もう一度見たいと望んでいる。
※少年は願い、少女は求めるシリーズ第12弾
わしは時空に漂う神である。数多の世界を見てきた。
どこの世界にも属さず、どこの世界にも定着せず、ただ、見ている。わしはそんな傍観者であり、わしの存在を知る者は限られている。わしは信仰により存在し、力を増す神といったわけでもなく、ただそこに存在している神である。
力もそれほど強いわけでもなく、人の信仰に左右されないそんな少し異端の神。
わしを知る者は数少なく、その者達はわしを時空神や、傍観の神や、見守る者とかそんな名で呼んだ。
わしはたくさんの世界を見てきた。たくさんの神を見てまわった。正直直接干渉することはあまりできない。わしは他の世界にとって異物でしかないのだ。
わしはそれでもよかった。それがわしの在り方であり、わしはそういう存在であると自分で認識しておったから。わしは色々な世界を見るだけでも楽しかったのだ。
そんなわしにはお気に入りだった世界があった。ずっと見ていたいと思うほどに穏やかに過ぎている世界を。
神々と人々がともに生きている世界を。
そんな穏やかな世界を見るのが好きだった。ただ見ているだけでもその世界がそのまま続いてくれればいいと願わずにいられなかった。
なのに、数百年ぶりにその世界を見たら変わっていた。神々の在り方ががらりと変わっており、昔の面影はみられなかった。
それが衝撃的だった。何故そうなってしまったのかと原因を探ってみたらすぐに分かった。
たった一人の神のせいだった。
ピリカと呼ばれる光の女神。
こうして世界の外から見てみて、より一層その存在が異質であることが見て取れた。それはおかしかった。異様なまでに持ち上げられた存在。その女神を優先するがあまりに、世界でのあり方をも変えてしまった存在。
強烈な魅了の力が常時働いているらしかった。わしは遠くから見ているからそれにあてられなかったが、周囲にいたものへの影響力はどうしようもないほどのものだろう。
どうにかしたいとは考えた。しかし、わしは直接的に行動を起こせなかった。時空に存在するだけの神。異質な神。それがわしであり、わしが下手に手を出せば世界のバランスにどれだけ影響するのかさっぱりわからなかったのだ。
それもあって、もやもやしながらも手を出す事などできずに、そうしてまた数百年が経過する。
幸せな世界の中心にいた風の女神は、封印され、まともな神が次々にいなくなり、神がいないのが当たり前の世界が繰り広げられ悲しかった。見たかった。もう一度、あの優しい世界を。
そんな中である世界を見た。地球と呼ばれる人が沢山溢れた世界。そこで、ピリカと同じような存在を見た。神であるピリカほどの力はないが、それでも確かに周りを不幸にしている存在。よく見てみたら、それはあのピリカと関連のある少女だった。ピリカの関連のある少女が起こしたことで、周りが不幸になっている。そして、その陽菜という少女の影響で一人の少女が亡くなった。突然の出来事でわしがその時できたのはあの世界にその魂を送り届けるだけだった。
陽菜という少女とその周りを見ながら考えたのは、これが起爆剤にならないかということ。
由菜の魂には接触できないまま流してしまったが、無理やり流してしまったのもあり、少し体に魂が定着するのに時間がかかるようだ。それから陽菜が亡くなり、それはピリカに責任をとれという意味であの世界にスムーズに魂を流した。……まさか定着が遅くなった由菜の魂とほぼ同時に体に定着し、交わっていくとは思わなかったが。
由菜たちの世界で興味深い二人もいた。それは由菜の幼馴染であった隼人と千歳という存在だ。彼らは魅了に打ち勝った。由菜が死んだあとだったが。だから、その二人が死んだあと、魂をあの世界に流した。そして接触して鑑定出来る力を与えた。ちょっとした誤差で隼人の方の記憶がしばらく戻らなかったのには焦ったが。
後由菜の転生体が陽菜の転生体により絶望したのにも。しかし、転生を幾度も繰り返しているうちに陽菜の転生体の魅了と浸食の力は徐々に薄れてきている。陽菜の方は正直放っておいても何度か転生するうちにその力を失うだろう。しかし、女神であるピリカは違う。
どうか、あの世界の起爆剤になってほしい。そして、あの世界を動かしてほしい。わしは部外者であるが、それでもあの世界をもう一度見たい。そう、願っている。
転生した彼らはそれぞれ世界に影響を及ぼしている。
特に隼人と千歳は大きい。隼人は陽菜の転生体に真っ向勝負をしかけており、千歳はあの幸せな世界の中心にいた女神ウィントを封印から解くことに成功した。
ピリカが世界を見るという神の義務を放り出している間に彼らは動いている。
隼人は味方を見つけて陽菜の転生体をつぶそうと動き、千歳は神と共に信仰を集めウィントの力を全盛期に戻そうと必死だ。
それに、慢心しているピリカは気づかない。
ようやく、数百年経過してわしはあの世界をもとに戻すための足掛かりを得た。
どうか、あの世界を前のように戻しておくれ。
わしは、あの世界の元の姿をもう一度見たい。
―――もう一度見たいと望んでいる。
(時空に漂い存在する異質の神は、あの世界の元の姿をもう一度見たいとただそれだけを望んでいる)
そんなわけで隼人と千歳に接触した神様の話です。
時空に漂い、ただ色々な世界を見つめ続けてきた神様。信仰を得なくても存在している異質の神。どこの世界にも属さない存在は、ウィントたちの世界が好きでした。
穏やかで優しい神と人が笑い合う世界。それがしばらく見ない間におかしくなっていたので、どうにかしたかったのです。