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90.リクレス城――80

 ――(ウェンディ)は去ったが、ここリクレスにはまだ面倒が残っている。

 とはいえ、俺にどうにか出来る問題でもないしな……。

 未だに進展の見られないメアリの訓練に付き合うリディスから視線を戻し、小さく溜息をつく。

 それに俺は俺で、受け持っているメアリ配下の騎士たちにも気を配らないといけない。


「ふぅ……」


 少し空いた休憩時間に、気晴らしも兼ねて庭園を散策する。

 もうすぐ冬になる。

 スペースが空く事になる花壇をどうするか、今のうちから考えておいた方がいいだろう。

 思案を巡らせながら、ちょうど門前を通りかかった時だった。

 覚えのある気配に視線を向けると、そこには相変わらずのメッキ鎧を身に纏ったジャリス一党の姿があった。


「おい、そこの下郎! 出迎えろ!」


 あちらも俺に気付いたらしい。

 微妙に嫌そうな顔をしたジャリスが声を張り上げる。

 …………。

 仮にも隣領の主だ、無下に扱うのも良くないだろう。


「これはジャリス殿。此度はいかなご用件でしょうか?」

「用件も何も、ミア殿の方から呼ばれて来たのだ。……どうやらうちの妹が、世話になっているらしいな」

「……畏まりました。ご案内します」


 何事かと思ったものだが、メアリについてか。

 少しばかりジャリスに同情しつつ、客室を経由して配下郎党を放り込みつつ応接室まで向かう。


「――お待たせしました」

「いや、構わない」

「…………」


 待つ事数分、ミア様が応接室へ到着した。

 その後ろにはリディス、そしてメアリを伴っている。

 まずは腰を下ろして社交辞令に始まる他愛のない雑談を少し。

 そこから話題は今回の一件のあらましに移り、ミア様の口から一通りの説明がされた。


「…………改めて確認しよう。今のミア殿の話とお前の認識に相違は無いな、メアリ?」

「……ええ」


 メアリの首肯に、ジャリスは弱り果てた様子でこめかみを抑える。

 送り出した妹が同性に惚れて駄々をこね始めたなんて急に言われたら、俺がジャリスの立場でも同じ反応になるだろう。


「ミア殿。メアリの望み通り、彼女をベムテに迎え入れるというのは……」

「申し訳ありませんが、承諾できかねますわ」

「そうか……」


 答えは分かっていたのだろうが、それでも痛恨の表情を浮かべるジャリス。

 リディスとメアリを引き離せず、メアリの方にリディスをくっつけるわけにもいかない。

 なら残された選択肢はリクレスの方でメアリを引き取るくらいだが……領主の妹にして強力な騎士団を率いる身ともなれば、それも難しいのだろう。

 ……八方塞がりだな。


「――メアリ。お前も立場がある身なのは分かっているだろう?」

「……ええ。ですが……今回ばかりは駄目ですの。このメアリ一生の我儘、どうか許してくださいまし」

「しかしだな……」


 ジャリスはメアリの方を説得にかかるが効果は薄い。

 そうこうする内に時間は過ぎ、一度場所を移して夕食を済ませたのち再び応接室で同じ膠着状態に戻ってくる。


 ……いっそ力尽くで連れて帰ってほしいとも思ったが、どうやらジャリスよりメアリの方が腕が立つ。

 最悪この場なら俺がどうとでもしてやれるが、領地に戻ってもメアリが収まらなければ事態は解決しない。

 メアリ配下の騎士たちもこの件に関して主の味方はしないだろうが、それでもメアリをジャリスが抑えるなら部下を動員する必要があるだろう。

 そうなってしまえばもはや内乱だ。考え得る限り最悪のシナリオの一つといえる。


「――ジャリス殿、メアリ殿」

「なんだ?」

「……?」


 不意にミア様が平行線の二人に声をかけた。

 ついにしびれを切らしたという様子でもなく、その声色はむしろ外交で勝負に出る時のようにどこか落ち着き払っている。


「一つ、私に考えがあります。聞いていただけるでしょうか?」

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