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23.リニジア領――2

「――お待たせしました」

「……ご苦労」

 

 洗脳を受けた兵士たちの砦の制圧は特に語る事もなく終わった。

 散らばっている兵士たちをそれぞれ仕留めて一か所に集めるのが少し面倒だったくらいか。

 戦闘というより単純作業だったし、「敵」に迫れるような情報が得られたわけでもなく。

 今は兵士たちを押し込めた部屋にミア様とリディスを呼び、洗脳を解いたところだ。


 洗脳中の記憶も残っているおかげで事情を説明せずに済むのはカルナのファインプレーだな。

 ある程度混乱が落ち着くのを待って、ミア様は兵士の中でも特に良い装備をしたリーダー格に声をかける。

 さっきから何か考えていたようだが……それに関係しているのだろうか?

 短く言葉を交わした後、ミア様は何かの入った袋をリディスに受け取らせて戻ってきた。

 袋の中身は……鎧か?

 中からはガチャガチャと金属のぶつかる音が聞こえる。


「ここでの用は済んだわ。出るわよ」

「畏まりました」


 慌ただしく動きだす兵士たちを後目に砦を去る。

 適度に離れたところでミア様を背負い、改めて高速で移動。

 本格的に人気のなくなった草原の真ん中に来たところで、ミア様からストップがかかった。


「シオン、辺りに余計な耳は無いわね?」

「はい」

「今このリニジア領で起きている事態について、私の考えを話しておくわ。何か私の知識に無い情報がある場合は遠慮なく言いなさい」

「承知致しました」


 自身の目で間者を見つけ出そうとするかのように厳しく視線を巡らせると、ミア様はそう確認を取った。

 ……俺が口を挟む余地は無さそうだな。

 精々カルナの知識からそんな情報が引き出せるかもってところだ。

 眠っていたカルナを起こし、話に注意を向けさせる。


「とは言ったけれど、言葉にしてしまえば単純よ。これはきっとセム=ギズルのマッチポンプによる侵略。近いうちに軍でも派遣されてくるはずよ」

「……ではミア様。失礼ながら、狂言回しを特定した理由をお聞かせ願えますか?」

「まず前提としてこの地(レクシア地方)を巡る勢力は三つ。北のベクシス、南のバルクシーヴ、そして東のセム=ギズルね」

「そして、そもそも武力による大陸の統一を掲げるベクシス帝国は今回候補から除外される……と」

「ええ。搦め手を使って大義を作る必要が無いわ。バルクシーヴが違う理由は単純に距離ってのもあるけど……あそこは最近、地方で反乱が起きていたはずよ」

「なるほど。あれが鎮圧されたのは最近……事後処理も考えると、今行動に移るには性急に過ぎますね」

「そ。あと最後に……こんな回りくどい手、いかにもあの国がやりそうな事じゃない?」

「そうですね。わたしも同じ考えです」


 納得したように頷き合う二人。

 ……いつの間にか話は終わっていたらしい。

 聞けば分からない内容でも無かったが、そうか……今の情勢ってそんな事になっていたのか。

 この後どう変化するか分からないのが乱世の面倒なところだが、一応聞いた情報だけでも覚えておこう。


 こうして推理できたのは、領主及び兵士たちの暴走という異常事態の影に秘宝――洗脳効果のある水晶の存在を特定できたのが大きいだろう。

 秘宝が持つ力は莫大だが、それは常識で考えれば実在も怪しい御伽話の産物。

 早い話がその存在を前提として定めてしまえば何でもありになって推理が成立しなくなる。

『つまり、それに気付くきっかけを作ったボクがMVPって事ダね』

 違う。

『へっ!?』

 いや、違わないが……ここで重要なのは、別の事だ。

 と、そこまで考えたところで二人が俺を見ているのに気付いた。


「どうかしましたか? 周囲には依然異常ありませんが」

「……興味半分に訊くわ。考え事してたみたいだけど、その内容言ってみて」

「? えー……出来る限り早く例の水晶を破壊するなり、せめて存在を公にするなりせねば拙いかと考えていました」

「「…………」」


 あれ、また何か間違えたか?

 ミア様たちはなんとも言えない微妙な表情になった。

 まるで鼠がスキップしている現場でも目撃したような……そんな、自分でもよく分からない比喩が脳裏に浮かぶ。


「一応、詳しく」

「はい。ミア様たちの想定通りにセム=ギズルが侵略の方針を立てているなら、洗脳の秘宝の存在などどの国も思い至るとは思えません。それは適切な対処が出来ないという事です」

「つ、続けて」

「我がリクレス領は別として、他の領地も同じように侵略されれば……私でも、一つ所に留まりながら兵糧攻めに対処するのは困難です。そうなる前に手を打つべきかと考えました」

「……シオン、もしかして前に外交の問題を出した時の答えって巫山戯てた?」

「まさか! 滅相もございません」

「でしょうね。……戦術眼だけ優秀って、どういう事なのかしら」

「…………さあ……」


 心底納得いかない感じの表情で唸るミア様。

 一方リディスは疑うような視線で俺の肩――よくカルナが姿を現す場所を睨んでいる。

 いや、今のは正真正銘俺の考えなんだが。

 頭の中で響くカルナの爆笑に、今回なにか重要な情報を出したわけでもない悪魔を起こしたことを少し後悔した。

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