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56.リクレス城――38

「――じゃあ二人とも、準備はいいな?」

「おうよ、いつでもいけるぜ!」

「問題ないです」


 俺の前で向き合っているのはセルバとセイラ。

 前哨戦というかなんというか、俺との立ち合いの前に二人が一度ぶつかる事になった。

 一体どういう事なのか……。

 いざ試合の時と、城から少し離れた草原の一画まで来た時の事を思い返す。


 ……思い出してみても、起きた事自体は単純なもの。

 どちらが先に俺と戦うかという事で一悶着あり……特に何の解決を見る事もなく、なら戦って決めるかという事で目の前の光景に至る。負けた方が先に俺と戦う、ということらしい。

 試合に合わせてわざわざ休暇を取ってまで観戦に来たルビーには悪いが、もう少し待たせる事になりそうだなと思いつつ。


「よし、それじゃ――始めっ!」


 合図と同時に剣を振り下ろす。

 大剣を担いだセルバが踏み込み、それに合わせてセイラも前に出た。

 両者の間隔は一気に狭まり――。


「――『墜星剣』!」

「『滑刃』」


 大剣の間合いに入るのと同時……いや、それより僅かに早くセルバが大剣を振り下ろす。

 そのままなら丁度のタイミングで叩き斬られていたセイラは、しかし速度を上げて更に前に出た。自身の二の腕から先程度の長さしかない小ぶりの双剣を振り上げる。


「「ッ――!」」


 ほとんど同時に目を見張る二人。

 セルバの大剣は軌道を逸らされ空を切り、一方のセイラも半ば弾き出されるように距離を空けた。


「身長の割には中々やるみてぇだな!」

「……そちらは想像以上の猪武者ぶりですね」


 この段に至ってようやく、二人の意識が目の前の相手に向いてきた。セルバは剣を構え直し、セイラもまた痺れを取るように両手を軽く振る。


「へぇ、これは……」

「……シオン殿。解説をお願いしてもよろしいだろうか」


 思わず感心していると、少し離れたところにいたはずのルビーが近づいてきた。

 視線は二人から離さないまま頷く。


「セルバの剣……獅炎一刀流は見た通り、一気に相手を捩じ伏せる力を重視してる。対するセイラの流転冥天流は技巧派って感じだな。今の打ち合い、お前にはどう見えた?」

「力で叩き斬ろうとするセルバ殿の剣を、セイラ殿が技術で受け流した……というところだろうか」

「ああ。まずセイラだが、迫る大剣を受け流すのに最も適した間合いを取るため、自分から刃に向けて踏み込んでる。慣れるまでは結構身体が竦むもんだが、動きに一切の乱れが無かった事から実力が分かるな」

「ふむ……」

「で、実際に受け流しは成功した。『滑刃』って言ったか? あの技の本質は防御の直後の反撃。本来なら隙だらけになったセルバにセイラが剣を突き立てて終わるはずだった。それが出来なかったのは、単純にセルバの剣に込められていた力が大きすぎたからだろうな。あの様子を見るに、得物を手放さないのが限界だったってところか」

「なるほど……」


 初手とは打って変わって慎重に相手を見る二人の剣士。

 次も仕掛けたのはセルバの方だった。

 一度下がって呼吸を整え、大剣を腰溜めに構えた姿勢から静かに駆けだす。

 セイラが側面に回り込むとセルバは足を止めて向き直り、迎撃の構えを見せる。


「流石に、無策に突っ込んでくる程ではありませんか……」

「なんだ? 来ねぇってんならこっちから行くぞ」


 自分から攻めていくタイプではないのか足を止めるセイラに対し、再び踏み込んでいくセルバ。

 合わせて動き出したセイラに向けて横薙ぎに剣を振るう。


「これでどうだ! 『剛破銀閃』!」

「『風雅躍葉』――っ」

「ぬ、ぐっ……!」


 片方の小剣を投擲するセイラ。宙に身を躍らせ、空いた手をそのままセルバの剣腹に乗せる。

 本来ならそれを足場代わりにでも使うのだろうが、その意図が叶う事は無かった。投げつけられた小剣を、低く呻きながら力尽くで蹴り上げ凌ぐセルバ。その代償に体勢を大きく崩し、結果セイラも振り落とされるように着地する。


 ……そこから立て直す速度の差は、そのまま二人の得物の差によるものだろう。

 大剣を構え直しつつ距離を取ろうとするセルバに追随する影。懐に潜り込んだセイラは、残った方の小剣をその喉元に突き付けた。


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