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スーの正体

「今日もお前ん家行っていい?」

 帰り道章太の家の前で、徹平が章太に尋ねる。

「すまん、今日は従妹がいるから」

 もうすっかり章太は従妹がいるという嘘に慣れていた。

「そっか。また今度俺にも紹介してくれよな」

 と、それだけ言うと徹平は章太の家を後にした。

 章太は家の鍵を開けようとする。が、学校でスーに鍵を預けていたことを思い出した。

 仕方がないので、ピンポーンとベルを押す。


「はーい」

 この声はスーだろうか。章太はドア前に立つと開けてもらうのを待った。

 ガチャリとゆっくりドアが開いた先に居たのは、やはりスーだった。

「まだ猫に戻れないの?」

 章太は中に入ると、鞄を置き、靴を脱いで揃えながら言った。

「それがね、ビックニュース!」

 スーは嬉しそうにピョンピョン跳ねる。そのせいか、床がミシミシ鳴っていた。

「何が?」

 章太は玄関に上がると、スーの顔を見た。

 スーは体操服は脱いでいて、恐らく紀美子の私服に着替えたのだろう。

「猫と人の姿で、ある程度切り替えれるようになったよ!」

 スーがえっへんと腰に手を当てて言う。

「でもなんで今も人の姿?」

 そう言いながら章太はリビングに行くと、台所近くの冷蔵庫を開ける。

 スーはトコトコと章太に付いていく。

「切り替えられるよってこと、見せたいの!」

 章太は中から牛乳パックを取り出すと、それを一気に飲んだ。

「プハーッ」

「章太、聞いてるの?」

 スーは不満そうな顔をした。

「聞いてるよ。後で詳しい話をしよう」

 飲み干した牛乳パックをゴミ箱に入れ、冷蔵庫を閉じた。

 そして、ポテトチップスを持って二階へ向かう。


「詳しい話って?」

 章太の部屋に入り、真っ先に座ったスーが尋ねた。

「君のこと、もっと知りたいんだ」

 章太も同じように床に座ると、真剣な目をした。

 するとスーは、「え、えっ!」と顔をポンっと赤らめた。

 章太はスーが勘違いしていることに気付き、慌てて弁解を試みる。

「あまり話しあえなかっただろ? スーが何者かどうかちゃんと知りたくて」

「な、なるほど」

 スーが考えこむように腕を組む。

 そして章太はポテトチップスを開け、一つ食べた。


「実は私、記憶が曖昧なところもあるんだけど……。その、神様に仕えてたことは本当だよ」

「それで、なんらかのヘマをして猫の姿にされた訳?」

「そうなのです」

 と、何故かスーは誇らしげに言う。

「覚えてること何でもいいから、教えて」

「神様の使いだったことと、元の姿は人間だってこと……だけかな」

「名前は?」

 章太がそう聞くと、スーは黙り込んだ。

「分からない」 

 悲しそうな目で、ボソッと言った。

 章太はつい悪いことを聞いてしまったのかもしれないと焦る。


 しばらく二人の間に無言の時間が流れる。

「これからどうしよっか……」

 章太が一番話し合いたかったことを口にした。

「出来るだけ猫の姿に居るようにして、なんとか天界に戻る方法を探すよ」

 それはそれで、章太は寂しい気持ちになった。

 スーとは12日間程しか一緒にいないが、愛情を込めて育てていたからだろう。

 まさか自分が拾った猫が、人間だなんて。と、改めて章太は思った。


「母さんと父さんにはバレないようにしよう」

「うん」

 それだけ言うと、話し合いは終わった。

「そろそろ母さんが帰ってくるだろうから、猫に戻って」

「分かった!」

 スーは元気に返事をする。そして紀美子の服を脱ごうとした。

「い、いや待って。それはマズイ」

 慌てて章太がとめる。

「でも服破れちゃうよ」

 スーはまた頬を膨らませて言った。

「外に出とくから、出来たら呼んで」

 そして章太は部屋から出て、扉を閉める。

 少し経つと、中からポンッ!と音が聞こえた気がした。


「ニャーン」

 章太はスーの声が猫になったことを確認して、扉を開けた。

 あぁ、人間姿よりもやはりこっちの方が落ち着く。と、章太はスーを抱き上げ、撫でた。


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