日常
「はっ……はっ……よし……、10匹目。」
木々に囲まれた小さな広場の中心で、僕は息を荒らげた。
周りには血に塗れたオークが息絶えている。
地面には、血溜まりが大量にできている。
ある程度呼吸を整えると、血塗れた剣からナイフに切り替える。
1番近くのオークに歩を進め、首筋にナイフを突き立てる。。
長いことやって来たからか、随分と切り取るのが上手くなった。
ズズズ、と気味の悪い感触と共にナイフを当てた場所から、血が溢れ出る。
新しく噴出した血液は、足元の血溜まりに流れ込んだ。
ゾワゾワと不快な感覚が体を走る。数年前の僕なら確実に吐いているだろう。
完全に切り離したオークの生首を、小さな広場の中心に放り投げる。
そして、次のオークへとナイフを向ける。
10匹分切り離すのは、そんなに苦じゃなかった。
手に持った麻袋に、生首を詰め込んでいく。
1個、2個、3個、4個…………。
あっという間に麻袋は、満杯になった。
取り忘れは無かったかと、周りを見渡す。どうやら見当たらない。
僕は口笛を吹き、野良狼を呼び寄せた。
彼らはすぐさま駆け付けて、首の無いオークを一心不乱に食い散らかし始める。
これは、先輩冒険者の豆知識だ。
野良狼は、下手に冒険者に手を出さないらしい。
彼らは、僕らが倒した魔物を餌にすると言っていた。
さて、ギルドに帰ろう。
今日は、少し良い飯が食えそうだ。
帰り道、倒れたゴブリンを見つけた。
胸元に、炎魔法を受け風穴が空いている。
冒険者が倒したっきりで放置しているものと見られる。
勿体無い、これでも結構お金になるのに。
肩にかけていた麻袋を地面に下ろし、ナイフを取り出す。
ゴブリンの首に刃を当てて、切り離していく。
オークと違って、緑っぽい血液が溢れ出た。
「ぐ…………ギャッ…………グゥえ…………」
あら、どうやらまだ生きていたらしい。
コヒュッコヒュッ、と空気の漏れる音が出る。
可哀想に、死にきれなかったのか、高い生命力が仇となったな。
「だず…………ギィエ…………デェ…………。」
「今楽にしてやる。」
そんな事を言いながら完璧に胴と首を切り離す。
顔は、未だにぱくぱくと口を開閉させていた。
麻袋に顔を持っていき、詰め込もうとした時、
何だか奇妙な視線を感じた。
視線の方向に目をやると、若い女性冒険者が立っていた。
格好からして魔法使いらしい。
「あぁ、こんにちは。」
軽く一礼すると唖然とした顔で、真似するように一礼を返してくれた。
しかし、どこか上の空だ。よくよく視線を辿ってみると、
彼女は、切り取ったゴブリンの顔をジーッと見つめていた。
「あ、もしかして貴方がこのゴブリンを…………?」
そう問い掛けると、小さく頷いた。
後から持っていくつもりだったのだろうか。
これは悪いことをしたと、ゴブリンを麻袋に入れるのを中断した。
そして、生首を抱えて彼女に近づいた。
「持ってってください、勿体無いですよ。」
あくまでも優しく諭すように、彼女に話しかけた。
が、彼女は甲高い叫びを上げると、走って逃げていった。
何なんだろうか、まったく。
あの後、売り払ったオークとゴブリンの頭は、約10銀貨へと変化した。
今日は、少し高い物が買える。
ホクホク顔で、宿屋に向かった。
「あ、鈴。ここに居たんだ!」
後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ると、僕と同い年の二人の人物が手を振っている。
僕の友人の黒根と菅山だ。
クラスで唯一この街で留まってくれた。
2人の冒険者ランクは、C。
中級冒険者だ。
「あー、クロと菅っちゃん。どうしたの。」
立ち止まって、二人が近くに来るのを待った。
駆け足で近くに来ると、僕の肩に手を置いた。
「昨日近くの洞窟に行こうって行ったじゃん。
急に居なくなるし…………。」
「その様子じゃ、既に一狩り行ったな?」
赤黒く染まった服と麻袋を交互に見て、そう言った。
僕は少し申し訳なさそうに、あははと苦笑った。
昨日そんな事言ってたな、と頭の中で思い返す。
「ごめん、行ちゃった。」
それと同時にテンションが分かりやすく下がった。
必死に謝るが中々許してくれなさそうだ。
あ、そうだ。と麻袋から銀貨10枚を取り出す。
ニコッと2人に笑い掛け、こう続けた。
「今日、ちょっと頑張ったんだ。奢るよ。」
2人の顔は、少し残念そうな顔から一転した。
これまた分かりやすくテンションが上がり、肩を組んできた。
本当に分かりやすい、心の中で苦笑いした。