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寂しがり屋と思考する転生聖女のお話。  作者: 池中 由紀
諦念する少年と森に住む者たち
10/56

◇ 10 魔法


 一週間程度の間、森の食べ物だとかについて少し教えてもらいつつ、わたしの体の回復を待った。勝手に怪我が回復したりする頑丈な体っぽいんだけど、それでも怪我したりしたら休憩は取ったほうがいいらしい。


 さて、そうして十分に体力や魔力? を回復してすっきりとした目覚めを得た日。適当にクパの実を染めて食べつつ朝食を食べ終えてから、わたしはイェルと遺跡の広間にいた。ちなみに朝食の時に水が出てきて、どこか水場から汲んできてくれたのかと聞いたら魔法だといわれた。もはや魔法は何でもありだ。


「それで……今日は外ではやらないの?」


 わたしが訊ねると、イェルはちょっと考えたようにしてから話す。


「……魔法に関しては今日が初日だろう? とりあえずは中で十分だろう。道具の準備も楽だしな」

「そっか。……それで、何から教えてくれるの?」

「ふむ。…………教える前に、お前の抱く魔法に対するイメージを教えてもらおうか。一応、最低限翻訳されていたりするあたりを見ると、概念自体は何か近いものを知っているのだろう?」


 うーん、魔法のイメージか。


 とりあえず、魔法といえばたいていのことは許される気がする。頑張れば何でもできる感あふれるのが魔法だろう。火を出したり雷とか氷、水とかそういう属性魔法とかはゲームとかでは定番だし、回復とか蘇生とかもそうだよね。相性とか合成とかがあるのもよく見る。時間遡行とか不老不死とかそういうのもファンタジックなお話だとよくある。で、たいていの場合こういう魔法って才能とかに依存してて、わたしも結構それが不安だったりする。まぁ、身体が魔力に依存してるとか言ってるからちょっとは期待してもいいような気もするけど。とにかく、魔法は何でもできるの代名詞としても使われるくらい、便利で想像したことをなんでも実現できる魔法のような……ってそれじゃトートロジーか、とにかくそのぐらいすごい、っていうのがよくあるイメージかな?


 と、いうような内容をイェルに伝えると、イェルはかなり胡乱げに眉をひそめた。


「……そこまで何でもできるものでもないぞ、魔法は。想像しうることを実現する力、というのは間違ってはいないが……いいだろう、イメージ自体は悪くないが、そこまで便利ではないということから話そう」


 イェルがいうと、そこから講義が始まる。といっても、ちょっとした基礎のお話だけだ。


「まず基本的に、魔法では普通、大したことはできん。その辺の人間ができるのは、ちょっとした神の火……お前の言う電気か、それを手もとに出すことと、透明な手を操作することと、あとは身体を強化して早く走ったりすることくらいだ」


「……地味だね。もっとこう、火とか氷とかで派手なことはできないんだ? それはそれで安全でいいけど」

「魔法使いなどと呼ばれる人間や、魔物のうち魔法が得意なやつらはそういうことができたりもするぞ。お前の言っていたように、生まれや才能に強く依存する上に、妖精なんかの力を借りることも多いが」

「へー……イェルは使えるの?」


 純粋な興味でイェルに訊く。少なくとも水を出したりはできるわけで。


「今か? そうだな…………雷なら簡単だし見せてやってもいい」

「雷は簡単なの? 水とかより?」

「今ここに大量の水があるか? ないだろう? お前は派手なやつが見たいようだからな」

「まぁ確かに。でも魔法なら水とか氷くらい適当に召喚できそうなものだけど」


 わたしが思わずつぶやくと、イェルは呆れたようにため息をついた。あ、優秀な教師が不出来な出来にする嘆息っぽい。いやこれ例えになってないかも。


「物質の召喚など普通は不可能だ。神代の道具か、強力な妖精の協力でもない限りはな」

「その辺は妙に科学を尊重してるっぽいね。無から有は作れないっていうのは科学の大前提だし。でもそれが逆に魔法っぽいかも。法則性がよくわかんないけど」

「お前の世界のことは知らんが……。さて―――雷だったな」


 すっ、とイェルが腕を横に伸ばす。あ、と思った次の瞬間、視界が真っ白に染まって空気を切り裂く爆発音に鼓膜どころか心臓まで震える。


 ッ―――


 もはや音なんだか爆風なんだかわからない大音響が身体を叩く。

 近距離の雷は暴力的だ。光と音のラグがほぼなく、心の準備ができない。

 くわんくわん、と耳鳴りのような感覚を残しつつ、視覚や聴覚が復帰してくる。イェルはちょっとご満悦のようにも見えた。


「まぁこのように派手な魔法もなくはないが。だが基本的に環境に大きく依存するものだ。水の多いところで雷を使っても基本的に表面にしか流れないし、水のない砂漠で水系の魔法を使おうとしても基本的には無理がある。だから割と、魔力をそのまま使うことが多いな。…………このように」


 言いつつ、イェルが立てた人差し指の先に光の玉が浮かぶ。


「魔力を集めてやれば、とりあえずお前も最低限の護身はできるだろう。少なくとも犬くらいはこれで―――」


 人差し指をぱたん、と振った方向に、光玉がすごいスピードで直進した。広間を横断して、向こう側の壁に当たったところで、ぱんっ、と高めの裂音を響かせた。


「すごいすごい、確かにそれも魔法っぽい! ビームとかレーザーとか、光る玉とか、子供向けのアニメとかでよく見たよ!」


 わたしがいうと、イェルはちょっと楽しそうに笑った。


「お気に召したようで何よりだ。これの便利なところは、ダメージの与え方を割合簡単に調整できる点なんだが……まぁ、とりあえず頑張って練習するといい」

「いきなりだね……コツとかは?」


「想像力と集中力」


 ……端的だけどそれだけでできる?


 まぁいっか、とりあえずやってみよう。

 魔力を集中させればいいというだけなら、クパの実でやっていたことを、実のない場所でやればいいだけだよね、と、魔力を親指と人差し指の間に集中させていく。


「あ、できた」

「何?」


 それだけで人差し指と親指の間にふわっとしてかなり輝きの強い光の玉ができた。やったね! これでわたしも魔法少女だね! 身体もそれっぽいし!

 イェルにそれをつまんだまま見せつけると、


「すぐにできるようになるとは器用なものだ。次は飛ばして見せろ」


 言われて、わたしは殆ど重さを感じられない光の玉から指を放して、ふよふよと空気中に漂わせる。そしてそれを、右に左に……動かせない。あれ?


 これって想像したとおりに動くんだと思ってたんだけど……。


 気を取り直して集中しなおして頑張ってみても、光の玉は所在なさげにその場に浮かんでいるだけで特にわたしの想像通りには動いてくれない。

 しばらくわたしが唸りながら努力していると、イェルはまた楽しそうに声をかけてくる。


「なんでもすぐにうまくいくわけではない。あとで練習しておけ」

「む……もうちょっと待って」


 ちょっと悔しいのでそれから数十分唸り続けたが駄目だった。イェルが焦れてきたので、仕方なく切り上げる。


「ええと、でもこれ、要はまっすぐ飛ばしたりして猛犬とかに当てれればいいんだよね?」

「そうだな」

「だったら―――」


 わたしは人差し指使って向こう側の壁を指す。ほら、拳銃イメージで、まっすぐ飛ぶ光弾って魔法少女とか格闘漫画とかでありがちな気がしない? というわけで、魔力を指先に集めて撃つ―――


「まてっ、やめろ!」


 直前にイェルからの声。でももう間に合わない。


「え? ―――うぐっ」


 制止も間に合わず、わたしは魔法の弾を撃つ。どひゅん、とまっすぐ飛んで行ったそれは、秒もたたずに五十メートルくらいは遠くの壁に着弾して、ばぁん! と爆竹みたいな音とともに爆ぜた。


 そして、わたしの人差し指が血まみれになっていた。


「ぃだ、いたいぃいぃ………」


 しびれるような感覚に信じられないほど鋭い痛みが混じる。一ミリくらいのとげとげのウニが血管に混じった感じ…………痛そう。でもそんな感じだ。

 あまりの痛さに涙目になりながらイェルを見ると、イェルは顔をしかめながら言う。


「身体を直接使うときは、反動に対する対策を行わないとそういうことになる。……次からは何をやろうとしているか話してからやったほうがいいぞ」


 わたしはこくこくうなずきながら、人差し指からの痛みに耐えるように目をぎゅっと閉じて、いや、視覚情報を遮断したら痛みが強くなるかも、と思って目を開く。

 内側から細かい棘を何本も刺されているような感覚は、敏感な感覚器である指先だと耐え難い。ちょっと待てばわたしの身体は勝手に治るのは知ってるけど……。


「…………貸せ、治してやる」


 言われたとおりに右手を差し出すと、イェルは人差し指をぎゅっと握る。


「痛い痛い痛い! ―――あれ?」


 触られた瞬間は痛みがひどくなったが、すぐに痛みがすぅっと引いていく。あまりに唐突すぎて麻酔みたい……いや麻酔使ったことないけど。

 見ると、人差し指の血もきれいさっぱり消えて元通りなっていた。……こういうのはほんと魔法っぽい。


「ありがと、イェル」


 わたしのお礼に、イェルはふう、とため息のような息で返答の代わりにしてから、


「とにかく練習はしておけ。それと、その指を使った打ち出し方は出力を絞って反動対策をしておくといい。……関連するが、あとお前でもある程度できそうな魔法は、身体の強化だ」

「早く走ったり、高く飛んだりできるってこと? ……あ、もしかして空が飛べたりする?」


 治してもらった右掌をぶるぶるふるわせて違和感がないことを確認しつつ訊く。


「自在に飛べるのはハーピーだとかドラゴンだとか、羽根つきの奴らと、あとは高位の魔法使いか。飛べるやつは飛べるが、機敏に動けるのはごく一部だな。…………私か? もちろん飛べるが」


 イェルは? の意思を視線に込めていたら読み取って、飛んで見せてくれた。何の前触れもなく、つつー、と空中に浮かんでいく様は割と違和感のある光景だ。


「別に飛べるようにならずとも、早く走れるだけでも害獣から逃げたりする分には役立つだろう。身体強化の魔法は、あまり力まずにやれば程度の差こそあれ成功はするものだ。これはもともと肉体がある程度魔力を利用しているからだとされるな」


 向こうの世界じゃそんなことはなかったけど。まぁでも、世界が違えば法則が違ってもいいのかな? 魔法とかあるくらいだしね。

 じゃあ、やってみよう。


「これも、想像力?」

「まぁそうだな。全身を詳細に意識しろ。ただ最初から全力では行くなよ。軽く補助する程度でいいからな」

「もちろん。また痛い目を見るのは嫌だし」


 ということで、目を閉じて身体を意識する。血流や、神経、筋肉などの肉体構造を鮮明に意識する。これはわたしが植物状態で目を覚ましていた時から毎日、ずっとやっていたことだ。結局身体は動きはしなかったし、身体の感覚をゼロから想像するという方法だったけど、想像力という点ではかなり詳細なものだと思う。


 想像した全身に、ちょっとだけ意識的に魔力を回す。ちょっとした浮遊感と、身体の真から温まるような温感。あ、温泉に入ってるような感覚が近いかも?

 とりあえずこれでいいかな、ということでイェルに訊いてみる。


「ちょっと身体がぽかぽかしてふわっとしてる感じだけど、これで走ったり飛んだりしてみればいいの?」

 見上げてみると、遺跡の天井はかなり高い。柱もなしにこれだけの空間を作るなんてできるんだっけ……って体育館とかはこんな感じかも。石造りで地下ではないだろうけど。

「そうだな。やってみろ」


 イェルの許しも出たところで、じゃあとりあえず飛んでみよう。ぐっと膝を曲げて力を込めて、身体測定の垂直飛びの要領でジャンプ―――


「―――ひゃあぁあああぁぁぁぁぁ!」


 ぐわっ、と身体が押し出されるようにして空中に飛び出したわたしは、重力で減衰し、空中で一瞬静止する。


 遺跡の天井は高くてぶつかることはなかったけど、それでも二階建ての建物から下を見たときより地面が遠い。―――このまま地面に落ちたら死ぬ!


「イェル―――!」 


 わたしが助けを呼ぶと、イェルはやれやれ、と言わんばかりに首を振りつつも、悠長にふわふわとんで空中でわたしを緩やかに両手でキャッチしてくれた。……迫ってくる地上を見ていたら生きた心地がしなかった。

 イェルが勢いを殺しながら空中で落下しつつキャッチしてくれたおかげで、わたしは無傷で済んだ。


「全然全力じゃなかったのに死ぬかと思った……」


 わたしがつぶやくと、イェルは思いもしないことを言う。


「いや、全力を出さずに飛んだのなら、身体が大丈夫だと判断したということだからそのまま落下していても死にはしなかったと思うぞ。着地に失敗したら怪我くらいはしたかもしれんが」

「……そうなの?」

「ああ。……もしかしたら天井にぶつかって痛い目に合うかと思ったが残念だったな」

「いや残念じゃないよ!?」


 床におろしてもらいながらも抗議する。イェルは死ななければ大丈夫的な発想が多い気がする。ちょっと大雑把すぎる。


 それから少し走ったら、案の定すごい勢いで進んだけれど、予想していたので何とかなった。軽く地面を蹴るだけで十メートル近く一歩で進めるのは、最初はちょっと怖かったけど慣れてくると気持ちいい。風を切って自在に走れるのは快感だ。チーター? 忍者? これ、人類最速の男より早いよね、たぶん。


 走るのに慣れてから、もう一度垂直飛びをためす。力を抜いて数メートルから、徐々に力を入れていく。一秒未満だった滞空時間が、一秒になり、二秒になり、三秒になるあたりで恐怖感を覚える程度の高さになる。さっきと同じくらいの感じだ。


 それでも今度は慌てずに着地する。着地のたびにものすごい音が響く。そりゃ結構な速度で地面に着地してるんだから当たり前ではあるけど……。

 そんなわたしを見かねてか、ずっとわたしの様子を見ていたイェルが話しかけてくる。


「空を自由に飛ぶのは難しいが、空中に床を想像して減速するのはまだ簡単だ……いちいちそんな派手に着地するのもかわいそうだ。やってみろ」


 助言をもとに、速度がゼロになった天頂あたりで足元に床を想像したところ、とん、と小気味よい感触とともにわたしは空中に立つ。……わー、すごい。わたし今空中に立ってるよ? まぁふわふわ浮いてるわけじゃないからなんだか格闘家みたいな感じで可愛げがない気もするけど……。

 わたしを支える力を床から緩やかに抜いていくと、ゆっくり地面に向かって降りていく。エレベーターに乗ってるような感覚だ。


「…………できた」

「ああ……お前はできることができるようになるのはとことん早いな」


 地面に降り立ってからイェルに報告すると、ちょっと呆れたようにイェルがいった。でもその言い方はちょっと不満だ。だって、


「まるでできないことはとことんできないみたいな言い方だね……」

「それはこれからわかることだ。頑張れよ」


 イェルはそういって軽く笑うだけだ。

 わたしはそんな反応がちょっと不満で、むきになって空中の光弾を動かす練習を続けた。

 数時間続けて、何の進展もないまま昼ご飯をまたクパの実で済ませる。魔力が切れて血を吐くたびに食べる不味いクパの実とは雲泥の差でおいしい。


 それからまた数時間たっても進展せず、しょうがないので指で光弾を打った時に痛くないように練習した。こっちはまだ進展があってよい。失敗すると指先が血まみれになったりするけど、イェルがそのたびに直してくれる。とてもありがたい。ごめん。

 途中で思いついたことがあったのでイェルに訊いてみる。


「これ、腕を銃身だと思って打ち出したら同じ威力を出すのに反動が少なかったりしない?」

「お前……失敗したら指の代わりに腕が血まみれになるぞ?」


 うぅ、想像するだけでいたい……。

 さすがにちょっと臆病になって、やめておく。指で反動を制御できるようになったらやってみてもいいかも。

 ただちょっとそのまま別のことを思いついて、野球ボール大に魔力を全力で掌に集める。


「じゃあ、う、……かふ、けほ」


 慌ててちょっと魔力を戻し、ポケットからクパの実を出して食べる。この死ぬほど不味い味にも慣れてきてしまっている気がする。どうせ飲み込むだけなら血の味がメインだしね。自分で染めたものは美味しいけど、結構染めるのって疲れるのだから仕方がない。

 するりと実から魔力を抜き出して、再度集中する。まだ結構余裕がありそうなので掌に集める。と、また血を吐いたので慌てて追加でクパの実を飲み込んだ。


「おい。何をするか知らんがあまり収束させすぎると遺跡が傷つくし、暴発が危ないからやめろ。そのくらいにしておけ」


 イェルに止められて、まだ余裕がありそうだけど止める。


「それで、何をする気だ? お前は外に出した弾は操れないんだろう?」

「投げる」

「はぁ? ……あぁそれを手で投げるのか? また原始的な……まぁいい、ならば少し待て」


 そういってイェルはつかつかとわたしから離れ、十メートルくらいのところで立ち止まってこちらを向いた。


「わたしに向かって投げてみろ。護身としてどの程度効果的か判断してやろう」

「……大丈夫?」

「その程度は障壁で完全に防げるから大丈夫だ。弱いものからたくさん重ねて、どこまで貫けるかで威力を測定してやる。全力で投げてみろ」


 おおっ、なんか楽しそう。魔法の瓦割みたいな感じ? ……なんだか格闘家イメージに引きずられている気がする。


 せっかくなので身体強化を強めにしてみる。さすがに全力でやるとまた反動とかありそうだしやめておくけど、さっき飛んだり跳ねたりした感覚から言ってこのくらいなら大丈夫だと思える範囲の限界いっぱいだ。

 身体強化に意識を回したら光の弾が一瞬不安定になってちょっとひやっとしたけど、まぁ暴発とかしなかったし問題ない。


「じゃ、いくよー! ―――それっ!」


 思い切り投げる。

 指で打ち出した光弾よりも早い速度、ほぼ一瞬で一直線に光芒を残してイェルに―――突き刺さる直前で大爆発した。


「ぅわっ―――!」


 ガラスが大量に割れるような音が響く。障壁とかいうやつだろうか。爆発は爆風とものすごい光を生んで前が見えない。両手でかばいながら、嵐が過ぎるのを待つ。


 しばらくして、光と煙が……煙? なんで煙? まぁいいや、光と煙が収まった中心からイェルの姿が見える。右手をこちらに向けていて、……無傷だ。ちょっと安心。


「威力は十分だな。これならちょっとした魔物程度までなら無力化できるだろう」

「ちょっとした魔物って……例えば?」

「そうだな……魔物の巨人サイクロプスとか、下位のドラゴンだとか、ワイバーンあたりか?」

「け、結構物騒なのがいるんだね……」


 サイクロプスとか元ネタは確か神話レベルだよ? ドラゴンとかなんて勇者とかの伝説なんかで引っ張りだこじゃないですか。


 わたしがちょっと引いた感じでいうと、イェルはまた呆れたように笑っていう。


「言っておくが、今のお前の攻撃もそれなりに物騒だとは思うぞ」

「…………」


 まぁ、確かに。


 その辺の人間がいきなり大爆発を自分の意思で起こせるとか、かなり物騒だ。

 大体、今のはそういう物騒なのを無力化できる程度の攻撃なわけで、要は威力だけみたら同レベルの危険性だという意味でもある。もちろんわたしには少なくとも悪意はないし一応、知性も宿っているので同じ危険度というわけではないだろうけど……って魔物には知性があるのかな? ちょっと気になる。


「とりあえず今日はこれで休憩にしておけ。さっきからクパの実で回復してるが、無理に体に負担をかける必要もないだろう。目の前に暴漢がいるわけでもないのだからな」


 イェルにそう勧められて、わたしは同意して魔法の訓練を切り上げた。

 それにしても少なくとも自由自在に身体が動かせるどころか、わたしの知っている世界よりもずっと自在に身体を動かせる。ものすごく速く走れるし、高く飛べるし、あまつさえ空中に立つことすらできるのだ。練習すれば空も飛べるかもしれないというのは、とても楽しそうに思える。自由に身体が動くだけでも楽しいのに。空を飛ぶのは楽しいに違いない。

 

 それからイェルと一緒にクパの実を食べて、またちょっと無駄話をした。

 わたしのいた世界には映画というものがあって、映像を作って物語を表現する娯楽があったのだというと、演劇の延長のようなものかといわれて、まさにその通りだと同意したり。こっちの演劇は魔法による演出が入ってるらしい。それってこっちのCG技術が魔法になっているようなものだと思うと、発展の仕方が同じだよね。とか。


 何でもない会話だけれど、わたしはとても楽しいし、いとおしい。

 反応があるということはそれだけで面白いことだ。


 他愛のない会話で時間を忘れた後に、わたしはイェルと別れて自分の部屋へと戻る。

 ベッド以外に何もない部屋を少し寂しく感じる。さっきまで近くにイェルがいたからだろう。

 また明日、あって会話ができるのだから、寂しく思う必要なんてないことは分かっていても、こう、身体がそう感じるのは仕方ないなぁとも思う。


 わたしは安心できる寝床に感謝しつつ、早く夜をスキップしたいという一心で眠りに落ちた。

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