57.リクレス城――39
「ッ……」
「そこまで! 勝者、セイラ・エルマータ!」
そう宣言すると、セイラは素早くセルバから離れ武器を収める。
ギリギリまで決着の読めない良い勝負だったな。
「これで順番は決まったな。セルバ、お前もそれでいいか?」
「ああ。この期に及んでゴネるような真似はしねーよ」
「休憩もいるだろうし、試合は――」
「なに言ってんだ、やるなら早いとこ始めようぜ! 身体も暖まって、むしろ調子良いくらいだしよ!」
そう言うとセルバは威勢良く大剣を構える。
んー……まぁ、本人がそう言うなら構わないか。
俺も双剣を抜いてセルバと対峙する。
「なら、相手になろう。――ルビー、悪いが審判を頼めるか?」
「承知した。喜んで引き受けさせて頂こう」
大剣を肩に担ぐ構えを見るに、セルバの初手は突進系の攻撃か。
迎撃し易いように俺も構えを変える。
「それでは――始めっ!」
「行っくぜぇぇええええええ!!」
ルビーの合図と同時、雄叫びを上げてセルバが駆けだした。その気迫は尋常ではなく、並の相手なら竦んで避けられなくなってもおかしくはない程。
ならば……。
その動きを見て、俺は一度双剣を鞘に納める。
そして間合いを見計らい、俺の方からも距離を詰める!
「俺の魂の一撃! 止められるか!? 『焔閃牙』ッ!!」
「破の型――『獅哮烈波』!」
獅炎一刀流を代表する一撃に、俺も真っ向から応じる。
大上段から振り下ろされた大剣は放たれた獅子のオーラを纏う灼熱で相殺し、居合の要領で抜き放った双剣と交錯する。
互いの刃は拮抗し、込められた力が衝撃が突風となって吹き荒れた。
「――ぉおおおッ!」
「堅の型、『聳巌』!」
気合いと共に更に押し込まれる大剣を、構え直した双剣で受け止め……一気に力を込め、逆に押し返す。
「ぐおッ……」
「まだまだ! 烈の型、『狼牙連襲』ッ」
更に追撃。全身を使って勢いを乗せた双剣を連続で叩き込む。
対するセルバは大剣を盾のように扱い、その陰に隠れるよう立ち回る事で凌いでくる。
「単純な力押しじゃ仕留めきれねぇか……!」
「ハッ、そんな簡単にやられるかよ!」
「言ったな! ならコイツはどうだ――! 破の型、『剛撃』ッ!」
身を翻し、回転の勢いも乗せた一撃を放つ。
狼牙連襲と違い一撃にポテンシャルをつぎ込んだ一太刀は……しかし、受け止められた。
足元から地面に亀裂を走らせながらも退く事なく耐え抜いたセルバが獰猛に口の端を吊り上げる。
「シオン、確かにお前は強え。だがな……お前がオレの土俵に上がって戦うってんなら! 獅炎一刀流の牙、突き立てられないハズがねぇ――!」
「ッ……」
咆哮と同時、これまで以上の剛力が俺を吹き飛ばした。逆らわずに距離を取り、着地と同時に構える。
セルバは最初と同じ構えでこちらに突っ込んできていた。だが、その迫力は段違いに高まっている。
次の攻撃も「焔閃牙」で間違いない。獅炎一刀流の門下が最初に修める技にして、流派最大の奥義。
「行くぜシオン! 最初と同じ一撃だと思うな!」
「望むところだ。天武剋流、その破壊の極致を見せてやる!」
言葉通り、燃え盛る大剣はこれまでで最大の力で襲い掛かってくるだろう。
だがそれは俺も同じ事。こちらの精神もこの戦いを通してかなり昂っている。
今ならあの技も外す気がしない!
双剣の片方を鞘に納め、残った一本を両手で構え駆けだす。
小細工はいらない。全てをこの一振りに乗せる!
「――『焔閃牙』ッ!!」
「破の型――『天崩雷禍』ッ!!」
ぶつかり合う二つの刃。衝撃波が駆け抜け、閃光が視界を白く染め上げる。
そして……耳を圧す静寂の中、甲高い音が響いた。
手の中に残された軽い感覚。
俺の剣は、ちょうどセルバと打ち合ったところから先が叩き折られていた。
「流石だな……こうも差がつくと認めるしかねーや」
構えを解き、刀身が粉々に砕け散った大剣を見下ろすセルバ。
どこか晴れやかな表情を浮かべると、そのまま大の字に寝転がる。
「オレの負けだよ。どうする、殺しとくか?」
「冗談だろ、俺の剣はそんな事する為のもんじゃねーよ。それと次の勝負の邪魔だ、転がってないでさっさと離れろ」
セルバの言葉にピクリと反応したカルナを抑えつつ、その手を引っ張って立ち上がらせる。
「……大したもんだったぞ。お前の牙」
「へっ?」
「二度は言わねぇよ。ほら、さっさと行け!」
そんな顔をされると俺としても照れ臭い。
間の抜けた声を上げるセルバを、場外まで軽く蹴り飛ばした。




