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いつもの日常にスパイスを③

 一時間目が終わると、ガヤガヤとクラスメイトは立ち上がり、騒ぎ始める。

 彼らの話題はスーのことでもちきりだった。

 いつ自分が質問責めに合うか分からないと思うと、章太は居ても立っても居られなくなり急いで教室を出た。

 向かった先は、職員室だ。

「失礼します。2年3組の有森章太です。あの、高橋先生いらっしゃいますか」

 扉を開けて言うと、同時にコーヒーの匂いが鼻にツンとくる。章太は周りを見渡すように見ると、

「有森、こっちだ」

 と、高橋先生ではなく名前も知らない先生が答えた。

 章太が案内されたのは、パーテーションで区切られたスペースだった。

 そこには、非常にのびのびとソファで過ごすスーの姿があった。


「ちょっと」

 章太はスーの真後ろから呼びかけた。

 スーはびっくりしたのか、飛び跳ねるように起きあがる。

「章太ー!」

 抱きついてこようとしたので、章太は思わず後ずさりする。

「有森、その子部外者らしいな。どういう関係だ」

 ようやく高橋先生がこちらにやって来て言った。ちなみにさっきの案内した先生はもう何処かへ行ってしまっていた。

 そして高橋先生は、スーの向かいのソファに豪快にボスンと座った。

「えっと……」

 上手く言葉が出ないのか、章太は下を向く。

「主従関係ですかね」

 スーは何気無く発した。その言葉は、間違いなく爆弾発言である。

「ぶっ」

 思わず章太は噴きだすと、高橋先生の顔をすかさず見た。

 それはそれは、恐ろしい表情であった。金剛力士像にも負けない迫力だ。

「しっかり、話を聞かせてもらおうか」

 ドスを効かせた低い声に、

「ち、違います。これには深いワケがありまして……」

 こちらは弱々しい声。

 この対比はまさに、大型動物と小型動物といったところだろうか。

「休み時間が終わったら、次の授業は欠席しろ。分かったな」

「……はい」

 念を押されてしまい、章太は更に声を小さくした。


 それから少し経って高橋先生が「座れ」と言ったので、章太はスーの隣に座った。

スーは章太の膝に乗りたい衝動にかられたのか、一瞬体がぐらつく。だがなんとか堪えたようだ。

「あの、実は」

 まず章太が話を切り出した。しかし、すぐに黙り込んでしまう。

本当に言っても大丈夫なのだろうか。頭が変な奴と思われて精神病院にでも連れて行かれないだろうかと章太は不安になっていた。

 それを見かねたスーは、

「妹……です!」

 と、ですの部分を強調して言った。章太は驚いた表情をし慌てるも「そ、そうです」と便乗した。

 高橋先生は暫く考え込むと、二人を交互に見る。

「似てないな」

 その目は疑いを持っていることに、ひと目見れば誰でも気付くだろう。

「何故その妹がここに来たんだ?」

「その」

 章太はスーに助けを求めるような目をした。

「体操服を届けに!」

 スーは焦る様子もなく、ズバッと言った。章太はそのスーの堂々たる姿勢に感心してしまう。

 何故こうも簡単に嘘を吐けてしまうのだろうか。


「なら何故有森の体操服を着てるんだ」

 さぁ、スー選手。次はどのように返すのか。

「途中ドブにはまっちゃって。あはははは」

 スーは豪快に笑う。勿論、ドブになどはまっていない。

「……そういうことか。それにしてもお前、妹いたんだな」

 今度は先生が章太に向かって言った。章太は肩の力が抜けたのか、安心した顔で「はい」と返事をする。

 しかし、本当のところ章太には妹など居ない。もし家族構成でも調べられれば、一発でバレること間違いなしである。

 そして、

「ピーンポーンカーンコーン」

 休み時間の終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響く。


「じゃあ、この件はひとまず解決ということにしよう」

「ありがとうございます。ご迷惑おかけしました」

 章太は深々と頭を下げた。

「それと有森。今日朝練さぼったから外周五周」

「ご、五周!?」

 その距離は一周三キロメートルほどある。

「何か問題でも?」

 先生は目を細くして章太を睨んだ。

「いえ、わかりました」

 章太は渋々といった風に言う。

「それと、君は体操服のままで良いから帰りなさい」

 高橋先生はスーに向かって、先ほどまでが嘘のことのように優しく言った。

「はい!」

 スーは満面の笑顔で返事をする。

「有森も早く授業に戻れ」

「はい」

 章太は憑き物が落ちたかのように安心して、返事をした。

 そうして二人が歩き出そうとするが、「待て」と高橋先生が二人を呼び止めた。

「な、何でしょうか」

「妹は、学校はどうしたんだ?」

 章太はスーの顔を見た。流石にそこまで考えていなかったのか、スーは返答に困っているような顔をしている。

 ここは俺が言わなきゃと思い、章太が口を開けた。

「今日休みなんです。な!」

「ええ!」

「本当か?」

 先生は眉間に皺を寄せ疑わしい顔をするが、暫くすると「わかった」と言った。

 万事休す、だ。


大変遅くなった上に短くなってすみません。

これからも少し短めになるかもしれないです…。

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