46.ベムテ領――5
「――で、言いたい事はそれだけかぁ?」
「ああ。それで結局お前たちは賊なのか?」
「ケッ、呑気な野郎だ。やっちま――」
「……自分の判断を恨むんだな」
「――え?」
背天邪流、殴断。
逆手に構えた剣を振るい、リーダー格の男を一撃で打ち倒す。
少しの間を置いて状況を理解した賊たちが騒ぎ出す頃には、その人数は既に半分以下まで減っていた。
……これで大体、ベムテ領の七割ってところか。外ではもう日が沈もうとしている。
リースを背負い、感覚を最大限まで研ぎ澄ませながら領地を走り回ることしばらく。見つけた中には賊もいれば、荒らされて村を出たもののまだ引き返せるレベルだった賊予備軍も混ざっていた。
そういう連中も一応処罰の対象ではあるが、被害者でもありまだ加害者ではない人間を手にかけるのは躊躇われるってことで、そういう連中は領主ジャリスに話をつける条件で見逃す事もあった。
まぁ、適当に誤魔化して済ませようとしていた奴らは相応の目を見る羽目になったんだが、それは別にどうでもいいことか。
「――ぐげっ!?」
「これで終いか」
最後の一人を殴り倒し、辺りを確認する。
リースは……うん、十分離れてるな。
いま無力化した賊は全員まだ生きている。が、その理由は見逃してやるからではない。むしろコイツらの事を考えるなら、ここで楽にしてやる方が良いとさえ感じるが……。
「じゃあ早速……」
「…………」
俺がそんな事を考えている間に、影から姿を現したのは喪服の悪魔。
足元の影、その一部が深さを増し……賊の一人がそこに吸い込まれた。
ここに吸い込まれたものはその全てをバラバラに分解され、少しの間しか機能しない劣悪な魔力にまで貶められると以前聞かされた。
その魔力を使って開かれたゲートに、残る賊を作業的に放り込んでいく。
どういう理屈か、そのゲートの中に保管できるのはカルナ自身が研究素材として認識しているものだけらしい。
そこに囚われたものが辿る末路は……俺の知るところではない。
こういう連中が力を持たない村人なんかに対して何をしでかすかは知っている。
だから、コイツらはここで断っておくべき禍根だった。
そう改めて意識することで、どうしようもない後味の悪さを飲み下す。
……と、いつまでもこうしちゃいられない。あまりリースを待たせちゃ悪いしな。
一度だけ瞑目すると、俺は賊が根城にしていた洞窟を後にした。
「――!」
「見つかりましたか?」
「ああ」
宵闇の中を駆けていると、耳が遠くから聞こえてくる声のようなものを捉えた。
言うまでもなく俺の反応からそれを察したらしいリースの確認に頷き、速力は落とさないまま背中から降ろす。
勘づかれないよう気配を消しつつ、声の聞こえた方へ接近。
「……それで今、騎士団は……」
「現状で比較的被害に遭っていないのは……」
「……本国との連絡は……」
川辺の木立の中では、賊のような身なりの集団が何事かを話し合っていた。
しかし話の内容を聞き取るまでもなく、その顔つきや気配は並みの賊と一線を画している。
まさかとは思ったが、カルナの建て前が現実になるとはな。
リースには少し離れたところで待機してもらい、見張りに見つかるギリギリのところまで近づく。
「ふッ……」
「「!?」」
背天邪流、双薙打。
左右に薙いだ剣腹で、音もなく見張りの意識を刈り取る。
撃破そのものは無音でも人が倒れる音までは消せない。
だからまずは気配を消したまま木立の中を駆け抜け、円形に配置されていた見張りを一気に無力化する。
「……む?」
「どうした?」
「いま、何か……」
「――少し気づくのが遅かったな」
「「「ッ!?」」」
敢えて声を発し、手練れと思しき数人の注意を引くと同時に俺自身はその視界から逃れるように移動。
死角を維持したまま連続して剣を振るい、見つからないまま撃破する事に成功する。
……ここまでやっといてなんだが、実は敵じゃないとか言われると話が拗れるからな。
まだ領地全体を確かめたわけじゃないが、一度城に戻ってジャリスに確認を取るか。
敵が持っていた馬を殺気とカルナの協力で従え、マ……マリ……えっと……セム=ギズルの将軍たちの時と同じように城まで連れて行く。
結局クロだったそいつらもカルナに与え、再び賊の掃討に繰り出す。
この時間の内に移動していた連中については流石に感知しないと言いたいが……満月が上りきるころ、ベムテ領内にいた賊の掃討は完了。
他に他勢力の刺客っぽいのは見つからなかった事その他を眠そうなジャリスに報告し、俺たちはその足でリクレス領へ帰還した。