前半戦
『なあなあ、サチ。ちょっと』
「どうしたのユッキー」
『これを見てくれ』
「なになに」
『宝くじで10億円当たった』
「ヒョエー」
『俺の見間違いかもしれないからサチも確認してみてくれ』
「りょーかい」
『どうだ?』
「宝くじで10億円当たってるわ」
『ヒョエー』
「すごいわね」
『すごいな』
「ヤバイわね」
『ヤバイな』
「私に半分よこしなさいよ」
『嫌でーす』
「半分の額の8億円よこしなさいよ」
『お前アンドロイドのくせに計算もまともに出来ねえのかよ』
「じゃあアンタが計算してみなさいよ」
『いいだろう』
「10秒前ー。9、8……」
『馬鹿め、そんなに時間を与えられちゃ世界征服だって可能だ』
「さあ、答えは?」
『9億』
「お前も馬鹿じゃん」
「とにかく、私は半分の額もらう」
『嫌だっつってんだろ』
「もしくはキサマを殺す」
『物騒だな』
「世界征服させた後で殺す」
『いいとこ取りだな』
「そう、私はいくつもの他人のプリンの底の茶色いとこを奪ってきた」
『いいとこ取りだな』
「でもマズいプリンは茶色いとこが苦い」
『それはきっとアレだ。良薬口に苦しってやつだ』
「なにそれ」
『よく効く薬ほど苦い』
「私が食べたのは薬だったのね……」
『いや、カラメルだろ』
「は?騙したの?」
『騙されたな』
「お灸を据える意味でも、やはり私は半分の額もらう」
『やらねえよ』
「もしくはキサマを殺す」
『物騒だな』
『大体なんでそんなに半分欲しがるんだよ』
「それが私の生きる意味」
『嫌な生き様だぜ』
「言われてみればなんで欲しがったんだろ」
『答えを教えてやろうか?』
「教えてもらいたいものね」
『それがお前の生きる意味だからだ』
「……」
『……』
「天才ね」
『天才だろ』
「紛うことなき天才ね」
『紛うことなく天才だろ』
「遠いところにいても連絡が取れるという前人未到の機械を開発できちゃうぐらい天才ね」
『それはもうある』
「逆になんで半分の額渡したくないの?」
『貧乏性だからかなあ』
「アンドロイドのくせに?」
『アンドロイドだって金は大切だ』
「それはまあ分かるわ」
『今月の家賃も払わないといけないし』
「家賃は大切ね」
『大家さんは怖いし』
「大家さんは怖いわね」
『サチは可愛いし』
「私は可愛いわね」
『謙遜しろ』
「言…… ?兼……?ごめんなさい、読めないわ」
『お前は読まなくていいんだよ』
『今月はどうやって大家さんから乗り切ろう』
「私は実家に帰らせてもらいます」
『それは卑怯だぞ』
「もしくは大家さんを殺す」
『大家さんは無理だ』
「無理なの?」
『俺が1回世界征服する間に6回宇宙征服するような人だから』
「征服好き過ぎでしょ」
『もしくは制服が好きなのかもしれない』
「そういう趣味なの?」
『人の趣味はとやかく言っちゃ駄目だ』
「そういえばアンタが集めてる棚の上の食玩なんとかしてよ」
『人の趣味はとやかく言っちゃ駄目だ』
「それ売ってお金にすれば?」
『大した額にはならないよ』
「うーん、そっかー」
『金欲しいよなあ』
「欲しいわねえ」
「ところで大家さんってどんな人だっけ」
『いつも黒い服着てて』
「うんうん」
『動きが俊敏で』
「なるほど」
『飛ぶ』
「大家さんってゴキブリなの?」
『かもしれない』
「人のことゴキブリ扱いするのはよくないんじゃない?」
『お前が言い出したんだぞ』
「1人大家さんがいたら100人の大家さんがいると思え」
『10と100じゃ100の方が大きいから10億円じゃ対抗できないな』
「10億って10,0000,0000だから余裕で対抗できるわよ」
『あっ』
「馬鹿なの?」
『お前もだろ』
「もしくは殺す」
『あっ、でも駄目だ』
「どうして?」
『仮に10億円分の戦力を集めたとしても大家さんには傷一つつかない』
「そんなに強いの?」
『大人しく家賃払っといた方がいいと思う』
「貧乏ってやーね」
『貧乏はやだな』
「世知辛い世の中ね」
『世の中は世知辛いな』
「略してせちがらね」
『日常系萌え4コマ漫画みたいに言うなよ』
『それはそれとして10億円はどう使おう』
「どう使おうかしらね」
『俺に一つ名案がある』
「聞かせてもらおうじゃない」
『俺たちの結婚式に盛大に使えばいいんだよ』
「本当に名案だったわ」
『パーっと8億ぐらい使おう』
「待ってそれ私の取り分」
『そんなもんねえ』
「大体結婚式に8億とかなにに使うの」
『なにに使おう』
「考えてなかったの?」
『待ってくれ今名案を考える』
「名案メーカーと呼ばれたユッキーに任せるわ」
『閃いた』
「さすがメーカー」
『スカイダイビングに使おう』
「迷案だったわ」
『8億あればスカイダイビングできるだろ』
「スカイダイビングってそんなに高いの?」
『わっかんね』
「ちょっと調べてみる」
『調べてくれ』
「グググるってみる」
『グググる先生にはいつも世話になるな』
「相場は4万円ぐらいらしいわ」
『7,9996,0000円余るな』
「余るわね」
『まあ式場にダイビングするから施設の修理費に充てようか』
「まさかの修理費込みだったのね」
『治療費もあるし』
「治療費も込みなのね」
『俺は常に先の先を見据えている男なんだ』
「結婚も明暗別れる展開になりそうね」
「結婚するなら花嫁修業しないと」
『お前なんでもできそうに見えてなんにもできないしなあ』
「アナタを殺すことならできるわ」
『世界制服した後でなら許可する』
「じゃあ今の私にはなにもできない……」
『じゃあ花嫁修業しよう』
「もとよりそのつもりよ」
『花嫁修業と言っても色々要素はあるけどやっぱり一番は料理じゃないか』
「私料理苦手なの」
『まあ知ってるけど』
「フライパン使うと基本いつも爆発するわ」
『火薬でも焼いてたんじゃないのか』
「そうかもしれない」
『よしじゃあ教えてやるから野菜炒め作ってみよう』
「炒めまくるわ」
『まずキャベツを食べやすい大きさに千切ります』
「ふむふむ」
『油を敷いて焼きます』
「ふむふむ」
『味付けして完成です』
「できたわ」
『できたな』
「フライパン使ったのに爆発しなかったわ」
『爆発しなかったな』
「今までのやり方が間違っていたのかしら」
『きっとその通りだ』
「試しに火薬焼いてみてもいい?」
『物は試しだな』
「女は度胸」
『応援してるぞ』
「……」
『……』
「爆発したわね」
『したな』
「やっぱり今まで火薬を焼いていたみたい」
『新発見だな』
「これで人類はまた一つ成長を遂げたわ」
『俺たちはアンドロイドだけどな』