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桜町幻想奇譚  作者: 里芽
食って飲んで騒いで遊んで
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第二十五夜:食って飲んで騒いで遊んで(1)

『食って飲んで騒いで遊んで』


 氷を削って作られたかの様な月が、宵闇色の水――空に浮かんでいる。

 誰も侵すことの出来ない静寂の世界がそこにはあった。しかしそれはあくまで、世界の上半分に限っての話である。空の底に沈む世界は、明るく、眩く、騒がしい。


 柿や蜜柑の色をした提灯の下にずらりと並ぶ建物は大きさも、形も、看板等の色もばらばらで、それぞれ個性がある。

 吊るされた無数の提灯が網で、建物はそれに捕らえられ、身動きのとれぬ魚達にも見える。だが捕らわれた彼等がそのことを悲観している様子は無い。

 魚――建物からは、醤油や味噌、酒等の良い香りが漂っている。その匂いを嗅げば、どんなに深い眠りについている腹の虫も、興奮して目を覚ます。……彼が死んでいない限りは。


 建物から出てくる者達は一様に顔が赤く染まっており、足元もおぼつかない。

 これから入っていく連中は「今日はどの店にするか」「いっそ全ての店を制覇してやろうか」等と色々話し合いながら、あらゆる建物の入り口前をうろうろした。

 ここは(きっ)(こう)京。妖達の住む世にあるそこは別名『食の京』である。飲み食い騒ぐことを至上の喜びとする彼等にとって、豊富な種類の美味しい料理や酒を取り揃えている店がわんさかあるこの場所は、まさに極楽、夢に夢見る桃源郷。


「びっくり豚煮、お待ち!」

 提灯の下にある建物の中で一番大きく、賑やかな店。沢山あるテーブルの内一つの横に体をつけたのは、両手が木の枝で出来ている女で、両手に醤油や生姜、酒等を混ぜたタレで煮込まれたやや大きめの豚が丸々一匹乗った皿を持っている。


「うわ、思った以上にでかいっすねえ。こりゃ確かにびっくりだ」


「やっちゃん、これの丸呑み、挑戦してみる?」


「あっしを殺す気っすか、胡蝶の姐さん」

 テーブルの端の方に置かれた、ブロンズ像と見紛うかのような豚。それを一番間近で見ているのはテーブルの角に座っている弥助と胡蝶だ。

 空になった皿を店員に持っていってもらい、空いた場所――テーブル中央近くに豚を移動させた。


「食べやすいように切るとしよう」

 酒を一口、それから立ち上がった鬼灯の主人は皿に添えられていた刃物で、豚を切りにかかる。彼が手に持つ刃を入れた瞬間、じゅわあ、という黄金色の肉汁が溢れた。滝の様に下へ流れていき、それは滝つぼ……皿の上へ落ちていく。

 彼の華麗な手さばきを、首を伸ばして――比喩でも何でもなく本当に伸ばしている――間近で見つめているのは、彼の真向かいにいる艶やかな女。べったり白粉を塗りたくっている顔は酔いと、鬼灯の主人への想いで赤く染まっていた。


「おいこら、白粉。旦那の邪魔をするなよ」


「危ないですよ、白粉さん」

 白粉の右隣にいる小雪が弥助に続き彼女をたしなめ、派手な色した着物の袖をちょいちょい引っ張る。 しかし白粉は二人の言葉を、いいじゃないか別にという言葉で一蹴。鬼灯の主人は白粉のことなど視界に入っていないようで、ただ黙々と豚を切り分ける作業を続けた。


「……首を伸ばすしか能の無い女」


「何だってえ、このちび猫!」

 首、旋回、目標は左隣にいる少女、鈴。本気で怒った顔から鈴は目を逸らし、隣にいる出雲にすがりつく。前髪から覗くのは、潤んだ瞳。


「……出雲、白粉、怖い……」


「そうだねえ、怖い顔だねえ……可哀想に、私の可愛い鈴」

 彼女を抱き寄せその頭を撫でる。白粉はきいい、という甲高い声をあげ、歯軋り。鈴が本当は少しも怖がってなどいないことが分かっているからだ。


「なんだい、被害者ぶっちまって! 本当は塩一粒分も怖いなんて思っていないくせにさ! 出雲も出雲だよ。それが分かっていながらそいつを庇うんだからさ」

 文句たらたら。しかし出雲と鈴から徹底的にスルーされ続けた為、しらけたのか首を元の場所に戻し、自分の方などまるで見ようとしない二人にべろを向け、手元にあったいかの丸焼きをがぶり。上手く噛み切れず、ますます募るいらいら。


「ほう。中はなかなか面白いことになっているね」

 そんなやり取りも全無視していた鬼灯の主人が驚きの声をあげる。弥助と主人の間に座っていた鞍馬が、切り開かれた豚の体内を覗き込み「ほう」と感嘆。

 皿を金色に染める汁の中には、木の実や刻んだ玉葱らしきものなどがぷかぷか浮かんでいた。


「肉をある程度くり抜いて、そこにとった肉、卵……木の実や野菜を詰め込んでいるようだね」


「へえ、そりゃ面白いっすねえ。見てびっくり、開けてびっくり丸豚ちゃんっすね」


「とても美味しそうな匂いがしますね。……今度は私が取り分けて皆さんに渡しましょう。皆さん、食べますよね?」

 柳の言葉に全員頷く。柳は傍にあった取り皿に肉や、中に詰まっていた卵等を乗せ、一人ずつ順番に配っていく。矢張り柳さんは気が利くな、といつもぴいんと張っている頬を緩ませ、眉を八の字にしてでれでれする鞍馬を弥助がにやにやしながら見、鞍馬にそのすねを割と本気で蹴られ、悶絶。いつものパターンである。


 熱いのがからきし駄目な小雪と鈴はそれが冷めるのを待ち、他の者は早速食べ始めた。豚の肉と汁が口の中で踊る音が周囲の喧騒に溶けていく。


「ああ、これ、美味いっすね。豚も野菜も柔らかいし味もしっかりしているし……ん、何だろうこれ。水風船? んなわけないか……ってぐふうっ」

 小さな白い水風船の様なものを口の中に入れ、それを思いっきり噛んだ弥助が口をすぼめ、体を震わせる。


「これ、酢か……? くそすっぱい……」


「ああ、それ私のにも入っていたわ。お肉と一緒に食べるものみたいよ。そうしたら、肉についている甘い味と酢の酸味が口の中で合わさって美味しかったわ。口の中がさっぱりした」

 食べ方を間違えた、と肩を落とす弥助を見て胡蝶がけたけた笑う。

 

「卵も美味しいですね。味もしみていて。甘酸っぱい木の実や、歯ごたえの良い木の実も絶品です。こういう料理は、私達の店ではまだ出していないですね」


「そうだな。……こういうのも面白くていいかもしれないな。今度試しに作ってみよう」

 狐面を被りつつ、ものすごく器用にそれを食べていた鬼灯の主人が頷く。

 笑う柳。仲の良い夫婦二人が展開するのはパステルピンクの世界。


「鬼灯の旦那! もしそれを作ったら、あたしに食べさせておくれよう!」

 その世界をぶち破る白粉だった。必死すぎるにも程がある形相に柳が苦笑する。


「皆に必ずご馳走しよう」


「皆、じゃなくてあたしだけに食べさせて欲しいんだよ。勿論二人っきりで」


「我侭はいけませんよ、白粉さん。それに皆で仲良く食べた方が美味しいです」


「あたしは鬼灯の旦那と二人で食べたいのに」

 彼女は不満げであったが、それ以上は何も言わなかった。柳を本気で怒らせると怖いことを知っているからだ。テーブルの上で一際強い輝きを放つ、煮豚の皮をもぐもぐ食べ、ため息。

 同じように、その皮をはいで口に入れているのは鞍馬と弥助だ。酒のお供に一口食べて以来、すっかりそれの虜になってしまっていた。


「この料理の中で一番美味いのは、この皮の気がする。他の部分も絶品だが……ここは格別美味いと我は思う。香ばしくて甘く……だが生姜の辛味もあり……いや、本当に美味い」


「あっしも同意っすよ。酒と一緒に食うなら、皮だけでも充分いけるっすね。でも、中に入っている野菜とかを包んで食べるともっと美味いっすよ。単体だと、味が濃いし……ところで小雪、お前いつまで冷ましているっすか? もう流石に食えるだろう? 鈴っ子ももう食っているし」

 小雪の体がびくんと震える。別に弥助のことを恐れているわけでは無い。想い人に唐突に名前を呼ばれどきっとしているのだ。


「ま、まだ駄目です。相当冷まさないと私は駄目なんです。熱いまま食べる方が美味しいことは知っているのですが」


「いっそ凍らせて食っちまえばいいんじゃないか」


「凍らせたら、味が薄くなっちゃうじゃないですか。この馬鹿狸、もう少し考えてからものを言いなさい」

 つんとすまし顔。その頬を白粉は面白そうに笑いながらつついた。あ、楽しそうと言って胡蝶までやり始め。ややや、やめて下さいとその頬を染め困惑する小雪の顔は大変愛らしい。弥助はそれを見ても特に何とも思わなかったようだが。


「本当、こういう所は熱い料理が多いですね。お客さんも多くて……熱気がすごいです……ああ、どうして皆さんこんな所に平気でいられるのでしょう」

 じゃあ何であっしの誘いを断らず、ついてきたんだと弥助が聞けば彼女は顔を真っ赤にして。


「そ、そんなの……み、皆さんとお酒を飲んだり、美味しい料理を食べたりしたかったからに決まっているじゃないですか! 確かにこういう所は苦手ですが、食べたり飲んだりすることは好きですし……べ、別にお、お前と一緒に食事がしたかったから誘いにのったわけじゃありませんからね!」

 そんなこと分かっているよ、むきになりやがってと弥助は困惑気味だ。


(分かりやすい人だ……)

 弥助以外の全員が、心の中でそう思った。


「雪ちゃん、熱い料理は苦手だけれど、お酒を飲んで体が熱くなる分には全く構わないの?」

 胡蝶が小雪の杯を酒で満たしてやる。


「ええ……それは別段気になりませんね。けれどあまり熱くなりすぎるのは嫌ですから……皆さん程は飲みません。風花京製のお酒は別ですが。あそこで作られたお酒は、飲んでも体がそんなに熱くなりませんから」

 色々話している間に、次の料理が運ばれてきた。


「目玉汁、お待たせしました!」

 それは目玉がごろごろ入ったスープ――では無い。

 深く大きな皿を満たす透明なスープ……そのスープの海の中央にある、一つの大きな島。よく煮込まれた魚の頭だ。


 形や大きさはマグロのそれとほぼ同じなのだが。


「これはなかなか良い頭だねえ。目の数がかなり多い」

 白粉が箸を持った手で数える目の数は二つばかりではなく。人間が見ればたちまち食欲を失う様な見た目なのだが、彼等は全く気にしていない。むしろ、沢山ある目を見て自身の目をきらきらさせた。特に鈴は。


「この料理は目が命だからな」

 沢山ついている目玉の一つを鞍馬が器用にくり抜く。それに皆続き、目玉とスープをさらに入れていった。全員の手で目玉をくり抜かれた頭はその無残な姿を晒し。


「……この魚の目玉、大好き。とてもぷるぷるしているから」

 さっきの丸煮ちゃんの足もぷるぷるしていてなかなかいけるわよ、と胡蝶が言う。しかし同じぷるぷるしたものでも、豚の足には興味が無いらしく鈴は「そう」と素っ気ない言葉を返すだけだった。


「この魚の目を沢山食べると、肌が綺麗になるんだよねえ。ふふ、沢山食べて肌をもっと綺麗にして……いつか鬼灯の主人を振り向かせてやりたいねえ」


「今更食い始めてももう手遅れじゃないっすか? そのがさがさした肌は何をしてもどうにもならないぜ、きっと」


「何だって! あたしの肌はがさがさなんかじゃないよ、いつだってつるつるぴかぴかだい!」


「……出雲。これを沢山食べて、うんと美人になって……出雲をどきどきさせる」


「それは楽しみだね」

 本当お前は可愛いねと目玉を食べるのそっちのけで鈴の頭をなでなで。


(ロリコン……)

 ぱっと思い浮かぶ言葉。同時に弥助の顔面に石が直撃。その石というのは、前に注文した料理に使われていたもの――スライスした肉を乗せていた、鉄板代わりの焼き石。もう熱くは無いが、当たればものすごく痛い。


「てめえ、いきなり何をしやがる!」


「私のことを馬鹿にした報いだよ。弥助の分際で、生意気だ」

 弥助が自分を馬鹿にするようなことを思い浮かべていたことは、お見通しであるらしかった。もっとも具体的にどういうことを考えていたかまでは分からないだろうが。……分かったとしても恐らく「ロリコン」の意味を出雲は知らないに違いなかった。


「運動神経が底抜けに悪いとろまの癖に、こういう時だけはしっかりやりやがって……くそ、滅茶苦茶痛……ぐおっ」

 二発目。それ位にしてやれ、と出雲をたしなめる鞍馬だったが、その声には笑いが混じっていた。いいぞもっとやれ、と言っているように聞こえないでもない。


「お前は本当、馬鹿ですね」

 ようやく豚の丸煮に箸をつける小雪の声はいたって冷静だ。片思いの相手ではあったが、可哀想だとは全く思っていないらしい。

 そんな彼女を睨み。


「うるせえ……くそ、絶対当たった部分、真っ赤になっているぞ。おい小雪、お前のその冷たい手で石ぶつけられたところを冷やしてくれよ」


「ば、馬鹿! そんな恥ずかしいこと……死んでもお断りです!」


「恥ずかしい? ただ触るだけのことじゃないっすか……しかも別に変なところ触れって言っているわけでもないのに」


「お断りです! ぜ、絶対に嫌です!」

 そこまで言われれば、諦めるより他無い。冷たい奴だと嘆く弥助のにぶちんっぷりに皆呆れた。


 目玉汁、スープの味は非常にさっぱりしている。さっぱりしているが、魚の頭からしみだしたエキスがたっぷり入っているから、味はしっかりしている。

 少し入っている胡椒が程よいアクセントとなっており、味を調えていた。


「こういうさっぱりしたのもいいっすねえ。安心する味というかなんというか」


「あの『(くさ)(もち)』の真逆をいく存在だね」

 鬼灯の主人があげた名に、弥助と鞍馬が苦笑する。草餅ではない、臭餅である。


「あれはすごかったな。非常に強烈な味であった」


「口に入れた途端、何とも形容しがたい強烈な臭いと味がぶわっと広がったんだよな。鼻と口からすごい臭いの息が出て来て、驚いたっすよ。味は……辛いんだか苦いんだかよく分からん感じだったなあ……あまりにすごすぎて。いや、あれ相手にはブルーチーズやくさやも白旗あげちまうだろうな」


「だが不味くは無かった。不思議と癖になる味で……我は結構好きだった。酒と一緒に食うと格別であった」

 さっぱり、安心という言葉の全く合わない味を思い出し、一人目を細める鞍馬だった。


「しかしあれ、本当に餅だったんすかねえ? あたりめ並の噛みごたえがあったんだが……あ、お姉さん。黒芋焼酎一つお願い」

 傍を通りかかった店員に新たな酒を頼んでから、いかの肝和えをぱくぱく食べる。


「放っておくと、貴様に全て食われてしまいそうだ」

 鞍馬もそれが入った皿に手を伸ばした。彼はこういう料理が特別好きだった。


「本当、このお店の食べ物……いいえ、橘香京で出る食べ物はどれも美味しいですね」

 鬼灯の主人に酒をついでいた柳の言葉を聞いて、出雲が笑う。


「この京で不味いものを出すというのは、どうか皆さん私を殺してくださいとお願いするということに等しい行為だからねえ。おや……鈴、釘煮がきたよ。ふふ、嬉しそうな顔。本当可愛い子だねえ」


「出雲はいつか鈴ちゃんを食べてしまいそうね」


「そんなことしやしないよ、胡蝶。まあ確かに食べちゃいたい位可愛いと思ったことは数え切れない位あるけれどね」


「やっぱりロリ」


「今度は熱した石をぶつけてやろうか?」

 出雲の場合、本気でやりかねない。結局弥助は続きを言うのをやめる。

 勝ち誇った笑みを浮かべ、それから出雲は釘煮をはむはむする鈴の横顔を彼にしては優しい眼差しで見つめ、ふふ、という笑い声を漏らした。


 料理は次から次へと運ばれてくる。兎に角皆よく食べる。彼等にとって食事とは娯楽であった。読書やゲーム、音楽鑑賞等と同じような感覚で食事をするのだ。人間とそう変わらぬ量しか食べられない者も少なくは無いが、殆どの者は人間が泣いて逃げ出す位の量を平然とした顔で食うことが出来る。

 甘辛い味噌を塗った餅、酸味が強い果実に砂糖をまぶしたもの、だし巻き卵、磯焼き(弥助は小雪に余計なことを言い、さざえの殻を投げつけられた)、クリームと唐辛子、潰した虫を混ぜたソースを野菜につけて食べる料理、芥子蓮根等などが、次々と彼等の胃の中へ収まっていった。


 美味い料理を食べれば酒も進む。特に鞍馬はよく飲んだ。人間が同じ量を飲めば……恐らく、いや、確実に死ぬだろう。弥助も負けず劣らず、よく飲む。


「この京で出される酒はどれも美味いっすね!」

 何故か目玉のついている肝を五つ程刺した串と、黒い酒の入った杯を手に弥助が唸る。やっちゃんったら相変わらずよく飲むわねえ、と胡蝶はやや呆れ気味だ。


「あれだけの量を飲んだら……私だったら倒れちゃいます」


「私も無理だわ。柳さんは?」

 苦笑しつつ、彼女は首を縦に振る。私も同じですという意味だろう。

 弥助さんも鞍馬さんもすごいですね、とそれから二人を褒めるようなことを言い、鞍馬をえらく動揺させることになった。どれだけ強い酒も、柳という存在には勝てない。彼女の一挙一動が彼を酔わせる。


「あたしはとっても強いよ。馬鹿狸にも、鞍馬の旦那にも負けやしないよう」

 と自信たっぷりにいう白粉だったが、彼女の顔は真っ赤で、呂律も回っていない。目も店に来た時に比べて随分とろりとしている。

 どの口が言うんだと弥助はただ呆れるばかり。


「……白粉……お酒臭い……私まで、酔いそう」

 あまり酒が得意では無い鈴が露骨に顔をしかめるが、白粉にはその様子が全く見えていない。


「ああ、良い気分だねえ」

 とても幸せそうな顔をしている。


 またそれからしばらくして。


「食べたり話したりするのも楽しいけれどさ……なんかたまにはちょっとした遊び……人間の世界じゃ『げいむ』っていうんだっけ? そういうのをやってみたいねえ」

 ああ、ゲームのことかと弥助が呟く。


「そうそう。げいむだ。げいむ。おい狸公、何か面白いげいむは無いのかい」


「だからゲームだっての。……そうっすねえ」

 あっているようであっていない、白粉の発言を修正しつつ、弥助は律儀に考え込んだ。やや空いた間。それからぽん、と手を叩き。


「王様ゲームなんていうのはどうっすか。こういう酒とか飲んでいる場でやると盛り上がるんだが」


「王様げいむ(他にもげえむ、げむ等……誰一人正確には言わなかった)?」

 一斉に皆が聞き返す。その反応に満足した弥助が笑った。


「折角だからやってみよう」

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