42.ベムテ領
作品には特に関係ありませんが、
新年あけましておめでとうございますm(_ _)m
最低限の体力は温存できるくらいのペースで目的のベムテ領へと走る。
とはいえ同行しているのが密偵の中でも移動力に秀でた二人という事もあり、そこらの早馬と比べても遜色ない速度は出ているのだが……それはさておき、リースから今回の任務についての詳細な説明を聞く。
「詳細とはいえ、特筆すべき程の事項も無いのですが……確認しておくと、今回の目的はベムテ領を荒らす賊の討伐。最優先は私たちの素性の隠蔽。そして可能なら賊からの情報取得となっています」
「情報取得……」
「その段になれば私が受け持ちます。師匠を実戦に駆り出すだけでも恥ずべき現状、それ以外の事までさせるわけにはいきませんから」
……カルナ。ダメ元で訊いてみるが、催眠とかで解決するわけにはいかないか?
『答えは自分でも分かってるじゃないか。どうしてもって言うなら考えないでもないけど、無駄遣いするような余裕は無いよ』
言葉の上では取り繕っても、その意味するところは尋問……そして人に扱える魔法の慎ましいこの大陸では、大抵の場合拷問でもある。
そんな汚れ仕事をリースにさせるのは手放しに認められるものでもないが……そうした役割を負うのが密偵の本分。
だからって頷けるわけじゃない。だが、駄々をこねて困らせるわけにもいかないか。
いや、そもそも俺は人殺しを殺しに行くんだ。今更そんな事を気にするような資格なんてない。
「――具体的な動きについてですが、大体の目撃情報を元に標的を探索し、見つけ次第殲滅していく形になります。敵の全貌は未だ不明ですから、ベムテ領を一通り回ることになりますね」
「だいたい分かった」
「……では、俺はサジョリマ殿のもとへ連絡に向かう。武運を」
リースの説明が一段落したのを確認すると、ケサスは遠くに見えるジャリスの居城へ向けて俺たちと道を分かつ。
少し気を入れて探ったが敵らしき気配は感じられない。あちらの心配はいらないだろう。
俺もリースの先導に従って方向を変える。
「あ、そういえば……」
「どうしました?」
「背負ってやろうか?」
「えっ!?」
ふと思いついた事を口にすると、銀髪の密偵は珍しく動揺を露わにした。
足がもつれて転びそうになったのを支え、改めて言葉を続ける。
「いや、速度を重視するってんなら俺が背負った方が速いし……不意打ちなんかの心配もない。方向の指示は背負われててもできるだろうし、良い事尽くめだと思うんだが」
「そ、それはそうですけど……………………はい、シオンさんの仰る通りです。お願いしますっ」
本人の同意も得られたところでその手を取り、走っている速度は緩めないまま軽く背中に乗せる。きゃっとかいう声が聞こえた気もしたが……振り返ってみても、その表情は緑髪が隠していて読み取れない。
「やたら鼓動が早いが、もしかして無理させてたか? 済まないな」
「めめめ滅相もない!」
「水鏡で心を落ち着けておくといい。案外気休めと馬鹿にしたもんでもないぞ」
「は、はひっ」
……大丈夫か?
リースは割とクールなイメージがあったんだが、やっぱり二人で大勢の賊を相手にするような任務は緊張するのか。表面だけ見れば領地一つをカバーするには割と無茶な人数だしな。
並の相手、それこそ本当にただの賊ならリース一人でも問題にならないくらいの実力はあると思うんだが。
「――!」
「如何なさいました?」
しばらく駆け回り、林、廃村と怪しいところを探っていき……小高い丘の傍を通った時だった。
空気に、血の匂いが混ざった。
……少し、古いな。事はもう済んだ後らしい。
その事を背中のリースに伝えると、銀髪の密偵も気を引き締めるのが伝わってくる。
「あ……あの……」
「どうした?」
「そういう事なら、私は降りた方がよろしいかと」
「ああ、そうだな」
「その……重たくは、ありませんでしたか?」
「ん? 気にするなって、鍛えてっから」
「それは…………」
心なしか落ち込んだように見えたリースだが、改めて切り替えると普段の涼しげな様子に戻った。
……何かマズい事でも言ったか?
内心少し気にしながら、匂いの元へ慎重に近づいていく。
「!」
「これは……?」
おそらく一時的な拠点にしていたのであろう小さな洞窟の外。
そこでは見るからに賊といった装いの不審者だったモノたちが、物言わぬ姿で転がっていた。