章太の部活動②
「ぜぇ……はぁ……はぁ……」
ようやく外周を走り終えた章太は、校門に止まるといきなりは止まらずゆっくりとグルグル歩いた。
太ももの裏が痛い。サッカー部だというのに、少し情けなく感じた。
「先輩、お疲れ様です」
いつの間にか、後輩マネージャーの橋元恵莉が居たようだ。
恵莉はスポーツドリンクを章太に渡すと、なんとタイムも測ってくれていたらしく、走るのに掛かった時間を教えてくれた。
「時間……かかりすぎたなぁ」
「でも先輩早いですよ」
「そうかな。ていうかわざわざ来てくれてありがとう」
「いえ、キャプテンに頼まれたのでお礼なんていいですよ」
なんだ、自主的に来てくれた訳じゃないのかと少し章太はガッカリする。顔には出さないが。
「俺はもうちょっと休憩してから行くよ」
「じゃあ先に戻ってますね」
そう言って恵莉は歩いて行った。
走ってから、どれくらい経っているだろう。もしかしたらクラブの練習も殆ど終わっているかもしれない。
章太は焦りだし、息を整えるとすぐさまグラウンドに向かうことにした。
グラウンドにつくと、そこにはコート整備をしている仲間の姿があった。
そういえば今日は緩めのメニューだということを思い出し、ますます朝練を忘れていた自分に対し章太は怒りを覚える。
「おっつー」
疲れ果てた章太に話しかけたのは、トンボを持った杉森だ。
「おー……」
章太は適当な返事をし、トボトボとキャプテンの元へ歩く。
杉森はそんな章太の姿にプッと小さく笑っていた。
「ヒロ先輩、五周終わりました」
章太は谷村に言った。
「お疲れ、今度からは気を付けろよ」
谷村も杉森のように笑い、章太の肩にポンと手を置いてから言う。
今日は楽なメニューだったせいか、章太だけキツイものをこなしたことに、みんな優越感を感じているのかもしれない。
「集合!」
谷村はグラウンドの端で号令をかけると、サッカー部メンバーは彼の周りに集まった。
周りにいる他のクラブが、物珍しいといった風にサッカー部を見ている。
きっと、いつもより終わるのが早いからだろう。
それにしても、どうして今日は簡単なメニューなのかと章太は不思議に思った。
「んじゃ、今日の練習を終わります!」
谷村が号令をかけ、
『ありがとうございました!』
と、サッカー部全員でグラウンド中を響かせる大きさで叫ぶ。
マネージャーも負けじと大きな声を出していた。
章太はこの瞬間が、一番皆が団結しているような気がするから好きだ。
「いやー、こんなに早く終わると清々しい気分だね」
徹平が伸びをしながら言う。
「俺、15㎞走らされたんだぞ」
章太は恨めしそうに言うも、
「自業自得」
と返された。そう言われてしまっては反論も出来ない。
そんな他愛もない会話をしながらも、グラウンドから出て、章太達は部室に向かう。
途中、章太はテニスコートでレシーブの練習をしている咲を見つけた。
その可憐な姿に、しばらく章太は釘付けとなって立ち止まる。
「おい変態、早くしやがれ」
徹平は呆れたように言う。
「へ、変態じゃない」
「どうだかねー」
やれやれと言わんばかりに徹平が両手を軽く挙げた。
「変態だー」
それに加えて杉森までもが言う。
「違う!」
章太は思わず真っ赤になって叫ぶ。
徹平達は逃げろーと蜘蛛の子を散らすように退却した。
「くそ、あいつらめ……」
章太は悔しい思いをするも冷静になって、確かにさっきの自分は気持ち悪いかもしれないと思った。
でも、それ程彼女のことが好きだということだろう。自然に目で追ってしまうくらいに。