21.タキシ村
馬車で進むこと数日、俺たちはリクレス領北部に位置するリニジア領との境にある関所の手前にある村に辿り着いた。
村の中でも最も高い宿に泊まった翌日のこと、俺たちはミア様に村の外れへ呼び出されていた。
「シオン、今この近くに私たち以外の人間はいないわね?」
「? はい」
「誰か近づいて来るようだったら教えなさい。まあ、排除するんでも構わないわ」
「畏まりました」
密談か。
排除も辞さないとは、ミア様にしては珍しい言い方だな。
それだけ警戒してるって事なのか、それとも……。
『たぶん最初に考えたので正解ダから、余計な気を回す必要はないよ』
最近お前、俺の思考を先読みしてきてないか?
『騎士としての優秀さは戦力ダけじゃないって事さ』
……何か失礼なことを言われた気がするが、微妙に真意が読み取れない。
あと少しで察せそうなんだが……。
そんな事を考えていると、ミア様の口から予想だにしない言葉が放たれた。
「――アルマはここで城に帰還。シオンとリディスは私とリニジア領へ潜入よ」
「潜入……ですか?」
「そ。ひとまず正体は隠して、適当に情報を集めながら領主ボヌガスの居城まで近づくわ」
潜入とはまた不穏な単語が出てきた。
リディスもこの話は聞かされていなかったらしい。
疑問の声に対し、ミア様はあっさりと頷いた。
「リディス、言っとくけどアンタに黙ってたのは万が一にも情報が漏れるのを防ぐため。他意はないわ……アンタたまにとんでもないミスやらかすから、仕方なかったの」
「理解しています」
「私とエストで扱ってた密書があったでしょ? あれで辺りの領主に探りを入れてたんだけど、特にきな臭かったのがリニジアなのよ」
……あれ?
俺に黙ってた理由は?
『そもそもキミ政治関連じゃ蚊帳の外じゃないか』
言われてみればそうだった。
「しかし、そのような事情なら私単独でも……」
「態度の強硬さ加減を見るに、最速で片を付けるにはそれなりの強権が必要になりそうだし。足手纏いの護衛も兼ねてたら動きにくいでしょう?」
「それは……」
「あと、洗脳なんて場合があるなら見破れる奴がいた方が便利だから。納得した?」
「…………はい。失礼致しました」
しばし考えた後、リディスは腑に落ちた様子で頷いた。
確か……勇者時代にも似たようなことがあった気がする。
偵察をこなすメインがリディスで、権力が絡んで面倒な事態になった時の対策がミア様。その護衛が俺って事で良いのか?
布陣としては万全に思える。
リディスなら一人でも余程のことがない限り十分目的は果たせそうだしな。
と、こちらに向かって三人の村人が歩いてくるのを捉えた。
特に不審な様子は無いが一応報告する。
「まあ、話すことはこれくらいかしらね。一応その村人たちに気付かれないように離れましょう」
「……ミア様、くれぐれも御身にお気をつけて」
一礼するとアルマは預けてある馬車の元へ向かう。
俺たちはそのまま村を後にし、更に北へ足を進めた。