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6.リクレス城――5

「――おい、そこの下郎」

「はい?」


 庭の手入れをしていると、乗馬したままずかずかと侵入してきた男がいた。

 連れは騎士風の男が数名。

 本人は……装飾過多な金の鎧を着込んでいる。

 いや、金の使い道ってそういうんじゃないだろ。


『ブサイクな金メッキダねー』


 頭の中に響いたのはカルナの声。

 他人に遠慮なく話すために追加した機能だとかなんとか。


 というか言ってやるなよ。

 こういうのは後で自分で気付くのが一番ダメージ大きいんだからさ。

 剥げた部分を誤魔化したのがよく分かる微妙に波打った表面とか、見る人が見れば一発だろう。

 何者だ、この痛い奴は?


「ジャリス・サジョリマだ。領主殿に取り次げ」

「承りました」


 面倒臭そうだな……凄く追い返したい。

 それが更なる面倒を引き起こしかねないと知っているだけに従うしかないが。

 今エストさんはリディスを連れて外出しているので、直接ミア様の元へ向かう。

 できれば途中で誰かに相談したかったけれど、その日は偶然誰ともすれ違うことはなかった。


「失礼します。ジャリスと名乗る方がミア様との面会を希望しておりますが、如何致しましょう?」

「ジャリジョリ? ……仕方ないわね、今向かうわ。シオンもついてきなさい」

「畏まりました」


 書類に囲まれていたミア様は、ジャリス改めジャリジョリの名前を聞くと露骨に嫌そうな顔をした。

 ミア様の方から出向かないとならないとは……やはり面倒な相手のようだ。

 その身支度を手伝っていると、ミア様は大きな溜息を一つ。


「ところでシオン、あの金ピカ騎士のこと知ってる?」

「いえ」

「私のフィアンセよ」

「――、は?」

「ま、向こうが勝手に思ってるだけだけど。それに付けこんで兵力とか支援毟ってる以上、無下にするわけにもいかないのよね」

「そうでしたか」

「…………」

「ミア様?」

「いえ、なんでもないわ。行くわよ」


 突然の発言に大急ぎでジャリメッキを消すべきか再教育するべきか天秤にかけていると、すぐ後に種明かしが続いた。

 人を見る目は雲っていないようで安心する。

 ミア様は何か言いたそうな様子だったが、こちらの問いには首を振って部屋を後にした。



「――ジャリス様! いらしてくださったのですね!」

「やあミア殿。最近は少々忙しくてね、なかなか城を出られなかったんだ」

「まぁ、それはお疲れ様です。でも……それだけお忙しいなら、わたくしがお邪魔するわけには……」

「何を言う! 僕はこうして君と過ごすために時間を作ってきたというのに」

「……! 嬉しいです。ではお茶をお出ししないとっ」


 大扉を開けようとする俺を制し、ミア様は一度深呼吸。

 子供の頃もほとんど見なかったような満面の笑みを浮かべ、勢いよく扉を開け放って駆け出す。

 相手を気遣って悲しそうに目を伏せる仕草といい、時間があると聞いた時の花が咲くような笑顔といい、その様子は俺でも分かる程に恋する乙女そのもので。

 客にくるりと背を向けて軽快な足取りで走り出したその表情は、苦行に耐える僧のようだった。


 あれが全部演技か……恐ろしい御方だ。

 そしてジャリの相手はそんなにお嫌ですか。

 思わず反応が遅れそうになったが、まさか主に茶席の用意をさせるわけにはいかない。

 俺はあくまで執事としての落ち着いた足取りでミア様の後を追った。



「――ところでその使用人は? 君が傍に男を置くとは珍しい」

「リクレス家が執事、シオン・リテラルドと申します」

「近頃まで遊学していた譜代の家令ですわ」

「ふうん」


 まだ二代目だけど、譜代?

 内心少し首を傾げたが、話題が俺に向いたのは一瞬。

 ジャリはその後も大国の激突に先んじて周辺小国の小競り合いが始まってるとか、賊が増えて治安が悪化してるとか当たり障りのないことを二時間ほど喋って帰っていった。

 俺はミア様の演技を見抜けないものかとこっそり観察したり脳内でカルナと雑談したり出来たが、ミア様は大変だっただろう。

 実際ジャリ一味の姿が見えなくなると、地獄の底から響くような深い溜息と共に倒れ込んできた。


「あぁ~、疲れ゛た~」

「み、ミア様?」

「もう動けないわ。寝室まで運んでちょうだい」

「……畏まりました」


 こうも弱った姿を見せられると同情を禁じ得ない。

 ミア様を煩わせる全てを斬り伏せるくらいのつもりで強さを求めてきたが……こんなにも俺は無力か。

 とかく世の中というのは難しいものだ。

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