お出かけ①
今日は土曜日。人間姿のスーに出会ってから、3日が経った。
しかも部活がオフだ。久しぶりの休日なので、章太はゴロゴロして過ごそうとしていた。
「ニャー」
スーはなんだかソワソワとしているようで、部屋中をうろつき回っている。
「どうしたんだよ」
「お外行きたい」
スーが章太の目を見て言った。
「何しに行くの?」
章太はスーに目を合わせることはせず、横になって携帯をいじっている。
「服欲しい……」
「猫で居ればいいんだから、必要ないだろ」
そう章太が言うと、スーはあからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
「オシャレしたいー!」
今度は駄々をこねる子供のようにジタバタと暴れる。猫の姿だと可愛らしく、微笑ましい。
「でもなぁ、小遣い足りるか分かんないし……」
章太はのっそりと立ち上がると、机の上に置いている自分の財布を手に入れた。
千円札が一枚。全身を揃えるとなると、全然足りないだろう。
「諦めろ」
「うう……」
そう言われても、無いものは無いと章太は言いたかった。が、紀美子に借りればいいんじゃないかと思いついたので、口にはしないことにする。
「買っても良いけど、絶対にバレないようにしてくれよ。俺が女物の服買ってると思われたら即、家族会議だ」
「やったぁ、ありがとう章太!」
スーはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。
「じゃあ母さんに交渉してくる」
ドアを開けて章太は一階へ向かった。恐らくリビングに居るだろうと予想して、紀美子を探す。
「あ、母さん」
予想通りに紀美子は居た。ソファでいつも通りドラマを見ている。今日は刑事ドラマのようだ。
「んー、今忙しいから後にして」
まだ要件も言ってないというのに。と、章太は呆れた。
「服買いにいきたいから、お金頂戴」
「そこに財布あるから一万くらい持ってって」
紀美子はテレビに視線を合わせたまま、テーブルに指をさす。
普段はこんなに気前よくお金を渡さないが、今日は運が良かった。
章太は一万を取り出し、「ありがとう母さん」と一応言っておいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「早く早く!」
人間姿になったスーは、跳ねながら章太を呼んだ。
「ちゃんと前見ないと、危ないぞ」
危なげなく家から出れた章太達は、現在近所の商店街付近まで来ていた。
「色んなものがあるね……」
スーは目を輝かせながら、周りの店を見ている。
「早くしないと電車に乗れないぞ」
章太はスーの手を引っ張り、駅の方向へ向かおうとする。しかし、スーは突然その場に立ち止まってしまった。とても辛そうな表情を浮かべている。
「ど、どうしたんだよ」
章太は急なスーの変わり様を見て、焦った。
「ううん、何でもない!」
しかし、スーの表情はカラリと変わって先程の笑顔に戻る。
章太は変だと思いつつも、二人は駅内に入った。
田舎だからか、人の気配は殆どない。自販機も一つだ。流石、普通電車しかとまらない所である。
運良く、二人はちょうど電車に乗ることができた。
「…………」
さっきからスーは全然話さなくなってしまった。
「……」
章太も、スーの急な変わり様を気にして言葉が思いつかない。
「どこで降りるの?」
全く喋らないと思ったら、案外スーは軽く言った。それでもやはり顔は強張っている気がする。
「二個次くらいだよ。それまでの辛抱だから」
章太は明らかにおかしいスーのことは触れず、優しく言った。
もしかしたら前世かなんかに怖いことがあったのかもしれない。と、思うと迂闊に聞けないからだ。
ここで手を繋いで安心させたりするのが真の漢なのだろうが、流石にそんな大胆なことは出来なかった。
スーは外を見ている。
その横顔が、章太は少し綺麗だなと思った。




