食って飲んで騒いで遊んで(2)
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「第一回王様ゲーム、どんどんぱふぱふ!」
簡単にルールを説明し、準備もちゃっちゃと済ませた弥助が一人手を叩きながらゲームの始まりを告げる。他の者達もそれに続き、おーとやる気があるようなないような、微妙な声を出しながらぺちぺち拍手。
皆、すぐにでも動けるようにテーブル(彼等の使っていたテーブルは店の一番端にある物だった)と壁の間にある広々とした空間に集まる。ここで色々やるから宜しく、と店員には伝えてあるからトラブルにはならないだろう。
「それじゃあ早速やってみようか」
弥助はそう言って、テーブルの端に並べた九つの小物入れを指差した。王様ゲームをやると決めた彼が、近くの店で買ってきたものである。ちなみに彼は店の外へ出る際、食い逃げ犯だと間違えられかけた。
その箱の中には数字もしくは「王様」と書かれた厚い紙が入っている。
「本当は割り箸――木製の箸に数字とか書いて、皆で一気に引くっていうのが一番盛り上がるんだが……人数が人数だし、割り箸無いし……ちょっとリズムが悪くなるかもしれんが、これでいこう」
じゃんけんで決められた順に、テーブルの上にある箱の中から好きなものを選ぶ。一番最後に鈴が残った箱をとり、準備完了。
「それじゃあ皆でさっき教えた掛け声を言って、それと同時に蓋を開けるっすよ。はい、せえの」
「王様誰だ?」
だとれの間をみょいいんと伸ばした、滑稽で何だかちょっと可愛らしい掛け声がぴったり揃う。全員が箱の中を確認する。中に入っている紙は裏返しになっているので、それを表にしなければ数字等は見えない。それがゲームのリズムを悪くしていたが、仕方の無いことだった。
「お、王様はあっしだな」
弥助が箱の中に入っていた「王様」と書かれている紙を取り出す。
「やっちゃん、どんな命令をするの?」
「そうっすねえ……そうだ。4番の人に『おはようございますにゃん、ご主人様。今日も一日ご奉仕しますにゃん。にゃんにゃん。にゃふう、そんな、あんまり見つめないでくださいにゃ、照れてしまいますにゃん』って言ってもらおうかな」
羞恥系、罰ゲーム風味。弥助自身も少なからずダメージを受けている。相手にこれから言わせる言葉を、自分も口に出して皆の前で言ったのだから。
「4番……我だな」
太くたくましい腕を挙げたのは、鞍馬だ。まさかの相手に弥助が噴出す。
「鞍馬の旦那っすか……これはある意味楽しみっすね、くくく」
こういう系統のものは可愛い女の子にやらせると破壊力抜群。しかし男、特に鞍馬の様な厳つく粗暴な人間がやるのを見るのも、また面白く、破壊力もある。
だが。
「おはようございますにゃん、ごしゅじんさま、きょうもいちにちごほうししますにゃん。にゃんにゃん。にゃふう、そんな、あんまりみつめないでくださいにゃ、てれてしまいますにゃん」
それはあくまで照れたり、こんなこと言いたくないのにと恥ずかしさと悔しさに顔をしかめたりしながら、どうにかこうにかやった時に限られる。
鞍馬ときたら、この罰ゲームの主旨、そしてこの言葉がいかに自分に合わない恥ずかしいものであるのか、全く理解していないようなのだった。
彼は弥助の言った言葉を何かの呪文だと思ったらしい。表情一つ変えず、低く、抑揚の無い声で淡々と……。
(あれ、あっしお経を読めって鞍馬の旦那に言ったんだっけ)
自分がどういう指示を出したのかも忘れる位の酷さである。
他の人達も首傾げ。
「弥助。これ、どこが面白いってんですか? 鞍馬さんが呪文を唱えただけじゃないですか」
「向こうの世界かぶれの猫又が、にゃあとかそういうのを語尾にくっつけていたけれど、あれってどういう意味があるのかしら?」
「おい弥助、この言葉には一体何の意味があるんだ?」
それを言い終えた鞍馬にまでつっこまれる始末。ああもう、と弥助は頭を抱えるしかない。
(そうだ、こいつらにはあっちの世界にある文化が通用しない場合があるんだった……紗久羅っ子やさくらにこれを言えって言ったら全力で拒否するような言葉も、こいつらにとっては唯の呪文……なんつうかこれ、最終的ダメージを受けたの、あっしだけじゃねえか?)
「特殊な性癖を持った異性の心を鷲摑みにし、悶絶させる呪文っすよ! 以上! はい、それじゃあ次行きましょう、次!」
ヤケクソ気味に叫び、何だろうねと言い合う彼等から箱をもぎとり、裏返しにした紙をシャッフルする。ランダムに箱の中に入れ、蓋を閉め、準備完了。
自分が先程引いた数字順に箱をとっていき、王様だった弥助が最後、箱をとる。
「王様誰だ?」
ほんの僅かな間、それから聞こえたのは酔っ払って妙に力が入ったり抜けたりした叫び声。
「お次はあたしだよう! あたしのことは女王様とお呼び!」
「はいはいそれが指示っすか女王様」
「違うよう! そんなのつまらないじゃないか。……んふふ、王様は何を命令しても良いんだろう?」
「まあ、常識の範囲内でならな」
「そうかいそうかい……んふ、何がいいかねえ。ああ、そんなの駄目だよう、こんな所で……もっと別の場所でやらないと……ああ、駄目駄目、駄目だよう」
妄想世界に入り込んでしまったらしい。体をくねらせ、胸やけする程甘ったるい声をあげ、終いには奇声に近い声をあげ。隣にいた鞍馬が「早くせい」と彼女の背中をばちん! と叩いていなければ延々と彼女の気持ち悪い妄想劇場を見せつけられ続けることになっていただろう。
「旦那、もっと優しくしてくれよう。……そうだねえ……あ、それじゃあ2番の人があたしを膝の上に座らせて、後ろからぎゅう、とするっていうのはどうだい?」
名案だとばかりに彼女はいい、いやらしい顔をしてまた体をくねらせる。
彼女が何を狙っているかは一目瞭然。恐らくものすごく都合の良い展開を頭の中で巡らせているのだろう。
(だが白粉、残念だったな。そういうのは往々にして上手くいかないもんなんだ)
白粉の視線の先にいる鬼灯の主人は、微動だにしない。
手を挙げたのは。
「……2番……私」
「ああ、やっぱり鬼灯の旦那……じゃないだって!? し、しかもよりにもよって、憎き小娘、ちび猫だとう!?」
小さな手を挙げた鈴を見て、白粉が絶叫する。頭を抱え、衝撃のあまり首を天井までびゅいんと伸ばし。
「世の中、そう上手くはいかないんですよ、白粉さん」
哀れむように言う柳の笑顔が、他の皆には恐ろしいものに見えた。心の中ではざまあみろと思っているのかもしれないとさえ思う。
「しかしこれ、どうすれば良いのでしょう。鈴ちゃんの上に白粉さんは」
「どう考えても乗らないだろうね」
小雪の言葉に続くのは、難(?)を逃れた鬼灯の主人。腕を組み、首を傾げ。
鈴が隣にいた出雲にくっつく。
「出雲……私、白粉に潰されちゃう」
「ああ、可哀想に。全くこんな可愛い子を潰そうだなんて……白粉は冷酷非道な女だねえ」
「失礼な! 幾らなんでもそこのクソガキ潰す程重くは無いよ!」
天井まで飛んでいった赤い風船。破裂し、落下。元の場所へ。
結局。
「何でこうなっちまったんだい……」
「それは、こっちが言いたい……臭い……白粉……」
鈴が白粉を乗せるのは無理なので、白粉が鈴を膝へ乗せることになってしまった。出雲が座っていた椅子に腰掛けた白粉の上に座る鈴はいつも以上に不機嫌そうだ。自分を抱きしめる白い腕を忌々しげに見つめている。それは白粉も同じで、口をへの字に曲げ拗ねた目をしていた。
「それじゃあお前等は一回休み。次のゲームが終わるまでそのままな」
「何で!?」
仲悪い二人の息が、初めてぴったり合った瞬間であった。非情の宣告をした弥助は彼女達のことなど見もしない。
「当たり前だろう? すぐにやめちまったら意味が無いんだから」
「おいふざけるなこの狸」
「よし、次行くぞ、次!」
無視。そのままゲーム続行。箱と紙二つ省いた状態で次のゲームへ。
「王様誰だ?」
少しだけ寂しくなった掛け声と共に箱を開ける。
「……おや、次は私だね」
次の王様は出雲らしい。とんでもなく残酷な指示を平気でしかねない男が王様になったことで、緊張がその場に走る。
そんな空気に気づきもせず出雲は思案顔。恐ろしい間。すると突然出雲は無言のまま足を動かし、反対側にいる弥助の所まですたすた歩いていった。
弥助が首を傾げる暇も無かった。
「あ、てめえ、何をしやがる!」
出雲は弥助の目の前まで来ると無言で、彼が持っていた箱を強奪する。当然、その中には番号が書いてある。
「決めた。六番は今すぐ死ね」
「分かりました、それでは今から首を……じゃねえ! しれっとした顔でルール違反した挙句良い笑顔で命令してるんじゃねえ! 本当良い神経しているな、あっしはてめえのそういうところが大嫌いだよこんちくしょう!」
「……仕方無いな。それじゃあ命令を変えよう。弥助は今すぐ死ね。後私もお前のことが大嫌いだよ」
「もうそれ王様ゲームでも何でもない! はい、無効、無効、今回のゲームは終了! 次行くぞ、次!」
ちっという出雲のあからさますぎる舌打ちが今回のゲーム終了の合図だった。
再び回収される箱。
「本当、相も変わらず仲が悪いね、出雲の旦那と狸公は」
「仲が悪いけれど、行動範囲が被っているからしょっちゅう顔を合わせてしまっていますよね」
「まあ、あまりに相手のことを嫌いすぎて、色々突き抜けちゃっているお陰で割と会話したり、一緒に行動したりしているけれどね」
一見すると意外と仲が良いように見えるが、実際の所はそういうわけでは無い。何事も完全に突き抜けるところまでいくと、逆に大したことには見えなくなるのだと胡蝶が白粉と小雪の呟きに答えるかのように言うのだった。
「王様誰だ?」
頬膨らませ、むすっとしながら先程のやり取りを見ていた白粉と鈴も加えて始まった次のゲーム。
「おや、次は私のようだね」
今回の王様は鬼灯の主人だった。途端白粉の表情が生き生きしたものになる。
どんなものが良いかと腕を組み考える主人を、大好きな食べ物を目の前にした子供の如き目で見る白粉はしつこく自分の手を挙げる。
「それじゃあさあ鬼灯の主人、1番が王様と接吻っていうのはどうだい!?」
「自分の番号をばらすの禁止だって言っただろうが!」
「あたしの番号とは限らないじゃないか」
「その言い訳、かなり苦しいものだと思うが……」
ルール無視の白粉に鞍馬は呆れ顔。鬼灯の主人は、彼女の言葉には答えず。
「そうだ、こういうのはどうだろう。3番の人が5番の人に愛の告白をする、というのは」
おお、と弾む声。異性同士でも同性同士でも面白いことになる。やっている当人は非常に恥ずかしい思いをすることになるが、またそこが良いのだ。
「いいっすねえ、王様ゲームっぽい感じの命令で。……あ。そうだ、あっしが5番なんだった。告白されるのあっしじゃないっすか」
参ったなあとやや困り顔。頬をぽりぽりかく。そんな弥助の言葉を聞いて、一人とんでもない悲鳴をあげた者がいた。弥助はぎょっとし、頬をかいていた手を思わず止めた。
「な、何、何っすか!?」
悲鳴をあげた者は体を震わせ、顔を真っ青にしている。震える箱に落としていた目を徐々にあげていき、弥助と視線を合わせる……女。
「5、5番って……や、弥助なんです……か?」
「そうだが? あれ、もしかして小雪が3番?」
小雪が再び悲鳴をあげた。同時に青くなっていた顔が赤へと変わる。お前はリトマス試験紙かと弥助は戸惑いを隠せない。
小雪の想いを知っている他の妖共のあげた歓声は半端無い。出雲は二人から顔を背けてくつくつ笑いをかみ殺し、胡蝶は親指を立てて鬼灯の主人のした仕事を褒め称える。同じ動作を返す主人。楽しそうだ。
「ささ、小雪さん前へどうぞ」
柳が笑いながら小雪の背を押し、前へとやる。
「貴様も前に出るが良いぞ」
「うわわ、鞍馬の旦那なにするっすか」
鞍馬もまた乱暴に弥助を前へと押しやった。その時の鞍馬のにやにやっぷりといったらない。
輪の中心へと追いやられた弥助と小雪の目がかち合う。弥助の方はそうでもないが、小雪の方はといえば顔は真っ赤、体はかちこち、箱を持つ手だけが震えていて、今にも溶けて消えてしまいそうな様相で。
「雪ちゃん頑張ってね」
「そこの阿呆狸に、心からの愛の言葉を送るがよいぞ」
「ぷはあ、これはなかなか良い酒の肴になりそうだねえ」
いつの間にか白粉の片手には酒瓶が。酒の匂いを混ぜながら彼女は愉快そうに笑う。
笑い事ではない事態に陥ってしまった小雪の動揺っぷりといったら無い。
冬の空舞う白雪が、今や、死に掛けの金魚である。
「まあ気が進まないのも分かる。お前には心に決めた男がいるんだからな。だがそりゃあっしだって同じだ。ここは我慢して、あっしに愛の告白をするが良いっすよ。なに、こんなの所詮ゲーム。深く考えることはないんだから、さっさとやって、さっさと終わらせちまえばいいんすよ、あっはっは」
お気楽鈍感馬鹿狸の言葉は、小雪を落ち着ける薬にはならない。
あの馬鹿の頭、一回殴った方が良いのでは無いかと小声で問う鞍馬に、鬼灯の主人は首を横に振って返す。あの馬鹿は一度殴った位では治らない、という意味だろう。
小雪は心臓をばくばくさせながら、暢気に笑っている弥助の顔を睨む。
(何で、こんなことに……嗚呼、王様げいむとやらが斯くも恐ろしいものだったとは。ど、どうすれば良いのでしょう。こういうのは命令されたからにはやらなければいけないということは分かっている、分かっているけれど! ああ、言いたくない、けれど言わなくては……どうせ言っても本気にとられないのだから――でもそれはそれで嫌――ああ、でもずっと無言でいたらこの馬鹿に怪しまれてしまう……し、仕方がありません。ここは本気だと思われなくてもいいから、言わなければ)
と長い葛藤の末ようやく決心のついた小雪だったのだが。
「弥助。わ、私は。お、お前のことを」
「あっしのことが、何だ?」
にやにや笑いながらわざとらしく弥助が聞き返す。
(少し黙っていやがれですこの馬鹿狸! ああ、もう! 早く言うのよ小雪、これは所詮遊び、深いこと考えずにさっさと言ってしまいなさい!)
と自分で自分に言い聞かすものの、いざ弥助の姿を前にすると声が思うように出ない。
周囲から聞こえる告白コール。
「お前のことを、す……すす……」
「す?」
「す……」
赤くなる顔、上がりっぱなしの体温、煮えたぎる頭は真っ白なのか真っ赤なのか真っ黒なのかもう分からない。
喉の奥で詰まる言葉。呼吸困難。
そして、とうとう。
「やっぱり言えるわけないってんですよ!」
その叫び声と、弥助めがけて拳を突き出すのと一体どちらの方が早かっただろう。
まさか拳が飛んでくるとは思っていなかった弥助はそれを避けることも出来ず、直撃。……小雪のKO勝ちであった……。
「な、何であっし、殴られたんすか……?」
「ああ、残念。後少しだったのに」
と胡蝶は残念そうに言うが、顔は笑っている。にやにやもののひと時を有難うと小雪の傍にいた白粉や柳が言い。あの馬鹿を殴ってくれて有難う、君は素晴らしい人だ、馬鹿狸ざまあみろと言ったのは出雲だ。
「なかなか面白いものを見せてもらったな」
鬼灯の主人も大満足の様子。この状況に納得がいっていないのは弥助ただ一人。
そんな彼が起き上がったところで、次のゲーム。
「王様誰だ?」
「あら、今度は私だわ」
嬉しそうに言ったのは胡蝶だ。彼女も出雲同様、結構非道なところがある。
艶っぽい唇をなぞりながら色々考え、それからぽんと手を叩く。
「決めた。8番の人には今から、地獄鍋を仏汁無しで食べてもらいます」
「流石胡蝶。……なかなかえぐいものを思いついたな。まあ我は8番ではないから関係ないが」
「あら……8番……私ですわ」
困ったような声をあげたのは、なんと、柳あった。それを聞いた途端鞍馬及び鬼灯の主人が俄かに動揺し。
一方胡蝶はあらあ、と暢気なものだ。
「やっちゃんとか出雲とかだったら面白いなと思ったのだけれど。ま、仕方無いわよね。柳さん、悪いけれど頑張って頂戴ね」
それから即行で店員に地獄鍋を注文。心から申し訳ないと思っていないことがばればれである。
皆で酒を飲みつつ待っていると、間もなく地獄鍋がその姿を現した。
ぐつぐつ音を立て煮えたぎる鍋の赤。その鮮やかさの前では先刻の小雪の顔さえ白く見える位だ。不用意に顔を近づければたちまち目を痛め、肌をぐさぐさと刺し、唇はぷくうっと腫れてしまう。中には野菜や魚の目玉、肉、豆腐等がぶちこまれている。
「何度見てもすごいっすね、地獄鍋って」
「ここのは特に辛いことで有名なのよね。これって人間が食べるとどうなるのかしら」
「間違いなく死ぬだろうな。我等妖でも一口食べただけで魂が削られていくような思いをし、七転八倒するのだから。仏汁を入れれば人間共が食べても大丈夫かも分からんが。……だが胡蝶よ。本当にこれを柳さんに食べさせるのか?」
「当然よ。王様の命令は絶対ですからね。……何も全部食べろとは言わないわ。とりあえず、この位」
胡蝶は小さな器にその殺人的な何かを色々発している汁を入れる。
その量は多いような、そうでもないような。
「ささ、柳さん、ぐぐっといっちゃって」
「辛いものは苦手なのですが……仕方がありませんわね」
おろおろする鞍馬と、恐らく狐面の向こう側で心配そうな目をしている鬼灯の主人、はらはらどきどきわくわくしている他の者達に見守られながら、柳はそれを食べるのだった。
普段は落ち着いた、あまり表情を変えたり悲鳴をあげたりすることの無い彼女だったが、恐るべき地獄鍋の前では只の人。赤い汁を口の中に入れる度悶絶し、呻き、顔を真っ赤に、汗を噴出し、息を荒げながらそれを少しずつ消費していく。
普段なら皆心配するのだろうか、酒と場の勢いに酔って盛り上がっている彼等は「頑張れ」とか「それ後少し」「しっかりおし」などといったことを投げかけ、その顔には笑みを浮かべている。鞍馬ははらはらし、胸を痛める一方普段は見ることの出来ない柳の姿にどぎまぎしていた。悶絶する柳さんも、良い! などと思ってしまう辺り、彼も男である。
死にそうになりながらもどうにか柳は器に盛られた鍋を食い終え、小雪が注文してくれた、ペースト状にした木の実と果実を牛乳と混ぜたものを飲み、ほっと一息。ちなみに残りの地獄鍋は、仏汁を入れて鞍馬が一気食い――というか一気飲み――をして片付けてくれた。仏汁を全部入れれば地獄鍋は極楽鍋となり、やや辛いがこくと旨みがかなりあり、非常にまろやかで美味しい鍋となるのだ。
「……お、思ったよりきつかったですね」
「それでもすごいわよ柳さん。私だったら命令なんて知らないってつっぱねて、仏汁を勝手に入れて飲んじゃうわ。本当、お疲れ様」
その言葉に嘘は無いようだ。
「……胡蝶」
「ん、どうしたの鬼灯の旦那さん」
鬼灯の主人は彼女に詰め寄り、ぽん、とその肩を叩き。
「君には後日、蝶とその蛹の串焼きをご馳走しよう」
「ひい!?」
「鬼灯の旦那、これゲームだから、しょうがないことだから、恨みっこ無し!」
蝶の魂が寄せ集まって出来た、蝶のことを深く愛する蝶収集家である胡蝶に、(お面を被っている為、推測ではあるが)良い笑顔を浮かべてそう言った鬼灯の主人につっこむ弥助。止めねば、本当にやりかねなかった。
どたばた。王様ゲームはまだまだ続く。