27話 気まぐれ
「お前がジャックか」
「そうだが、俺はあなたとは初対面のはずだ」
そうだったな、そう言うと男は剣を降ろした。
「俺の名はホーク・ザンガー、フォレス三将軍の1人だ。今日来たのは他でもない貴様がこの国の平和を脅かす危険人物であるという情報が入ったからだ。」
「俺が?」
ホークは俺を睨みつけるようにじっと見ている。
しかし一体誰がそんな情報を?俺はこの街に初めて来た、しかも街で恨みを買うようなことは一切していない、とすると考えられるのはただひとつ。
「誰がそんな情報を?と言いたげな顔をしているな。」
ホークが俺が質問する前に察したのか、聞きたかったことを話してくれた。
「情報元は薄汚れた身なりをした男たち。なんでも近場の村々を暗い赤毛の男が荒らしまわっているそうだ、しかもその男はこの街に立ち寄るとかなんとか。まぁ見るからに盗賊であろう男たちの言うことなど信用出来ぬがな。」
淡々と話してはいるが顔は少し苛立っている。
「まぁ、信用は出来ぬが万が一ということもある。違えばそれで良し、逆にその様な危険人物ならばそれ場で捕まえるまでだ。」
木製の剣を俺の肩ギリギリに振り下ろす。
危険人物か確かめに来たという割には、どこか楽しげな顔もしている。
なにが本当の目的なのか全く読めない、どこか薄気味悪い男だ。
「俺の経験上、お前はその様な人物には見えない。どうだ?」
「どうだも何も俺は村々を襲ってなんかいない、その盗賊達は多分、俺が村を助けた時に逃げ出した残党だ。」
ふむとホークは俺の顔をまじまじと見る。
一応仕事上、嘘をついていないか念入りに確認をしている様子だ。
「まぁ、その様な危険人物がクレイ傭兵団にわざわざ来るわけはないからな。お前のいる場所を報告兵から聞いた時違うなと思った。あと先に答えておくが、安心しろ、盗賊共は牢に入れてあるぞ。」
流石フォレス三将軍の1人だけある。
俺がなにを心配しているか、ズバッと当ててきた。
だが1つ気になることがある。
「俺が危険人物でないと判断したのに、何故この剣を降ろしてくれないんですか?」
さっき肩ギリギリに振り下ろされた剣は疑いが晴れてもなお、同じ位置にあった。
「なに、ちょっとお前と手合わせをしてみたくなってな。」
ほれともう片方の手に持っていた木製の剣を投げてくる。
断ったら容赦なくその場でホークの後ろにいる団員の様にするってことか。
「受けるしか答えがないんだな。」
足元に投げられた剣を拾う。
木製の剣だ、相手が本気で殺しにかかってこない限り死ぬことはないだろう。
だけどホークはフォレス三将軍の1人だ、確実に俺が今まで戦ったことのない強さのはずだ。
いろいろな感情が混ざり、手が震えそうになるのを抑えながら俺は剣を構えた。




