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運命の出会い③

「母さん、上がったよ」

いつも通りの良いお風呂だった。章太はタオルで髪をゴシゴシと拭きながら紀美子に報告をする。

「しげまさぁ……!」

 どうやらドラマに夢中なようだ。

「母さん。上がったって」

「聞こえてるわよ」

 章太は呆れた顔をしてから、2階へ向かうことにした。

 何やらゴソゴソと物音が聞こえる。

「スーか?」

 勿論、返事は無い。

「どうしたんだスー」

 章太はドアを開けた。

 その前に繰り広げられていた光景は、非常に信じがたいものだった。

「え……、ええっ!?」

 その光景に章太は思わず叫ぶ。

 そこには、知らない女の子がいた。章太には姉や妹はいない。それも裸の女の子など見に覚えが無いのだ。

 茶髪のさらさらした髪に、咲と良い勝負が出来るくらいの可愛さ。

 章太はしばらく見惚れてしまう。が、恥ずかしくなったのか目を逸らした。


「しょうちゃん、どうしたのー?」

 下から紀美子の声が聞こえる。

「と、とにかくクローゼットに隠れてて」

 章太は目を伏せながら少女にそう言う。そしてクローゼットを開け、無理やりながら入ってもらった。

 後はなんとか誤魔化すしかない。

「しょうちゃん?」

「うわっ」

 思ったよりも来るのが早かった。

 章太は驚き情けない声をあげる。

「どうしたのよ一体」

「いや、ちょっと虫が出てさ」

 額の汗が止まらない。紀美子は疑うようにこちらを見ている。

 裸の女の子が居たなんて、章太には口が裂けても言えないのだろう。

「もう、男の癖に虫が出たくらいで大声あげるんじゃないわよ。心配して損したわ」

 なんとか助かった。

 安心した章太はホッと一息つく。

「あら、スーちゃんは?」

 言われてみれば、スーの姿がどこにもない

「さぁ……」

「ちゃんと探しときなさいよ。お母さんはドラマの続き見るからね」

「うん」

 そうして紀美子は部屋から出て行った。

 良かったと章太は肩をガクンと落としてその場にしゃがみこんだ。

 

 そうだ。あの娘はどうしよう。取りあえず母さんの着替えとか借りておいた方が良いな。

 章太は隣の母さんと父さんの寝室に行き、急いで着替えの服を掴んだ。

 下着とかサイズがよく分からないが、無いよりましだろう。

「あの、これに着替えてから出てきて」

 戻ってきた章太は、クローゼットに着替えを持った手を突っ込んだ。

 しかしこの中で着替えるには狭いかもしれない。

 そう思ったが、少女は何も言わずに着替えだした。


 そうしてしばらくが経ち、クローゼットを開けようとする音が聞こえた気がした。

 中からはクローゼットの扉は開けにくいのだろう。

「開けて良い?」

「うん」

 章太は息を飲み、ゆっくりと扉を開けた。


「章太っ!」

「うわっ!」

 少女はクローゼットから飛び出し、章太にしがみついた。

「(や、柔らかい。じゃなくて、どうして俺の名前を?)」

 章太は不思議な顔をして、

「あの、あなたは誰ですか」

 と少女に尋ねた。

「スーだよ」

「スー? そういえばそんな気も……って、そんな訳あるか!」

 思わず章太は大声をあげる。が、またしても紀美子が登ってきては行けない。


「会いたかったんだ、本当の姿で」

「ほ、本当にスー?」 

「うん」

 章太は怪訝そうな顔をし、少女に言った。

「あのさ、人をからかうのはやめろよ。スーな訳ないじゃん。不法侵入だよね?」

「違う! スーはスーだもん!」

「母さん呼ぶよ?」

 少女は黙ってしまう。

 

「……スーはね、神様の使いだったの」

 は? 

 章太は目を丸くした。

「ずっと天界に居たんだけど、ドジ踏んで捨てられちゃって……。罰として猫の姿にされたみたい」

「じゃあ、飼い主に捨てられた訳じゃないってこと?」

「ある意味飼い主だけどね」

 嘘にしては少女の顔は真剣な目をしていた。

「でも、何で今人間になったの?」

「愛の力かな」

 少女は照れながら言う。

「誰の?」

「もちろん章太だよ♪」


 章太は眉間にシワを寄せながら頭を抱え込んだ。

「はぁ、どうしたらいいんだよ……」

「うーん、今まで通りでいいんじゃないかな?」

 少女は楽観的に言う。

「母さんに何て言えば……」

 紀美子に言えば、この娘は即お箱行きだ。もし少女の話が本当なら、可哀想である。

「あ、耳が……」

 ポンッ!突然、少女の頭に猫の耳が生えてきた。

 その次に尻尾、そしてふさふさとした肉球付きの手。

「うわわわ、マジかよ」

「やっぱりまだ維持出来てないのかな」

 そして遂に、いつものスーに戻ってしまった。


「ニャーオ」

「本当にスーだったのか……」

 貸した衣類はすっかり破れてしまっていた。これも紀美子になんて言えば良いのだろう。

 困った章太だが、どうやら現実のようだ。実際に目の前でスーになったのだから。

「ニャ!」

 スーは相変わらず嬉しそうな顔をして章太に擦り寄る。

 章太は赤くなり、いつものスーがなんだか魅惑に感じているように見えた。

 

 そして、時刻は10時30分。寝る時間だ。

 猫姿のスーは普段のように章太のベットに入り込む。

 章太の目の前のスーは、やっぱりいつもと変わらない。

 もしかしたらさっきのは妄想とか、見間違いだったのかな。そう思えるくらいだった。


「このまま猫で居てくれよ……」

 章太は呟くように言う。

 スーはもう寝ていて、返事もしなかった。

 さぁ、自分も寝ようとしたその時……。

『ポンッ!』

「すー……すー……」

「どひゃぁぁああ!!」

 なんとまたスーは突然裸の少女に戻ってしまった。章太は驚き飛び跳ねる。少女はうーんと唸るだけだ。


「章太!! ウルサイ!」

 紀美子の声が下から聞こえた気がしたが、章太の頭には入らない様子であった。

 堪らずベットから降りると、少女に掛け布団をしっかりかける。

 ホッと一息ついた章太。裸の子と少しばかり密着していたせいか、顔が熱い。

 ひとまず顔を洗い、適当にあった座布団を敷いて寝ることにした。だが、なかなか寝付けない。

「う〜〜ん」

「(無心無心無心無心無心……)」

 こうして、美少女猫と少年の物語が幕をあげようとしていた。

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