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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
出雲の一日
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出雲の一日(8)

 さて、散歩を終え、風呂から上がった後はもう何もすることが無かった。

 自室にある椅子に腰掛け、以前深紅の店で購入したヘンテコ道具の数々を弄くったり、紗久羅や一夜等に化けて遊んだり、本をわざとさかさまにして読んだりして暇を潰しつつ、時間を忘れてしまう位楽しい遊びは何か無いだろうかとあれこれ考えるが、どうにも上手くいかない。結局一時間少しですることがなくなり、ため息をつき、唸り、またため息をつき、唸り。

 

「暇だ」

 月光に冷やされた机に突っ伏し、うう、ああ、ふう、ううんと気の抜けた声をあげる。今の所居酒屋『鬼灯』へ行って飲む気にも、どこかの京へ行って遊んだり飲み食いしたりする気にもならず……しかし、このまま眠りたくは無い、何かして遊びたいと考えている。

 しかし何も思い浮かばない。浮かぶ時はぽんぽん浮かぶくせに、駄目な時はどれだけ頭を捻っても、何も出てこない。


「暇すぎる」

 人間とは違い、睡眠がほぼ必要の無い妖達。これといった仕事をしていなければ、二十四時間フリーである。


「時間がありすぎる、というのも考えものだねえ」

 何かしたい、しかし何も思いつかないし、普段やっていることをする気分にならない、けれど寝たくは無い……という時が時々ある。それは出雲に限らず、他の妖もそうだった。一度こうなってしまうと、なかなかその状態から脱却できず、しかし一日程経つと元通りになり、やる気になれなかったこともやりたいと思えるようになる。


 今夜も大人しく寝ようか……そう思い腰をあげかけたところで、部屋のドアがこんこんと叩かれる。顔を上げ、はいどうぞ、と声をかけるとドアががちゃりと開いた。

 ドアの向こう側に立っていたのは鈴と、夜の客人。


「おや、胡蝶じゃないか……いらっしゃい」


「どうも。遊びに来ちゃった。何、そんなだらだらしちゃって。随分暇そうね」


「暇そう、じゃなくて暇、なんだよ」


「あはは、時々そうなるわよねえ」

 赤い唇をあけ、あははと笑うと黒い着物に舞い飛ぶ蝶がゆらゆら揺れ、漂う甘い香りがふわりと部屋の奥にいる出雲の所までやってきた。

 胡蝶はつかつかと出雲の前まで歩き、机の上に乱雑に置かれている本を適当にとり、ぺらぺらと捲る。勿論、まともに読んでなどいない。


「てっきり鬼灯辺りにでも行っていると思っていたわ」


「今夜はそういう気分じゃなくてね。明日になったら、また気持ちも変わるのだろうが。……胡蝶も今夜は鬼灯に行かないのかい」

 聞いたら、胡蝶は困ったように笑い、首を横に振る。


「当分は行かないわ。蝶と、蝶の蛹の串焼きとか蝶の羽煮とか食べさせられたらたまらないもの」

 鬼灯の主人があの時のことを忘れるまでは、あの店の敷居は跨がないつもり――と割と本気の様子で言ってから、本を閉じ机の上へ適当に置いた。笑い、けれど鬼灯の主人って結構根にもつ性格のようだからね、いつになっても忘れないかもしれないと出雲。胡蝶は何となくそんな気がするわとため息。


「ま、一刻も早く鬼灯の旦那があの時のことを忘れてくれるのを祈るしかないわね。……っと、鬼灯の旦那のことは置いておくとして。出雲、ものすごく暇なんでしょう? それなら私と今から『遊盤(ゆうばん)(いち)』へ行かない?」


「遊盤市……どこかでやっているのかい」


「かなり規模の大きいものがね。人気の店の新作も沢山出ているそうよ。遊盤以外にも『(ゆう)(さつ)』とかも売っているし、飲食販売する屋台も出ているはずだし」

 出雲はたびたび足を運んでいる遊盤市の様子を思い浮かべ、ふむ、と一言。

 その出雲の隣に、いつの間にやら鈴が立っており、彼の着物の袖をつまんで軽く引っ張る。じいっと出雲を見つめている鈴の顔。赤らんでいる頬、水の中を泳ぐ魚の鱗の様に輝く瞳。


「……鈴、行きたいの」


「行きたい。……遊盤とか、遊札とか見るの、面白くて、好き」


「見て楽しい、遊んで楽しいってね。遊盤、遊札好きが集まって数日に渡ってひたすら遊盤とかで遊びまくったり、情報交換をしたりする遊戯会なんていうのもあるのよ」

 それで、結局行くの行かないの? 出雲がどう返事するのかもう分かっているという風な顔で胡蝶が尋ねる。出雲は苦笑しつつ首を縦に振った。


「勿論、行くさ。良い暇つぶしになりそうだし、鈴も行きたがっているし」


「決まり。それじゃあ早速行きましょう」


 出雲と鈴は出かける仕度をし、いざ出発。最寄の京まで行き、そこから人間の世界でいうタクシーである火車を使い、会場へ。同じ場所へ向かっているらしい火車を途中、三人は幾つも見つけた。

 黒い木々に囲まれた、大きな広場。地上と空を分けるのは橙や青の灯り、まん丸の提灯。

 火車から降りた三人は会場へ向かう。入り口にあたる鳥居の前には一つ目女と二口女が立っており、来場者にパンフレットを渡す。そこにはどの場所に何という名前の店が出ているのか、それぞれの店が目玉としている商品の説明などなどが書かれていた。出雲や鈴は流し読みするのみだったが、胡蝶はといえば。


猪熊(いのくま)屋、猪熊屋……ああ、あった、あった! ここの新作は必ず手に入れてみせるわ。他には――と、――と、――と……あ、東雲屋も出店しているんだ……あそこの商品、どれも絵が綺麗で好きなのよねえ……ここもしっかり見ておかなくちゃ。他にも日野屋、朝霧屋、泉屋……やっぱりそれなりに大きな規模の市だけあって、有名な店が結構出ているわね」

 かなり興奮気味。


「蝶だけではなく、遊盤や遊札もよく集めているからねえ……胡蝶は。それを使って遊ぶのも好きらしいし。しかし私には店毎の違いというものがよく分からない。この店のものが欲しい、あちらの店のものが欲しいっていうのが無いなあ……少なくとも遊盤や遊札に関しては」


「私にも……」


「素人ちゃんには分からないかもね。けれど、やっぱり店によって全然違うわよ。遊びの内容にこだわる店、絵の綺麗さとか格好良さを重視している店、ある一つの遊戯に特化している店、新しい遊戯を次々と出す店、昔ながらの遊戯にこだわる店……本当、色々。ささ、さっさと行きましょう!」

 超のりのりの胡蝶はおーと手をあげ、そのまま会場へ突進していく。出雲と鈴はすっかり取り残され、ため息。


「……結局別行動になりそうだね。我々も行くとしよう」


「うん、そうだね……」

 ここで突っ立っているだけでは暇つぶしは出来ない。パンフレットを適当に折って巾着に入れると鈴の手を握り、二人仲良く会場内へ。


 遊盤や遊札を好む者は多い。ゆえに客の数も多い。巨大広場を埋め尽くす妖、妖、妖。芋洗い、妖洗い状態。

 縦にずらっと並ぶ屋台。それぞれの店の傍らには店名の書かれたのぼりがあり、ぱたぱたと風に揺られている。


「随分と賑やかだねえ。……胡蝶と違って、私達には絶対に行きたいという店も無いし、明確な目的も無い。適当に回るとしようか」

 うん、と頷ききゅうっと手を握る力を強くする鈴。本当に鈴は可愛いねえ、と言ってやると恥ずかしそうに俯きながらありがとうと。

 遊盤専門、遊札専門、両方を扱う店、新品ではなくかつて誰かが所持していた遊盤等を販売している店……。


 とりあえず人が多く集まっている店は避け、比較的客の少ない店を見て回る。

 最初、二人の目に留まったのは遊札専門の屋台。木の台にずらりと並ぶトランプサイズのカード。カードの上部を占めているのは頭に花が咲いている女や、ぎょろりとした目でこちらを睨んでいる、青い舌を持つろくろ首、顔は人間体は蜘蛛の女――等の絵。絵の下には色々文字が書かれている。写実的な絵で、ユーモアさや可愛らしさというものはあまり無く、非常におどろおどろしい。


(ふむ、(とう)(さつ)か。遊札の中でも特に人気が高いのがこれだ……)

 出雲はサンプルらしいカードの内一枚を手に取った。描かれているのは肌が青い天狗と赤い天狗。下には彼等の名があり、更にその下には技名とその技の効果が記されているらしい。闘札――早い話がトレーディングカードゲームである。遊札、というのは云わばカードゲームの総称で、闘札や花札、こちらの世界でいうトランプ(に似たもの)、カルタ等のこと。


(向こうの世界にも非常に似たものがあるらしいね。以前サクと一夜が満月館を訪れた時、私が適当に集めていた闘札を見て色々話していたなあ。……ろくに耳を傾けていなかったから、具体的にどんなことを話していたのかは知らないけれど)

 ずらり並ぶサンプルの隣には、トランプケースサイズの木の箱がずらりと並んでいる。箱の中央を結ぶのは赤い紐、蝶々結び、鮮やかで愛らしく。箱の高さはかなり低いものと、トランプ一組を余裕で入れられそうな位のもの。屋台にぶら下げられた木札には『(ゆう)(こう)五枚組』『初期札組(ふだぐみ)六十枚』と書かれている。

 出雲は上げていた視線を、すぐ傍にいた鈴へと落とす。鈴は、恐ろしい目と口のある舌をべろんと伸ばす巨大魚の絵や、首が変な方向へ曲がっている人魚の絵の描かれている闘札をじいっと見つめている。


「鈴どうする? この店で試しに遊広辺りでも買ってみるかい? 観賞用にでも」

 熱心に見ている様子だったから、聞いてみる。それに対しかぶりを振る鈴。


「……いい。ここの絵に少しも魅力を感じない……それにあまり上手くない。色もなんだか汚いし……多分買っても、見返さない」


「成程。まあ、ここ殆どお客さん来ていないしね。言われて見れば、何かいまいち絵に迫力がないし、線もふにゃふにゃだし……人気が無いのには無いなりの理由があるんだね。少しも魅力を感じないものを買ったって仕方が無い。それじゃあさっさと行こうか」


「あんたら、そういうことは店を離れてから言ってくれ……」

 がっくりと肩を落とし、涙声でそう訴える店主だったが。出雲と鈴は気にせず時間の無駄だったとか、もっと上手い絵が描かれた闘札を見たいだの好き勝手なことを平気な顔で言いながら、店から離れていく。そして離れてからは、その店のことについて殆ど話さなくなったのだ。


 矢張り人気があまりに無い店のものは見ても仕方が無い。それから二人はある程度客の集まっている店を中心に回るようになる。


「こちらも闘札専門の店のようだ。……ああ、矢張り先程の店のものとは大分絵柄が違うんだね」


「……こっちの方がずっと綺麗。ここの闘札、女の人の絵が魅力的……」

 おどろおどろしい雰囲気の絵が多かった先程の店に対し、今回訪れた店のものは綺麗、可愛らしい系統の絵であった。鈴が言った通りここの店は女の絵に特化しているらしい。描かれている女の線の柔らかさ、絶妙な細さが素晴らしいと出雲も素直に思った。この店に集まっている男共は一様に、サンプルカードを眺めながら鼻の下を伸ばしたり、顔を赤らめたりしている。

 

「やっぱり(きっ)()屋の闘札は最高だなあ。どの女も魅力的で……今回はあの『磯姫』の新規絵が出ているとか」


「あそこにあるあれだ。今回も磯姫ちゃんは可愛い、大変可愛い。あれが欲しいと思って、お前と会う前にここの遊広を幾つか買ったんだが……駄目だった。しかも野郎ばかり出てきてよう……畜生、野郎の絵なんて菊花屋には殆どないのによ」

 出雲の隣にいた中年位の見た目の妖が半ば本気で泣き始める。それを慰めるのは友人らしき妖。目を瞑り、心から同情しているかのようにうんうん頷きながら肩を叩いている。


「特に菊花屋の場合、男の絵に関してはお世辞にも上手いとは言えないからなあ……。目当てのものがなかなか出てこない、いらないものばかりが増えていく……しかしその分当たった時の喜びは一入(ひとしお)だ。買え、買い続けろ、愛しの姫はお前をきっと待っている」


「ありがとうよ、相棒。必ずや今回の磯姫ちゃんも手に入れるんだ。そして俺の組札の中に入れてやるんだ」

 泣き止んだ男の妖は再び遊広(五枚組)を幾つか購入。それを出雲はただ黙って、呆れるように横目で見ているのだった。


(泣く程手に入れたいものなのか? 磯姫……あれか。確かに可愛いといえば可愛いが、どちらかというと私はあそこにある『舞桜』の方が好みだなあ……けれど、どうしても欲しいとは思わないなあ)

 舞桜と書かれた闘札には、桜の枝を持ち、桜色の衣装に身を包んで舞う黒髪の娘が描かれている。

 鈴は出雲の視線の先をしっかり追っており、ただの絵にすぎないその娘にやや嫉妬し、むうっとしながらその札を見つめ。小さな唸り声もあげているが、周りの声で綺麗にかき消されている為、出雲の耳には届いていない。


「どうしても欲しい、とは思わないけれど……記念に一箱、買おうかな。記念に」


「……出雲、顔、少し、赤い」


「そんなことはないよ、鈴。いやだなあそんなにむくれちゃって。可愛い顔がますます可愛く……あ、勿論笑った顔の方が可愛いけれどね」

 とか何とか言いつつ、ちゃっかり遊広――(拡張)カードパックを一箱購入。

 店から少しだけ離れた所で、紐を解き、箱を開けた。微かに笑みを浮かべながら。対して、それを面白くないという顔で見ている鈴。


「矢張り、入っていないようだね……まあ別にいいけれどね。……おや?」

 最後の一枚、見覚えのある絵。絵の上、属性や体力と一緒にその札の名前が書かれていた……『磯姫』と。

 これ隣にいた妖が欲しがっていた札だ、と菊花屋屋台に視線を向ける。

 先程の男はまだそこにいた。うわあと泣きながら頭を抱えているところを見ると、まだお目当ての札は手に入れていないようだ。出雲は無言でその札と他の客にどん引きされている男を交互に見比べ、それから仕方無いなあと一言呟き、菊花屋屋台へ足を運んだ。


 出雲は基本的に優しくは無い。優しさとは貰うものであって、与えるものではないと本気で思っている。しかし、ごく稀に、本当に気まぐれに他人に与えてやることがある。


「そこのあんた、この磯姫とやらが欲しいそうだね。……もしよければ、あげるよ」

 そう出雲が言ったら、男は目を丸くし「えっ」という驚きの声をあげた後、顔から出るもの全部をだらだら出して礼を言った。


「あんたが神か! ああ、天は俺を見放していなかった……ありがとう、ありがとう、ああ、愛しの磯姫ちゃん!」

 と叫び、出雲から愛しの磯姫ちゃんを受け取ると、彼は巾着に箱ごとしまっていた札を取り出し、出雲に突き出す。


「もしよければ、ここから好きなものを一枚取っていってくれ。貰うだけじゃ悪いからな」

 別に良いんだけれどと思いつつ、まあ貰えるものは貰っておこうと箱を受け取り、一枚一枚確認していく。確かに彼がさっき言っていた通り、男の絵が多い。全体の五分の一程しかないものばかりが出てくるというのもある意味すごいと感心さえしてしまう。

 特に良いものが無いなあ、と思っていたところで。


「あ……」

 機械的に動かしていた出雲の手がぴたりと止まる。どんぐり眼の娘の札、それを捲った先にあの『舞桜』があったのだ。

 出雲は気がついていないが、少しだけ顔がにやついている。頬も微妙に桃色。

 ちらっと鈴の方を見てから、出雲は舞桜を手に取り「これが良い」と男に言った。


「おお、そいつにしたのか。うん、持っていけ持っていけ。これにて交換成立。本当にありがとう、神様仏様!」

 先刻までとは一転、それは晴れやかな表情になった男は友人を引っ張りつつ、そこから離れていった。

 出雲は手に入れた札を見、満足そうに微笑む。


「……何と、交換したの」

 鈴の尋問。明らかに棘がある声に思わずたじろぐ出雲。


「え? いや、大したものではないよ。好みの札が無くてね……しかしくれるというから、一枚適当に選んだんだ」


「そう……良かったね、手に入って」


(普通にばれているし……)

 出雲たじたじ。紗久羅達相手なら、どれだけ尋問されても嘘をつき通したり、しらばっくれたり出来る自信があるが、鈴相手だとどうも上手くいかないのだった。


「闘札交換成功おめでとう。出雲も遊盤・遊札愛好者への道をこれで一歩踏み出したことになるわね」

 振り向けば、そこには会場に来るなりさっさと出雲と鈴を置いて先に行ってしまった胡蝶が立っていた。彼女の両手には、沢山の戦利品。これには出雲もやや引き。


「うわ、この短時間でそんなに……」


「これでも少ない方よ。もう少し早く来れば良かったわねえ、目当てのものが幾つか品切れになっちゃっていて。ばっちり手に入れられたものも沢山あるけれど。一番欲しかった猪熊屋の遊盤『星巡り』の新作はちゃんと手に入れられたし」


「星巡りって、あの超巨大遊盤?」


「そうそう。サイコロを振って移動し、盤上の冒険を楽しみつつ自分の選んだ旅人を強化していって、全員が上がった後、強化した旅人同士を戦わせて最終的な勝敗を決める……っていう、あの星巡り。一通りやるまで相当な時間がかかるけれど、とても面白いからあまり時間の経過を感じさせないのよ。これをやると、普通の双六とかが物足りなく感じてしまうのよねえ」

 そう言いながら胡蝶がその遊盤を見せてくれた。あまりに巨大な為、幾つにも折りたたまれている。


「同じような遊盤で他に人気があるのは、一葉(いちよう)屋の『津々浦々』ね。こちらはサイコロを振って移動をしつつこの遊び専用の闘札を集め、全員があがった後集めた闘札を使って戦い、勝敗を決めるってやつ。手に入れられた闘札の数が少なくても、弱いものばかりしか集まらなくても、戦いようによっては勝てるし……これまた面白いのよね。遊盤に描かれている絵も、闘札の絵も綺麗で、見ているだけでもわくわくするし。ただ遊びとしては星巡りの方が私は好きねえ。色々なことが起きるマスの配分の仕方とか、そういうところは猪熊屋の方が優れているわね」


「ふうん」

 あまり興味が無いから、適当な相槌を打つしかない。


「店によって特に重視しているもの、得意とするものが違うからね。猪熊屋はどちらかというと遊戯性、一葉屋は芸術性に優れているって印象。狛犬屋の闘札はかなり面白くて、人気ね。ただ絵があまり魅力的じゃないのよね……最近は新しい絵師を招いて……昔より大分良くなったけれど。ただ、昔の絵の方が好き、絵柄が変わってしまって残念と嘆いているのもいて……、まあ人それぞれって感じ。それで(ひのき)屋は」


「分かった、分かったから。まだ回りたい店とかあるんだろう? 行っておいでよ」


「そんな邪険に扱わないでよ、傷ついちゃうじゃない。まあいいわ、出雲の言う通り、回りたい店はまだまだあるし。今日はお気に入りの闘札も持ってきたから、一緒に対戦して遊んでくれる人を探すつもりでもあるの。私イチオシの闘札ってあまり多くの人がやっているわけではないから、こういう風に沢山の人が来るような所じゃないとまず遊べないのよね」


「店によって、闘札の種類も遊び方も違うからか。基本的に同じ種類の闘札同士じゃないと遊べないんだよね」


「そう。ほぼ同じ遊び方だけれど、技の効果とか体力とか属性云々とか細かい仕様が違うから遊べないというものもあるし。ま、結構勝手に遊び方を変えて無理矢理別の店から出されているもの同士で遊ぶってことも珍しくはないけれど、やっぱり元々の遊び方で遊ぶのが一番だと思うのよね。……会場の奥に、対戦や交換を楽しめる場所があるらしいから、後で行くつもり。出雲も後で足を運んでみたらどう?」

 そう言うとくるりと踵を返し、胡蝶は再び人ごみの中へと消えていった。また置いていかれてしまったねえ……と肩をすくめる出雲。


「こちらはこちらで行動するとしよう。まだ全然回っていないし、闘札だけではなく、遊盤も色々見てみよう」


「うん」

 二人、再び足を前へ進めるのだった。

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