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87.リクレス城――77

 そして予定の時間となった。

 城から少し離れたところにある開けた草原には先に来ていたウェンディの姿。

 後は審判役としてリディスが同席している。

 ちなみにミア様はハンジ、ルビーと共に城の方から双眼鏡を使ってこちらの様子を見ている。

 これだけ離れていてかつ屋敷にいる人たちの気配に紛れれば、俺でも事前にそうと知っていなければその存在に気付くのは厳しい。

 ここまですればウェンディに気付かれる事はほぼ無いと考えていいだろう。


「――これは、お待たせしたようで申し訳ありません」

「いや、私は先に身体を温めておきたかっただけさ。そっちの子は?」

「今回の審判役を務めさせて頂くこちらの使用人です」

「ほう……彼女も中々腕が立つらしい。興味深い話だ」


 わざわざ隠していたわけでもなかったが、やはり見抜かれたか。

 ちなみにこれは、何かあった時現場で対応できるようにとミア様の指示で抜擢された人選でもある。


「それよりシオン」

「如何なさいました?」

「この場では王族も使用人もない、ただの武芸者同士だ。そう畏まる必要はない」

「……分かった。遠慮はしない」

「ああ、それでいい」


 視線でリディスに伺いを立てた上で口調を戻す。

 ウェンディは満足気に頷くと、身の丈ほどもある大剣を構えた。


「そういえばそちらは来てすぐだが、準備はいいのか?」

「問題ない、すぐにでも始められる」

「流石だな。それでは行かせてもらう――ぞっ」


 その声と同時、ウェンディの姿が掻き消える。

 次の瞬間、眼前に大剣を振りかぶった状態の女剣士が現れた。

 振り下ろされた大剣に此方の長剣を合わせると、鋼の打ち合う硬質な音のみを残して手応えが消え失せる。

 既に背後に回っていた相手の気配に振り向き、こちらの首を落とす軌道で振るわれていた大剣を弾き返す。

 ……寸止めするためか勢いが些か甘かったのが物足りない気もするが、試合ならこんなものか。

 ウェンディは即座に体勢を立て直しつつ後退して間合いを空ける。


「申し遅れたな。ウェンディ・ラージア、流派はフェルクス流闘術。『翻身転弄』……それが今の技だ」

「なら俺も改めて。シオン・リテラルド、流派は天武剋流だ」


『ボクともあろうものが、何がなんダかさっぱりなんダけど。やっぱり今のも奥義なのかい?』

 そうなるな。普通に物理法則を無視してたし。

『解析もダいぶ進んでたと思うんダけど、まさか構築済みの理論を根底から揺さぶられるとはねー。飽きさせないよまったく!』


 ……一体なんなんだ。

 久しぶりに素材収集以外の会話をしたと思ったら、どこか自棄気味な思念だけ残して引っ込んでいくカルナ(悪魔)

 会話というより思考のやり取りだから一瞬にも満たないとはいえ、途切れそうになった集中を意識して引き戻す。


「それにしても、師匠以外でコレを返してきたのはお前が初めてだ。参考までにコツを聞かせてもらいたいものだな」

「気配を読めば動きは把握できる。それに――此方の流派にも、似たような技はあるからな」

「ッ……!」

「気の型『陽炎』並びに迅の型『蹴閃』」


 言葉の途中で気配を消し、更に加速して一瞬で距離を詰める。

 即座に構えたおかげで防御が間に合ったウェンディの大剣めがけて繰り出した一閃は彼女を更に後退させるも、隙を生み出すには至らなかった。


「そして最後が破の型、『剛撃』だ」

「なるほど、手強いっ……!」


 感想と共に獰猛な笑みを浮かべるウェンディ。

 実際、武勇で鳴らしているだけあって今の打ち合いだけでも実力の一端は垣間見えた。

 大剣を不自由なく振るう膂力もそうだが、特筆すべきはその速度か。

 奥義による補正もあるとはいえ、あの身体捌きはリディスと比べても遜色ない。

 ウチの密偵……ルビー辺りが相手だったなら、初撃をどうにか凌げたとしても一息に畳みかけられて終わりだろう。

 それだけの力がウェンディにはある。


「小手調べはこれくらいでいいか」

「ああ。ここから技の限りを尽くすとしよう!」


 どちらからともなく剣を構え直す。

 踏み込みはほぼ同時。

 正面から激突した二つの刃が、辺りに衝撃波を撒き散らした。

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