日常3
街の中央にある武器屋。
内装は勿論木造で、武器が壁一面にこれでもかと敷き詰められている。
店員は、いつも居眠りしてるおっちゃん1人。
これでも腕の立つ冒険者だったらしい。
全盛期を見てない僕にとって、信じられないけれど。
「おっちゃん、これ幾らかな。」
ナイフを武器屋のおっちゃんに見える位置に上げた。
僕は今武器屋で、首斬り用ナイフを探している。
前首斬り用ナイフは、錆びてきて切れ味も落ちている。
剣の方は中々錆びないのに、どうしてだろうか。
「あぁ、それなら銅貨40でやるよ…………。」
おっちゃんが眠気まなこで、ボソリ呟く
おぉ、お値打ちだ。1銀貨はすると思ってたんだけど、かなり安いな。
宿賃50でギリギリと思っていた僕にとって嬉しい誤算だ。
それにこのナイフ中々良いものと見える。
にひひ、とナイフを撫でながら奇妙に笑う。
これで首狩りが捗るな。
「ならこれお願い。」
「あいよ。」
おっちゃんに銅貨40枚を渡す。
おっちゃんは40枚受け取るとこいつを頼むぞ、と囁いた。
訳も分からず、はい?とおっさんに聞き返すが、
何も無かったかのように、居眠りをし始めた。
どう言う意味だろうか?
店を出ると、時刻は約10時。
時間の流れが非常に遅い。
何時間も行動したつもりが、まだ2時間も経っていない。
また狩りに出てもいいが、宿賃は集まったしな。
2人を起こしてもいいけど寝起きは最悪だろうし
あの二人は中々起きない。
それに昨晩酒を飲んでいる。起こせば悪夢を見ることになる
二日酔いの2人は、ドラゴンよりも怖い。
うーん、と頭を悩ませていると、前方から3人パーティの姿が見えた。
何故かこちらに近付いている様な気が。
30mまで近付けば、パーティの構成が分かった。
男一人、女2人のハーレムパーティ、なにやら困ったご様子だ。
知ったこっちゃない。リア充は嫌いなんだ。
「あのー、すいません。」
聞こえない。なんにも聞こえない。
何も見えない振りをして、宿屋の方角に方向転換する。
そして、少し駆け足で宿屋に向かって…………。
「すいません!!」
早っ。
ガシリと肩を掴まれて、引き留められる。
渋々振り向くと、猫耳の少女が困った顔をしていた。
「…………なんですか。」
「あ!!やっぱ鈴じゃん!」
猫耳の少女は、見知ったように僕の名前を呼んだ。
桜沢さん。同じクラスで、男子から人気。
この人に出会っていい事があった覚えがない。
なるべくは出会いたくはなかった。
「おー、鈴ちゃん。久しぶりー。」
黒髪の魔法使いの格好をした少女は、変わらないねと声を掛けてきた。
松咲さん。同じクラスで、そこそこ支持を受けている。
そこまで話したことは無い。ほぼ赤の他人だ。
「鈴君か、久しぶりだね。」
ニヒルに笑っている、ガチガチ装備の少年。
滝野くん。同じクラスで、女子にモテまくっている。
ひたすら憎たらしい。
「ソーダ王国の救世主様が何の用ですか。」
素っ気なく何用か聞いてみると、困った様に顔を歪ませる。
髪をポリポリと掻いて、恥ずかしげに答えた。
「実はさ。この近くに大きなダンジョンがあってね。
四人からしか入れないらしいんだ。」
「…………それで?」
少々嫌な予感がしながら、話の続きを促した。
一拍置いてそれで、と続ける。
「鈴君に着いてきて欲しい。」
「お断りします。」
なんで!?と、3人が驚く。
近くにあるダンジョンは、中級ダンジョン。
一応Dクラスから入ることが出来るが、危険度はBクラスだ。
つまり。
「僕を殺す気ですか、行きません。」
お断りします。
首を横に振り、拒否の意を示す。
何を提示されようが、自分の身が一番だ。
僕は、3人に背を向け宿屋に90度方向転換した。
「そっか、金貨あげるのにな。」
「行きます。」
僕は打って変わって、3人の近くに寄っていき、行く準備を始める。
命よりお金だ。お金が無ければ命は繋がれん。
「鈴ちゃん…………。」
何だか悲しい視線を浴びた気がする。