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暗闇へといざなう口

いつも書いている小説とは全く違う作風です

          

それは最初から分かりきったことだった。それでも尚、私は人というものを厚く信頼しすぎしてしまったのだ。

故に私は、暗闇へと突き進み今の場所がどこなのか分からなくなった。羅針盤も、星すらもないこの世界で、私はただ自問する事しか出来ない。

なぜ、ここに来てしまったのか。なぜ、こんなにも周りは暗く寂しいのか。


始まりは非常に単純なものだった。

私はある会社にその当時勤めていて、次の監査で係長に昇進することが決まっていた。もちろん、係長になるというのは今まで使われるだけだった側から少しは人を動かすということになるから、責任も感じたし、自分に係長が務まるのかどうかはっきりとして分からなかった。けれども、係長になると決まったからには腹をくくるしかない。係長として仕事を全うすればよいのだ。


ちょうどその時に、私と一緒に違う係りだが係長になる男がいた。そいつは大層な奴で仕事は出来るが中々癖の強い奴だ。もちろん、正しいことを言う事がほとんどなのだが重要なことを任せると言葉を聞くごとに変えてくる奴だ。

私はそんな奴と同期の知り合いであり、互いに互いのことをいじりながら監査の訪れを待つことになった。


「どうせ、係長になってもお偉いさん方にはかなわんだろうな」 私がそう言うと奴も

「あぁ、その通りさ。結局俺らも使われる身なんだ。あきらめたほうがいい」 と、私の椀に酒を注いだ。


何もかもがこの時までは順調に行くはずだった。まだ係長にはなっていないが、しっかりと方向性を決めどのようにするのかを学んだ。そして、どのようにしてか係りを発展させるのかもしっかりと決めていた。それを全て、事細かく丁寧にやってもやらなくても、私は上手く係を回せるはずだったのだ。


監査が来て、ついに私たち二人は係長になった。すると驚くことに、事業編纂によって奴のかかりと私の係が合体することになり、公正なじゃんけんの結果私が副係長、奴が係長となり、係りの仕事が進んでいくことになったのだ。

しかし、奴は私にこうも言ったのだ。


「俺は特別な仕事はやる気はしない。普通の仕事をすればいいんだ」

「それだと、暇な時間が出来てしまうよ」

「それであれば、何か考えればいいじゃないか」

「うーむ・・・・・・特に何も浮かばないから、その時に考えればいいか」

「さすがお前だ。その考えは身を助けるぞ」


この会話が、まさか本当になるとは思わなかった。その時はまだ、私も心がきれいだったということだ。


企業というものは利益を追求するものだ。だからこそ給料が発生しているのに働かないなんて言う事はあってはならないのだ。ましてや、新しく生まれ変わったこの係りが何もせずにただぐーたらに仕事をしていては他の部署に示しがつかない。私はなにかいいことが無いかと探していた。


そして、ある男に出会ったのだ。


「それであれば、国際エコリスト大賞に参加してみるのはいかがでしょうか? あの大賞は企業では無く、係での参加も可能ですし、私も行ってみたいですので」


彼は、新しい係に入ってきた新人の男で正直な話は言ってきた当初は何も期待をしていない(新人だから)から気にも留めていなかった。しかし、やる事を探していた私にとってにとっては鴨葱も同然で、私は彼に喰いるように質問をしたのだった。


「国際エコリスト大賞? 別に参加してもいいが、何で参加するというんだ?」

「うーん、そうですねぇ……私の頭では思い浮かびません」

「それであれば、うちの会社は建築業だから図面やモデルを出店してみるっていうのはどうだと思う?」

「なるほど、副係長。それはいいアイデアですね!」

「分かった、それじゃあ係長に相談してみるからちょっと待っててくれよ」

「分かりました!」


この時私は彼のことを係の危機を救うメシアにも思えていた。

私はすぐに係長に電話して指示を仰いだ。


「国際エコリスト大賞を仕事の傍らでやるっていうのはどうだろうか?」

「うん、やってもいいがどれくらいの規模でやるんだ?」

「そうだなぁ……」

新人の彼曰く、大規模にやりたいということだった。


「やっぱり大規模でやりたいんだけれども……どうだろうかなぁ?」

「うーん……それじゃあ、うちの部門の新人と出来る奴を何人か引っ張ってプロジェクトチームを作ろうか。それで、残った奴は俺が仕切る」

「なるほど、それであれば大規模でやっても係には影響が出ないか」

「ただ、もし係で忙しいことがあればそっちを優先させてくれ。こっちは利益を追求してやってるんだからな」

「当たり前だろ」


こうして、係長に正式に承認されプロジェクトは始動することとなった。


始めのうちは私がプロジェクトの一時的な責任者として君臨し、ある程度の体裁が整ったところで新人にバトンパスをして、新人がやりたいことをプロジェクトチームでやっていくということとなった。


「じゃあ、5月期分から9月期分の予定が組みあがったから、これを精査して置いて。後、何をやりたいのか、何を作りたいのかを具体的に示しておいてくれるかい?」

「分かりました」

「よろしい!」


この時はまだ楽しかった、何もかもが手素阿久利の状態だけれどもみんなにやる気があった。


国際エコリスト大賞は二年後に実施されるもので、二年後はちょうど新しく作られた係が初めて係別決算を表示する年でもある。故に、かなり厳しい状況だけれども完全なものを仕上げるとみんな意気込んでいたのだ。


しかし、待てど暮らせど新人から具体例が上がってくることはなく、ずるずると時間は過ぎて行き、なんと半年後の10月になっていたのだ。


「おい、具体例はどうなったんだ?」

「まだ考えている途中です」

「えぇ……」

「というか副係長」

「何?」

「副係長が作りたいものを、作ればいいんじゃないんですかね?」

「……それがお前のやりたいことなのか?」

「はい!」

「それであれば仕方がないな。じゃあ、考えるのに集中したいからプロジェクトの長は君に今から交代するから頑張ってくれよ」

「はい!」


私は浅はかだった。この時の私はプロジェクトの成功を果たすために単純にこう考えてしまったのだ。しかし、これが負の連鎖の始まりだったのだ。


私は月ごとの予定の提出を彼に求め、彼はそれを承諾した。なので当たり前のように、予定を提出するものだと私は思っていたのだ。


しかし、彼は私の想像を超えた。


「おい、予定はどうなってるんだ?」

「まだ作ってます」

「まだ作ってるって……もう二か月経つぞ? お前が作ってるのは先月分だぞ?」

「えっ……」

「お前本当にやる気あるのか?」

「……」


この時私は、あることがよぎった。それはプロジェクトに招集してしまったメンバーのことだ。いまここで、私が彼にプロジェクトの中止を告げるのは非常に簡単なことだ。しかし、それだと今まで頑張ってくれたプロジェクトメンバーの期待や努力、時間を無駄にしてしまうことになるのだ。だから私はこう言うしかなかった。


「……まぁ、もし辞めたいなら辞めてもいい」

「辞めてもいいんですか!」

「ただ、責任者として辞めるんだったら代案を出せ。それが条件だ」

「……無いです」

「それであればプロジェクトの遂行に向けて頑張ってくれ。期限を設けるから、それまでにやって来てくれ」

「分かりました」


なぜ、私はここで止めることが出来なかったのだろうか。

私はこの後こう言ったやり取りを何十回も行うことになった。ついには係長まで話に絡み始め、プロジェクトに友好的だった係長でさえ「辞めたらどうだ」と言ってくる始末だ。ただ、プロジェクトのメンバーのこともあると私が伝えると係長は「なら、完成をさせてくれ。それがプロジェクトを続けていい条件だ」と言ってきた。


こう言ったやり取りは何十回も続くことになったのだ。



しかし、最終的にはしっかりとした予定が組まれて、しっかりとした予算が示されてそれを直接係長に提出したらしいのだ。その際に新人と私との間である約束が結ばれた。


プロジェクとはすべて新人君の責任下で行動して、私はそれに関与しない。



―――そして、私にとって運命の日が来るのだった。 


その日私は、次の日の係での会議に使う資料を作っていた。あともう少しで完成というところであるメールが届いた。それは、新人からのメールだった。


『親に色々なことを話したら、会社に連絡をするということになりました。迷惑を掛けるかもしれません。申し訳ありません』


私は目を疑った。しかし、私はつかれていて疲弊していたので何もせずさっさと資料を作り終わり床についたのだった。


そして、始業時間になり会議が始まり何やかんやで会議は終わった。

一息ついて、資料に出も目を通そうとしていた時、ある重役が「副係長、少し来てくれるかね」といって私のことを呼ぶのだった。


私はおどおどとしながらその重役についていくと、一つの部屋に通された。


「あの、いったいここは何なんでしょうか?」

「まぁ、言いから入りたまえ」

「……」 有無を言わさないところが上司らしい。


中に入るとそこには、係長、新人、重役、それによく分からない中年を過ぎた女性がいた。


その四人が面接の面接官の席に座っていて、私は受験生のように置いてあるパイプ椅子に腰を掛けた。


腰を掛けると、重役が口を開いた。

「副係長君、いつもご苦労だね」

「いえいえ、そんなことありません。でもなぜ一体このような状況になっているんでしょうか」


すると重役は鼻を一度掻いたあと、真剣な顔をしてこう言ってきたのだった。


「君がこの新人君を強制的にプロジェクトチームに招集し責任者にして、強制的に作品を作らせていると新人君の親御さんから相談を受けてねぇ」

「は? いったい何のことでしょうか」

「とぼけないでよ! あんたがやったことでしょうが! 責任感なんてない子に、なんで重役を任せるのよ! 意味が分からないわ!」


大きく騒ぎ立てるのは中年の女性で、話を聞く限り新人の親らしい。


「いや、そんなことを言われましても……」

「第一に副係長君。係長からも君の出した予算があまりにもふざけているという報告を受けていてだねぇ」

「は?」

「さすがに・・・・・・一億っていうのは・・・・・・・・・馬鹿げているよねぇ?」

「……」


何も言い返せない。確かに私がしっかりと見ていなかったからこうなってしまったのだ。


「新人君からも、君が強制的に責任者にさせられて常日頃から恫喝を受けていると報告を受けているんだ。それに関してはどう思う?」

「それは・・・・・・」


確かに私は、提出日すら守らない新人に対して大きな声で怒鳴ったりしたことはある。しかし、それらは意味がある怒鳴りであり、無意味なストレス発散的な意味合いを含んでいる怒鳴りなど一つもなかった。


「とにかくだ、この三人からの報告を受けた以上私としては君に処分を下さないといけないんだ。残念だけれどもあきらめてくれ」

「その、私は・・・・・・」

「副係長君。君の言葉嘘偽りだ。全て新人君のお母さまから聞いた。おとなしく処分に従っていればいいんだよ」


あまりにも無慈悲で、あまりにも非論理的な処分の言い渡しだった。もう、私には信用すらなくなっていたのだ。


「もう帰っていいよ」と言われ、私は部屋から出た。すぐさま私が行ったのはプロジェクトチームに対しての謝罪だった。よくは分からないがプロジェクトは中止になってしまいプロジェクトを行っていた人間にも処分を下すことになったからだ。だけれども新人は強制的に責任者にされていたということを考慮され処分はなかった。


ただ茫然としながらパソコンの画面を見ている私の肩を係長が叩いた。


「仕方ないだろ、上司の前なんだから上司の意見に従うさ。無駄なことをするから無駄なことになるんだよ」


メールが来た。仲よくしているプロジェクトチームの部下からだった。その内容は新人がプロジェクトチームの全員に送ったメールの内容だった。


『もともと僕は国際エコリスト大賞に参加することは反対だった。まずやる事にデメリットが多いし、本業に影響するかもしれないからだ。だけれども副係長が強制的に僕を責任者にさせて、みなさんを無理やり動かしていたんです。僕は悪くありません。文句があるんだったら副係長に言ってください。副係長が悪いんです。あと、プロジェクトは中止になりました』


私はさらに愕然とした。いくら私が悪もにされようが構わないが、今まで一緒にプロジェクトに携わってきた人たちに向かって「俺は元々反対だった」と簡単に言ってプロジェクトが中止になったことに対しての謝りもなかった。





私はそのまま無意識のうちに体が動いていき、気が付くとそこは駅のホームだった。会社では靴をスリッパに履き替えているため私は今スリッパを履いてここに立っている。


今まで自分が何をしてきたのか。何を間違えたのか。全て思い出す。すると辺りがどんどんと暗くなっていく気がして急に恐ろしく感じた。


そんな中でどんどんと近づいてくる光に私は、希望を見出してしまった。すぐさま私はその光に飛び込んだ。



――― そして、私は今、何もない、暗闇に来てしまったのだ。


帰ることすら許されない。私の永久の流刑地だ。

全て、私が悪くすべて己の責任であった。


口から出た言葉を私は、本音と信頼してしまった。

いくら会社とはいえ、事業立案で冗談を言う奴もいるということを予測し忘れた。

だからこそ、その口は暗闇へといざなう口となったのだ。


故に私はここで自問し続ける。

なぜ、ここに来てしまったのか。なぜ、こんなにも周りは暗く寂しいのか。



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