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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
鬼灯夜行
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鬼灯夜行(6)

 出雲は、にこりともせずにそう言った。

 あいつの前を、後ろを多くの人が通り過ぎていく。けれど、あいつに気づく人は誰もいなかった。皆には、出雲の存在は認識されていないのだ。だからといって、あいつとぶつかる人もいなかった。皆、綺麗にあいつを避けていく。

 あたしのことを見る人もいない。あたしなんて、この世に存在していないかのように皆振舞っていた。あたしは、急に怖くなった。何だか自分が異世界へと迷い込んでしまったような気がしたからだ。

 動かなければ。ここから、立ち去らなくてはいけない。けれど、身体は全く動かなかった。前へ進むことも、退くこともできなかった。


「動けないのかい。私に見惚れて、体が言うことを聞かないのかな」

 そういって、あいつは意地の悪い笑みを浮かべた。見惚れてなんかいない、そう反論しようとした。ああ、駄目だ。全然口が動かない。


「今頃、この上にある社の前で巫女役の娘が、舞を披露しているのだろうね」

 出雲は、階段の上にある社の方へ視線を向け、くすりと笑った。


「さっき、巫女役の娘を見たよ。人にしてはなかなか綺麗な容姿をしているが、彼女ほどではないな。……随分優しそうだったし」

 彼女?こいつは何を言っているのだろう。あたしが眉をひそめているのを見ると、出雲が首をかしげた。


「訳が分からない、と思っているのかい? 彼女、は彼女だよ」

 あいつの顔から、笑みが消えた。あたしの前に現れた時と同じ、いやむしろそれ以上に冷たい表情を奴は浮かべた。

 そして、あたしにやっと聞こえるくらいの小さな声で囁くように呟いた。


「私が喰った、巫女……桜のことだよ」

 

「……っ」

 何て、冷たい声なんだ。氷水を頭から思いっきり浴びせられたような気持ちになる。

 いや、それにしても。喰ったって何だよ。巫女って巫女の桜って。

 なんだ、それ。どういうことだよ。

 出雲は、話を続けた。あたしが驚いているのが信じられないような表情を浮かべていた。


「なんだい、その顔は。何故驚いているんだい。君は、ずっとずっと私に言ってきたじゃないか。お前は、化け狐だと。……この町に古くから伝わっている言い伝えにでてくる化け狐、出雲だと。正解なんだよ? 私は出雲。数百年前、巫女を喰らった、あの出雲だ」


「ふ、ふざけんな……っ! いるもんか、妖怪なんて! そんなもの!」

 やっと、声が出た。でもそれは、自分でも驚く位情けない、かすれた声だった。

 あたしは、あいつのことを妖怪だと、化け狐だと言い続けていた。ずっと外見が変わらない人間なんて、すぐ存在を忘れられる霞のような人間なんているわけがない。あいつは化け狐だ、数百年前巫女を喰い、その後巫女の魂にその身を内側から焼かれた、滑稽で愚かな化け狐だ、と。

 けれど。


「いるわけない! そんなもの、いるわけがない!」

 そうだ。いるわけがないじゃないか。妖怪とか、幽霊とか、そんなものが本当にこの世に存在するわけがない。自分でも、何て矛盾しているんだと思う。本気であいつのことを化け狐扱いする一方で、妖怪とか幽霊なんて存在していないと思っているなんて。

 本人の口から「本当に妖怪です」という言葉を聞いても、信じられなかった。受け入れることなんてできない。あいつの言葉を受け入れたら、今までの自分の世界が音を立てて崩れてしまいそうだった。


「なんて我侭なんだい、君は。私は人間だと言えば、いやお前は化け狐だ、と言い、私がその事実を認めて、本当は化け狐なんですと言えば、いやそんなものが存在するわけがない、と言って。人間でも妖怪でもなければ、私はなんだというんだい」

 その口調は、酷くきついものだった。出雲がここまで人を責めるような口調で喋ったのを聞いたのは、初めてだった。


 妖怪か、人間か。あたしにはもう何がなんだかさっぱり訳が分からなくなっていた。いっそ夢であったらいいと思う。けれど、これは夢なんかじゃない。夢の中で、胃が痛くなったことも、冷や汗が流れたことも、頭が真っ白になったこともない。だから、これは夢じゃないんだ。現実なんだ。だけど、化け狐がいるって現実なんて、あるのか?少なくとも、あたしはそんな現実知らない。


「放っておいてくれていれば良かったのに。少なくとも、菊野と紅葉はそうしてくれたよ。菊野は、初めて私を見た瞬間、私は人間ではないことに気づいた。でも『お前は人間ではないね』と言ったきり、彼女は二度とそのことに触れようとはしなかった。放っておいてくれた。紅葉もそうだった。特に何も聞かず、普通の客として接するだけだった」

 婆ちゃんと母さんは、いつもあたしに「化け狐なんて言うな」と注意していた。けれど、婆ちゃんと母さんは気づいていたんだ。あいつが人間じゃないことくらい、とっくの昔に。けれど、何も言わなかった。ただ黙っていなり寿司を売り続けていた。


「2人が、何故放っておいたか知っているかい」


「知らないよ、そんなこと」

 

「触りたくなかったからだよ。……自分達の知らない、未知の世界に」


「未知の、世界……」


「妖怪、幽霊。それらは君達からしてみれば『いない』ものだ。あってはならないもの、あるいはあるわけがないもの、だ。それらが存在する世界を、君達は知らない。君達の世界にはそれらは存在していない。君達は、それらが存在しない世界で生きている。……けれど、もし自分達の生きている世界に存在するはずのないものが、目の前に現れたら。そして、もしそのことに触れてしまったら。君達が、今まで信じていた世界は音を立てて崩れ落ちる。そして現れるのは、存在するはずのなかった世界だ」


「一度、知ってしまったら。存在するはずのなかったもののいる世界を知ってしまったら、もう元の世界に戻ることはできない。嗚呼、それは何て恐ろしいことなのだろう。自分の信じてきた世界が消えてなくなるということは、他の皆が知らない世界を、一人で生きていかなければいけないということは」

 だから、と出雲は続けた。


「菊野と紅葉は触れなかった。触れなければ、まだ自分達の世界で生きていける。気づいても見てみぬ振りをすればいい。自分達の常識を、常識のままで生きていけるから」

 でも。でもね……出雲が俯いた。目は前髪に隠れてしまった。あいつが今どんな表情を浮かべているのか、あたしには分からなかった。


「紗久羅、君は駄目だ。もう、遅い。ずっと放っておいてくれていれば良かったのに。ただ黙って、私に稲荷寿司を売っていればよかったんだ。化け狐だ化け狐だ、と言い続けていなければ君は君の信じる世界で生きていけたのに。君はあまりに触れすぎた。遅いんだよ。今更、そんなものがいるわけないと否定しても」

 出雲が、深いため息をついた。息と一緒に、何か他の……自分が今まで溜めていた思いも一緒に吐き出しているようだった。

 出雲が、顔を上げた。


 その瞳は、真っ赤だった。充血しているとか、そういうものじゃない。大体その場合真っ赤になるのは白目の方だ。

 真っ赤になっていたのは、今まで黒かった瞳だった。本当に真っ赤で……夕焼けよりも、ルビーよりもなお赤い。鮮やかで、ぎらぎらとしていて。けれど、少しも違和感を感じなかった。カラーコンタクトなどの人工的に作られた色でないこと位、すぐに分かった。自然の色だった。


「私は君の世界を今日、完全に壊す。文句は言わせないよ、元より君に拒否権なんて、ないのだから」

 そういって、あいつは何かをあたしに向けて放り投げてきた。軽く投げてきたところをみると、どうやらあたしにぶつけるつもりで投げたわけではないようだった。あたしは、手を伸ばしてそれを思わずキャッチしてしまった。

 しまった、なんで掴んでしまったんだと思った。けれど、もう遅かった。


 あたしがそれを手に握った瞬間、強い風が吹いた。それと同時に、何かがぶつかってきた。あたしは思わず目を閉じて、両手で顔をかばった。ものすごい勢いでぶつかってきたそれは、甘い匂いがした。桜。それは、桜の花の匂いだった。大量の桜の花びらが、あたしにぶつかっているのだった。

 すぐに風は収まった。あたしは、おそるおそる目を開いた。足元には大量の桜の花びらが落ちていて、肩にも髪の毛にもついている。けれど、今のあたしにはそれらを払う余裕はなかった。


 目の前には、まだ出雲が立っていた。

 けれど、そこにいる出雲は、あたしの知らない出雲だった。


 藤色の髪の毛の出雲が、そこにいた。

 吊られている提灯が放つ、橙色の眩い光に照らされた出雲は、腹が立つほど綺麗だった。藤色の長い髪の毛が光を受けて、きらきらと輝いている。数年前、あたしは家族とキャンプに行った。朝起きて、テントから出たとき、あたしは日を受けて輝く綺麗な川を見た。今のあいつの髪の毛は、まさにその時みたもののようだった。提灯の明かりが、白い身体を鬼灯の実の色に、藤色の着物を夕日色に染めていた。

 藤色の髪の毛なんて、染めるなりカツラをかぶるなりしなければ、本来ありえないものだ。けれど、その赤い瞳と同様に違和感を全く感じなかった。人工的なものではない。とても自然だった。あいつには、黒よりもこっちの色の方がずっと合っていた。

 変わったのは、出雲の髪の毛の色だけではなかった。


「あれ……鳥居……」

 鳥居は、社へと続く石段の入り口に一個あるだけのはずだった。しかし、今まで無かった小さめの鳥居が、石段にずらりと並んでいた。多分、二段置きに立っている。中学の修学旅行の時に行った、伏見稲荷にワープしてしまったかのような光景がそこにあった。

 それだけではない。その鳥居達の内側には、お寺とかでよく見る灯篭があった。その灯篭から、青い光がもれている。

 しかも、その石段の両側には桜の木が並んでいる。夏なのに、桜の花が咲いていて、桃色の花びらがひらひら舞うのが見えた。

 桜の木にはさまれ、赤い鳥居を生やし、不気味な輝きを見せる灯篭が置かれたあの石段を上っていったら、どこへ辿り着くんだろう。桜山神社があるのだろうか、それとも全く違うものが……。


「それを、私がいいというまで手離してはいけないよ」

 あいつにそう言われて、あたしははっとした。そういえば、あいつはあたしに何をやったんだ。


 あたしは、出雲が放り投げたものを掴んだ右手をゆっくり開いた。

 あたしの手のひらにあったのは、鬼灯だった。でも、ただの鬼灯とは違う。中にある実が、光を放っていた。それは淡くて暖かい……今出雲の身体を照らしている提灯の明かりのような色だった。

 こんな鬼灯があるわけない。こんなことありえない……もう、そう考える気も起きなかった。馬鹿みたいな勢いで奇想天外な現象を見せつけられたのだから、当然といえば当然かもしれなかった。よく気を失ってないな、あたし。

 もう反論する気もなくなったあたしの顔を見て、あいつが笑った。


「ついておいで、紗久羅。いいかい、絶対にその鬼灯を手離してはいけないよ。特に、あの階段を上っている間はね。放してしまったら大変なことになるからね」

 あいつの顔は、いつもの嫌味ったらしいものに戻っていた。さっきまでの冷たい雰囲気はなんだったんだよ、と思う。あたしを脅して楽しんでいただけ?もう、訳が分からない。まあ、いいか。体も口も動くようになったし。


「大変なことってなんだよ」


「戻れなくなるってことだよ、あはは。流石にでもそれは困るんだよね。菊野に殺されるから」

 どこから戻れなくなるんだよ。あははじゃないよ。くそ、やっぱりむかつく。まあ、少なくともあたしに危害を加える気はなさそうだ。いや、でもあたしの生きてきた世界をぶっ壊す気みたいだしなぁ……いや、もうすでに色々壊された気がする。それって十分、危害を加えているってことじゃないのか?もう、本当訳が分からん。


 あいつは、にこりと回ってくるっと背を向け、石段を上り始めた。別についていく必要は無い。けれど、ここにいてもどうしようもない。あたしは、仕方なくあいつに続いて石段を上り始めた。鬼灯は、なんか手離すと大変なことになるらしいので、しっかり握り締める。

 上へ行くごとに、辺りは暗くなっていった。足元を照らすのは、不気味な青い光と、手に握った鬼灯からもれる光のみだった。

 出雲は、一言も喋らない。あたしも、何も喋らなかった。聞きたいことは山ほどある。ありすぎて、何から聞けばいいのか分からなかった。


 あたしは、どこへ向かって歩いているのだろうか。この先にあるのは、きっと神社ではない。神社で無いなら、この先にあるのは、何なのだろう。

 赤い鳥居と、青い光。幻想的というか、おどろおどろしいというか。


 石段の数は本来のそれより多くなっているようで、あたしは若干へばり始めてきた。


「あと少し。ほら、他の鳥居と違う色のものがあそこにあるだろう。あそこまで頑張っておくれ」

 確かに、真っ赤な鳥居ではなく、朱色のものがある。大きさも、他のものに比べて大きく、立派だった。

 一段一段上がるごとに、その鳥居は近づき、そしてとうとうあたしはその鳥居をくぐりぬけた。


 その先にあったのは、神社ではなくて、洋館だった。


 五十メートル位先に、大きな洋館が建っていた。その周りには木がたくさん生えている。当たり前だ、ここは山の中なのだから。

 薄暗い空間の中、その洋館はぼんやりと光っていた。月のように静かで、柔らかく。

 明治とか大正とかの日本に建っていそうな、レトロな感じのものだった。これといって派手ではなく、シンプルな外観。


「神社は、どこ行ったの」

 我ながら馬鹿馬鹿しい質問だと思った。


「無いよ。あれがあるのは、君たちの住んでいる世界だもの。……ここは、君達の住んでいる世界じゃないんだよ。もう君は、世界と世界を繋ぐ道を通って、こちらの世界の入り口をくぐってしまった」

 あれがそう、と出雲が指差したのは、さっきあたしがくぐった朱色の鳥居だった。


「ああ、さっきの鬼灯を返しておくれ」

 あたしは、さっきまで握っていた鬼灯を乱暴に投げて出雲にやった。出雲はどうにかそれをキャッチした。

 その鬼灯を手から離した瞬間、さっきまで確かにあった鳥居が綺麗さっぱり消えてなくなった。みれば、石段も消えていて、そこには坂道があるだけだった。


「な、なんで……鳥居は!? 階段は、どこ行った!?」


「消えたよ。あれは君達の住んでいる世界と、私達人ならざる者が住む世界を繋いでいる道。その道は本来は存在しないもの。……というか、見えなくなってしまったものでね。この『通しの鬼灯』を持ってないと、見ることは出来ない。見ることが出来ないから、通ることもできないんだよね、これが」

 出雲は、そういって肩をすくめた。あたしたちが住む世界と、人ならざる者が住む世界?その世界を繋ぐ道?通しの鬼灯?何の話だ?


「この世にはね、二つの世界があるんだよ」


「二つ? 何なんだよ、もったいぶっていないで、さっさと教えろよな」


「全く、相変わらずだね、君は。そんなだから、こんな目にあうんだよ。はぁ。まあ、いいや。……二つの世界っていうのはね。一つは、君達人間や他の生き物が住んでいる世界。そしてもう一つは、私達妖や、精霊……人ではないもの、君達からしてみれば存在するはずのないもの達が住んでいる世界。この二つの世界は、ぴったりと重なり合って存在している。……更に正確にいうと、二つに限らずもっと色々あるのだけれど、まあ今回は二つ、ということで話を進めよう」

 あいつは、そう言いながらあたしに近づいてきた。


「けれど、この二つの世界が交じり合うことは決してない。君達の世界から私達の世界が見えることはないし、私達の世界から君達の世界が見えることは無い。君達の世界では、ここにあるのは小さな社。けれど、この世界にはそんな社は存在しない。あるのは、あの館」


「あれは、何の館」


「私の家だよ。満月館というんだ。……だけど、この館は君達の世界では存在していない。だって、この館があるのはこちらの世界だから。場所は同じでも、世界が違うからね」


「じゃ、じゃあ……こっちには、あたしの家も……弁当屋も、ないってこと」


「ないよ。あの辺りには何があったかな。思い出せないけれど。昔はね、ここまではっきりとした境界線はなかったんだよ。君達の世界と私達の世界は、ぐちゃぐちゃに溶け合っていた。……二つの世界を繋ぐ道もまだかろうじて見えていた。だから、妖達は君たちの世界に現れていた。そして、いつの間にか私達の世界に迷い込んでしまう人間達も、少しはいた。……そしてそのまま帰れなくなってしまった者もいる。つまりは、神隠しだ」


「い、今は、違うのか」


「今はね。妖と人間達の間に大きな溝ができていったから。君達世界の住人が、私達世界に住む者達の存在を否定するようになったから。溶け合っていた世界は、ほぼ完全に分離した。ぴったり重なっているけれど、交わることは殆どなくなったんだ」

 出雲は、淡々と語りながら、あたしの横を通り過ぎて行った。そして、そのまま進んで行く。あたしは、慌てて追いかけていった。こんな訳の分からないところに一人でいたくはなかったからだ。

 あいつの話はいまいち訳が分からなかった。とりあえず、この世にはあたし達の知らないもう一つの世界があるということだけはよく分かった。

 出雲は、坂をどんどん下っていった。


「もう少し歩こう。連れて行きたいところがあるから。ふふ、今まで見たことのないものを見るたび、君の知っている世界は崩壊していく。滑稽な話だね」

 どこがだ。あたしは、出雲の背中を思い切り蹴飛ばしたくなった。蹴飛ばしたら、あいつはこの坂道をころころと、おむすびのように転がっていくだろうか。あはは、それは傑作だ。……いつか絶対やってやる。

 だけど、しばらくしてあたしは、ぴたりと足をとめてしまった。

 ここは、妖達が住む世界だという。それが本当なら。


「おい。ここって、お前らが住んでいる世界なんだよな」


「ああ、そうだよ」


「じゃあ、やっぱり、その……でる、のか。ろくろ首とか、一つ目小僧とか……子泣き爺とか」


「ああ、いっぱいでるよ。というか、そういうのしかいないよ。まあ、幽霊とかもいるけど」

 あたしは、前へ進むのが急に嫌になった。別に怖がりじゃ無いけど、そういうのとこれから会うのだと思うと、やはり気がひける。お化け屋敷なら、いずれ出口に辿り着く。けど、ここには出口が無い。多分、さっきの鬼灯を握らないと、帰れない。それまでは、延々と妖怪と顔を合わせ続けなければいけないのだ。さくら姉なら喜ぶだろうが、あたしはちょっと嫌だった。流石に、ちょっと怖いかもしれなかった。

 あたしが何を考えているのか察したのか、出雲が楽しそうににやりと笑った。実にいい笑みだ。だからこいつは嫌いなのだ。


「もしかして、紗久羅、怖いの? あはは、紗久羅も女の子らしい一面を一応持っているんだね。いやあ、それは驚きだ」


「べ、別に怖くなんてないやい!」


「ちょっと怖いかもって顔に出ているよ。大丈夫、誰も君を食べやしないよ。私が守ってあげる。それに、今から行く場所では喧嘩や殺し合いをしたり、そこにいる者を食べたりしてはいけないことになっているし」


「どこへ、行くんだ」


「森だよ。そこで今日、お祭りがあるんだ」

 そう言って出雲が笑った。


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