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37.リクレス城――24

「「「はぁああっ!」」」

「ふむ――」


 真っ向から向かって来た相手にはこちらから距離を詰め、振り下ろされた剣を同時に受け止める。

 で、生まれた猶予を利用して左右から回り込もうとしていた密偵の片方に軽く一閃。相手がどうにか反応して防いだのを確認してから剣に力を込めて押しやる。


「……喰らえ!」

「さすが、太刀筋は悪くない」


 真剣だというのに迷いなく放たれた斬撃は体捌きで躱し、そのまま相手の間を通って背後へ抜ける。


 ……とりあえず、これでワンセット。三グループの打ち合い、防御、攻撃の様子は見切れた。後はこれを二回繰り返して、仕上げに一通りの反応を確かめれば良いか。

 方針は立った。あとはそれをなぞるだけだ。


「――――よっ、と!」

「「「くっ……!?」」」


 やがて大体の動きを見終わってから、タイミングを見計らって全員の得物を弾き飛ばす。それが乱取り中止の合図となった。


「ところでハンジ、お前ら普段から集団戦の時はこんな感じに連携するのか?」

「そうっすね……この面子でって事はあまり無いっすけど、各班の連携はこんなもんっす。一人当たりの錬度が高いぶん、こっちの方が連携はスムーズっすね」

「そうか。それでこの中に、もう何かの武術の経験がある奴はいるのか?」

「いえ、確か誰もいなかったはずっす」


 誰も、か……。そうすると教えるなら基の型からになりそうだな……。

 まあ変に癖がついているより教えやすいからプラスに捉えるとするか。

 あれ、そういえば期間はどれくらいあるんだろうか? 重要な事だけど聞くの忘れてたな。

 そんな事を考えていると、密偵の一人が躊躇いがちに口を開いた。


「その……シオン殿。今更だが、良いのか? 我らのような者に、天武剋流の正当な後継が直々に武術を授けるなど」

「ん? あー、その事なら問題ない。むしろお前らが引け目を感じるようなら俺が保証しよう、武術を修めて存分に活用すると良い」

「「「…………!」」」


『……えっと、これはどういう事なんダい?』

 ああ、カルナはこの辺の事情を知らなかったか。俺自身いま言われるまで忘れてたような事でもあるが。

『事情?』

 武術ってのは高潔というか誇りというか……そういうものを大事にする風潮がある。騎士連中ならまだしも、密偵みたいな日陰者が武術を修めることは毛嫌いされがちなんだ。

 実際、相手がそういった人間だと知ると武術を教えることどころか関わることさえ嫌う者だって多い。

『誇り、ねぇ……』


 微妙そうな反応を残し、思念は現れた時と同様にひょっこりと引っ込んだ。

 せっかくだし、密偵たちにもう少し俺の考えを伝えておくことにする。


「武術ってのは、言っちまえば強力な道具みたいなもんだ。だから馬鹿や狂人に無闇に渡すわけにはいかない。……誇りを持たない者が手を出すのは許されないってのも、根本はそこだろう? 俺は、お前たちなら天武剋流でリクレスの為に尽くしてくれると思ってる。だから、保証するってのはそういう事だ」


 言い終えてから少し恥ずかしくなって顔を背ける。

 リクレス領に……ミア様に仕えると決めたときから、まさかこうして後継っぽいことを語る日が来るなんて思ってもみなかった。

 我ながら似合わないことをしたというか、中途半端に捨てた身分から何を言ってるんだって感じだ。まあ、撤回するつもりもないが。

 話題を逸らすため口を開こうとするより少し早く、最初に質問してきた密偵が声を上げた。


「……シオン殿の御心は理解した。ルビー・ケサスの名において、授かる技は全て領地の為に振るうことを誓おう」

「同じく、ハンジ・リガレクも」

「「「同じく我ら密偵、授かる技は領地の為に」」」

「あぁ。その忠義、主を共にする者として嬉しく思う。頼りにしているぞ」


 俺の伝えた技術が領地の為に活きる。それはとても素晴らしいことのように思えた。

 そうとなれば、張り切っていくとしようか! 全員、大陸で最高の技を持つ密偵に鍛え上げてやる!


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