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20.リクレス城――14

「――お呼びでしょうか」

「入りなさい」


 ハンジとの顔合わせから数日後の朝、俺はミア様に呼び出されていた。

 あれから執務室の明かりは夜遅くまで灯っていることが多くなり、日中の休憩時間も減った。

 何がどうなっているのか俺には見当もつかないが……心配だ。

 部屋の中にはいつもの面子――ミア様にエストさん、リディスの姿があった。


「この後、隣のリニジア領に向かうわ。アンタの分の予定も調整済だからついてきなさい」

「畏まりました」


 あれ……俺のシフトって調整されてたっけ?

 後で確認しておくか。

 さて、外出となると必要そうなものは……いつも通りで良いか。

 退出した俺は一度自室に戻り、懐に忍ばせてある諸々を確認。

 なにかあっても素手でなんとかなるし、訓練の時は普通に剣を使うし、ナイフの出番あまり無いな。

 少し持ち歩く分を減らしておこう。


「さて、少し時間が空いたな……どうしようか」

『さっき予定の確認がどうとか言ってなかった?』

「あ、忘れてた」


 自室を掃除してからシフトを確認。

 確かにいつのまにか今日の分が休みになっていた。

 見た感じ同僚に負担がかかるようなものでもないし、問題ないな。

 ついでにこれからする事も決まった。

 そのまま、ある部屋へ足を運ぶ。


「シエナ、今少し良いか?」

「んー? 別に構わないけど」


 許可を得て部屋の中に入る。

 まあ予め、声を掛ける前に魔力で確認してはいたんだが。

『それ、プライバシーがどうとか言われる奴ダよ?』

 む……そうか。

 確かに普通はできない事してまでわざわざ大事を取るのも不自然だな。


「これからミア様のおつきよね、何か用事?」

「ああ。それで、折角だから適当な本を見繕ってもらいたいんだが」

「そういう事ね。じゃあ……これなんてどうかしら?」


 そう言って渡されたのは「刀剣対談」と書かれた辞書ほどの分厚さを誇る本。

 受け取った手にずしりとした重みが伝わってくる。


「ちょっと分厚いけど内容が面白いから、量の多さは気にならないわ。嵩張るけどシオンの荷物って少ないし、十分持っていけるでしょ?」

「……あ、ありがとう」


 そろそろ出発の時間かな。

 シエナに礼を言うと、俺は部屋を後にした。


『他にも相手はいるダろうに、なんでよくシエナから借りるんダい?』

 ホント、なんでだろうな?

 正直、読んでても本としてはそんなに面白いとは思わないが……。

 含まれている情報は中々興味深いし、なんとなく読んでしまうというか。つい続きが気になるというか。

 そう言うカルナだって同じだろ?

『まぁ……そうなんダけど。気付かないうちにボクらも洗脳されてるのかな?』


 そんな軽口を叩いていると、ミア様たちが動き出したのが分かった。

 俺も同行する御者を呼びに向かう。


「アルマ、出発だ。馬車を頼む」

「……分かりましたわ」


 部屋の外から声を掛けると、不機嫌という言葉のお手本のような声が返ってきた。

 彼女は以前フィムフへ向かった時も俺たちを乗せていってくれた御者だ。

 だが……賊の襲来や操られていたジャリスとの戦闘の中うっかり彼女のことを忘れて城に帰還。

 事情を知らず数日フィムフに置いてきぼりを喰らったアルマは俺を目の敵にしているというわけだ。

『一回ミアが馬車で帰ろうって言ったのに、キミが却下したからね』

 あの時はまだ覚えてたんだ。あの時までは……。


 ドアが開いた。

 反省している俺を一睨みすると、アルマは足早に屋敷の外へ歩いていく。

 ……っと、俺が一番遅れるわけにはいかない。

 ミア様たちを先に門で待つべく、俺も慌ててアルマの後を追った。

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