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4.リクレス城――3

「……では報告にあった私闘というのは、あくまで手合せであったと?」

「「すいませんでした」」

「両者がそれで納得しているなら構わないけれど。荒れた土地も復元したと言う事だし」


 事前に入城の許可を得ていたとはいえ、城のすぐそばでの手合せはマズかったらしい。

 駆けつけた兵に事情を説明したところ、余波で荒れた周辺を復元した後に半ば連行される形での謁見となった。


 ――そう。今俺の前にいるのは現リクレス家当主ミア様その人だ。

 まるでそれ自体が淡く輝いているような黄金色の長髪も、透き通るように青い瞳も記憶の少女と完全に一致する。

 だが、見違えた。

 年齢にそぐわぬ老成した物腰、完璧に制御された声音、貴族らしく洗練された振る舞い、その全てが彼女を強く印象づける。

 尤も、そうなった経緯が経緯だけに俺としては複雑な思いだ。

 まあ……現在そのミア様は表情に呆れを浮かべて俺たちを見ているわけだが。


 その傍に控えているメイドはエストさんだろうか。

 まだ城にいた頃、俺の知る同年代の中で誰より強かったその実力は今も健在らしいのは見れば分かった。

 当時は理解が及ばなかったが、主の傍に仕える者として俺なんかより研鑽を積んでいたのだろう。


「それで、何のご用かしら」

「お久しぶりですミア様。シオン・リテラルド、ただいま戻りました」

「……どちら様?」


 切れ長の瞳が細められる。

 ……忘れられていたか。

 事情は多少異なるが、俺もカルナやリディスの事を忘れてたわけだし。

 ミア様の五年間の苦労を考えれば仕方ないとも言える。


「かつて父がこちらで騎士団長を務めており、その縁でミア様とも親しくさせて頂いておりました。父の戦死後、祖父に連れられての修行の旅より帰還した次第です」

「そう。そういえば……そんな子もいたかもしれないわね」

「大国に囲まれ、ここレクシアの安定も脅かされようとしています。私もこの地を守る騎士としての栄誉を賜りたく」

「この地を……ね」


 口上を述べて頭を垂れる。

 ミア様は何事か呟いたようだったが、その内容までは聞き取れない。

 少しの間が空く。

 やがてミア様の口から発せられた言葉は、予想だにしないものだった。


「騎士なら間に合っているわ」

「なっ――」

「でも、そうね……それなりの縁もあるみたいだし。執事としてなら雇ってあげても良いわ」


 騎士として並大抵の奴に後れを取らない自信はあったが、それだけで取り立ててもらおうという考えは甘かったらしい。

 咎めるような声を上げたリディスを制することもできず俺が固まっていると、言葉は更に続く。

 少し思案する素振りを見せた後、ミア様は試すような声で異なる選択を示した。

 彼女の力になれるなら構わない。答えは決まっていた。


「ご厚情に感謝します」

「師しょ――シオンさん!」

「リディス。御前だ」


 差しのべられた手を取り、その甲に口づける。

 現金なもので、今度はリディスを制することができた。

 だが、騎士が不要となると……どうしたものか。

 俺個人がリディスを雇うこともできるが、あれだけの腕があれば大国に流れても十分成り上がれるだろうし……。


「それで、貴女も騎士志願?」

「……はい。わたしの名はリディス・クディアーカ。天武剋流の皆伝を認められ、シオンさん同様に貴家の騎士が末席に加えて頂きたく参りました」

「シオンの処遇に不満があるみたいだけど。彼とはどういう関係なの?」

「シオンさんは我が天武剋流の開祖ロドフェス様の孫にして正当な後継。一時は修行を共にした兄妹(きょうだい)弟子の間柄です」

「そうなの?」

「あ、はい」


 ミア様はこちらに確認を取ると、姉弟(きょうだい)弟子、ね……と呟き少し考え込む。

 ついでで雇ってもらえるにしても、リディスはそれで納得するだろうか?

 強さを求めて転生までするような彼女が、だ。

 大国の衝突が目前に迫り緊迫したフィラル大陸が乱世に突入するのも時間の問題。台頭すればそれだけ危険も増すし、剣では振り払えない危険だってある。

 俺個人の心情で言えば、異世界でも荒れた世の不条理に苦しめられてきたリディスには平穏な生活を送ってほしいんだが……。


「さっきも言ったけど、騎士なら足りてるの。でもシオンを拾った直後に貴女だけ無下にするのもなんだし……メイドとしてなら雇ってあげる。どう?」

「それなら……、お願いします」

「よろしい。今日からあなたたちはリクレス家の使用人よ。エスト、二人の教育は任せるわ」

「承りました」


 エストさんの案内に従い、広間を後にする。

 こうして、俺とリディスは使用人としてミア様に仕えることになった。

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