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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
食って飲んで騒いで遊んで
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食って飲んで騒いで遊んで(3)

「お、またあっしが王様っすね」

 王様と書かれた紙を弥助は高々と頭上へあげた。命令内容は割とすぐ思いついた。


「3番の人の顔に、今からあっしが筆で落書きをしてやる」

 3番が出雲であったら大層愉快なことになると若干期待したのだが。矢張りそういう願いというのは聞き入れられないもので。


「3番! 私じゃないですか!」


「ぎゃあ!? また小雪かよ!」

 何も悪いことをしていないのに何故か思いっきり殴られる羽目になった弥助は絶叫し、同じく叫び声をあげて青い顔をしている小雪をねめつける。


「駄目だ、絶対殴られる! 多分筆を額に押し当てた瞬間に殴られる!」


「し、失敬な! 私はそこまで愚かな女ではありません! さ、さっきのは止むに止まれぬ事情があったといいますか……ちゃ、茶目っ気といいますか」


「あれを茶目っ気と言うのかお前は! 滅茶苦茶痛かったんだぞ!」


「と、兎に角今回はお前の命令をきちんと聞き、さ、されるがままにされてやるってんですよ!」

 されるがままって何かいやらしい響きよね、と胡蝶が笑いながら言ってやると小雪の顔が一気に赤くなる。口をぱくぱくさせる彼女を見て胡蝶はますます愉快そうに笑い、冗談よと言って彼女の背中をぽんと叩いた。

 弥助はいまいち信じられない、というような顔をしつつもそれ以上文句を言わず、筆と墨を借りに行く。それらはすんなり借りられたようで、彼は両手にその二つを持ってすぐ戻ってきた。


「さっきのお返しをここでしてやるっすよ……うんと面白い顔にしてやる」

 袖をめくり、その立派な腕を露にしながら小雪の目の前に立つ。小雪はそれまで落書きされる位なんとも無いと思っていたのだが。思いの外弥助が近くまで来たので、ぎょっとし。急に高鳴る心臓。


(こ、これは……まずいです、かなりまずいです……近い、近い、近い!)


「額の上に肉って書いて、後は鼻の下にひげとか描いてやろうかな」

 背中を丸めた弥助の吐いた生温い息が、小雪の顔にかかる。彼の熱を間近に感じ、頭が真っ白になった。鞍馬や胡蝶はそんな彼女を見てにやにやしており、白粉は恋する女っていうのは可愛いもんだね、本当に……あたしもきっと、皆の目にはああいう風に映っているんだねとか何とか訳の分からないことを言っている。


(熱! 熱い! そ、そんなに近づかなくても……)


「おい、もうちょっとじっとしていろよな。……このままだと描きにくいっすねえ。ちゃんと支えておくか」

 小雪の思いに、いつも通り全く気がついていない弥助。

 彼はごく自然に――照れることも躊躇することもなく……小雪の頬をその大きな右手で包み込んだ。そしてそのまま口づけでもしてくるのではないかという位顔を近づけ。小雪、限界、爆発。


「きゃあ!?」

 びくんと体を震わせ、悲鳴をあげ。彼女は再び弥助を殴りつけた。先程同様油断していた彼はまともにその拳を左頬に浴び、そのままバランスを崩して尻餅をつく。小雪は触れられた方の頬に触れ、泣いているような怒っているようななんともいえない表情を浮かべ、うーうー唸るだけ。謝る余裕も、悪態つく余裕も無いようだ。

 ああ、またやっちゃった……と胡蝶。


「畜生、一体なんだってんだ」


 全員弥助の問いに答えることなく、次のゲームへ。


「王様誰だ?」


「ん、今度は我だな」

 鞍馬が紙をつまみあげ、皆に見せる。鞍馬が持つとその紙はみじん切りにした玉葱並に小さいものに変わった。

 

「旦那、どんなことをやらせるっすか?」


「うむ……そうだな。……よし決めた。6番の者に今からどじょうすくいでもやってもらうとしよう」

 口の端あげて、にやりと笑う。だがある事実に気がつき、間抜けにも程がある顔になり。ばっと見た先にいるのは柳である。彼女は鞍馬の視線に気がつくと、にこり微笑んだ。自分は6番で無いから大丈夫という意味の笑みなのか、それとも私が6番です、私にそんな恥ずかしいことをやらせるなんて酷いですねという意味なのか、もし後者だったらどうしよう、嫌われてしまうと彼は図体同様でかい肝を冷やしたが、幸い、前者であったようだ。

 女の悲鳴があがる。その声の先にいたのは、白粉であった。どうやら彼女が6番だったらしい。鞍馬は安堵し、ほっと一息。


「6番は白粉か。良かった、良かった」

 その言葉にかちんときたらしい白粉は、顔を真っ赤にして怒鳴る。


「ちょっと、なんだいそれは! あたしだったらどじょうすくいやらせても心は痛まないっていうのかい!?」


「柳さんだけではない。小雪や鈴、胡蝶だった時も申し訳無い気持ちでいっぱいになっただろう。貴様なら、まあ、良い。毎日がどじょうすくいみたいな人間だからな」


「意味が分からないよう! 毎日がどじょうすくいってどういうことだい!? 納得いく説明を」


「弥助、店の者からどじょうすくいをやる為の道具を調達できるか?」


「旦那、無視するんじゃないよう」


「ああ多分大丈夫っすよ。ええと手ぬぐいに(ざる)……後、今の格好じゃさぞかし踊りにくいだろうから……衣装も借りてくるか。後は割り箸がありゃ最高なんだが」


「狸公、あんたも勝手に話を進めるんじゃないよ! しかもどじょうすくいって……女踊りの方じゃなくて、男踊りの方をやらせるのかい?」

 

「当然」

 親指たて、腹が立つ位良い笑顔を浮かべ皆して声を揃えて一言。

 愛する鬼灯の主人にまで言われ、白粉はがくりと肩を落とす。そんな彼女のことなどおかまいなしに、弥助はせっせと準備を進め。

 あっという間に宴会でよく見るどじょうすくい人間が一人完成した。

 真っ白な肌、色香漂わせる瞳と唇、重力にやや負けているがまたそこが魅力的である豊かな乳、なめらかな曲線描く肢体――を持つ女が今……『食』という文字の入った手ぬぐいを被り、鼻の下に墨で書いたちょびひげ生やし、どじょうすくいにふさわしい衣装(しかも男用)を着、腰にはびくをつけ。手には笊を持っている。


 そのちぐはぐな様子、ギャップが滑稽さを引き立てていた。女性陣は笑いの止まらぬ口を手で押さえ、視線を逸らし、少ししてまた白粉の方へそれを戻し、また込みあげてくる笑いに体を大きく揺らす。男性陣は全く遠慮などせず、大声をあげ、彼女を指差しながら大いに笑った。

 特に弥助の笑いっぷりはすごいものだった。腹を抱え、目に涙を浮かべ、笑い袋も白旗あげそうな勢いで笑い。終いに力尽きたのか床に倒れこんでしまった。それでもなお笑うことを止めず。本番前であるにも関わらず、すでに、死にそうだった。


「やばい、その姿傑作っすよ……お前その格好の方が絶対似合うって。似合いすぎて、腹がやばい、死にそう」


「覚えていろよう、このぽんぽこ狸ならぬ、ぽんこつ狸めが」

 恨み節、後、安来(やすぎ)(ぶし)……どじょうすくい。

 うろ覚えにも程がある唄に合わせ、やけくそ気味に白粉が踊りだした。決してぶさいくではない女が足を大きく広げたり、にんまり笑ったり、どじょうを探したり追ったり、捕らえたりするさまを実に見事な動きで表現したりするその姿、面白くないわけがなく。

 弥助は最早死にかけの油虫と化し、女性陣は遠慮することを止め、手を叩いて大喜び。鬼灯の主人の狐面は笑い声によって小刻みに震え、出雲の目には普段決して流さぬ涙がたまっており、鞍馬は鼻を揺らしながら笑い。


 周りの客の目にもその姿が止まり、彼等は「良いぞ」「もっとやれ」「これほど滑稽で、それでいて艶っぽいどじょうすくいを見たのは初めてだ」とか何とかいいつつ笑ったり、歌ったり。

 白粉のどじょうすくいを見ようと、多くの妖達が集まり、そして最後、店は彼女のどじょうすくいによって一つになった。それによって生まれた謎の感動に多くの人が涙し、そして酒や食い物で膨れた腹を痛ませた。拍手喝采。白粉は喜べばいいのか泣けばいいのか、死ねばいいのか分からず、ただ曖昧に笑いながら拍手や賛辞を受け取るのだった。

 自分達の席に戻る間際、一部の妖達が「さっきからお前さん達は何をやっていたのだ」と聞いてきたので、弥助は素直に王様ゲームのことを話した。ルールも説明してやると「面白そうだ、こちらも試しにやってみよう」と言う。


 王様ゲームが若干他の妖達の間にも広がったところで、次のゲームへ移行する。


「さあ、今度は誰っすか」


「おや……次の王様は私のようだ」

 今度は鬼灯の主人(二回目)だ。弥助が小雪にぶん殴られる原因になった命令を考え出した彼……今度は一体どんな命令をするのだろうと弥助は若干どぎまぎ。

 鬼灯の主人は少し考えた後、何故かテーブルの上にあったお品書きを手に取り、メニューを確認する。どうやら胡蝶が先程やったような、すごい食べ物を食べさせる系統のものをやらせるつもりらしい。彼はしばらくお品書きを眺め、それを静かにテーブルの上へ置いた。何を食べさせるか決まったらしい。


「決まったのかい、鬼灯の旦那」

 出雲の問いに鬼灯の主人が頷き、そして。


「何にするか、決めたよ。……胡蝶には今から蝶の羽煮を食べてもらおう」


「鬼灯の旦那、未ださっきのこと根に持っていやがる!? 旦那、あれはゲームだから、仕方が無いことだから! ゲームのルール捻じ曲げないでくれ!」 

 淡々とした口調で述べた鬼灯の主人の本気っぷりに弥助はぞっとしつつ、全力でツッコミを入れ、彼を止める。


(番号で言わず、名指しとか……出雲と同レベルじゃないっすか……)

 それもこれも全て、柳を愛するがゆえ。


「そうか、それもそうだ」


「そうそう。とりあえず別の命令にしましょう、ね?」


「分かったよ。……胡蝶には後日蝶と蛹の串焼きをご馳走することにして……別の命令を考えなくてはね」


「え、あれ、やっちゃんの言葉理解していない……?」

 胡蝶の額からは冷や汗だらだら。当分彼女は『鬼灯』へ足を踏み入れないだろうなあ……と弥助や小雪は心の中で彼女に合掌。


 改めて鬼灯の主人が下した命令内容は『3番が7番の物真似をする』というものだった。


「3番……私だね。これで7番がそこの狸だったら、私は死を考えるよ」


「ちっ。7番だったらとても良いことがあったのに。……誠に残念なことだが、あっしは7番じゃねえ」


「おや、7番ってあたしじゃないか」

 と言ったのは白粉だ。流石にもうどじょうすくいの格好はしていない。

 白粉か……まあどうにか出来るかなと呟き、出雲は声を調え。それから女に負けず劣らず妖しい輝きを持つ唇に手をやり。


「全く嫌になるよう。いつになったら鬼灯の旦那はあたしの方を見てくれるんだい。そりゃあ、柳の姐さんは魅力的で、完璧な奥さんだけれどさあ……少し位、他の女に目を向けてくれてもいいじゃないか」

 喋り方も、口を開く時体をみょうにくねくねさせる癖も、胸焼けを起こす位の過剰な色気も……何もかもそっくりである。

 これには彼のことを嫌う弥助も、腹を抱えて笑った。


「こりゃあ傑作だ、予想以上に似ている……あっはっは!」

 素直に絶賛。再び死にかけの油虫に。鞍馬もこの出来には満足の様子だった。


「本人より若干品があるな」


「白粉には品ってものが存在していないっすからね」


「白粉、少しは出雲の物真似の真似をしてみたらどうだ?」


「物真似の真似ってなんだい! 二人して馬鹿にして! まあ、いいさ。あんた達からどう思われようが知ったことじゃないからね。ねえ、鬼灯の旦那。あたしの方が、品があるよね? 色気も、あるだろう?」

 しなを作りつつ、自身ありげに問いかけるが……鬼灯の主人は何も言わない。

 白粉は無言の回答にショックを受け、よよと床に座り込み、親指噛んで泣く真似をする。それから一人、ぶつぶつと愚痴を呟き続けるのだった。

 またそれを出雲がすぐ傍でそっくりそのまま真似をしたものだから、白粉の嘆きは只のギャグと化し、弥助等を余計笑わすことになるだけだった。


「もう次、次行くよ!」


「もう次、次行くよ!」


「真似するんじゃないよ、出雲の旦那!」


「白粉さん、可哀想に……」

 小雪のその呟きが、今回のゲームを終わらせ、次へと進む。

 王様はまたしても、弥助だった。これで三回目。といっても一回目は命令内容の主旨を理解されなかったことが原因でしらけた結果となり、二回目は小雪に殴られた。今度こそ失敗しないようにしなければと弥助は心に誓う。


「それじゃああっしの命令は……2番が5番をお姫様抱っこする、で」


「5番……私」

 小さく手を挙げたのは鈴。2番は鞍馬だったらしい。弥助は言った後「お姫様抱っこできる程力がありそうな者が殆どいない」という事実に気がついたが、2番が力持ちの鞍馬、5番が小柄な鈴で良かったと一人頷く。

 しかし、ちょっとした問題があった。


「おい、弥助。……お姫様抱っことは、何だ?」


「あ、ああ……」

 人間相手ならすぐ伝わることも、妖相手だと伝わらないことがある。そのことを彼はすっかり忘れていた。


「お姫様抱っこっていうのは人をひょいっと……ええと」

 口で説明しようとするが、上手く出来ない。こういう時は実際にやってみた方が良いと弥助は考え。

 自然に、本当に自然な所作で割と近くにいた小雪をひょいっと抱えた。


「こういう風にやることをお姫様だっこと言うっす」


「ああ、横抱きにすれば良いのか。それは良いが……弥助、貴様、一刻も早く小雪をおろしてやった方がいいのではないか?」


「え?」

 彼は鞍馬の指摘を受け、自分が当たり前のように抱きかかえた娘の顔を見る。

 彼女は震えていた。顔を真っ赤にし、額から汗をだらだら流していた。

 弥助がそれからどうなったかは、言うまでも無い。


「やっちゃんって相当馬鹿よねえ」

 床と口づけすることになった彼を見て、胡蝶が一言。小雪は顔を真っ赤にし、肩を怒らせながら「馬鹿」とか「変態」「助平」などと彼を罵倒する言葉を吐き続けた。不愉快な思いをし、怒っているということは決してなかったが……。

 そんな弥助を無視し、鞍馬は弥助の手本通りにひょいっと鈴を横抱きにする。


「……恥ずかしい」

 抱っこされた上、全員の視線を集めることになった鈴が小声で呟いた。鞍馬の方は落ち着いている。お姫様抱っこをする相手が柳だったなら、今頃とんでもないことになっていたのだろうが。


「何か、鞍馬の旦那が人攫いに見えてきた」


「出雲もそう思う? 私も思っていたところよ。なんか山を下りて、村にいた子供をさらう天狗と、運悪く天狗にさらわれちゃった女の子の図を見ている気分だわ」


「鞍馬さん、実際そうやって子供をさらったことってあるんですか?」


「柳さん! そんな、我はそのようなこと、一度も、本当です、本当ですよ、嘘じゃありませんよ、柳さん!」

 鈴を抱えたまま彼は大慌て。でも桜村奇譚集には桜村に住んでいた子供が天狗にさらわれる話が載っているんだよなあ、あれって鞍馬の旦那のことじゃないんですかい、と弥助が顔をにやつかせながらわざとらしい口調で言う。

 鞍馬は「我はそんなことをしたことなど無いわ!」と大声で怒鳴り、鈴をおろすと弥助の所まで一直線。その後弥助は鞍馬によってミンチにされるのだった……。


 王様ゲームは続く。彼等はまあ飽きもせず、ひたすらゲームをやり続けた。

 弥助にルールを教えて貰った者達も相当楽しんでいるらしかった。また彼等は別のグループの妖達に王様ゲームの存在を教えていった。その者達もゲームをやり始め、すっかりその魅力にとり憑かれてしまった。

 店のあちこちから聞こえる笑い声、悲鳴、歓声。近くにいたグループと合同でやり始めたり、双方の間でメンバーを交換したり……弥助達も周囲の妖達を仲間に入れたり、メンバーの一部を交換したりするようになった。


 ゲームが盛り上がれば、酒も進む。誰かが王様の命令に従っているのを見ながら酒を飲み、命令を受けて変り種料理を口にしたり、ゲームを介して知り合った妖達と飲み食いを始めたり。

 人間が見たら卒倒するレベルの量の酒や食べ物が次々と彼等の胃の中におさまっていった。それでもまだ彼等の腹は酒を、食べ物を求め続ける。


 店を出るまでの間――朝方――まで、弥助達は王様ゲームをやったり飲み食いをしたりし続けた。流石に皆別れる頃にはぐったりしていた。


「いやあ、楽しかったっすねえ……ああ、眠い。まあ少し寝れば全然問題無いっすが」


「王様げいむとやら、とても楽しかったわ」


「わ、私も楽しかったです」


「雪ちゃんは色々良い思いをしたものね?」


「な、何のことでしょう!? さっぱり訳が分かりませんね!」

 胡蝶の言葉に動揺する小雪を弥助が睨んだ。


「あっしはお前のせいで何度も酷い目にあったがな。柳の姐さんの命令で、揚げパンっぽいスティックを食べさせあうことになった時だって、こっちがお前の差し出した奴を食べようとした寸前になって急に奇声あげて逃げ出して、何やっているんだと手を掴んだ途端人の顔引っかきやがって。それだけじゃあねえ、他にも」


「もうその話は良いでしょう! 謝ったんですから。そういうことをいつまでも引きずってぐちぐちぐちぐち言う男って最低です」


「最低で結構だ。てめえに最低と思われたって、痛くもかゆくも無いっすよ。……いつまでも引きずるといえば、鬼灯の旦那はすごかったよな」

 後半、近くにいる当人には聞こえないように声のボリュームを落とす。胡蝶は苦笑い。小雪も不機嫌そうな顔をしつつ、頷いた。


「最初は大したことの無い内容を命令しておいて、私が指定した番号の人間だってことを知った途端急に命令内容を変えようとしたのよね」


「鬼灯の旦那さんって、柳さんのことになると性格変わりますよね」


「案外あれが彼の素なのかもしれないけれどね」

 と胡蝶が言ったところで、鬼灯の主人が振り向き三人の方をじっと見つめた。

 お面の下にあるのはどんな顔か。三人はそれ以上彼について話すことを止める。


 あくびをしたり、げっぷをしたり、屁をこいたり、今日やった王様ゲームのことについて話したり。

 それから解散し、それぞれ己の住処を目指すのだった。


 その後。王様ゲームが妖達の間でブームになった。あの店にいた妖達が、他の妖達にゲームの存在を教え、教えられた者達はそれを実際にやり、はまり、また別の者に教え……。元々あの店にいた妖の殆どは橘香京に住んでいる者ではなかった。ゆえに王様ゲームはありとあらゆる場所で流行し。

 居酒屋で飲んだり食べたりする時にやるゲームとして、妖の世にそれは定着することになった……。

 そのブームの火付け役となった弥助は一時期『王様』『王様げいむの王』等と呼ばれ。


 世の中、何が起こるか分からんなあ……としみじみ弥助は思うのだった。

 今日もある店に満ちる、あの掛け声。


「王様、誰だ?」


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