元妖精による簡易な手記
この膨大な『遺書』を発見した私は、彼女を一片たりとも理解していなかったことを、今でも痛感している。この『妖精』のような小さな体には、彼女は大きすぎたのだ、と。
私は、フェアリィであることを捨て、元の、フェリシティ・ヘンダーソンへ戻った。
浜坂家の人間は、国も何もかも違う私を、娘の忘れ形見として扱い、ロンドン並みの過密都市であるこの日本の都市でも、かなりのステータスシンボルになるであろう、広いアパートメントに住まうことを許され、彼女の亡骸があった部屋に、私は寝泊まりしている。
郊外にある大学に四年通い、先日卒業し、明日になれば、とある私立の学校で、英会話の教師としての初舞台が待っている。
血のあぶくを吐きながら、最期、リリウムと私は、お互いにじっと見つめ合った。
彼女は、この遺書では「私を呪って」となっているが、「私を救って」と、私に伝えた。声もなく。
私は、彼女を呪えない。
そして、彼女を救うことすら、できなかった。
……呪うより救う方が、よほど簡単だったというのに。
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