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7.リクレス城――6

「ふぅ……良し。こんなものか」


 城の厨房でケーキの仕上がりを確かめ、一人頷く。

 そう難しい一品ではないが、素材が良いこともあってきっと美味いだろう。

 この城に来てからエストさんたちに習い始めた料理だが、これがまた存外に楽しい。

 掃除して城が綺麗になる様にも達成感があるし、執事って職も悪くないな。

 このケーキに合う紅茶となると……これか。

 ティーセットをトレイに乗せてミア様の執務室まで向かう。


「ミア様、お疲れ様です。三時になりました。少しご休憩なさいませんか?」

「あら、もうそんな時間? そうね、入ってちょうだい」

「失礼致します」


 部屋に入ると、一際大きな執務机ではミア様が書類に囲まれていた。

 それを手伝っているのはリディスとエストさんだ。紙束を手に、静かな足取りながらも忙しく室内を歩き回っている。

 もう水面下では国の思惑が激しくぶつかりあっているらしい。ミア様たちは連日この調子だ。


 俺? ……これは数日前のこと。



「シオン。これを見てどう思う?」


 紙に記されていたのは簡単なメモのようなもの。

 セム=ギズル連邦国の西部に領地を持つコロトエント男爵が秘密裏に茶会を主催、ベクシス南部のクヤニコ子爵、バルクシーヴ北部のラゼンティ男爵を招待しているとの内容だった。

 これをどう思うか……正直何の関係もない事だと思う。が、これを俺に見せたという事は何かしらの意図があるのだろう。

 そして、俺に出来ることと照らし合わせて考えると……。


「ミア様にも招待状を送らせれば良いのですね?」

「――え?」

「そして拒むようなら実力行使も厭わない、と」

「……エスト。つまみ出して」

「畏まりました」



 こうして俺に書類関係の相談がされる事は無くなった。

 火種になっているレクシア地方への動向の密談に関する内容とか、模範解答を聞かされてもさっぱり分からん。

 料理のレシピならそれなりに分かるようになってきたんだがな……。

 リディスは手伝えているのも地味にショックだ。

 フィラル(この大陸)に転生してから覚える機会に恵まれたんだとか。羨ましい話だ。


『そのリディスは料理がさっぱりダし、バランスは取れているんじゃないかい? 食材であそこまでの錬成が出来るってのは才能のレベルかもダけどねぇ』


 ……どうなんだろうな。

 ただ、煮え滾る極彩色の液体とか独りでに火花を散らす黒い塊が、体内に摂取すべきものでない事だけは確かだ。


『これはちょっとマジメな忠告ダけど、彼女にあまり錬成させない方が良いよ。いつかとんでもないモノが出来るかもしれないし』


 そこまでのレベルか。

 錬成……そういえば勇者時代、カルナが魔族の農場にあった飼料や機材から強酸の煙幕を張った時にも錬成したとか言ってたな。

 それと同等の事が事故的に起きかねないなら、断じてリディスに料理をさせる訳にはいかない。


「――ではシオンさん、こちらに」

「はい」


 と、今は仕事だ。

 紅茶を淹れる支度をし、その間にケーキを切り分ける。

 まずはエストさんが執務机に開けてくれたスペースに一つ。

 次いでその傍にあるエストさんの机にも一つ。


「リディスも食べて良いわ」

「ありがとうございますっ」


 ミア様はそう仰ったが、この部屋に他の机は……あった。

 見回すと部屋の隅に、急いで運び入れたと思しき小さな机。

 リディスの机にも一つケーキを置き、今度はそれぞれに紅茶を淹れて回る。


「なかなか執事が様になってきたわね」

「お褒めに預かり光栄です」

「……ふん。このケーキはシオンが作ったの?」

「はい。お気に召したでしょうか?」

「ちょっと甘過ぎる気もするけど。紅茶との組み合わせも考えてるのだとすれば、悪くないわ」

「恐縮です」


 流石はミア様、わざわざ説明するまでもなかったか。

 エストさんも満足そうに頷いているし、リディスは一口ごとに顔を綻ばせている。

 ……いや、リディス。ミア様も仰ったが、紅茶と組み合わせないと少し甘いぞ? それでも問題の無いようには作ったが。

 リディスは甘党なのかもしれないな。


 まあ、喜んでもらえるとこちらとしても作り甲斐がある。

 こうした形で力になる事ができるなら、俺ももっと精進しないと。

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