表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

運命の出会い②

 一時間目がやっと終わった。

 北原先生が教室から出ると、周りのクラスメイトはスマホを取りだす。先生の前で出すと怒られるからだ。

 章太は机の教科書類も片付けず、徹平の席へ向かった。

「さっきの話の続き」

「あぁ、それか」

 もう忘れていたのかと、章太は思わず苦笑した。

「前に猫飼ったこと言っただろ? その猫さ、すごく頭が良いんだ」

「なんだ、ペット自慢かよ」

 徹平は見るからに興味が無さそうだ。

「スーって名前なんだけど、俺の体操服袋とか持ってきてくれるんだぜ」

「そりゃすごい」

 徹平は鼻くそをほじる。こんなんだからモテない男なんだ。顔はイケメンなくせに。

 章太は親友のその様子に少し腹が立っていた。

「嘘だと思うなら、見にこいよ」

「お前ん家漫画あるし、行こうかな」

「じゃあ、放課後な」

 こうして章太は徹平と約束をした。

 後はたわいもない話を続け、二時間目の授業を迎える。


 やがてすべての授業は終わり、放課後になった。

 部活動に行く生徒、そのまま帰宅する生徒。

 沢山の生徒達が教室から次々と出ていく。

「着替えに行こうぜ」

 徹平が言った。その手にはスパイクと着替えの袋を持っている。

「猫のこと忘れてないよな?」

「あたりめーよ」

 どうだか。章太は浅くため息をついた。

 今から約3時間。サッカー部である二人は練習する必要がある。

 章太も荷物を持ち教室の扉へ向かったその時、黒板を消している西井咲の姿があった。

「有森くん、藤田くん。部活頑張ってね」

 向こうもこちらに気づいたのだろう。微笑みながら咲は言った。

 天使だ。そう章太は思った。

「う、うん」

 章太は少し顔を赤めながら言う。

「ばいばーい」

 徹平は相変わらず変わらない。その変わらなさが章太にとって羨ましくもある。

 咲の言葉のお陰か、なんだか今日の練習は頑張れる気がした。




◆◇◆◇◆◇



「西井さんて、可愛いよなー」

 練習の帰り道、徹平がぼそっと言った。

 外はすっかり暗くなり、徹平の顔はよく見えない。

「確かに。あんな娘が彼女になってくれたら良いのにな」

「ぷっ、お前には不似合いだよ」

 徹平は大袈裟に笑った。

「お前だって、不似合いだ」

 章太も負けじと言い返す。そんな二人の会話は短く、あっという間に有森家に着いてしまった。

「おじゃましまーす」

 章太が家のドアを開けると、徹平を中へ招いた。紀美子の足音が聞こえる。

「あら、てっちゃんじゃない」

「おばさん、こんばんは」

 徹平は無難に紀美子に挨拶をした。慣れているせいか、靴を脱ぐと階段を登り、さっさと章太の部屋へ向かう。

「ニャーーン」

「うおっ、びっくりした」

 徹平が部屋のドアを開けると、足の間からスーが出てきた。

 そして真っ先に章太の居場所へと行く。

「ただいまスー」

「おいおい、犬みてぇだな」

 章太はスーを抱き上げ、撫でた。スーはとても幸せそうな顔をしてゴロゴロと唸る。

 スーは徹平には目もくれない。それほど章太に夢中な様子であった。

「ほら、可愛いだろう?」

「結局ペット自慢だったな。でも確かに可愛い」

 章太はスーをそのまま部屋へ入れると、下ろした。それでも尚スーは章太の側を離れようとしない。

「猫種は?」

 徹平は、本棚から適当に取り出した漫画を広げると言った。

「多分これ」

 章太は椅子に座り、ノートパソコンを立ち上げると、猫の画像を表示する。

 画面に映った大人猫は、スーにそっくりではあるが模様等が違っていた。


「スコティッシュ……フォールド? カッコいい名前だな」

 徹平は広げていた漫画を一端閉じ、画面を見て言った。

 スーは章太の膝に乗って寝ている。


「医者もそう言ってたから、多分そうだと思う」

「ふーん。あ、エロサイト」

 徹平は章太からマウスを奪うと、お気に入りの欄から『ドキッ☆猫女子パラダイス』を開いた。

「おい、やめろよっ」

「はははっ! いくら猫にはまってるからって……くく、面白い奴だな」

「いいだろ別に……。って、痛い! 痛いよスー」

 その時、章太の膝に寝ていたスーが起き出し章太の腕を噛みだした。

 まるで怒っているかのようだ。

「嫉妬してんじゃねーの?」

 徹平が興味津々にその様子を見る。流石に徹平もこれを見て、スーが賢いことを認めたのだろう。

 スーは気が済むと、再び丸くなりまた眠りだす。


「てっちゃん。晩御飯食べてかない?」

 突然ドアが開くと、エプロンを付けた紀美子がひょっこりと現れた。

 章太は慌ててパソコンを閉じる。

「食べる! やった、ありがとうおばさん」

 徹平は喜び跳ね上がった。その振動でスーが目を開けて膝から降り、大きな欠伸をした。

 恐らくスーもそろそろご飯の時間だと察したのだろう。

「徹平。漫画ちゃんと片付けろよ」

「わかってるわかってる」

 小躍りする徹平とご飯はまだかとそわそわするスーの姿が、章太には重なって見えてなんだか面白かった。

「今日ビーフシチュー?」

 徹平が尋ねると「そうよ」と、紀美子が答えた。

「おばさんの料理は旨いから好き。母ちゃんにも見習って欲しいよ」

「あら。さっちゃんだって料理上手じゃない」

「おばさんには敵わないよ」

 そう言いながら徹平はイスに座った。

 章太もスーにキャットフードと水を用意してから、いつもの席に座る。


「今日練習どうだった?」

 紀美子が尋ねた。

「いつも通りだった」

 すかさず章太が答える。

 スーと徹平は、並べられたご飯に夢中だ。

「良かったわね」

「サッカーは良いけど、学校はつまんない」

 章太は正直に言う。

「ふぁひかにな」

 徹平が口に物を入れながら喋ったせいで、何を言っているか分からない。

 食べてから喋ろよと章太は注意した。

 徹平は昔から行儀が悪い。彼の母親である彩月(さつき)が優しすぎるからだろう。

 これではまるで章太が親の様である。

 

「ニャー」

 ご飯を全部食べ終えたスーは、また章太の膝に飛び移った。

 茶色と白色の混じった毛が丸くなる。章太がいつもブラッシングしているのでとても艶やかだ。

 こんなに懐いたのも、愛情込めて育てているからに違いないのだろう。


「おばさん、御馳走様でした」

「はいお粗末様でした」

 もうこっちも食べ終わったのかと、章太は急いでビーフシチューを胃へ流し込んだ。

 時計の針はもう8時を指している。

「すまん。俺、もう家に帰るよ」

 徹平は台所へ食器を片付けてから言った。

「あぁ、もうそんな時間か」

 章太も一端食べるのを止めると、玄関まで徹平を見送った。

「じゃーな。おばさんもバイバイ!」

「またおいでね」

 徹平は靴を履き、ドアを開け出ていった。

 それを見届けると章太達はリビングへ戻る。そして章太はご飯の続きを食べ始めた。


「今日父さんは?」

 ビーフシチューを綺麗に平らげた章太が尋ねた。 スーは相変わらず膝の場所をキープする。

「残業で遅くなるみたいよ」

 父親である修也は新聞会社で働いている。最近はビックスクープがあったらしく、色々と忙しいらしい。


「そっか」

 これ以上会話は続かず、章太は食器を片付けるとさっさと部屋へ戻ろうとした。

「あ、しょうちゃん。お風呂沸かしたから早く入るのよ」

「分かった」

 紀美子はなんでもちゃん付けする癖があった。章太はしょうちゃんは恥ずかしいので、何度もやめてほしいと言ったことがある。

 しかし、全然直してくれる気配は無いのでもう諦めた。


「スーちゃんもお部屋に戻るのよ」

「ニャー」

 あれだけ反対していた紀美子だが、いざ飼うとなるとなんだかんだスーを溺愛していた。

 章太には及ばないが、紀美子にも懐いているのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ