしやと村人は木から距離を置いた。直後幹は丁度曲がっていた部分で真っ二つになり、やや元気の無い色している葉を繁らせている部分、人体で例えるなら頭の部分が地上へ落下。

 村人は恐る恐る木に声をかけた。すると木は。


「やれやれ、しくじってしまったようじゃ。勢いよくやりすぎてしまった。まさかこれ程までに体がぼろぼろになっていたとは……年には勝てないなあ、いや、参った参った」

 という言葉を残し、すっかり黙ってしまった。

 それから村人は何回も話しかけたが、木が返事をすることはもう無かったそうだ。


 村人は何だか申し訳ない気持ちになってしまい、涙を流して木に謝ったそうだ。

 

『月の落ちる夢』

 とある男がある夜、不思議な夢を見た。それは夜空にあった満月が音を立てて桜山へと落ちていくという夢だった。月が落ちた瞬間、桜山のある部分から天へと眩い光の柱が伸びた。

 男は目を覚ますと何となく夢のことが気になり、夢の中で月の落ちた辺りに行ってみたそうだ。


 すると月が落ちたと思われる場所辺りに大きな箱があった。男は驚きながらもその箱を開けようとした。しかしその寸前背後に誰かが立っている気配がし、そちらを振り向いた。そこには一人の女が立っていた。


「その箱には宝が入っています。貴方はその箱に入っているものを独り占めしますか、それとも他の人達にも分けてやりますか」

 と聞いてきた。男はあまり欲の無い男だったから、皆にも分けてやると答えた。女は頷くと、その箱は貴方と貴方の住んでいる村の人達の物です。持ち帰って、皆と中身を分けてくださいと言い、男の前から姿を消した。


 箱は随分軽かったが、村まで持ち帰り、蓋を開けてみると中には見たことも無いような素晴らしい宝物が。男は女に言った通り、夢のことや女のことなどを話した後、その宝物達を他の村人達にも分けてやった。そしてその宝物のおかげで皆暮らしがうんと楽になり、幸せになった。

 ところで、その宝を分けてもらった一人の村人――男――は大層な欲張りだった。折角の素晴らしい宝物を独り占めせず、分けてしまうなんて馬鹿な男だと欲の無い心優しい男のことを内心馬鹿にした。


 ある日その男は、月の落ちる夢を見た。宝物を分けた男がした話を覚えていた男はあの素晴らしい宝物全てを手に入れることが出来ると大喜び。軽々とした足取りで、月の落ちた所までやって来た。そしてその場所には話通り、大きな箱があった。

 その箱を開けようとしたところ、矢張り話に聞いていた通り一人の女が現れた。


「その箱には宝が入っています。貴方はその箱に入っているものを独り占めしますか、それとも他の人達にも分けてやりますか」

 女の問い。男は笑いながら正直に答える。


「勿論、独り占めするさ。他の者達にわざわざ分けてやるなんて馬鹿な真似、するわけが無い」

 女は静かに頷くと、箱を指差す。


「分かりました。その箱は貴方のものです。持ち帰ってください」

 というと女は姿を消してしまった。男は笑いながら箱を背負い、村まで運んでいった。その箱は随分重かったが、ものすごいお金持ちになった自分の姿を想像することに夢中だった男はそのことに少しも気がつかなかった。


 自分の家まで持ってきたところで男は箱を開けた。

 するとそこからは蛇や百足、蜂等に似た妖がわんさか出てくると、男を一斉に襲った。また、家の中で暴れまわり、家を滅茶苦茶に壊してしまった。

結果、男は死にこそしなかったが寝たきりになり、家はなくなり、蓄えていた財産は全て消えてしまったとさ。

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